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2016
07.14

大人の恋には嘘がある 45

司の嫌な予感は当たっていた。
女性用化粧室は使用禁止の紙が貼られていた。

「あいつ、いったいどこのトイレに行ったんだ?」

通路で立ち止まったまま後ろを振り返って見た。
いったい自分は何をしようとしているのか。今自分が来た通路を振り返ってどうする。
考えられるのは別のフロアの化粧室に行くことだが、果たして上か下か・・
ここから手っ取り早く別のフロアへ行くなら非常階段がすぐそこにある。あいつなら間違いなくこの階段を使うはずだ。なぜかそう感じられた。
階段を使うというなら、考えられるのは下だろう。上るより下る方が楽に決まってる。つくしは下のフロアのトイレに行ったのだろうか?


どういうわけか嫌な予感が続いている。早くつくしを見つけた方がいいような気がしていた。司は上着の内ポケットから携帯電話を取り出すと、画面に表示されたつくしの名前を優しく押した。
1回目の呼び出し音がし、2回目が鳴った。3回目が鳴りはじめたとき、反対側の耳がどこかで鳴る小さな音を拾っていた。司は携帯電話を耳から少しだけ離した。
やはりどこかで音がしている。
司はハッとした。その音は非常階段へと続く扉の向うから聞こえて来ていた。
胸騒ぎがしてきた。このホテルの中に誰か怪しい人間が紛れ込んでないとは言い切れない。

司が非常階段の金属製の扉を開くと、いきなり耳に飛び込んできたのはつくしの声だ。

「離して!」
それにもうひとり誰か男の声がした。

「違うんだ。そんなつもりじゃないんだ!お願いだ。最後に一度だけでいいんだ」

司は階段を駆け下りた。と言うよりも飛び降りたと言った方がいいのかもしれない。数段飛ばしで最後は踊り場に飛び降りた。ダンッと大きな音を立てて足を着いたとき、目に飛び込んで来たのは数段下でつくしが澤田に掴まれた腕を振りほどこうともがいているとろだ。片腕を掴まれ、もう片方の手にはバッグが握られ、足元はヒールの靴で階段の途中に立つ女は不安定この上ない。もし男の手が離れれば階段から転げ落ちてもおかしくはない状況だ。


「つくしっ!」
つくしが上を見た。澤田もだ。
「つかさ!」
「澤田!てめぇ・・なにやってんだっ!」
怒りのこもった眼差しと共に怒号が響いた。

「ど、道明寺司・・」

澤田は驚いてつくしの手を離した。
瞬間、つくしがあとずさった。片手にはバックを持ち、ハイヒールで階段の途中にいる状態でいきなり手を離されバランスを失った。手にしていたバッグは階段を転がり落ちて行った。 つくしの体は自分のおかれた状況に対応すべく、高いヒールでなんとかバランスを取ろうとして軽いパニックに陥っていた。手は何か掴むものを求めて無意識に宙を彷徨った。

怖い!このままでは階段から転げ落ちてしまう!

そう思った瞬間、つくしの手は求めて止まない人の手がしっかりと掴んでくれた。
掴んだと同時に大きな体がつくしを頭から抱きしめた。まさに一瞬の出来事で言葉は出なかったが、次の瞬間には真っ暗な穴の中へと転がり落ちていくような気がした。
だが痛くはなかった。むしろ何かにくるまれているようで優しさが感じられた。
つくしの名前を叫ぶ司の声が聞えたような気がしたが、こんな声は聞いたことがないと言えるような声をしていた。

ただその声も薄れゆく意識の中では小さな囁き程にしか聞こえなかった。





***







目を開けると、司が覆いかぶさるようにしてつくしを覗きこんでいた。
彼の目には激しい狼狽が感じられた。

「あ、あたし・・」
「大丈夫か?俺がわかるか?」司は指先で顔にかかった髪の毛を払った。
「あ、あたし・・」
「おまえは牧野つくしだ。つくし、俺が誰だかわかるか?」

司が唇をぎゅっと引き結んだ。つくしを見つめる目は真剣だ。
つくしの口からはっきりとした言葉を聞く事が出来ず司は動揺していた。
頭は守ったつもりだがまさか自分のことを忘れられてはいないかと心配になっていた。

