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2016
05.21

大人の恋には嘘がある 9

「昔の友達の素行を調査するようなことはやめた方がいいんじゃない?」
「誰が昔の友達なんだよ?」
「おまえは昔の友達なんかじゃねぇ。いや、友達じゃねぇし昔のも余計だ。俺の恋人になるんだからな」
「俺は望んだものは必ず手に入れる」
司はぬけぬけと言い放った。
確かにそのとおりだ、とつくしは思った。ニューヨークでこの男に何度も仕事の邪魔をされ、今では何でも自分の望み通りにする男だと知っている。道明寺には言ったことは必ずやり遂げるという固い信念が感じられる。だからあたしは怖いのよ。

「それにいつ俺がおまえのことを調査したって言うんだよ?」
「じゃあ聞くけど、どうしてあたしの家の周りに普段は見かけないような黒塗りの高級外車が止まってるわけ?」

司はつくしが持参した投資プランに目を通していたがいつのまにか、話は横道へとそれていた。



黒塗りの高級外車・・
つくしには見覚えがある車だった。あの日食事をしてケーキを受け取りマンションの前で降ろしてもらった。あの時と同じ車だと気づいた。
つくしはマンションにひとり暮らしだ。
怖いのよ!夜な夜な黒い車がマンションの近くを周回してるなんて!
今朝もゴミを出しに降りてみれば、話に花を咲かせている住人の会話が耳に飛び込んで来た。

「最近夜になると黒塗りの高級外車がこのあたりを周回してるらしいわよ?」
「隣の奥さんがね、この前も夜のウォーキングに出かけたら何度も同じ車を見かけるから気になったんですって!」
「道に迷ったとかじゃないの?」
「違うわよ、どう見てもそんな感じの車じゃないもの。なんだか一見ヤバそうな感じの車だったわよ?」
「あら、牧野さん、これからご出勤?夜遅くなるようなら帰りは気を付けてね?最近怪しい車がいるらしいから」




「そんな車なんかどこでもあるぞ」
怪しい・・絶対に道明寺の車だ。
そうに決まってる。
「なんだよ?それより俺と出かけるのが怖いのかよ?」
つくしは今度の日曜に出かけようと誘われていた。
「別に怖くなんかないわよ・・気が進まないだけで・・」
「なんで気が進まないんだよ?」
「な、なんでってあたしはあんたの投資につてのコンサルタントであって・・」
なんとなく言葉にするのが躊躇われた。『恋人じゃない』の言葉。

「なあ、3年前に俺がおまえに嘘をついたことで、いつまで自分と俺とを罰するつもりなんだ?」
あのとき2人の関係は進むべき方向にむかっていたはずだ。
「なによ?罰するって・・」

あたしが自分に対していったい何を罰しているっていうのよ?
もし仮に罰せられるなら嘘をついたあんたの方でしょう?
もしかして・・この男が言いたいのは、あたしがあんたの嘘を許さなかったことは、あたしが逃した魚は大きかったとか言いたいわけ?
あたしは道明寺とつき合えるチャンスがあったのに、それをフイにしたことはあたしが自分自身に課した罰だとでも言いたいわけ?
いったいどれだけ自意識過剰なのよ、この男は!
むかつく。


でもこの男は仕事の上では尊敬に値する。
何しろ金儲けは第二の天性とまで言われる男だ。
普通の人間なら何時間かかっても終わりそうにない仕事でもさっさと終わらせてしまうらしい。今日は約束の時間にこうして資料を持って来てみれば、予定が狂って悪いがそこに座って少し待ってろと言われソファで待っていた。ええ。あたしは一向に構いません。
会社からも道明寺副社長のために頑張って来いときつく言われていますから。いくらでも待たせて頂きます。

営業職は米つきバッタと呼ばれるくらい頭を下げることはあたり前だし、どこの会社もそうだが数字がものを言う。結果が現れるのは数字だけだ。
現にオフィスには各自の目標数値が掲げられ、棒グラフなんてものが壁に貼られている。
嫌なのよね・・目にするのが・・。だってあたしの名前のグラフの棒は既に目標数値が達成されている。なんだろう・・この微妙な安心感は?
月初から目標が達成され、下手したらそのグラフの棒はあたしのところだけが100パーセントなんか軽く超えて天井近くまで伸びるかもしれない。
喜ぶべきことなんだけど・・複雑な心境だった。
だって道明寺のおかげなんだもの・・

