つくしは社内で澤田の姿を見かけたが、彼のそばには数人の男性が一緒だったので、声をかけられることはなかった。
道明寺の前でいきなり・・まるで宣戦布告のように好きだなんて告白されて、いったいどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
今までどんな男性にも、それも一度にふたりの男性から同時に好きだなんて言われたことはなかった。
道明寺とつき合おうと決めたのは、心の声を聞いたからだ。
大事にされている、求められていると感じたからだ。3年前のふたりの関係は上手くいかなかったけど、3年たってこうして再会して、少しずつ時間を重ねていくうちに、あの頃には見えなかった姿が見えて来たような気がする。
それに心地よいバリトンの声とか、柔らかな笑い声が頑なだったあたしの心を解きほぐしていったのかもしれない。
問題は・・澤田さんだ。
ありがたいことに、まだあのことに関しては話しをすることは無かった。
それもそうだろう。仕事の最中にそんな話しなんて出来るはずがない。
澤田さんもあたしも大人なんだから、仕事とプライベートはあくまでも別のはずだ。
それは道明寺にも言える話しで、これからも週に一度あいつの会社を訪れるにしても
仕事は仕事としてとらえたい。
それにしても、澤田さんはどうして仕事で訪れた副社長室でいきなりあんなことを言い出したのか、理解に苦しむ。
澤田さんは恋人にこれ以上のものを望むことがないような男性だ。
つくしは自分に何度も問いかけていた。どうしてあたしなんだろう?
彼はハンサムで外見は申し分のない男性だ。それに頭もいいし、仕事に対しても自発的だ。
もし彼が市場に売りに出されれば、高値がつくに違いないという優良株の男性だ。
完璧な男性だと思う。でも、そんな男性がいきなり大口顧客でもある男に対してあんな発言をするだろうか?仕事には真面目に打ち込んでいる澤田さんだけど本当の内面、情緒についてはよくわからない。今まであんなに感情的な澤田さんを見たことがなかっただけに、正直驚いたとしか言えなかった。
今のつくしはとりあえず声をかけられなかったことにほっと胸を撫で下ろし、その場をあとにした。
だが、思わぬところで澤田と出くわした。
そこはつくしがいつも通勤に利用している地下鉄への入口だった。
「牧野?」
名前を呼ばれ振り返ったが、澤田の目はまっすぐつくしを見ていた。
「さ、澤田さん・・」
今時間があるかと問われ断る理由も見つからず、どうせいつかはこの前のことの話しをしなければならないとの思いから、つくしは頷くと促されるように近くのカフェに入った。
あまり親密すぎる話題は避けなければと思ったがそう言うわけにもいかない。
何しろ二人がここにいる理由は、澤田が司の前でつくしを好きだと宣言したことによるからだ。
「驚いたか?こんなところで会うなんて」
澤田はつくしと視線を合わせた。
「えっ?まあ・・」控えめな口調で言うと少しだけ頷いた。
つくしは自分から何を話せばいいのか分からずそのまま口をつぐんだ。
運ばれて来たコーヒーを口にしながら澤田の言葉を待っていた。
「この前は驚かせて悪かった。よりにもよってなんであんな時にだなんて思っただろう?」
澤田は出されたコーヒーには口をつけなかった。
驚くどころではない。あの時はいきなり好きだなんて告白をされて、二頭のライオンの間で板挟みの境地だった。
「澤田さんどうして・・道明寺・・副社長にあんなこと言ったんですか?」
つくしは真面目な表情を作った。
「ははは。第一印象が肝心だからな。それにドラマティックだっただろ?まるでドラマのワンシーンの中でも来週に続く。みたいだったよな?」
澤田が笑って言った。
「笑い事じゃありません」つくしは言い返した。
「あれじゃあまるでケンカを売ってるみたいじゃないですか」
「そこまで酷くないだろ?」まるで気に留めていないように言う。
「でも俺、本当に牧野が好きだから、道明寺副社長とはおまえを手に入れるために勝負をすることにした。そのためには正々堂々と宣言するのが筋だろ?」
