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2015
09.03

キスミーエンジェル4

つくしは目に映っているものが信じられなかった。

あの男がいた。
道明寺司が自らここに来る理由なんてあるはずがない。
なんで道明寺ホールディングスの日本支社長がうちの専務と一緒にここにいるのよ。
嫌な汗が流れた。

「牧野君! ちょっと来てくれないか?」


専務に呼ばれ、つくしはスカートの皺を伸ばすようにして立ち上がるとストッキングが破れていないか確認をして専務のオフィスをノックした。
すかさず「どうぞ」と声が返ってきた。
胃の奥がキリキリしてきた。
これから会う人物は今後の自分の人生にかかわって欲しくない人間だ。

「失礼いたします」

そこはいつものオフィスと何も変わらない。
ただ、そこにいる人間は普通じゃなかった。

「牧野君、君は道明寺支社長と知り合いだそうだね?」

いいえ!知り合いなんかじゃありません。
つくしは心のなかでそう呟きながらも丁寧に挨拶をする。



俺は向かいの席に座る専務の話に耳を傾けているふりをしながらその隣に座る牧野のことで頭がいっぱいだった。

「牧野君、ニューヨークからの帰りに道明寺さんと会ったそうだね。君がうちで働いているのを知って是非会いたいとおっしゃってね」




斜め前に座る牧野の目が恐ろしいくらい睨んでいる。
この買収で俺が何か企んでいると思ってるな。
その通りなんだが・・・・

お前のいるこの会社を買収したのは偶然の一致だったと言い張ればいい。
なんだよ、この奇妙な罪悪感は!
自分とは無縁だと思っていたこの感情。
昔、牧野と出会うまで味わったことがなかった。
今はその感情が頭をもたげて落ち着かない気分にさせる。


一度きちんと牧野と話をする必要があるな。
だが何を言うつもりだ?
この前失敗したばかりだ。
牧野は頭がいい。
昔は鈍感女だったが社会人になってからの牧野は勘が鋭くなっていそうだ。
でなきゃこんな仕事はできない。



俺が牧野との再会を望むようになってから半年だ。
仕切り直しをして堂々と会いたいと思ってきた。

どうしても牧野のことが忘れられなかった。
が、今の牧野の表情から言えば、再会は苦いものと終わったな。
いや、長い目でみればまだ見込みはあるはずだ。
それには時間と忍耐が必要だな。
何かいい方法を考えれさえすれば・・・

「道明寺さん、それでは宜しくお願いいたします」
「ええ、そうですね。こちらこそ」

俺はなんの話をしていたのかよく覚えていなかったがそう言うと立ち上がって手を差し伸べた。
専務は握手に応じた。

「うちには女性でも牧野君のように優秀な人材も沢山いますのでグループ会社の一員として利益増収に貢献致します」
「それを聞いて安心しました。ここの社員の優秀さは充分評価しています。だからこそ買収を申し出た」
「そうですか、それは良かった」
「牧野、これから宜しく」

俺は牧野にも手を差し伸べた。
牧野は俺の手を気味悪そうに見つめしぶしぶ握手に応じ素早く引っ込めようとしたが
俺はその手を逃さない。

「宜しくお願いします」

俺は再び牧野の手を静かに握りしめることができた。



「道明寺支社長、よかったら社内をご案内しますが・・」
「いえ、それには及びません。今日はこれで失礼いたします」
俺はドアを出て行く寸前に声をかけた。


「じゃあまたな、牧野」






******









つくしは仕事に集中出来なかった。
あの男、いったい何を考えている?
うちの会社を買収する交渉が半年前から始まっていた?
私がこの会社にいることとは偶然の一致と考える方がいいのか?
あの男のことだ。
私の住まい、交友関係、果ては懐具合まで調べ上げているのではないだろうか。


付き合うとか付き合えとか付き合う・・・・・
今更なんなのよ!
それに付き合おうって、なにバカなこと言ってるのよ。
あんた私のこと8年前にほったらかしてニューヨークに行っちゃったじゃない!



