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2016
06.03

大人の恋には嘘がある 16

どういう関係なの?

その声に振り返ったつくしは一見して上品な装いだとわかるような服を身に纏った女性と向き合っていた。
年はつくしより年上の30代後半と言ったところだろうか?
きゅっと結ばれた唇に敵対心が現れていた。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
もしかしたらうちの会社に関係ある人かもしれない。
つくしは慎重に尋ねた。
「いいえ。直接はお会いしてないわ」
直接は会っていない・・?
「あの、どちら様でしょうか?」
「失礼。野中と言えばわかるかしら?」
野中?つくしは心当たりがある名前を探そうとした。
沢山の名刺の中から思い当たると言えば顧客企業の中にそんな名前の男性がいたように思えた。
「おわかりにならないようね」
「あの、申し訳ないんですが・・」
「あなた、どれだけ営業成績がいいのか知らないけど、顧客の会社の株式担当課長の名前を忘れるなんてどうなのかしら?」
「それとももう主人の会社なんて道明寺さんの会社に比べたらどうでもいいのかしらね?」
のなか・・のなか・・野中さん?つくしの顔にああ、という表情が浮かんだ。
「おわかりになった?」
「あの、野中課長にはいつもお世話になっております」

つくしは慌てて頭を下げた。野中はつくしが道明寺HDの担当になる前に手掛けた買収案件で担当した会社の株式担当課長だ。その妻がなぜつくしのことを知っていて声をかけてきたのか?
つくしが手掛けた買収案件。それは道明寺HDがホワイトナイトとして野中の会社が仕掛けたTOB(敵対的買収)を阻止すべく名乗りを上げた案件だ。そのためにつくしと野中は対応に追われ毎日遅くまで対策を練った経緯があった。だが途中で道明寺HDはホワイトナイトを降り、野中の会社はTOBを成功させることが出来た。野中は今回のTOBだけのために株式担当課長という役職をつけられた男だ。

「牧野さん、あなたのことは主人からよく聞いてるわ」
「は、はい。あの・・こちらこそ野中課長にはいつもお心遣いを頂いております」
つくしは再び頭を下げた。

つくしが道明寺HDの担当になり、野中の会社からは担当が外れたがそれでも野中は頻繁に電話をかけてきては市場の動きを聞いてきたりする。担当が変わったと簡単に切り捨てることが出来ないのはどこの会社の営業でも同じで、後任の担当のためにも無碍な対応は出来なかった。特に野中の会社はこの前のTOBで多額の成功報酬をつくしの会社にもたらしていたのだからなおさらだ。

「野中があなたにどんな話しをしたのか知らないけど、わたしは野中とは離婚なんてしませんから」
いきなり聞かされた離婚なんてしませんからにつくしはきょとんとした表情を浮かべた。
「あ、あのおっしゃってる意味がわからないんですが?」
つくしの目の前の女性はつくしを睨みつけてきた。
「今さらなにを言うかと思えば・・・」
「あの、ですからどう言う意味なのか・・」
「あなた、とぼけるつもりなの?わたしにわからないと思ってるんでしょうけど何もかも知ってるのよ!」
「あなたが野中とつき合ってることぐらいね!」

あ、あたしが野中さんとつき合ってる?
いったい誰がそんなことを?
「あの、奥様、なにか誤解をされていらっしゃるようですが、わたしと野中課長がつき合っているなんてそんなことはありませんから・・」
「今さら嘘なんかつかないでよ!」
「いえ、嘘もなにもそんな事実はありませんので、何か誤解があるのではないでしょうか?」
「あの、本当になにかの勘違いといいますか、誤解だと思うんです。わたしはご主人様とおつき合いなんて本当にしていません」
既婚者の男性とつき合ってるとか、つくしにしてみればとんだ言いがかりだ。
「ふん、よくもそんな口の利き方ができるわね?」

とてもじゃないがゆっくりトイレどころじゃなくなった。また後で出直せばいいか・・。これ以上ここにいていきなり現れた顧客企業の課長の妻が言う意味不明な怒りになんてつき合えない。まったく道明寺といい、野中さんの奥さんといい今夜はどうして思考回路が短絡的な人ばかりに出会うのか・・。つくしは目の前の女性の隣を通り抜けようとした。

「申し訳ございませんが失礼させて頂きます」
「待ちなさいよ!どこに行くつもりなのよ!」
「証拠だってあるのよ!」
つくしは聞き捨てならなかった。いったいこの人の言う証拠ってなに?
「証拠・・ですか?」
「そうよ!」野中の妻はつくしに一歩にじり寄った。
「見なさいよ、これを!」

いきなり自分の顔の前に突きつけられた写真。そこに写っていたのは野中と隣に写る女性の姿。だが夜撮られた写真であまりはっきりとした風貌はわからないが、背格好はつくしに似ている。髪の長さも同じくらい。手にした鞄は今つくしが手にしているビジネス用の鞄とよく似ていた。
そしてこの写真が写された場所は・・・

なにこの派手でトロピカルな建物は!
建物の入り口にヤシの木が植えられていてまるで南国だ。
写真の左上に白い紙が貼られ書いてある・・

撮影場所・・渋谷・・円山町・・

道玄坂を上った先・・あの交番を曲がればじゃないけど・・
円山町ってラブホテルのメッカじゃない!!
な、なにこれ!
ま、まさかこれってやっぱりラブホテル!?

