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2016
05.29

大人の恋には嘘がある 14

つくしは約束の時間に30分遅れていた。
今夜は道明寺と食事の約束があったのに仕事が終わらなかった。


道明寺と微妙な関係でつき合うことになったあたし。
微妙な関係でなんて言ったけど、あれは咄嗟に口をついてしまったことだった。
だってそうでも言わないとあいつのことだから、遠慮なくあたしのプライベートまで立ち入ってきそうだったから。微妙な関係だって言っとけば、いざとなれば逃げられるような気がしていたからだ。
でも、何から逃げようと言うのだろう・・
本当は逃げずにあいつの気持ちを確かめたいと言うのが正直なところなのに、あたしはどこか恋に対して臆病になっているのかもしれない。

司はつくしを見つけられずにいた。
教えられた電話番号にかけても出ない。
まさかわざと出ないわけじゃねぇよな?だがそうは思えなかった。
あいつは駆け引きをするような女じゃないはずだ。
司は眉をひそめた。まさかあいつ忘れてるわけじゃねぇよな?
俺は今夜のことをあいつに言ったはずだよな?

俺たちはまだきちんとしたデートをしたわけではなかった。
水族館で電気ウナギを見たがあれは夜のほんの短い時間で司にとってはデートだなんて言えるものではなかった。
牧野とはいわば顧客と担当者といった仕事の打ち合わせのような形でしか顔を合わせていない。
いつまでもそんな調子じゃ俺とあいつの関係が進展なんてするはずがない。
あの水族館は昔のよしみでなんてことで会うことになったが、今日は昔のよしみなんかじゃねぇからな。3年前の出来事をなかったことになんてするつもりはない。
ましてや互いの気持ちの中にあった何かを覚えてないだなんてことを言わせるつもりは無かった。

「ご、ごめん、道明寺」
「おせぇぞ!」
都内でも有名なフレンチレストランの入り口でイライラしていた男は駆け込んで来た女を見て言葉とは裏腹に内心ホッとしていた。

「なにしてたんだよ!」
「な、なにって仕事に決まってるじゃないの」
「おまえの仕事は俺の投資の相談だろ?それ以外になにがあるってんだよ?」
こいつの時間は俺が大枚叩いて買ったつもりだがそうじゃなかったのか?
「あのねえ、あんたも経営者ならわかるでしょ?仕事ってのは上っ面を撫でてるだけじゃだめなのよ?」
「細かい情報の分析が必要だってわかってるでしょ?」
「情報の分析が大切だって教えてくれたのはあんたでしょ?あたしそれでニューヨークじゃあんたに負けたんだからね?だ、だいたいねぇ・・」
つくしは走って来たのか息を喘がせながらも必死で言葉を継いでいた。
胸はどきどきしているし、走ってきたせいで脚ががくがくしていた。
これでもあたしは急いで来たんだからね!

「ああ、もういい!今夜は仕事の話しをしたくてここにいるんじゃねぇんだから」
司はつくしの手を掴むとずんずんと店の中を歩いて行き、一番奥のテーブルへと連れて行くと椅子に座らせた。
「メシ、食うぞ」
「あのね、道明寺、あたしだって仕事を持ってる人間なんだからちょっと遅れたくらいで怒らないでくれる?」
「わかってるよ!」

つくしの真正面に座った男は、はっきりとした目鼻立ちで洗練された男だ。
そんな男にじっと見られていては落ち着かなかった。
「道明寺・・あたしこういうのって・・慣れてないから」
「何が慣れてないって?」
「だから・・こんなふうに仕事が終わって男性と食事をすることよ」
「なんだよ、一度俺と行ったじゃねぇかよ?」
あんときは唇に噛みつかれたけどな・・

「だ、だから、とにかくこんなふうに男の人と出歩くなんてことは普段してないから・・」
なぜかその言葉に嬉しさを感じ、司はにんまりとした。
「おまえ、日本に帰ってきてから男と出歩いたりしてないってことか?」
「うん・・まあ・・そうかな?」
思わず湧き上がってくる大きな満足感。
つくしの心を見透かそうとするかのように、司はじっと彼女を見つめた。
俺は牧野におまえと会えなくなってから後に女はいなかったと言ったが、実のところこいつが日本に帰ってきてから男と出歩いてるかなんてことは分からなかった。

「ほら、仕事が忙しいし、なかなか時間が取れないし、休みの日だって家のこととか色々とすることがあるから・・」
言い訳がましく聞こえるかもしれなかったが、それは紛れもない事実だった。
「ねえ、どうしたの?」
「なにがどうしたんだよ?」
「なんか、あんたにやついてる・・」
「別ににやついてなんかねぇぞ・・」
「牧野、これだけははっきりさせておくが、俺はこのまえ試しにつき合ってみないかと言ったが、あれは訂正だ。だからおまえも微妙な関係ってのを見直してくれないか?」

互いに自分について相手が知らないことを教え合うことから始めるってことはデートにおけるどの段階になるのか分からないが、これから俺のことを理解させるためにあまり時間をかけたくないってことだけは紛れもなく正直な気持ちだ。

「見直すって?なにを見直したらいいの?」
「だいだいおまえの言う微妙な関係ってのが俺には分からない」
「び、微妙な関係?」

つくしは自分だってどう説明したらいいのか分からないのだから、道明寺の真剣な目つきが怖かった。
まさか微妙な関係がどんなものかだなんて、聞かれるとは思っていなかった。
つくしはどんな答えを返したらいいのか悩むはめになろうとは思いもしなかった。
だって自分でも咄嗟に口をついて出た言葉だけに、答えなんてないんだから。
逆に道明寺が知ってるなら教えて欲しいくらいだ。

微妙な関係・・・
多分それは・・

「牧野、悩んでるようなら聞くが、俺とおまえがおまえの言う微妙な関係ってのを終わらせることが出来たら・・・」
司はつくしをからかってみたくなった。
「俺はおまえと寝ることができるのか?」








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コメント
chi**chimu様
はじめまして^^
いつもお読み頂きありがとうございます。
お心遣いありがとうございます。
無理は禁物ですよね、本当にそれを最近実感しております。
コメントを下さった記事が分からなかったのでこちらの記事にお返事をさせていただきました。
拍手コメントありがとございました^^
アカシアdot 2016.05.29 22:40 | 編集
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