「ど、どうみょうじ・・つかさ?・・ねぇ・・あたしいったい?」
何を言おうとしているのか口調が定まらないようだ。まだつくしの頭はぼんやりとしていた。
「大丈夫だ。おまえは俺と一緒に階段から落ちて、気を失ってただけだ」
口の端にホッとしたような笑みが浮かんだ。

つくしは司の言葉に一気に覚醒した。
そうだ。あたしは階段から落ちた。いや、厳密に言えば司と一緒に転げ落ちたんだ。
司は自分の胸にあたしを抱きこんで階段を転がり落ちたんだ。
つくしは司の手を借りて体を起こした。

「おまえ、そんな急に起き上って大丈夫なのか?」
「つ、司こそ大丈夫なの?」

つくしを抱きかかえて階段を落ちた男はまるで何事も無かったようにほほ笑んだ。
「俺か?俺は問題ねぇ。それよりもおまえの方が心配だ。どっか痛くねぇか?頭とか打ってねぇよな?」
司は心配そうにつくしの体を撫でまわした。
「だ、大丈夫だから。司が守ってくれたから本当に大丈夫」
「本当に大丈夫なのか?まじでどっか痛くねぇのか?」
「あ、あたし。ごめんね、司・・」
「なに言ってんだ。おまえにあやまられることなんかねぇぞ?」

そのとき、階段の途中にいた男が二人の傍に下りて来た。
「あ、あの・・」

司は澤田を見た。
その顔には明らかに怒りがある。

澤田の顔には恐怖と不安と驚愕が浮かんでいた。
まさにこれから目の前の男に何かされるのではないかという恐怖。つくしの体は無事なのかという不安。そして道明寺司が自分の身を投げ出してつくしを守ろうとした行動に対する驚愕の気持が次々に過っていた。

司はゆっくりと立ち上がると澤田を正面から見据えた。
「つ、つかさ・・怒らないで、お願いだから・・」
つくしは床に座り込んだまま司を見上げた。

「怒っちゃいけねぇ理由を教えてくれねぇか?今の俺は腸が煮えくり返るぐれぇ機嫌がわりぃ」

司にとっては昔なじみの感覚だ。成人してからは表に出ることがなかったが、自分の中のどこかに潜んでいる暴力的な思いが湧き上がって来た。

司は一歩前に踏み出した。
「澤田。おまえ一体ここで何してたんだ?」司はゆっくりと言った。
「まさかこいつを待ち伏せでもしてたのか?」
まさかとは思うがトイレが使用禁止になっているのは澤田の仕業ではないかと勘ぐった。

「どういう了見だか知らねぇが、てめぇは好きな女を困らせることが趣味なのか?つくしは嫌がってたよな?自分の思いを押し付けることが愛だなんて信じてるわけじゃねぇよな?てめぇの気持を押し付けてるだけじゃ自己満足に過ぎねぇってことくれぇわからねぇようじゃまだまだガキだよな。人を愛するってのはな、思いやる心ってのも必要なんだよ!」

「つ、つかさ・・待って・・」
つくしは司の手を掴もうとしたが、掴めなかった。

「なあ、こっから下までどんくれぇあるんだ?」
司は階段の手すりから身を乗り出すとはるか地上を見下ろした。
「落ちたら相当痛てぇだろうな?その前に生きてるかどうか疑問だけどな」
司は笑った。

澤田は縮みあがっていた。まるで体が麻痺してしまったかのように動けない。

「いいか?よく聞け。今の俺は暴力的な人間じゃねぇけどな、誰かがおまえに焼きを入れてやらなきゃなんねぇって言うんなら俺が入れてやるよ。嫌がってる女をいつまでも追いかけ回してるんじゃねぇよ!」

恫喝はしていても決して手は出さなかった。手を出してしまえば、止められなくなりそうだ。

「つくし、念のためだ。病院に行くぞ」
司はつくしを抱え上げると澤田を振り返った。


「二度とこいつに近づくんじゃねぇぞ?俺を怒らせるような真似をまたするって言うんならそれなりの覚悟で来るんだな?死ぬ気で来るって言うなら相手になってやるぜ?」
司の顔には不適な笑みが浮かんでいた。