「どう?これが証拠よ!なにか言えるの?」
「今あなたが持ってるその鞄がいい証拠じゃない!見なさいよ!あなたのと同じじゃない。それに今着ているそのスーツだって・・」
とんでもない!つくしは自分の鞄に視線を落とした。
「ち、違います!あたしじゃありません!」
「だ、だいたいこんな鞄なんてどこにでもあります。それにあたしが着てるスーツだってどこのデパートでも売ってますし、あたしじゃありません!」
「この写真の撮影日を見なさいよ?」
撮影日?つくしは改めて写真の右下の日付を見た。
「あなたこの日の夜は何をしてたの?」
いきなりそんなことを聞かれても・・もう2週間前の夜なんていちいち覚えてなんて・・

「あのわたしはここのところ残業続きていつも帰りが遅いんです。だから多分その日も残業を・・」
「まだしらばっくれるつもりなの?」
しらばっくれるも何もあたしじゃないんだもの!

つくしはその点についてはっきりと言わなければと思ったそのとき、自分の前方に見える化粧室の扉が開いた。
「おい、牧野。なにやってんだ。いつまでも戻ってこねぇえと思ったら何こんなところでのん気に立ち話なんてしてんだよ?メシ冷めるぞ?」
司は堂々とした態度で女性用の化粧室だろうが何だろうがさして気にもしていない様子で入って来た。
「ど、道明寺・・あの・・」
「なんだよ?女同士の話しならまた今度にしろ」
「道明寺さんですよね?」
「ああ。そうだがあんたは?」司はつくしの前に立ちふさがるように立っている女に目をやった。
「こちらの牧野さんがどういう女性だかご存知ですか?」
「だからあんた誰だよ?」自信に満ちた態度で横柄に聞いた。
「わたしは野中と申します。こちらの牧野さんがうちの主人と不倫関係にあるのはご存知ですか?」
水を打ったような静けさが広がった。

「誰が誰と不倫してるって?」 低い声が響いた。
「ですからうちの主人と牧野さんがです」
野中の妻は司が女性用の化粧室にいても気にならない様子で胸をはって言い切った。

「あんた何か勘違いしてないか?牧野は俺とつき合ってるんだ。それも3年も前からな」
「ちょっと道明寺なに言ってる・・」
司の口調には揺るぎない自信が感じられ、そんな中に独占欲も含ませ、つくしに対して有無を言わせぬように言い切った。

「じゃあこの写真は何でしょうね?」
野中の妻は司に写真を突きつけるとあくまでも強気な態度で臨んできた。
「そんなもん知るか。だいたいなんで牧野があんたの旦那とつき合わなきゃいけねぇんだ?俺みたいな男がいるのに?」
「で、でもこれ牧野さんですよね?」
司は写真をじっと見つめていた。

「違います!あたしじゃありません。人違いです!」
あたしがラブホテルなんかに行くわけないじゃない!つくしは今の司がどんな顔をして写真を見ているのか気になったが何故か怖くて見れなかった。

「わかってる。牧野、黙ってろ」

「あのな、何を根拠に言いがかりをつけてるのか知らねぇが、いい加減にしねぇえとあんたの旦那、あんたを捨ててその不倫女とどうにかなるんじゃねぇのか?」
「それに相手の女に文句言うより前に自分の旦那に文句言ったらどうなんだ?」
「あんた今の自分の顔、そこにある鏡で見てみろよ?まるで般若だ」
司はクッと小さく笑った。
「な、なんですって・・」
「嫉妬に狂った女って恐ろしいよな」 司はすっと目を細めると女を睨んだ。
「旦那はあんたみたいにぎすぎすした女なんて嫌になったんじゃねぇの?」
「それに人の女をこんなところで捕まえて何がしたいんだ?」
口調は穏やかだったが司が女に見せた顔は無感覚のように冷たく見えたはずだ。

