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2016
07.01

大人の恋には嘘がある 35

一度牧野を自分のものにすれば、いまのこのイライラとした気持ちと落ち着きの無さは消えるのだろうか?
司は椅子にもたれるとソファでのキスを思いかえしていた。
はじめは無邪気なキスで、唇は閉じられ舌を入れるとかしなかった。
触れ合っていたのは唇と牧野の頬に添えられた自分の手のひらだけで、まるでガキがするようなキス。まさに単純に触れているだけのキスだった。

司は思い出すと口元が緩んでいた。
重ねていた唇を離した途端、小さな声で囁くように呟かれた自分の名前が妙になまめかしく感じられ、欲望が突き上げてきた。

「どうみょうじ・・」

と自分の名前を呟くその声に唇を開くと思わず重ねていた。
一瞬、嫌がるかと思ったが唇を開いて受け入れてくれた。互いの温もりを帯びた息が感じられ、混じり合い、下唇に牧野の舌を感じたときは思わず身震いがした。
もうこれ以上じっとしてられねぇ。二人の間にあるテーブルを飛び越えて行きたい思いにかられたとき、突然離れた唇。

痛いほどの欲望に自制心が失われそうになっていた。
欲望が高まり、どうしようもないくらい血液が一か所に集中しているのがわかっていた。
もし二人の間にテーブルがなければ、背中に手を回し抱き寄せていたはずだ。いや、いっそのことテーブルなんぞ飛び越えて抱きしめたいくらいだった。


司は椅子をくるりと回わした。
あのままキスを続けていれば、キスだけじゃ済まなかったはずだ。
もう少しであからさまな欲望を隠すことが出来なくなるところだった。

ソファに押し倒して牧野の全てを奪ってしまいそうになるところだった。だが止めてよかったはずだ。まさかソファであいつの初めてを奪うなんてことは出来ない。
本当はもっとゆっくり事を運ぶ予定だったが澤田が出て来たせいで気持ちばかりがあせっちまう。なんならこの椅子の上であいつにまたいでもらってもかまわねぇ。

最初はあいつの気持ちがよく分からず遠慮していた部分もあった。だが今ではあいつの言ってた微妙な関係なんてものは、もうとっくに無くなっている。
牧野は俺の積極的なキスを受け入れてくれた。それだけであいつも俺と同じ思いでいると言うことが分かった。
せっぱ詰まった思いはあるが今はまだ早すぎる。何しろ牧野はその辺の簡単な女じゃない。 あせって強引にことを進めてもいいことにはならないということはわかっている。だが、チャンスは常に窺っていた。

それに澤田がどんな立場の人間で誰の息子であるか分かった以上、下手なことは出来ないはずだと踏んでいた。代議士の息子が週刊誌に載るようなスキャンダルがあっては困るはずだからな。
ここはひとつ澤田が手を出してこないように何がなんでもあいつを囲い込む必要がある。
今までの態度は改めた方がいいかもしれねぇ。
何しろ恋愛と戦争にはルールはない。
いっそのこと結婚してくれと言った方がいいのかもしれない。
いや、これは以前一度言ってはみたが一蹴された。

俺は3年間もおまえを思って過ごしてきたんだ。これからだってずっと思って過ごすことが出来る。
けれど、いきなり結婚してくれなんて話しをしていい顔するような女じゃないことは十分承知している。澤田が出て来るまでは時間をかけなきゃなんねぇって言うならそれなりに時間もかけるつもりだったが、今はそんな悠長なことは言ってられない。

あいつを自分だけのものにする・・

司にはわかっていた。自分がいつかつくしと愛し合う日がくることを。
ただ、それが明日なのか、来週なのか、はたまた一カ月先なのかわからなかったが、
いつかは起こるということだけは、確信を持って言えた。
その為には強力な助っ人が必要だってことはわかっていた。

