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2016
07.18

大人の恋には嘘がある 48

つくしは司とニューヨークの隣、ニュージャージーにある道明寺邸にいた。
マンハッタンの喧騒を逃れたい富豪はこの地に大豪邸を構えている。
ここは広い敷地に大きなお邸が点在する場所で、道明寺邸はその中でも群を抜いて広い敷地の中に邸を構えていた。門から邸の玄関まで車での移動に、いったい何キロあるのだろうかというようだ。車窓からは噴水とバラが植えられた見事な庭が見て取れた。


「ねえ、つかさ、あたしがいきなりお母さまに会いに来てもよかったの?」
司は隣に座るつくしを見た。
その目は誇らしげに輝いている。

「ああ。気にするな。うちの母親は忙しい人間だ。いちいちアポなんかとってたらいつ会えるかわかったもんじゃねぇからな」

司はニューヨークへの出張をこれ幸いとばかり、つくしをこの地に連れてきた。
つくしは司の様子を窺っていた。自分の母親に会うというのにあまり嬉しそうではない。
それに家族と会うというのにアポを取らなければ会うことが出来ないということがつくしには考えられなかった。

「つくし、俺の母親については色々と言ったが、別におまえが取って食われることなんてねぇから心配するな」
司の口調はなぜか陽気だ。

つくしは、司の母親が相手を萎縮させるような人間で、高圧的な態度をとるという言葉を思い出していた。そんな身も蓋もないような言い方をされるような母親とはいったいどんな母親だろうかと考えていた。




「まさかとは思うが・・」
見ると司の瞳が訝し気に曇っていた。
「親父まで来たか?」
心なしか司の体が強張ったように感じられた。

応接室のドアが開き、女性がひとり入って来た。
クリーム色のスーツを上品に着こなした女性で低い位置で髪の毛をひとつにまとめていた。
つくしは思わず声が出そうになっていた。
女性に見覚えがあった。
間違いない。つくしは司の母親と会っている。
メープルで澤田に腕を掴まれたとき、声をかけ助け舟を出してくれた女性その人だ。
だがその事実は司には伝えていない。だから司はつくしと彼の母親が初めての対面だと思っているはずだ。


道明寺楓はソファに腰かけると、膝のうえで優雅に手を組んだ。

「牧野さん、お会いできて嬉しいわ」
楓の意識はつくしに向けられていた。

司が家族と接する際、どのような態度で臨むのか分からないが、つくしは楽観を決め込むことにした。司からは母親に対してあまりいい印象を与えてはもらえなかったが、ありのままの自分を見てもらいたいし、肩肘を張っても仕方がないという思いからだ。
それにメープルで出会ったときの母親は司が言うほど酷い人間には思えなかったからだ。

「牧野つくしと申します」


ふたたび、ドアが開き、今度は60代前半と思われる男性が現れた。
恐らく司の父親だろう。彼を若くしたら司のようになることは見れば一目瞭然だ。
特徴的な髪と共に男としての佇まいがそっくりだからだ。

低い声が話しかけて来た。
「あなたが牧野さん?ついにお会いできましたね。しかし思っていた人とは違うようだ」

司と同じ低音のバリトンだ。
部屋に入って来た瞬間から人を惹きつける人間だと感じられた。

「あなたが牧野さんを連れてくると聞いて、連絡したのよ」

楓は司へ目を向けたあと、自分の隣に腰かけた男を見た。
司にしても、母親にしてもこの家族は生まれ持ったオーラが強く感じられる。母親の持つオーラが人を萎縮させるようなものだとしたら、父親は威厳があると評すればいいのかもしれない。まさに風格があると言ってもいいだろう。