「言っとくが、こいつだけは渡すつもりはねぇから、そのつもりでいろ」









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コメント
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dot 2016.07.14 07:51 | 編集
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dot 2016.07.14 08:52 | 編集
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dot 2016.07.14 16:50 | 編集
Vivi様
こんにちは。素敵と感じて頂けて嬉しいです。
こちらの司クンは大人ですので理性もあるのですが、過去の凶暴さも持ち合わせているようです^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.14 23:12 | 編集
み*ちゃん様
司、カッコイイ・・ありがとうございます。
はい、澤田さんはもうダメですね(笑)これ以上手を出すと自分の生命に危険が及ぶかもしれません。
つくしラブの大人の司です。恋心は燃え盛る炎のようです。
大人の愛で包んであげて欲しいと思っています。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.14 23:19 | 編集
co**y様
おはようございます^^
試合は終了した模様です。はい。坊ちゃんの圧倒的な勝利で終わったようです。
澤田君にこれ以上の試合はムリかと・・(笑)
階段から投げ落とされてしまいますから(笑)
この坊ちゃん大人なのですが、高校時代の凶暴性も持ち合わせています。
発揮されるのはつくしちゃんが危機に陥ったときだけ・・だと思います。
大人の司ですからそれなりに・・と思います。←何がですよね?
わたしも今日は頑張りました!こちらこそ、いつもありがとうございます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.14 23:28 | 編集
v**go様
『ジョーズ』のテーマソングが?
昨日は靴音だけで見えない恐怖が感じられたと言うことですね?
えーつくしちゃんが頭を打って記憶喪失になると、この先お話がまったく違う方向に行ってしまうので困ります(笑)
あ、でもそれはそれで面白いですね!いつかそんなお話もいいですね。司を見て「あんた誰?」ですよね?たまには司も苦労しなさいですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.14 23:40 | 編集
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dot 2016.07.14 23:50 | 編集
さと**ん様
踊り場にダン!と降りる人。脚が強くなくてはムリなんです。
飛び降りた途端、脚が震えるようではダメなんです。やはりこの司はアクションスター並と言うことでしょうか。by御曹司
澤田がつくしに望んだ一度でいいから・・ですか?
なんでしょうねぇ・・(笑)合体?え?いきなりですか?(´艸`*)明日司に聞いてみて下さい。
記憶喪失になると、この先のお話の方向が違う方向に進んでいくので今回はありません。
はい、澤田さんお疲れさまでした(^^ゞこれ以上手を出すと命がないと思え・・です。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.07.14 23:54 | 編集
イ*ン様
ため息と共にかっこいい、ありがとうございます^^
つくしちゃんを一生守るのが彼の役目だと考えております。
好きになったらとことん行きます。行かせます!
それが司のデフォだと思っています。
拍手コメントありがとうございました^^
アカシアdot 2016.07.15 00:06 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
いえいえ、何をおっしゃいますか。ご遠慮なく遊びに来て下さい!
コメント頂けて読ませて頂けるのは楽しいです(^^ゞ
つくしを抱えて守り階段落ち。いいですよね。アカシアの人生にも無いと思います。いいな、つくしちゃんは・・
澤田さんには申し訳ないですが、これ以上手を出すと命が危ないので止めた方がいいと思います。
これだけ愛し合う二人の邪魔をするなんて、司の恋路を邪魔するやつは命がないと思えです。
う~ん・・雲行きはどうでしょう・・
はい。コメント返信は大丈夫です。こうしてお話が出来るのも楽しいですからお便り待ってます!
いつも温かいお言葉を頂きありがとうございますです。
マ**チ様もご無理なさいませんようにお身体ご自愛下さいませ。
コメント有難うございました^^  早く寝ます!(笑)
アカシアdot 2016.07.15 00:25 | 編集
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dot 2016.07.15 03:06 | 編集
chim***imu様
こんばんは^^
コメントは何時でもいいですよ~お気になさらずに^^
司くん、脅してますね。つくしちゃんを守るためには何でもありの人ですねぇ。
そうですよね、司くんも相当なストーカー体質なのに他人のことはさて置きです。
でも司くんみたいなストーカーなら許せます!澤田さん、最後に何がしたかったんでしょうね?
でも非常階段で待ち伏せみたいな行為は怖がられるだけかと思います。実際そんな目に合えば二度と非常階段には行かないと思います。澤田さん、つくしちゃんは諦めて下さい!そうですねぇ。いよいよお話も先が見えてきたように思います。
沢山参加して頂きありがとうございます!名残惜しい・・(ノД`)・゜・。そう思って下さるなんて有難いです。
もう少しだけおつき合い下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.16 00:24 | 編集
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