RRRRR・・・
「 はい・・・ え?・・・わかりました 」
私が呼び出しを受けたのは専務の秘書だった。



「 おはよう、牧野 」
専務室でデスクの向こう側の大きな窓を背にして立つ道明寺は落ち着き払った声で言った。
この部屋の主は確か香港に出張中だ。
あんた暇なの?道明寺ホールディングスの支社長って暇なの?
決して広いとは言えない密室に道明寺と二人っきりでいるとなぜだか胸が痛い。

「牧野、説明させてくれ」
道明寺はデスクの向こう側から語りかけてくる。

つくしは意を決して言った。
「説明って何のことですか?私に何か説明したいことがあるんですか?」
「牧野、立ったままもなんだから、座って話を・・・」
「このままで構いません」

道明寺が近づこうとするとつくしは身を引いた。
その様子を見て彼は立ち止った。

「牧野、8年前のことだけど、お前の考えていることとは違うんだ」
「何のことでしょうか? 何が違うんでしょうか?」
この際だ、はっきり言ってやるわ。

「 私のことを追いかけ回して好きだ、愛してるなんてことを言っておいて私の気持ちを散々もて遊んで・・・。
それも赤札と同じゲームのひとつだったんでしょ? 人の気持ちを弄んで楽しかったでしょ? それに今更付き合おうだなんて・・・いいかげんにして下さい!」

道明寺の開きかけていた口はすぐに閉じた。

「私はあんたの・・・道明寺さんの言葉に乗せられて・・・バカみたい・・」
二度とあんな目に会いたくない。

「私はお人好しかもしれないけど、愚か者ではないわ!」

道明寺は一瞬たじろいたが一言こう言った。

「お前はわかってない」

「わかってるわ。それにどう言うつもりなんですか!うちの会社を買収したりして!
絶対に何か企んでる!」

「ああ、そのことならお前の言う通りだ。お前に聞かれたら偶然の一致だと言い切るつもりだった。けどそれは嘘だ。企んでるよ」
「開き直るのはやめて下さい!」

道明寺はつくしのすぐ傍までやってくるといきなり肩をつかんで言った。

「俺はお前のことがずっと気になっていた。 心の中で決して消えることがなかった。
8年前は悪かった・・・俺が突然ニューヨークに行ってしまって・・」
「もう止めて、離して!」
「聞いてくれ、俺は今でもお前のことが好きだ!」

道明寺はそう言い切るとつくしの肩をつかんだままその身体に引き寄せた。
つくしは道明寺の身体から感じる熱とほのかな香りを感じた。
それは懐かしい香りがした。
肩に感じる道明寺の手の温もりと懐かしい香りにつくしの心は揺れ動くようだった。
彼の大きな背中に手をまわしたくなる。

「道明寺・・道明寺さん手をどけて下さい」
「嫌だと言ったら?」
「大声を出すわ」

彼は抱き寄せていたつくしの身体を自分から少し離すようにすると、屈み込むようにしてきた。
私は一瞬キスをされるのかと思ったが、道明寺は大人しく私の身体から手を離した。
肩に残る手の温もりがまるでそこだけに刻印を押されたように残っている。

「ご用が無いようでしたら失礼してもいいですか。忙しいんですけど」

つくしは道明寺から離れるように後ずさる。

「・・ああ、悪かったな」

つくしは踵を返すとドアに向かった。










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応援有難うございます。
あれ?なんだか切ない方向に・・。

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コメント
ゆ*ん様
拍手コメント有難うございます。
この際坊ちゃんにはセクハラ、パワハラなんでも有りでしょうか(゚д゚)!
少しずつじわじわ行けるといいんですが、つくしちゃんもなかなか手強くて・・・
只今坊ちゃんお悩み中です。
でもつくしちゃんを手に入れる為には色々と策を練っているようです( *´艸`)
アカシアも一緒に策を練りたいと思います(笑)
でも上手く行くのでしょうか・・・←他人事のようですね(笑)
こんなことを書いていたら坊ちゃんに怒られそうですね。
アカシアdot 2015.09.03 21:45 | 編集
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