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2016
07.15

大人の恋には嘘がある 46

「ごめんね、つかさ・・」
「おまえが悪いわけじゃねぇんだからあやまるな」
「でも・・」
「おまえが何かしたわけじゃねぇんだから気にするな」

つくしが立ち上がると、司も立ち上がった。

念のためだという司に連れてこられたのは道明寺系列の病院だ。
なんともないとは言っても階段を転がり落ちたのだから、診てもらったほうがいいに決まってると言われ、つくしは素直に受け入れた。そうすれば司も一緒に診察してもらえるからだ。 つくしに言わせれば、司こそ何ともないと言っても、つくしの体を抱え込み、踊り場から下の半分ほどの高さから転がり落ちたのだから打撲程度はあるかもしれないと思っていた。

診察した医師はレントゲンや頭の画像を見ながら、骨にも脳にも異常は見当たりませんと言うと、総合的にどこにも問題はありませんのでお帰りいただいても構いませんと告げた。

「司もなんともなくてよかった・・」つくしは視線をあげた。
「言っとくけどな、あんくれぇのことでどうにかなるような体じゃねぇよ」
「でも本当にありがとう。司があのとき来てくれなかったらと思うと・・」

つくしの声は心なしか震えていた。あのとき怖い思いをしたのは確かだろう。
誰もいない非常階段で知っている人間とは言え、状況は緊迫していた。
もしも司が来るタイミングが遅れていたらどうなっていたかと考えると、澤田を一発殴ってやればよかったかと後悔した。いや、一発どころじゃねぇな。半殺しにしてもいいくらいだ。

司はつくしの頭を引き寄せた。

「おまえのことは俺が守るって言っただろ?」
「うん・・」

つくしに何かあっては大変だという思いは恋人として当然な思いだ。
階段から転がり落ちたが、幸い司が体を張ったおかげでつくしの体には何も問題はなかった。たが、腕に出来ていた痣を確かめた途端、司の胸に怒りがこみ上げた。
その痣は澤田がつくしの腕を掴んだときに出来た痣だ。あの男は一度ならず二度までもこいつの腕に痣を残しやがった。いっそのことあのとき、階段の手すりから投げ落としてやればよかったと本気で後悔していた。


「どうなんだ?二人とも大丈夫なのか?」

診察を終えた二人を親友たちが取り囲んだ。
司がこれからつくしを連れて病院に行くと電話で伝えてきた内容に、驚いた3人は病院まで駆けつけた。

「ああ。心配かけたが俺もつくしも問題ねぇ」
「しかし澤田って男はいったい何を考えてんだ?やっぱつくしちゃんを待ち伏せしてたのか?司が行かなかったらヤバイことになってたんじゃねぇのか?」
「だよな。マジでなんかあったかと思うと・・」

あきらは総二郎に頷いたが言葉を切った。
本人を目の前にして言うべき事ではない言葉が口をついて出そうになっていたからだ。
一番ショックを受けているのはつくしだ。同僚の男性にあんなことをされ怖い思いをしたに違いない。

「つくしちゃん」あきらは優しい目でつくしを見た。
「大変な目にあったけど、これからは司が君のこと守ってくれるから何も心配することはないはずだよ?」

つくしは頷いた。

「皆さんにもご心配かけちゃって・・ありがとうございます」と頭を下げた。

「一流ホテルっても客まで一流だと限らねぇし、ホテルなんてのは死角も多い。どこに誰が潜んでいてもおかしくはないからな。これがメープルなら警備の人間は即刻クビだ」

司の言葉は本気だ。この男の口から出たことは即、実行に移されなければならない。

「非常階段には監視カメラはついてなかったのか?」総二郎は聞いた。
「ああ。あのホテルはついてねぇな」

なかったからそこあの男を突き落としておけばと後悔した。

「ねえ、司。その澤田って男、そのままにしていいの?昔の司なら絶対に報復措置とってるよね?」
「類、たきつけるのはよせ。そんなこと言ったら司はマジでやるぞ?」
「なんだ、つまんない。司が久しぶりに暴れる姿が見れると思ったのに」
あきらは溜息をもらした。
「類、つまるとかつまらないの話しじゃないんだぞ?それに今の司が暴力事件なんて起こしたらただじゃ済まねぇんだぞ?」
まるで他人事のような類の態度にあきらは苛立ちを見せていた。






「わりぃけど、俺ら帰るわ」

司はやさしくつくしの背中に手をまわした。
3人の男達は納得したように頷いていた。今のつくしはほほ笑んでは見せるが、どこかこわばりが感じられ不安そうだ。肉体的なダメージは無かったにしても精神的にはキツイところがあるはずだと理解した。

「そうか・・司・・おまえ・・」総二郎は何か言いたげだ。

司は総二郎の話したいことはわかっているとばかりに頷いてみせた。

四人の男は視線を合わせると、全員が声を出さずにただ頷き合っていた。





***






その晩、司はつくしを連れて自分のマンションに帰った。
今夜のことはショックだったはずだ。ひとりにしておくわけにはいかない。
つくしの気が晴れるならなんでもしてやるつもりでいるが何をしてやればいい?
ホテルでは気丈に振る舞ってはいたが、診察を終えたあたりからどことなく表情が虚ろになっていくのが感じられた。
おそらく澤田に何かされるのではないかと言うあの時の恐怖が甦ったのだろう。
時間が経てばたつほど、あの時のことを思い出すことがあるかもしれない。
もしかしたらあのとき・・・なんてことを考えれば考えるほどショックを受けるだろう。
気になるのは会社であの男と顔を合わせることで、つくしがあの時のことを思い出すことだ。