司は頭の後ろで手を組み目を細めると、近い未来を思い楽しそうにほほ笑んだ。






***






金曜日の夜、つくしは司に誘われて食事に出かけていた。
場所はホテルメープルのレストラン。
曰くがあると言えば曰くがある場所だった。
何しろこのレストランを出たところで道明寺の胸に吐いて、大失態を演じた場所だ。
メープルで食事をしないかと電話で誘われたとき、あの出来事を思い出して、思わず笑ってしまっていた。 正直それはまずいでしょ?と思った。だってあたしが派手に嘔吐したんだから。
迷惑をかけてしまったという思いから、レストランの従業員にもホテルの従業員にも顔向け出来ないと足を踏み入れることを躊躇ったが、道明寺は気にしていないようだった。
俺が経営する会社が母体のホテルなんだから気にするな。と言われ納得したあたしがいた。

執務室でキスをしたとき、否定しようにも否定できない思いが心の中に湧き上がって来ていた。あのときの自分は驚きと言ってもいい。今も思い出すだけで心臓がどきどきする。

道明寺にキスをしてしまった。

澤田に好きだと言われたとき、少しも心が動かなかった理由がわかった。
それはあたしが道明寺を好きだということを自分の中で認識した瞬間だったのかもしれない。確かに道明寺にはニューヨークで嘘をつかれ、気持ちが傷ついていたのは事実だ。
でも、こうして日本で再会してからの彼は少なくともあたしに対しての嘘はない。
あくまでもあたしの気持ちを優先して考えてくれている。
正直、道明寺といると自分がとても大切にされていることがわかる。男性に大切にされるということが、とんでもなく素晴らしいということを初めて知った。
それを教えてくれたのが道明寺だ。彼を信じてもいい。今のあたしの中にはそんな思いが湧き上がって来ていた。



ようこそお越し下さいましたとホテルの支配人から挨拶をされ、どことなく肩身の狭い思いをしながら挨拶を返した。勿論あの時は大変ご迷惑をおかけしました。との挨拶も忘れなかった。


「あの、道明寺、ちょっとお手洗いに行ってきてもいい?」

「ああ、遠慮するな。行って来い」

どういうわけか、道明寺と食事をするとなるといつも緊張してしまう。

ホテルで食事をしないかと誘われたとき、執務室でキスをしたときの光景が頭を過った。
どうしてそんなことが頭の中を過ったのかと言われれば、もしかしたら、という思いがあるのかもしれない。つくしは落ち着かない気分で考えながら歩いていた。道明寺があたしを求めているのはわかっている。あれこれ考え過ぎるのが悪い癖だとわかっていても、今さら物事を単純に考えるような思考は持ち合わせてはいないのだから、仕方がない。
だが今はどこか不安な気持ちしか持ち合わせていなかった。


化粧室に行くまでの途中にあるエレベーターの前を通り過ぎようとしたとき、扉が開き、声がした。

「牧野?牧野だろ?待ってくれ!」

つくしが首を巡らした先にいたのは澤田智弘だった。

「澤田さん?ここでなにしてるんですか?」

澤田はエレベーターから歩いて来ると、つくしのすぐ目の前で立ち止まった。
表情は柔らかく、口元は笑みを浮かべている。

「やあ、俺も会えて嬉しいよ。今日は・・もしかして道明寺さんと一緒か?」

問いかけてはいたが、それは確信を持って言っているようだ。
だが、その答えはなかった。

「ああ、俺か?俺は親父の後援会の集まりがここであって来たんだ」

「そうなんですか?澤田さん、お父様の跡を継いで選挙に出られるんですよね?」

そう言えばこの前そんな話しを聞いたが噂は本当だろうか?
もしも父親の跡を継いで選挙に出るなら会社を辞めるということだろう。

「いや。まだ決まったわけじゃないし、何も息子が地盤を継がなくてもいいと思うんだけど、後援会のうるさ方が色々とね」

「そんなことより」

澤田の手がいきなり伸びてきて、つくしの手首を掴んだ。
一瞬の出来事に言葉も出ず驚きに目を見張った。
いったい何が起こったというのか?
つくしは掴まれた自分の手首を見ていた。

「もしよかったら、これから上で飲まないか?」

「あの、澤田さん?あたし道明寺と来てるんです。だから・・手を離して・・」

あまりにも突然の行動にどうしたのかと聞きたいくらいだ。

「そうか、やっぱりね。でも彼ばかりじゃなくてたまには俺につき合ってくれてもいいだろ?」

司の名前を聞かされた途端に表情が変わり、澤田の顔から初めて笑みが消えた。

「澤田さん、あたしはっきり言いましたよね?澤田さんのことは・・」

つくしは手を振りほどこうとしていた。
いったい澤田はどうしてこんなことを?
このままだと取返しのつかないような事態に発展するのではないかと危ぶんだ。
だがなんとかしてこの手を離してもらわないことには何も出来ない。
でもまさかここで大声を上げるなんてことは出来ないし、何しろ相手は会社の同僚だ。
騒ぎを起こすわけにはいかない。
いったいどうすればいいの?