澤田はあの出来事に対して悪いなんて考えてもいないようだ。
「あ、あの・・澤田さん。どうしてあたしに・・」
「どうして牧野が好きか?人を好きになるのに理由が必要か?」
澤田の微笑みは消え、神妙な表情を見せた。
その答えは道明寺が答えたのと同じ答えだ。
「仕事に真面目に打ち込んで来たおまえをいつも見ていた。気を緩めるとか楽しむなんてこともなくいつも真面目だったよな、おまえは。そんなおまえをいつの間にか好きになってたんだと思う」
澤田はひと息つくとコーヒーを口にした。
「3年前、おまえがニューヨークから東京に異動が決まったとき、本当は伝えようと思っていた。だけど、あの時のおまえは道明寺とのことで頭がいっぱいみたいだった」
澤田はいい、つくしの顔を伺うように、ひとつひとつの言葉を言い添えた。
「この前も言ったけど、知ってたよ。おまえが道明寺司と会ってたことは。勿論知ったのは偶然だからな。別におまえの後をつけていたわけじゃない」
澤田はつくしが何も言わないことに対しての苛立ちはないようで、そのまま話しを続けた。
「しかし、本物の道明寺司は想像以上に存在感があったな」澤田は誠意を込めて言った。
「あの男には気圧されたよ。だが今まで会ったどんな経営者よりも興味をそそられた。それに彼の会社との仕事は利益の上がる仕事だよな」
道明寺に対しての賛辞は本心から出た言葉だろう。
仕事の出来る人間は、やはり仕事が出来る人間がわかるのだろう。
「道明寺はおまえの中で自分の置かれた立場が盤石だと思っているかもしれないが、愚かな男ではないはずだ。俺のおまえに対する片思いなんて話しを・・まともに信じたかどうか知らないが・・」
澤田はつくしの表情を伺いながら話しを継いだ。
「思いは叶うなんて言葉があるけど、今回の場合ライバルが道明寺司だからな。どうなるか、なんて思ってもみたが、思うのは自由だろ?それにおまえは正直さが信条の女だからな。俺の思いを伝えて、俺の気持ちを知ったおまえの気持ちがどう動くのか・・知りたいと思った」
澤田はつくしの移り変わる表情を見逃すまいと、視線を外さない。
「思いは現実を呼び寄せるって言うしな。思うのは勝手だろ?」
澤田はつくしの目をじっと見つめていたが、伝票を手に取ると席を立った。
「牧野、時間取らせて悪かったな。とにかく、俺の気持ちは伝えたからな」
言いたいことは言い終えたらしく、澤田は満足そうだ。
「ああ、それから仕事は手を抜かないから、そこは心配しなくてもいい。まあ、道明寺司が俺を気に入らない、担当を変えろ、出入り禁止だって言われたらそれまでだが・・」
澤田は苦笑した。
「俺は今まで根っからの仕事人間だったが、これからは違うからな」
と、つくしにウィンクした。

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道明寺とつき合おうと決めたのは、心の声を聞いたからだ。
大事にされている、求められていると感じたからだ。3年前のふたりの関係は上手くいかなかったけど、3年たってこうして再会して、少しずつ時間を重ねていくうちに、あの頃には見えなかった姿が見えて来たような気がする。
それに心地よいバリトンの声とか、柔らかな笑い声が頑なだったあたしの心を解きほぐしていったのかもしれない。
問題は・・澤田さんだ。
ありがたいことに、まだあのことに関しては話しをすることは無かった。
それもそうだろう。仕事の最中にそんな話しなんて出来るはずがない。
澤田さんもあたしも大人なんだから、仕事とプライベートはあくまでも別のはずだ。
それは道明寺にも言える話しで、これからも週に一度あいつの会社を訪れるにしても
仕事は仕事としてとらえたい。
それにしても、澤田さんはどうして仕事で訪れた副社長室でいきなりあんなことを言い出したのか、理解に苦しむ。
澤田さんは恋人にこれ以上のものを望むことがないような男性だ。
つくしは自分に何度も問いかけていた。どうしてあたしなんだろう?