「あの野郎・・やっぱりあそこで突き落としてやればよかったか?」
司は独りごちた。

「つかさ?どうしたの?」

つくしがトイレから姿を現したとき、司の思いは決まっていた。

「つくし、明日会社休め」
「え?」
「澤田なんかと顔合わしたくねぇだろ?俺があの男のことは・・」
「つ、つかさ。大丈夫だから・・」
「なにが大丈夫なんだよ?おまえの顔見てたらちっとも大丈夫なようには見えねぇぞ?」
「大丈夫・・へ・・平気だから・・」
「なあ、つくし、正直に言え。おまえあんとき・・」司は言葉に詰まった。
「大丈夫だから・・」

そう言ったつくしの目からは涙が溢れていた。司のマンションで二人っきりになり、それまで張りつめていた緊張の糸が切れたかのようだ。

「つくし・・」つくしの体を抱き寄せた。
「大丈夫なんかじゃねぇだろうが・・」

総二郎の目配せした意味はこのことだ。男は気持ちがなくても女を抱くことが出来るが女は気持ちがなければ男に抱かれることがない。
女にとって男に抱かれるということは、心と体は切り離すことが出来ないひとつの感情だ。
好きな男だから抱かれたいという気持ちになる。だから好きでもない男に襲われそうになったつくしはショックを受けているはずだ。いくら自分に好意を寄せている男だとしてもつくしに相手を思う気持ちがなければ、恐怖以外なにものでもないはずだ。
しかもよく知る同僚の男に襲われそうになっただなんてことを考えれば、心に負った傷は大きいはずだ。

「いいか?つくし。・・心配するな・・何も起こらなかったんだし、もう二度とあんなことは起こらねぇ」

「こ、こわかった・・あのとき・・司が来てくれなかったら・・」
涙が頬を伝い流れていた。
「わかった・・もうそれ以上話す必要なんてねぇぞ。もう二度とおまえにあんな思いなんてさせねぇから・・おまえのことは俺が一生責任を持って守ってやる」

あんな男は二度とおまえに近づけさせねぇから・・

「なあ、もう泣くな・・いや・・泣け。泣けばいい・・怖かったんだよな?」

頷いてすすり泣く女は司が初めて見るつくしの姿だ。
そんな女を抱き寄せると背中を優しく撫でていた。感情を封じ込めるのは精神的によくないことは知っていた。かつての自分もそういうことがあったからだ。今はわかる。泣きたい時は泣くべきだということが。

「大丈夫だ。もう二度とあんなことはねぇ」

司は無理に話しを聞き出そうとはしなかったが、非常階段への扉を開けたとき、澤田が言った言葉は覚えていた。澤田の行動はつくしにはショックだったに違いない。好意を寄せられていることは分かっていてもはっきりと断った相手に、待ち伏せのようなことをされ、一歩間違えば強引にことを運ばれるかもしれなかったのだから。

今の司はただ、つくしを抱きしめて泣きたいだけ泣かせてやることが、自分だけが出来ることだと知っていた。

「つくし、大丈夫だ。俺がこれから一生傍にいておまえが泣くことがねぇようにしてやるから安心しろ」

司は自分の腕の中に身を寄せている女を、ただじっと抱きしめていた。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.07.15 21:01 | 編集
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dot 2016.07.15 23:24 | 編集
*ri**ko*様
そうなんですか?好物だなんて言って頂けるともっと差し上げたくなります!
なんだか勿体ない言葉です。ありがとうございます。
大人な司くんしか書けないと言ったほうがいいかもしれません・・(笑)
私は逆に*ri**ko*様の甘~いお話が羨ましいです。
司若の彫紋良かったです!観音菩薩はきっと柔和な表情で守られてるんでしょうねぇ。
イチブラ消えたんですか?それはショックです( ノД`)シクシク…
100話のお話と共に応援してます^^色々な分野に挑戦するなんて凄いです!
100話も読めるなんて読者の皆様は大喜びです(*^^)v
アカシアも楽しみに拝読させて頂きますので頑張って下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.16 00:51 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
澤田さんの最後に一回ですが、澤田さんの意図はソッチ(笑)ではないと思いますが、仮にキスさせてなんて言われて「はいどうぞ」なんて言ったら絶対エスカレートするに決まってます!だって非常階段ですよ?襲われてもおかしくない環境ですよ?
「牧野・・いいだろ?」なんてことになりそうで怖いです。つくしちゃんの操があぶないところでした。
えー週末ですね!(笑)今夜は夜更かししています。いつもそうですが・・(笑)だって明日のお話が仕上がらないんです。
あの男の足音がっ?我らが御曹司!どうかしらっ?まだ何も考えていません(笑)懐メロ風前振りありがとうございます(笑)
やる気出して明日考えてみます!エロ坊ちゃん自分でも書いていて可愛いな♡と思う時があります。
しかし、どうしてこんな司になったのか・・仕事はどうしたんでしょうね?
御曹司・・つくしちゃん相手に次は何がしたいのか聞いてみます。( ..)φ
コメント有難うございました^^はい。お互いに早く寝ましょう・・

アカシアdot 2016.07.16 01:14 | 編集
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