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2016
06.21

大人の恋には嘘がある 29

「あの澤田って男には消えてもらう」

まるでマフィア映画のようなセリフに友人たちは笑えなかった。
この男ならやりかねないと思ったからだ。
今では高級スーツを身に纏い、紳士然とした態度を見せる男も昔はケンカ相手の腕の骨の一本や二本平気で折るような男だった。相手の顔の鼻の骨が折れても、自分の顔には一切傷がつかないと言うほど相手からの反撃を許さなかった男。
表沙汰にはなっていないが下手をすれば少年院送りになっていてもおかしくない男だった。
そんな男の言うことだから、真実味が感じられて当然だろう。

「つ、司、おまえ怖ぇこと言うな」
「まさかぶっ殺すわけじゃねぇよな?」

あきらも総二郎もまさかとは思ったが、聞かずにはいられなかった。
だがさすがに33にもなった大の大人が自分の立場を考えずに、いくら好きな女の為とは言え、殴る蹴るの暴行を働くとは思えないが、そうなると誰か人を使ってやらせるんじゃないかと考えないわけでもなかった。

「あの男、やっぱただの営業じゃねぇ・・」

司は執務デスクの椅子にもたれると、靴を履いた足を机の上にのせて足首を交差させた。

あきらと総二郎はどういう意味だ、と問いたげに司を見た。
司の視線は二人には向けられず、机の上に置かれた写真に向けられていた。


司の前に置かれた調査書類。
それは司が澤田について調べさせたもので、今日の夕方近くに彼の手元に届けられた。
取るに足らない存在だと思われていた澤田という男は意外な人物だった。



澤田智弘。33歳。東京都出身。
父親は現職の代議士でその次男。
恐らくだが、父親の地盤を引き継ぐのは次男智弘と書いてあった。
代議士の澤田には大きな企業がバックについている。
それは代議士の長男が社長を務める澤田ホールディングス。
別名澤田グループ。
かつての澤田財閥の流れを汲む企業を中心とする企業グループだ。

元々澤田家は過去に多くの政治家を輩出した一族で政界、財界問わず幅広い人脈を持っていた。戦前は政商と言われ政治や政治家、官僚と結びついて事業を大きくしていった澤田財閥。貿易、鉱業、鉄道など幅広い分野で財をなした財閥だったが戦後のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の命令による財閥解体で一度は解散させられた。だが道明寺ホールディングスがそうであるように持株会社の設立が解禁され、事実上の財閥復活が許されたのが1997年だ。道明寺もそうであるが、澤田も今ではグループを越えた企業同士の合併や交流も盛んだ。

以前は代議士本人が代表取締役社長であったが今は会社関係からは退き、長男に社長の座を譲っている。代議士は経営者出身らしい豊かな見識と指導力に長けていると言われる男で、もしかしたら将来総理大臣も狙えるのではないかとまで言われていた。

澤田智弘はそんな一族のひとりだった。

司は机の上から足を降ろし、調査書類を手に取ると、あきらと総二郎が座るソファに腰を下ろした。

「なるほどな。こんな男だから司の前でも堂々としていたわけだ」
「この男、かなりの自信家だな。それになかなかの男前だ」

二人は司から手渡された書類に目を通しながらそれぞれの考えを話していた。

「まさに司並の自信家だぞ。この澤田って男は。それにどっちも金持ちの御曹司だな」
「まあ歴史の長さじゃ道明寺家の方が歴史はあるよな?それに道明寺も戦前は政商だしな」
「まあ、昔の財閥って言えばどこも政商だろ?政府に金貸しとかしてたんだし」

あきらも総二郎も目の前に座る男に宣戦布告した男が、まさか自分たちと同じステータスを持つ男だとは思いもしなかった。

「そんな男二人が電気ウナギを好きな女を取り合うってのは・・世の中には珍しいこともあるもんだな。やっぱり牧野って女は電気ウナギを操る魔女なんじゃねぇのか?」
「あきら・・やめてくれ・・想像したら腹で茶を沸かしたくなる」
「総二郎、それを言うならヘソで茶を沸かすだ」

あきらは顔をしかめると、おまえは茶人だろう?そんな簡単なことわざを間違えるなんて、と笑っていた。

「いいじゃねぇかよ。固いこと言うな。どっちも似たり寄ったりだろ?」
「まあな。それを言うなら司とこの澤田って男も似たり寄ったりか?」

いい質問だ。
まさにその通りだ。どちらも旧財閥の流れを汲むお家柄で金持ちの企業家。
多分それは澤田本人も意識の中にあったからこそ、堂々とした態度で司に接することが出来たのだろう。そうでなければ一介の営業マンが天下の道明寺ホールディングスの道明寺司の目の前であんなことが言えるはずがない。

「けど、この澤田って男は、代議士の息子でやっぱ将来は政治家に転身か?」
「ああ。どうやらそうらしいぞ。家業に関わってないってものよくある話しだろ?
家業じゃなく他の企業で働いて見識を深めるって話し。それも次男だからなおさらよくある話しじゃねぇか?」

「まあ確かにそうだよな。長男は問答無用で家業を継がせるけど次男は見聞を広めて来いって感じなんだろ?だから澤田も今の会社にいるんだろ?まあうちは兄貴じゃなくて俺が跡を継いだけどな」