彼はハンサムで外見は申し分のない男性だ。それに頭もいいし、仕事に対しても自発的だ。
もし彼が市場に売りに出されれば、高値がつくに違いないという優良株の男性だ。
完璧な男性だと思う。でも、そんな男性がいきなり大口顧客でもある男に対してあんな発言をするだろうか?仕事には真面目に打ち込んでいる澤田さんだけど本当の内面、情緒についてはよくわからない。今まであんなに感情的な澤田さんを見たことがなかっただけに、正直驚いたとしか言えなかった。
今のつくしはとりあえず声をかけられなかったことにほっと胸を撫で下ろし、その場をあとにした。
だが、思わぬところで澤田と出くわした。
そこはつくしがいつも通勤に利用している地下鉄への入口だった。
「牧野?」
名前を呼ばれ振り返ったが、澤田の目はまっすぐつくしを見ていた。
「さ、澤田さん・・」
今時間があるかと問われ断る理由も見つからず、どうせいつかはこの前のことの話しをしなければならないとの思いから、つくしは頷くと促されるように近くのカフェに入った。
あまり親密すぎる話題は避けなければと思ったがそう言うわけにもいかない。
何しろ二人がここにいる理由は、澤田が司の前でつくしを好きだと宣言したことによるからだ。
「驚いたか?こんなところで会うなんて」
澤田はつくしと視線を合わせた。
「えっ?まあ・・」控えめな口調で言うと少しだけ頷いた。
つくしは自分から何を話せばいいのか分からずそのまま口をつぐんだ。
運ばれて来たコーヒーを口にしながら澤田の言葉を待っていた。
「この前は驚かせて悪かった。よりにもよってなんであんな時にだなんて思っただろう?」
澤田は出されたコーヒーには口をつけなかった。
驚くどころではない。あの時はいきなり好きだなんて告白をされて、二頭のライオンの間で板挟みの境地だった。
「澤田さんどうして・・道明寺・・副社長にあんなこと言ったんですか?」
つくしは真面目な表情を作った。
「ははは。第一印象が肝心だからな。それにドラマティックだっただろ?まるでドラマのワンシーンの中でも来週に続く。みたいだったよな?」
澤田が笑って言った。
「笑い事じゃありません」つくしは言い返した。
「あれじゃあまるでケンカを売ってるみたいじゃないですか」
「そこまで酷くないだろ?」まるで気に留めていないように言う。
「でも俺、本当に牧野が好きだから、道明寺副社長とはおまえを手に入れるために勝負をすることにした。そのためには正々堂々と宣言するのが筋だろ?」
澤田はあの出来事に対して悪いなんて考えてもいないようだ。
「あ、あの・・澤田さん。どうしてあたしに・・」
「どうして牧野が好きか?人を好きになるのに理由が必要か?」
澤田の微笑みは消え、神妙な表情を見せた。
その答えは道明寺が答えたのと同じ答えだ。
「仕事に真面目に打ち込んで来たおまえをいつも見ていた。気を緩めるとか楽しむなんてこともなくいつも真面目だったよな、おまえは。そんなおまえをいつの間にか好きになってたんだと思う」
澤田はひと息つくとコーヒーを口にした。
「3年前、おまえがニューヨークから東京に異動が決まったとき、本当は伝えようと思っていた。だけど、あの時のおまえは道明寺とのことで頭がいっぱいみたいだった」
澤田はいい、つくしの顔を伺うように、ひとつひとつの言葉を言い添えた。
「この前も言ったけど、知ってたよ。おまえが道明寺司と会ってたことは。勿論知ったのは偶然だからな。別におまえの後をつけていたわけじゃない」
澤田はつくしが何も言わないことに対しての苛立ちはないようで、そのまま話しを続けた。
「しかし、本物の道明寺司は想像以上に存在感があったな」澤田は誠意を込めて言った。
「あの男には気圧されたよ。だが今まで会ったどんな経営者よりも興味をそそられた。それに彼の会社との仕事は利益の上がる仕事だよな」
道明寺に対しての賛辞は本心から出た言葉だろう。
仕事の出来る人間は、やはり仕事が出来る人間がわかるのだろう。
「道明寺はおまえの中で自分の置かれた立場が盤石だと思っているかもしれないが、愚かな男ではないはずだ。俺のおまえに対する片思いなんて話しを・・まともに信じたかどうか知らないが・・」
澤田はつくしの表情を伺いながら話しを継いだ。
「思いは叶うなんて言葉があるけど、今回の場合ライバルが道明寺司だからな。どうなるか、なんて思ってもみたが、思うのは自由だろ?それにおまえは正直さが信条の女だからな。俺の思いを伝えて、俺の気持ちを知ったおまえの気持ちがどう動くのか・・知りたいと思った」
澤田はつくしの移り変わる表情を見逃すまいと、視線を外さない。
「思いは現実を呼び寄せるって言うしな。思うのは勝手だろ?」
澤田はつくしの目をじっと見つめていたが、伝票を手に取ると席を立った。
「牧野、時間取らせて悪かったな。とにかく、俺の気持ちは伝えたからな」
言いたいことは言い終えたらしく、澤田は満足そうだ。
「ああ、それから仕事は手を抜かないから、そこは心配しなくてもいい。まあ、道明寺司が俺を気に入らない、担当を変えろ、出入り禁止だって言われたらそれまでだが・・」
澤田は苦笑した。
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こ**る様
こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます^^
朝一の楽しみですか?光栄です。5時更新ですものね(笑)
今作も面白いと思っていただけて嬉しいです。
澤田さんいい男ですよ。司も頑張らないと!
