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2016
06.27

大人の恋には嘘がある 31

睨み合う二人の男性を前につくしの困惑は見逃しようがなかった。
およそ32年の人生のなかで、二人の男性が自分を巡って争うなんてことは初めてだし、  
ましてや大勢のひと前でこんな体験をすること自体が初めてだった。

司の執務室では3人だけで誰の目にも触れることが無かったが、ここはそう言うわけにはいかない。
それにまさに一触即発と言った事態が続いている。声をかけて来た初老の男性も二人のただならぬ様子に腰が引けたような状態になっていた。
次の時代を担う二人の青年が見たところ、そう大して美人とも言えないような女性を間に火花を散らしているなんてことが不思議だと言わんばかりの顔をしている。
当然周りにいる人間も皆、興味深そうに見つめていた。

司の方を見上げたつくしの視線はいったいあたしはどうしたらいいのよ?と言っているのが見て取れた。
二人の男性からのあからさまなアプローチに戸惑うのも当然だが、気まずさの漂う中、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったようだ。

「あの、ふ、二人とも・・」
つくしはやけに明るい表情を浮かべて二人を見た。

「今日は交流会でしょ?交流目的なんだからそんなに角突き合わせるようなことをしなくっても・・」

今のつくしには二人の男が睨み合うなか、間に入ってどうにかしなければという思いだけがあったが、ただならぬ緊張感に言葉が途切れた。

二人の男は周りの人間の目もあるという事に気づいたようだ。それに、つくしの困惑がひしひしと感じられたのか一旦は矛先を収めることにしたようだ。だがその場に漂う緊張感は変えられなかった。

「さ、澤田さん、申し訳ないんですがあたしは・・」
つくしは意を決したように口を開いた。

「牧野、俺言ってなかったけど、さっき紹介があったようにうちは家族で会社を経営している。それに親父は代議士だ。別に隠してたわけじゃないんだが・・まぁいずれわかると思ったし、自分から話すようなことでもないと思ったから言わなかったんだ。それにそんなことは、俺にはどうでもいいことで、道明寺さんみたいに自分の権力振りかざしておまえを手に入れようなんてことは考えて無い」

司の会社も澤田の会社もどちらも東証一部上場の大企業だ。
どちらも家族経営だなんてこじんまりした企業ではない。
司は澤田ホールディングスが家族経営の会社だなんて言うなら道明寺ホールディングスも同じだという顔をしてみせた。それに権力振りかざしてと言われ頭に来ていた。

「ふん。おまえのところが家族経営ならうちも家族経営だな」司の声は平坦だった。
「言っとくが誰が権力振りかざしてるって?」
低い声は憤怒が感じられる。

「そうじゃないですか?初めてお会いした時も言いましたよね?牧野を担当にして、おまけに会社まで抱え込んで、卑怯な手を使いますね?そうでもしないとこいつに振り向いてもらえなかったんじゃないですか?」
澤田の視線はつくしに向けられた。

「おい、舐めたこと言ってんじゃねぇぞ?何が卑怯なんだ?俺は牧野の仕事の能力を買ったんだ。おまえが帰国してくる前にな、ちゃんとこいつの仕事に対しての姿勢ってのを見させてもらった上で任せることにしたんだよ!」
司は澤田を睨みつける。
「それで?おまえは牧野が好きだって言うが、こいつはおまえのことが好きだなんて言ったのか?」

「いいえ。牧野からは返事はもらっていません」
司はちらりとつくしを見た。
「だろうな。こいつはおまえには興味がねぇと思うぞ。なあ、牧野?」

つくしは頷きも返事もしなかったが自分の気持ちを正直に伝えることにした。
「あの、澤田さん、こんなこと言うと変に聞こえるかもしれませんけど・・あたしはニューヨークで一緒に仕事をしていた頃から澤田さんのことはあくまでも同僚としか・・いい先輩としか思えませんでした」

「俺といてもなんとも思わなかったってことか?」
「はい」つくしは即座に言った。
一瞬澤田の表情がこわばったように見えたが、すぐに消え去った。
「こんなこと言ったら気分を害されるかもしれませんが、男性として見たことはありませんでした」

つくしは澤田の表情に再びこわばりが浮かんだのを認めると、言葉を選んでいた。なるべく澤田の気持ちを傷つけるようなことは言わないようにと気を使った。

「男の人は女性の外見を重視すると思うんです。だからあたしは澤田さんの基準を満たしているとは思いもしませんでした。それにただの同僚か後輩だって考えてくれてるんだって思っていました。あ、あの別にあたしが自分の外見にコンプレックスを抱いていると言うんじゃなくて、その・・世間一般の男性が女性を選ぶのは外見からですよね?だからあたしがその対象だとはとても考えられなくて・・」

澤田の表情を伺うが、あの一瞬のこわばり以外たいした変化は見られない。
つくしは息をつぐと、先を続けた。

「だから、澤田さんにあたしが真面目に仕事をしてるところが好きだなんて言われて嬉しかったというか、驚いたってのが正直な気持ちなんです。あの、お気持ちは本当に嬉しいんですが、でも澤田さんの気持ちにはお応え出来ません」
つくしはきっぱりと言い切った。

「わからないな。随分とはっきり言うけど、牧野は道明寺さんのことが好きなのか?」

「あ、あの・・」

言葉を選んでいるかのようなつくしの態度に苛立った司が断言した。

「澤田、牧野は俺のことが好きなんだ」

「牧野があなたにそうはっきり言ったんですか?あなたはさっき牧野とは何も無いって言ってましたよね?」

「はっきりもなにも、ありのままの事実を言ったまでだ。何もなかったなんて言ったけど心が繋がってりゃそれでいいだろ?」

何も無かったと思わず口走ったことを後悔していた。澤田をライバルだとは認めたくはないが、司の独占欲は、目の前の男より少しでも好きな女のことを知っていることを望んでいた。

「俺は別にこいつの体が欲しいわけじゃない。心が欲しい。まあ男だから体が欲しいのは当然だが、両方一緒じゃなきゃ意味がねぇからな。体の関係がねぇとつき合ってることにならないってんなら、そのへんの盛りのついたガキと一緒だろ?それともおまえはこいつの体が欲しいのか?体だけ手に入れても心が手に入んなきゃ意味ねぇだろ?」

司がつくしの体を引き寄せると、澤田の体に力が入ったのがわかった。
次の瞬間、司はつくしに覆いかぶさるように顔を寄せると唇を奪い抱きしめた。
いきなりキスをされ抱きしめられたつくしは、思わず司のスーツの襟をつかんだ。

周囲は思わず息をのんだ。
道明寺司と澤田智弘がひとりの女を巡って冷たい火花を散らしていたかと思えば、
道明寺司が女を抱きしめ、唇を奪うという余りにも大胆な行動に目をぱちくりする意外なかった。


「行くぞ、牧野。もうこれ以上ここにいる理由がない」
司はつくしの腕を取った。
「今夜のところは、これで終わりってことですか?」澤田は遠慮なく言い返した。
「キスしたくらいで俺が諦めるとでも思ってるんですか?」
司は澤田の反応から、ある程度のことは見抜いた。
この男の口ぶりからすれば、まだ諦めるつもりはないということを。

「諦めるも諦めねぇもねぇだろ?」
司は険しい目で澤田を見た。
「最初っから牧野は俺のもんだって言ってるんだからな」








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