総二郎の兄祥一郎は医者として独立しており、実家である西門家とは疎遠になっていた。

「まあ、総二郎の所はしょうがねぇよ。兄貴は医者でお袋さんとは犬猿の仲だしな。
うちは商社だけど、いるぞ?会社辞めて田舎で県会議員や市議会議員やってる父親の後釜に入るってヤツ。それに商社や金融関係の仕事から政治家なんてコースはよくある話しだし、ましてや親が政治家ならレールは既に敷かれているわけで、澤田って言えばでかい労働組合もあるわけだし、どうせその関係先が全面的にバックアップするんだろから当選確実は間違いないってことだろ?」

「司、どうすんだ?」
「この自信満々男はおまえから牧野つくしを横取りしようとしてるんだろ?」

腹で茶を沸かすと言った男はイライラしながら煙草をくゆらせ始めた男に噛みつくように言った。

司は灰皿に煙草を擦りつけると、胸の前で腕を組んで、二人を睨みつけた。

「馬鹿言うんじゃねぇよ!牧野は俺のものだ!あんな男に牧野を取られてたまるか!」

「でもどうすんだよ?澤田は牧野と同じ会社なんだろ?あの男の方がおまえなんかより断然会うチャンスも多いわけで仕事上での接点だってあたり前のようにあるんだぞ?」
「んなもん、言われなくってもわかってるよ!」
癇癪を起したかのように司の声は大きくなっていく。
「あの男の人生を生き地獄にしてやる!」いきなり立ち上がった。

「おい、落ち着け司。座れ。おまえがそんな事言うとシャレにならん。別に牧野が澤田を好きだとかそんなこと言ってるわけじゃないんだろ?」

あきらは雰囲気をやわらげようと、気持ちを落ち着かせようとしていた。
昔から場を和ませるのは自分の役割だと心得ていた。

司はシガレットケースから煙草を抜き、火をつけると、再び吸い始めた。

「なんかあれだ!澤田って男が牧野をあきらめるような事をすればいいんじゃねぇのか?」
総二郎はあきらの意図を汲み取ると話しを引き取った。
「そうだ!牧野のことを嫌いになるとか・・つまり・・」
「つまり?」

あきらも総二郎も互いに何かいい考えはないのかと目で訴えあっていた。
だが二人ともいい考えなど思い浮かばずにいた。


「澤田を片づけるための計画を立てる」司は真顔で言った。
他人の助言など求めないし必要がないとばかりの態度だ。

「まさかムショに入るようなことじゃねぇよな?」
「あきら、心配すんな。おまえらをムショになんか入れるわけねぇだろ?」
司がせせら笑う。
「俺と牧野の決定的なところをあいつに見せる」
「なんだよ、その決定的なところってのは?」

「今度澤田と交流会がある。そんときに牧野を俺のパートナーとして連れて行くつもりだ」

司は澤田の写真を手にすると、グシャっと握り潰した。









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コメント
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dot 2016.06.21 19:38 | 編集
co**y様
こんばんは^^
澤田さん代議士の次男です。はい、衆議院です。代議士=国民に代わって国会で活躍ですね?
お~!そうなんですね?ご友人の御主人様が。それは大変ですね。
裏話とか大好きです、聞きたいです、またこっそり囁いて下さると嬉しいです。
でも日本の選挙よりイギリスがEUに残るのか?USの大統領はどっちがなるのか?
こちらの二点の方が気になります。
澤田さんと司のバトルの幕は切って落とされたようです。こちらの戦いはどちらが勝のでしょうか!
負けるな坊ちゃん!
コメント有難うございました(^^)
もう今日はヘロヘロで明日のお話を書きました。頭が半分寝てます(笑)読み直したんですが文章ちゃんと書けてるか心配です。

アカシアdot 2016.06.22 00:16 | 編集
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dot 2016.06.22 00:44 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
金持ちの御曹司が二人です(笑)
世間一般では金持ちの御曹司なんて言葉は普通なんですよね(笑)
それがアカシアワールドでは不謹慎だなんて!
司と澤田さんで善からぬ妄想合戦!(≧▽≦)そんなこと言われたら御曹司に澤田さんが出演してしまうじゃないですか!(笑)
木村も出演したし・・ダメです(笑)
え?ホントですか?アカシアサイトで脳内活性ですか?光栄です。次回ですね?
実は明日から3日は短編になります。ちょっと疲れていまして・・ヘロヘロしてます。
ストックからの更新ですがお楽しみ頂ければと思います。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.22 22:12 | 編集
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dot 2016.06.23 01:02 | 編集
マ**チ様
ご心配おかけしています。ありがとうございます(ノД`)
ヘロヘロしながらも頑張ってます!(笑)
お話、ありがとうございます!面白い!!もうねぇ読みながらニヤニヤしました。
ヤダ、マ**チ様もお好きなんですね?疲れも吹っ飛びそうです!
脳内妄想坊ちゃん、妄想は妄想で終わるけど、つくしにあらぬ誤解を受けてしまい、誤解を解くという作業が残ってしまいましたね(´艸`*)「今まで全然気が付かなくごめんね・・」わはは。うちのつくしちゃんも言いそうです。
ところで、その男は澤田さん?(笑)いや、マ**チ様素晴らしいです!楽しませて頂きました。
本当にありがとうございましたm(__)m
よし!また御曹司頑張って妄想させたいと思います。元気を頂きました。本当にありがとうございました(^^)
マ**チ様もお身体ご自愛下さいませ。
アカシアdot 2016.06.23 22:00 | 編集
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