「それにあんたもう少しマシな興信所使った方がいいんじゃねぇの?」
「こいつのマンションの周りをうろつくの辞めさせろ。わかってんだよ、胡散臭い車がこいつのマンションの周りを周回してるってことぐらい」
野中の妻の顔がこわばり、硬直した。
口は何か言いたげだったが閉じられたままで開かれることはなかった。

「いくぞ牧野。いつまでもこんなアホくせぇ話しになんかつき合えるか」
司はつくしの手を掴むと自分の傍に引き寄せた。
「いいか、今度こいつの周りに黒い車なんかでうろついてるヤツがいたらこっちにも考えがある」

つくしは司に手を引かれ化粧室をあとにすると、自分たちのテーブルを目指して通路を進んで行った。
マンションの周りをうろつく黒い高級外車って・・
道明寺の車じゃなかったの?
つくしは司の顔を仰ぎ見た。
「なんだよ?」
「あの・・」つくしはためらいながら尋ねた。「黒い高級外車って・・」
「ああ、おまえのマンションの周りを回ってたって車だろ?」
「うん、てっきり道明寺の車かと思ってた・・」
「言っとくけどな、俺はそんなに暇じゃねぇからな。ま、何度か俺が乗ってなくても他の人間が行ったことはあったかもしれねぇ。そいつらがおまえのマンションの周りを周回する車ってのを見かけてからおかしいと思って俺に連絡してきた」
「うん、マンションでも話題になってた・・夜になると変な車がうろうろしてるって・・」
「お、お礼いわなきゃね・・」ぎこちない声だった。「さっきはありがとう道明寺・・」
「それに今だっていくらなんでも化粧室に20分もこもってるなんておかしいだろ?」
「ま、俺とおまえの関係がなんにしろ、あれだけ俺が言っときゃこれ以上なにもねぇと思うけどな・・」
司は熱っぽい目でつくしを見つめた。
「好きな女に何かあってからじゃ遅いからな」

「それより、メシ冷めちまったな。どうする?」
話題が食べ物についてへと変わりぎこちなさが取れた。そう言えばまだ食前酒しか口にしていなかった。
「そうね・・なんかあの人に会って食欲減退した・・」
「店変えるか?」
「い、今から?でも、もう遅いし・・・」つくしは目の前のテーブルに目をやった。
「おまえ腹減ってるんだろ?」
「まあ・・」
「よし!ここの料理運ばせてやる」
「え?ど、どこに運ばせるつもり?」
「おまえんち」
「だ、ダメよ!あんた何考えてるのよ!」
「じゃあどうすんだよ、この料理は?おまえこれを手つかずで処分するって言うのか?」
「もったいないよな?」

フランス料理はコース料理で順番に料理が運ばれてくるはずなのにどうしてテーブルの上に全ての料理がところ狭しと並んでいるのか・・・
これはつくしが食べ物を粗末に出来ないということを知っている道明寺の策略か?
魚料理に肉料理・・フルーツにケーキまでテーブルいっぱいに並べられていた。

「これどうすんだよ、牧野?」
司は非難めいた視線をつくしに送った。「アフリカの子ども達が見たら・・」

つくしは大きくため息をついた。
「これ・・も、持ち帰りに出来るの?」

ああ。心配するな。
意地でも持ち帰りにさせてやる!








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.06.04 00:06 | 編集
マメ*チ様
こんばんは(^^)
大人の恋を堪能して頂きありがとうございましたm(__)m
ストックはあまり無いのですが、GWの時にちょっとだけ書いたものがありまして
そちらを使いました。忙しい時はリアル過ぎて妄想脳が働かないのでこれからも
こんな感じで別のお話が間に入るかもしれませんがよろしくお願いします。
こちらのお話のつくしちゃん。未経験かどうか告白がありました。
まるでマメ*チ様の疑問に答えたようなつくしちゃんです。
拙宅は司に甘いので、初めては司にあげたい・・そんな気持ちです(笑)
本当に楽しみにして頂きありがとうございます!こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
明日は御曹司です!笑って頂けるかな?なんて思いつつ妄想爆発してる司です。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.04 20:54 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.06.04 23:56 | 編集
マメ*チ様
こんばんは。
そうなんです。今回も司天国なんです(笑)
司は経験を積んでテクニックを磨いて、つくしちゃんを喜ばせてあげて欲しいです。
そしてつくしちゃんは司によって目覚める(≧▽≦)ということでしょうか。
つくしちゃんの初めては司の為にあるようなものですね?(笑)
いつそのタイミングが来るか・・まだ少し先のような気がします。
はい。週末は御曹司で笑って頂けたらと思っています。
エロ暴走←(≧▽≦)本当にねぇ・・もう笑って頂く為だけに書いています。
御曹司と友達になりたいですか?エロエロな御曹司ですがよろしくお願いします!
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.06.05 21:50 | 編集
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