「いったいどんな女を想像してたって言うんだよ?言っとくがこいつは俺が昔つき合ったような女とは違うからな」
司は真面目な表情で父親を見た。

「楓から話しは聞いた。司はこちらのお嬢さんと結婚を考えているそうだね?」

母親が視察名目で支社を訪れたとき、つくしのことは話しをしていた。
孫が増えることを望むなら、彼女と結婚すれば増えると答えていた。

「司の気持はわかったが、そちらのお嬢さんのお気持ちはどうなんだね?牧野さん、司はあなたのボーイフレンドなのかな?」

「いえ、ボーイフレンドではなく恋人です」
つくしははっきりと言った。
「そうか、ボーイフレンドじゃなくて恋人か。凄いじゃないか、司。それで?出会ったのはこの街だったらしいな?」

司の父親は確かめるかのように司を見た。

「ああ。俺の完璧なひと目惚れ。出会ったのは3年前のニューヨークだけど、つくしは東京に帰っちまった。だから俺はこいつの恋人になりたかったから東京に戻った。本当はすぐにでもこいつの後を追って戻りたかったけど、あの頃はそうはいかなかっただろ?」

「ああ、3年前といえば、事業再編の頃だな」
思い当たるというように頷いた。
「しかし出会ってから3年も経ってよく牧野さんがおまえを迎え入れてくれたな?」
父親はつくしに視線を向けた。
「牧野さん、よく3年も前に出会った男を受けれましたね?3年も前に知り合った男なんて、手遅れじゃなかったんですか?」

「いいえ。手遅れじゃありませんでした」
つくしの声は確信を持っていた。
「それに司さんは自分の意志を押し通すとなると、蛇のようにしつこいんです」

「つくし、なんだよ!蛇ってのは!」司が鋭い声を上げた。

「はは・・司が蛇のよう・・そんなにしつこい男だったんですか?」父親は苦笑した。
「息子もいい年です。父親として息子の女性関係について口を出すことなどなかったのでよく知りませんが、ひとりの女性に執着するような人間ではなかったはずだが・・どうやらあなたに対しては違うようだ」

父親はひと息置いた。

「男たるものは何事も意志を持ってやり遂げることが大切ですからね。仕事にしても人生にしても」

そんな父親の目は息子の目とよく似ていた。
二人とも、狙った獲物は逃がさないという目だ。彼らがそうしたいと決めたらまったく勝ち目はないと言った感じだ。まさに親子だと証明するような目つきになっていた。

「時間管理の鉄則を忘れたのか。司?」経営者然とした鋭い言葉が飛んだ。
「おまえ牧野さんが大切なら、早いところ手を打った方がいいんじゃないのか?澤田さんのところの息子さんの話しは楓から聞いた。まあおまえのことだから、もう手は打ったんだろうが、ビジネスにしてもそうだが最後の詰めまできちんと押さえておくことが重要だからな。契約はきちんと最後まで結ばなければ相手に何かされても文句は言えない」

道明寺家の二人の男はつくしのことなどそっちのけのように話しをはじめた。
まるで契約は早くまとめるに限るとばかりで本人がいることを忘れているかのようだ。

「それに効率のいい方法をとった方がいいんじゃないのか?わたしも楓も孫は何人いても構わないんだからな」

司の父親が何を言っているのかを理解するまで一瞬の間があったが、つくしは自分の顔が赤らんだのがわかった。

「確認するが、司は牧野さんと結婚を考えてるんだな?大事なのは二人の思いだ。わたしも楓もおまえが幸せになることを望んでいる。おまえが望むことを牧野さんと一緒にすればいい。この3年間おまえがどんな気持ちでニューヨークで過ごしたか分からないが、二人ともいい大人なんだ。司が牧野さんとこうしたいと思うならそうすればいい」

ビジネス界の大物は自分の考えを述べるとき他人には一切口を挟ませないのだろう。
恐らくそれは家庭の中でもそうだったのだろう。司でさえ黙って聞いているしかないようだ。父親だが父親ではない。今、目の前にいるのは道明寺グループのまさにトップの男なのだから。

