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2016
05.25

大人の恋には嘘がある 11

水槽の底でじっとしている電気ウナギ。体長2メートル以上は優にあり胴回り直径15センチはあろうかという電気ウナギの体は、灰褐色でまるで丸太のようだった。
司は横を向き、隣に立つつくしの顔を一瞥してからまた水槽の中でじっと横たわっているウナギに視線を戻した。

司は電気ウナギについて興味はなかった。
だが、好きな女が電気ウナギを好きだなんてことを聞けば、これから勉強するべきか?と考えずにはいられなかった。
普通の女なら、高価な宝石とか、鞄とか洋服を欲しがるがこの牧野つくしは本当に電気ウナギが好きなのか?それなら俺は電気ウナギを買ってプレゼントするべきなのか?
確かアマゾン川だって言ったよな?ブラジルの支社に連絡して捕獲させるか?
いや、待てよ・・いくらなんでも電気ウナギをプレゼントする男がどこにいる?
2人して水槽の中でじっとしている電気ウナギを眺めていると、ウナギの体がぴくぴくと震えたのがわかった。
おい、放電してるってことか?

「おまえ、本当に電気ウナギが好きなのか?」
司は聞かずにはいられなかった。
「道明寺はどう思う?このウナギ?」
「ど、どう思って言われてもよぉ・・」

こいつ本気で俺に聞いてんのか?
例え食えたとしても、とてもじゃないが到底美味そうだとは言えない代物で、見た目もなんとも言えずグロテスクに感じられた。
果たして正直な感想を述べていいものか・・
もしかして、これは俺を試してるってことか?

「道明寺、正直な感想を言ってくれる?」
正直な感想・・
司は二度と嘘はつくなと言われた手前、頭に思い浮かんだことを正直に答えることにした。

「食っても不味そうだし、かわいいとはとても言えねぇよな」
ウナギはまるで司の言葉が聞えたかのように、ぴくぴくと体を震わせた。
もしかしてこのウナギは俺の言葉に怒ってんのか?

「そうよね・・食べても美味しくなさそうだし、とてもかわいいとは言えない」
「あたしもそんな女だと思う・・」

なんだよそれ?
なんでおまえは自分を電気ウナギに例えてるんだよ?
司は聞かずにはいられなかった。「それどういう意味だよ?」

「まあ、あんたはあたしについてはもう色々と調べているから知ってると思うけど、あたしの家は生活に余裕がない家で、あんたのとこみたいに裕福じゃないの。まあ、あんたと比べること自体が間違いなんだけどね」

誰もいない水族館では声をひそめる必要もなく気兼ねなく話しが出来る。

「今ではあたしもそれなりの生活が出来るようになったけど、学生時代からよく働いたの。
毎日バイトと大学の授業で大変な思いをして卒業したの。それから今の会社に入社したんだけど、あんた・・道明寺副社長もご承知のとおり金融関係の仕事ってノルマがキツイの」
つくしはおどけるようにわざと副社長の敬称を付けて言った。

「それでもね、決められた目標に向かって数字を積み上げて行くのはやりがいがあって、あたしに向いてたかな?」
数字は正直だ。誤魔化しが効かない。

「日本で何年か仕事して、それからニューヨークへ異動になって・・それからあんたと出会ったんだけどね・・」
「それまでは仕事一直線だったから男性に対して免疫が無かったって言うのが正直な話かもしれない」

道明寺がそれまで眠っていたあたしの中の欲求の目を覚ましたのは確かだった。
恋愛経験の少ないあたしが認めたくはないけど、道明寺のことを好きになり始めたときに
つかれた嘘だったから、騙されたと感じ傷ついた。
男と女が分かち持つ特別の感情を感じられたと思っていたから他人を装っていたことを知ったとき、ショックだった。


「あたしはニューヨークで仕事に疲れたら水族館に行くようになったんだけどね。何故か電気ウナギを見て、この姿に癒されたって言うのか、興味が湧いたというのか・・」
「ほら、見てよ?この冷たそうな醒めた目。それに何にも考えてなさそうな顔」
つくしは水槽の中でまどろんでいる電気ウナギに顔を近づけていた。

「いや、俺に言わせりゃ魚なんてどれも何も考えてねぇと思うが?」
「確かにそうだけどね、なんかこんなに大きな体なのに脳みそなさそうで、それでも体から電気を発して相手を痺れさせて獲物を取るんだから凄いと思ったのよ」
「もし、知らずにこのウナギに触れたら人間だって下手したら死ぬこともあるらしいから」
つくしは水槽のガラスに手を触れてみた。ひんやりとした冷たさが手に伝わって来た。

「まあ、それはさておき、あたしは見た目かわいくないし、食べても・・この電気ウナギみたいに美味しくはない・・」
「そんなあたしでもあんたと出会って、ああ、仕事だけじゃなくてもいいのかな?なんて考えてしまったのよね・・」
「でも思えば仕事ばかりで、あたしはこの電気ウナギみたいに醒めた目の女かもしれないでしょ?」
「ねえ、あたしのことが好きだって言うけど、いったいあたしのどういうとこが好きなの?」
つくしは水槽から顔を離すと後ろを振り向いた。

まだ言ってなかったか?
「おまえの前向きなところだ。日々目標に向かって努力するところ。そこへたどり着くための努力は惜しまないというところだ」
「あたし達、短い期間しか・・会ってないのにどうしてそんなことが言えるの?」
「おまえ、俺の立場わかってて聞いてんのか?」
「人を見る目がなきゃ俺の仕事は務まらない。例え会った回数が少なかろうと、相手がどんな人間かなんてことくらいは会話の中から拾えるもんだ」

おまえには自分で決めたことは最後までやり遂げるという強い意志が大きな瞳の中に感じられた。それは敵対関係になった時、初めて知ったこいつの力強さだ。

「俺はおまえが好きだからつき合いたいし、もっとおまえを知りたい。3年前俺たちはまだ互いを知らないままで始まったばかりだったはずだ。だから今からまた・・最初から始めないか?俺たちはいい大人なんだし、人生もそれなりに過ごして来たんだ」
「古い話しは水に流して、互いに知らない者同士として試しにつき合ってみないか?」



おまえが自分をこの電気ウナギみたいだって言うんなら、俺は牧野つくしって言う電気ウナギに感電させられた魚ってことだ。
それにおまえ俺に対して相当強力な電気を浴びせかけたことは間違いないはずだ。



俺は3年前におまえに感電させられてから・・

ずっとおまえに痺れっぱなしだ。









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コメント
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dot 2016.05.25 21:30 | 編集
みなみ様
いつもお読み頂きありがとうございます^^
ずっとつくしに痺れっぱなしの司です。
この想いが早くつくしに伝わるように応援してあげて下さいませ(^^)
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.25 22:48 | 編集
も*ち★様
お久しぶりです^^
電気うなぎだけで1話を語ってしまいました。
うなぎの例え、びっくりですよね(笑)
私も水族館で見た時はびっくりしたんです。
まさかの流れのお話ですよね・・(笑)
こんな拙宅ですが楽しんで頂けてよかったです。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.25 22:57 | 編集
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