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2016
06.29

大人の恋には嘘がある 33

つくしは同僚の二人にあれこれと聞かれはしたが、肝心なことを言えずにいた。
あの交流会の日、世間から見れば甲乙つけがたい一流と言われる二人の男性がつくしを巡って火花を散らしていたなんて言ったら、それこそ話しが大きくなりそうだと思ったからだ。
幸いにしてあの時の目撃者は3人の関係性まで知る事はなかったようで、ただ牧野つくしが道明寺司とキスをしていたと言う客観的な事実だけを社内に広めたようだった。

現実問題として3人の関係が今すぐどうこうなると言うわけではないが、澤田は同じ会社の人間で、顔を合わせることは確実だ。
そんなことを考えていれば、長い廊下を前から歩いて来る澤田に出会った。

「牧野、ちょっと話しがあるんだ」

つくしが澤田と言葉を交わすのは、あの交流会以来だった。
ちょっと話しがあると言われ、近くの空室表示のある会議室の中に入った。
パチンと明かりがつけられると、誰もいない広い空間がそこにあった。

「澤田さんお話って、この前のことですか?」

じっと見つめられ、つくしは自分が観察されているような気がしていた。それにしても今まで仕事についての一面しか知らなかった澤田が女性に対してこんなにも積極的だったとは知らなかった。

「牧野、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。ここでこれから何かしようとか思ってないから。それにそんなに驚いた顔しなくてもいいだろ?」

澤田は短く笑うと、会議室の中央に置かれた大きな円卓のテーブルに腰をもたせかけた。

今の仕事は部署も違うため直接話をすることはなかったが、やはりこうして話しを始めると、どこか気まずい感じがしていた。
あのとき、はっきりと断ったつもりだが、伝わっていないのだろうか?

「あたし、そんなに驚いた顔してますか?」

自分ではわからないだけで驚いた顔をしているのだろうか?

「ああ。なんか取って食われるんじゃないかって顔してるぞ?」
澤田は短くふっと息をついた。

「それでこの前のことだけど・・」

「澤田さん、本当にごめんなさい」
つくしは頭を下げた。

「ごめんなさいって何に対してあやまってるんだ?」
おもしろそうな表情を浮かべている。

「あの、ですからこの前の交流会でのことです」
つくしは澤田の表情を窺った。

「ああ、あれか。道明寺さんはああ見えても随分と子供っぽいところがあるようだ。それにしても彼の牧野に対しての思い入れは凄いな。ひと前にもかかわらずあんなことするなんて、相当縄張り意識が強い人みたいだけどいつもああなのか?」

つくしはこれには答えなかった。
いつもああなのかと言われても、二人の関係はこれからだと言うところに澤田が現れたのだから何とも言いようがなかった。

「あの澤田さん・・」

「あんなことで俺のプライドがどうとかなるだなんて考えなくていいからな。あの日は道明寺さんの独壇場みたいなものだったけど、キスしたぐらいで俺にチャンスが無くなったって考えてはいないから。キスなんて挨拶みたいなものだろ?まあ日本じゃそうは取らないが。でも牧野もアメリカで生活していたんだからわかるだろ?」

澤田は男としての魅力を総動員させたようなほほ笑みを浮かべていた。


普通の人間なら自分が好意を寄せている女のキスシーンなど見せつけられたら、感情を害するのが当然だろう。だがこの男は違うようだ。
道明寺がどこまでも諦めない男なら、この澤田も同じだということなのか?

つくしにしてみれば、よくわからないうちに道明寺と澤田の二人の男がプライドを賭けて、つくしというトロフィーを勝ち取るための戦いになって来ているような気がしていた。
要するに、つくしと言う案件をどちらが勝ち取るか?
まるでつくしは大型案件・・トロフィー・ディール(案件)のようだ。
ビジネス界での第一線をいく男達は恋も仕事と同じように考えているとは思いたくはないが、なぜかそんな気がしていた。

「なあ、牧野。道明寺さんとつき合うならそれは、それでもいい。だがひとりの人間に決める前にもうひとつある選択肢を利用しないなんて勿体ないとは思わないか?別におまえと道明寺さんは結婚してるわけじゃない。恋愛関係もまだこれからって感じだし、俺ともつき合ってみないか?」



つき合ってみないか・・・・



いったい何が言いたいの?
それはあたしに二股をかけろってこと?
道明寺とつき合いながら澤田さんともつき合うってこと?
つくしはひと言も返すことが出来ず、澤田の言った言葉の真意を探そうとじっと見つめていた。

「道明寺さんが言ってたよな?二人ともまだ寝てないって?」

つき合ってみないか・・・・
この言葉はどう言う意味なのか?