「親父、俺は牧野と結婚する。今日はそれだけを言いに来たんだ」

「あ、あの、あたしの身上調査をするならご自由になさって下さい。と言ってももうご存知ですよね?」

「つくし!」
司はすでに父親が調べているはずだと知ってはいたが、つくしの気構えに感嘆した。
「大丈夫」つくしは司の手を握った。
「後ろめたいような生き方は一切していませんから、何を調べて頂いてもかまいません」
つくしは父親を見た。

「ああ。どうやらそのようだ。牧野さんは自分に自信があるようだ。あなたの目を見ればわかる。人間の精神はその人の目を見ればわかると言います。まっすぐできれいな目をしているよ、なあ司?」

先程とは打って変わったように柔らかく語りかけられると、空気が一気に緩んだ。

「当然だ。俺が選んだ女だ。俺には死んだ魚みてぇな目をした女なんて必要ねぇからな」

司は父親を睨んだ。とは言え言葉にはどこか面白そうな音色が含まれていた。

「つくし、そろそろ帰るぞ?」
「え?も、もう?だってさっき来たばっかりで・・そんな失礼なこと・・」

司は立ち上がるとつくしの腕をとった。
つくしの視線は司の両親に向けられた。

「いいんだよ!この二人は話し始めると長げぇんだからこんなもんでいいんだ」
「で、でも・・」

つくしは言い返そうとしたが、司の顔を見て口をつぐんだ。
その顔はこれから過ごす二人だけの時間が減るのが勿体ないと言っていた。

「じゃあな。俺たちこれからペントハウスに帰るわ」
「あ、あの・・お邪魔致しました」
つくしは慌てて頭を下げた。



「つくしさん?今度はいつ会えるのかしらね?」楓が柔らかく聞いた。
「司はこんな息子だけど、お願いするわ」
つくしは楓の言葉に嬉さがこみ上げると「よろしくお願いします」と返事を返した。
「つくし、行くぞ?」
「え?あ、うん」

手を引かれてドア前までたどり着いたところで声がかかった。

「なあ司」

「何だよ親父?」

司はまだ何か用があるのかと振り返った。

「孫は何人いてもいいんだぞ?順番なんて今更だ。時間管理の鉄則と効率の良さがものを言うからな」

要は時間を有効に使えということだ。

つくしはその言葉に恥ずかしそうにうつむいた。








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コメント
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dot 2016.07.18 10:45 | 編集
み*ちゃん様
こんにちは^^
司パパ、最高でしたか?ありがとうございます。
順番なんてこの際どうでもいいんです。とにかく孫が早く欲しいと言ってます。
じいじいになりたいんです(笑)椿さんのところに子供がいるのですが、
やはり道明寺家の為にも司に子供を作ることを推奨しているようです。
ペントハウスでの熱い一夜・・・燃えるふたり?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.18 21:22 | 編集
ち*様
こんにちは^^
梅雨明けしましたねぇ。暑さが増したような気がします。
色々とご心配をいただき、ありがとうございます。
取りあえずこの連載を終わらせないと、と思っています。
休むとだら~となってしまいそうなので勢いだけで書いています。平日は夜執筆なのですが、時々今夜はもうダメなんて日もあるんです(笑)こちらのお話もあと少しと思っていますのでもう少しだけおつき合い頂けると嬉しいです。
本当に暑くなりました。ち*様もお体ご自愛くださいませm(__)m
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.18 21:34 | 編集
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dot 2016.07.18 23:51 | 編集
chi***himu様
こんばんは^^
海ですか。いいですねぇ。今日は海の日でしたね?あ、もう日付は変わっていますね(笑)
つくしちゃんニュージャージーの道明寺邸でご対面されました。ニューヨークは訪れたことがありますので、懐かしい記憶からイメージを掘り起こしています。海外旅行も今は色々と物騒ですので怖いですねぇ。いつかご希望の国を訪れることが出来るといいですね。
さて、司パパですが原作では出演なしでどんな人なのかと思いますが、こちらのお話では優しそうなパパでした。
幸せそうな二人。明日も幸せです。やはり幸せな二人を見ると嬉しですよねぇ。あともう少し!頑張ります。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.19 00:51 | 編集
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