collectorお好きですか?内容が暗いのでお嫌いな方もいらっしゃると思いつつ書かせて頂いています。
でも読んで頂けると嬉しいです。ありがとうございます。
御曹司・・エロ坊ちゃんの妄想物語ですので、笑って下さい。
うちの坊ちゃん、闇の中の司とエロ司と、大人の~が一番ノーマルですが、楽しんで頂けてなによりです。
コメント有難うございました(^^)
こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます^^
朝一の楽しみですか?光栄です。5時更新ですものね(笑)
今作も面白いと思っていただけて嬉しいです。
澤田さんいい男ですよ。司も頑張らないと!
collectorお好きですか?内容が暗いのでお嫌いな方もいらっしゃると思いつつ書かせて頂いています。
でも読んで頂けると嬉しいです。ありがとうございます。
御曹司・・エロ坊ちゃんの妄想物語ですので、笑って下さい。
うちの坊ちゃん、闇の中の司とエロ司と、大人の~が一番ノーマルですが、楽しんで頂けてなによりです。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.06.20 23:53 | 編集

マ**チ様
こんばんは^^
白熱して来ました。さきほど明日のお話を書き終わったところです。
ライバル澤田。どんな人なのか・・・
はい。御曹司。妄想使わせて頂きました!え!あの本は木村さんが書いた!(≧▽≦)
素晴らしい!アッチの時空にいる木村さんがアッチの司とつくしのアレを盗聴していたんですね!そして書き上げたのがあのエロ小説だった。その本がいつの間にかつくしのバックに届けられていたなんて!!!その妄想素晴らしです!
もしかして、アッチの世界で起こることを予言する予言書だったりして・・(笑)それともアッチの二人ってもう経験済でしょうか?こんなお話で少しでも幸せを感じて頂けるなら嬉しいです。書いて良かった(ノД`)・゜・。
コメント有難うございました(^^)
こんばんは^^
白熱して来ました。さきほど明日のお話を書き終わったところです。
ライバル澤田。どんな人なのか・・・
はい。御曹司。妄想使わせて頂きました!え!あの本は木村さんが書いた!(≧▽≦)
素晴らしい!アッチの時空にいる木村さんがアッチの司とつくしのアレを盗聴していたんですね!そして書き上げたのがあのエロ小説だった。その本がいつの間にかつくしのバックに届けられていたなんて!!!その妄想素晴らしです!
もしかして、アッチの世界で起こることを予言する予言書だったりして・・(笑)それともアッチの二人ってもう経験済でしょうか?こんなお話で少しでも幸せを感じて頂けるなら嬉しいです。書いて良かった(ノД`)・゜・。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.06.21 00:08 | 編集

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chi***himu様
こんばんは^^
澤田さんいい味出してましたか?ありがとうございます。
イケメン二人から思いを告げられるなんて、本当に羨ましいですよね?(笑)
最高級の男二人を手玉に取ることは出来ませんが、どちらも捨てがたいです。
はい。つくしちゃんはやはり司に心はあると思います。
えー、デートとハグと濃厚キスは許せるんですか?(笑)
ぜひ澤田さんにお伝えしなければ!
こんなお話でも妄想のお手伝いが出来て良かったです。
お仕事も育児も、もちろん家事もですが、頑張りましょう!
休み明けは仕事も溜まっていたと思います。お疲れさまです。
本当にお天気が悪いですね、今週は乾燥機フル活躍しそうです。
chi***himu様もお疲れを溜めないようにお体ご自愛くださいませm(__)m
コメント有難うございました(^^)
こんばんは^^
澤田さんいい味出してましたか?ありがとうございます。
イケメン二人から思いを告げられるなんて、本当に羨ましいですよね?(笑)
最高級の男二人を手玉に取ることは出来ませんが、どちらも捨てがたいです。
はい。つくしちゃんはやはり司に心はあると思います。
えー、デートとハグと濃厚キスは許せるんですか?(笑)
ぜひ澤田さんにお伝えしなければ!
こんなお話でも妄想のお手伝いが出来て良かったです。
お仕事も育児も、もちろん家事もですが、頑張りましょう!
休み明けは仕事も溜まっていたと思います。お疲れさまです。
本当にお天気が悪いですね、今週は乾燥機フル活躍しそうです。
chi***himu様もお疲れを溜めないようにお体ご自愛くださいませm(__)m
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.06.21 23:59 | 編集