「牧野?」

そのとき、低い振動が聞えてきた。

「ああ、俺の電話だ」

澤田は上着のポケットから電話を取り出した。
「そうか・・」と、画面を見ながら顔をしかめていた。

「悪い、牧野。本当はもっと話しがしたかったんだけど、またゆっくり話そう」

それだけ言うと澤田は背を向け離れて行った。
残されたつくしは会議室で呆然と立ちつくしていた。







***







カツカツとハイヒールの音を立てて執務室に入って来たのは司の母親でもあり、道明寺ホールディングスの社長、道明寺楓だった。
世界各国を飛び回るビジネス界のファーストレディと呼ばれ、一見したところ年齢不詳のような女性。
厳しいビジネスの荒波を何度も乗り越え、向かう所敵なしの不沈艦とまで言われる今の道明寺ホールディングスを作り上げたのはこの女性だ。
そんな女性は息子と言えど、社内ではあくまでも社長と副社長としての立場を求めて接してくる。彼女にとってビジネスはビジネスだ。私情を挟むなんてとんでもないということだろう。
司にしてみても、幼い頃から母親というものは家にいないのがあたり前で育ってきた。
自分を育ててくれたのは姉の椿で、母親はただ自分を生んでくれたという認識しかない。

母親の職業は社長であり、家庭より事業優先で家にいるのを見たことがなかった。
そんな環境で築かれる親子関係はいったいどんなものだったのかと考えずにはいられない。
母親の愛情を肌で感じて育つ。そんな経験のない司は近づいてくる女性が自分の母親であったとしても、血の繋がりなどついぞ感じたことがない。

「予定よりも早かったんですね?」司は書類から顔を上げると万年筆を置いた。

「早かったら悪いかしら?」
楓は手にしていた週刊誌を司の机の上に置いた。

「随分と派手なことをしたものね?あなた、この記事のことで何か話しは無いのかしら?この女性とどういう関係なの?どこの誰なのかしら?」

「どうもこうも見てのとおりの関係ですが?名前は牧野つくしです」
緊迫した空気が流れるなか、親子は視線を合わせた。

「牧野つくし?」楓は整った眉根を寄せた。

「聞いたことがない名前ね?」

「そうでしょうね。彼女はごく普通の生活を送る会社員ですから、知らなくて当然だと思いますが?」

「その人とはどこで知り合ったの?まさかうちの社員だなんて言わないわよね?」

「ご心配なく。違いますよ。彼女とはニューヨークで出会ったんです」

「ニューヨーク?」楓は目を細めた。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.06.29 08:25 | 編集
co**y様
おはようございます^^
澤田君、動き始めました。坊ちゃん負けるな!
ニューヨーク帰りの澤田君、考え方はニューヨーカーと同じですね(笑)
複数の相手と同時進行のおつき合い。結婚するまではフリーでしょ?という考え方、仰るとおり日本人には難しいですよね?
楓さんと坊ちゃん。どんな話しをするのでしょうか?親子対決となるのでしょうか?大人の司の対応に期待しましょう(^^)
イギリス・・EUとの離婚協議は長引くのでしょうかねぇ?
ところで、いつかお話聞きたいなと思っていたのですが、ゆ**こ様のサイト好きでして、今でも足を運ばせて頂いています。
co**y様ですよね?(*^^)v素敵!!他にどちらかで拝見できるサイト様があれば教えて下さいませ!
あの頃のサイトマスター様が書かれるお話大好きでして更新されないかと思いつつ覗かせて頂いています。もし宜しければ、色々お話お聞かせ下さいm(__)m
いつもコメント有難うございます(^^)
アカシアdot 2016.06.29 22:08 | 編集
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