「これ、あなたのじゃなくて?」

声をかけられふり返ると、上品な装いの女性が立っていた。







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コメント
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dot 2016.07.01 14:08 | 編集
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dot 2016.07.01 22:43 | 編集
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dot 2016.07.02 00:07 | 編集
co**y様
こんにちは^^
澤田君、どうなんでしょうか・・・なんだか強引な態度に出ました。
坊ちゃんひたすら悶々とした日々を過ごしていますが、我慢強いですね?
お気遣いありがとうございます。そうさせて頂きますm(__)m
何しろ世界中の人が見ている怖れがあるというネットの世界ですものね(笑)
いやだ、お姉さまそんなこと仰ってますが、まだまだイケるのでは?(^^ゞ
色々とお話を伺えるのを楽しみにしています。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.07.02 00:08 | 編集
*ri**ko*様
はじめまして^^
こちらこそいつも拝読させて頂いております。アカシアもいつも読み逃げですみません。
長らくお休みをされていた間も今後はどうされるのかなぁと気を揉ませて頂いておりました。
なんだか恐縮してしまうようなお言葉を先輩サイト様より頂くと、嬉しいを通り越して恥ずかしい思いでいっぱいです。
アカシアは甘い文章が書けずに悩んでいます(笑)なんだか文章が硬いんですよ・・(笑)
*ri**ko*様の新作はタイトルからもうすでに甘いですよね?お話も甘さが感じられて素敵です!
どうすれば甘いお話が書けるのか・・(笑)
このようなサイトですが、どうぞこれからもよろしくお願い致しますm(__)m
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.07.02 00:29 | 編集
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dot 2016.07.02 00:45 | 編集
chi***himu様
こんばんは^^
5連勤お疲れ様です。疲れますよね・・本当に。仕事と家庭の両立は家族の協力なしでは無理ですよね。
食事の支度とかしたくない!(怒)の時もありますよね。作り置きを冷蔵庫に常備してますが、さすがに毎日は飽きるかもと思いながらも食べてます(笑)澤田さんのアタックにも心は動かないつくしちゃんです。澤田さんもカッコいいと思うんですが、やはり司にはつくしじゃないと、と思います。え?澤田さんにフラッとしてしまうんですか?でも司ほどカッコいい人に思われたら司に決めないとダメです(^^)上品な装いの女性は明日のお話です。男の子は将来お嫁さんのものになってしまうので、楓さんも逆に早く子離れしていてよかったのかもしれません。息子の操縦は嫁に任せるのが一番いいと思います。その方が色々と円満のはずです。
溜まった家事をさばくのは大変ですが、せっかくの週末ですのでお休みもして下さいね。ちなみに私はいつも平日早朝にアイロンかけたりしてます(笑)週末に溜めないためです(笑)コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.07.02 00:51 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
澤田さんも金持ちの御曹司ですからね、やっぱりそれなりに我儘な坊ちゃんなんです(笑)
そうなんですよ、二人の気持ちは固まってるんだから諦めなさいなんです。
司の元祖御曹司魂ですね!わかりました!あれ?マメッチ様お話が混ざってますよ(≧◇≦)
そんなこと言っていたら日曜日が近づいて来ました。この時間になればもう明日は日曜日です!
日曜は金持ちの御曹司デーみたいになりつつあります。う~ん・・・(笑)
今のところ未定です。でも頑張って・・どうでしょう(笑)
7月ですね、気温上昇で体温も上昇してます。この時間なのに暑いです!
マ**チ様もご体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ。
コメント有難うございました(^^)御曹司、頑張れるかなぁ・・・
アカシアdot 2016.07.02 01:04 | 編集
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