小一時間待たされる間に恐らく役職者クラスの社員とみられる男性たちが入れ代わり立ち代わり現れたが道明寺は特段声を荒げることもなく、苛立った表情を見せるわけでもなく、あくまでも冷静さを保って仕事をしているように見えた。

そうだ、この表情はニューヨークであたしの会社と買収案件での攻防を繰り広げた時にも見せた顔だ。感情の伴わない、抑揚のない声で冷たく言われると声を荒げて怒鳴られるよりも恐ろしいと感じた。それは3年ぶりに見たあの時と同じ道明寺だった。
冷たい口調で命令された社員はまさに冷や汗ものだろう。
でも今こうしてあたしの前にいる道明寺は冷たくなんかない。

「俺のこと、まだ信用してないのか?」
「俺がおまえのことが好きだと言ったことが信じらんねぇのか?」
「もしかして俺がこんなことをしてるのは、俺のプライドを満足させるためだなんて思ってねぇよな?」
「そうなの?」

つくしは司をじっと見た。
一流と言われる男は得てして皆プライドが高いものだ。
それはつくしの仕事上の経験からも知っていた。プライドの高い男というのは自ら別れを告げた相手に対しては、一切の興味を持つこともなく忘れ去るのもだが、自分が女にフラれるとその高いプライドが許さないのか、ストーカーのような行動に出る男も多い。
でもあたしたちはつき合っていたと断言できるものは、まだ何も無かったし・・キスだってこの前いきなりされたのが初めてだったんだし・・

「そんなんじゃねぇよ」司は言いきった。

「会った途端、あたしが・・」
「なんだよ?」
「あたしが喜んで体を預けるなんてこと、考えたんじゃないの?」
つくしはまさか自分の口からそんな言葉が出るなんてどうかしてると思った。
これじゃあまるで誘われることがあってもおかしくはないだなんて考えてたみたいじゃないのよ!あたし、どうかしてる・・

「そ、そんなことねぇぞ・・」
司はまさかつくしの口から体を預けるだなんてことが聞けるとは思ってもいなかったが、ここで軽率な態度を取れば、また話の方向性が悪くなるような気がしていた。
「なあ、俺にチャンスをくれないか?」
司は真剣な顔で食い入るようにつくしの顔を見た。

「い、いったいなんのチャンスが欲しいのよ?」つくしは胸がどきどきした。
「俺とちゃんと向き合って欲しい」
「俺を知ってもらうチャンスが欲しい」
「俺を好きになってもらうためのチャンスが欲しいんだ」

司の目は真剣そのものだった。






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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.05.21 14:16 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.05.21 21:06 | 編集
H*様
押せー司!ということは押し倒してもいいですか?
体預けっぱなしに?でも分かります。その気持ち・・
いいなぁ。つくしちゃん・・
「俺を好きになってもらうためのチャンスが欲しいんだ」
って言われるんですから。
これから頑張ってつくしの気持ちを掴んで欲しいですねぇ。
拍手コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.05.21 22:48 | 編集
co**y様
こんにちは。
やはりそうでしたか!もうね、すぐピンと来ました(笑)
何冊か読みました。本も持っていましたが今では処分してしまって無いのですが。
スタイリッシュな主人公たちでしたよね・・まるでドラマのような生活(笑)だったような・・
うちの坊ちゃん大人の坊ちゃんですか?なるべく原作の坊ちゃんのイメージをと思いますが
別の人になってないかと思ったりすることもあります。やはりカッコいい司が一番ですので
そこだけは、死守したいと思っています。
拙宅ではこんな感じのお話しか書けませんがどうぞよろしくお願いします。
長いコメント大歓迎です。読ませて頂ける楽しみがあります。(^^)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.21 23:20 | 編集
サ*ラ様
こんばんは。
黒塗りの高級外車はつくしの予想通りのストーカー司に間違いないと思います。
そうなんです。つくしも司が好き・・なんですが、大人の恋です。
若者には分からない心の揺れがあるのです。
こちらの坊ちゃん、他の2人に比べたら一番ノーマルですよね。他の2人は両極にいますから
連日で書いたら大変なんですよ。時々御曹司がノーマル司に乗り移りそうになります。
「Collector」・・サ*ラ様、よく覚えていて下さいましたね。司の父親の存在を。
このお話では母親よりも父親の影響を強く受けた司です。プロットはあります。
出て来ますがここでは書けません・・ネタバレになってしまいます(笑)
あちらはゆっくりの不定期更新ですので少々お待ち下さいませm(__)m
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.21 23:39 | 編集
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