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2016
05.16

大人の恋には嘘がある 5

月曜の朝、つくしは道明寺ビルに足を踏み入れると受付で名前を名乗った。

「おはようございます。牧野様。どうぞこちらを」
「重役フロアにはあちらのエレベーターでお上がり下さい」

と言われ手渡されたのは外部からの訪問者に対して付与されるビジター用アクセスカードだった。名前や所属する企業名、顔写真が印刷されていてこのカードで誰がどこの部門に出入りしたかが分かる。俗に言う社員用IDバッジだ。
セキュリティレベルに応じて入れる場所が決まっているはずだが果たしてどのレベルまで入れるのか?つくしは胸元にプラスチックで出来たカードを留めるとエレベーターへと向かった。早速このIDカードを使うことになった。重役フロアに直通のエレベーターはどうやら特別な人間以外は乗ることが出来ない仕組みになっているようだ。

いよいよ避けられない事態がやって来た。再会してからはいつかこんな日が来るのではないかと思っていた。緊張していないと言えば嘘になる。正直言って緊張している。
大丈夫よ!あたしは冷静よ!と自分に言い聞かせた。
いま、つくしが抱えている案件はただひとつ。道明寺HDとコンサルタント契約を結んだ会社から言われたことは、とにかく道明寺HDのコンサルタントとして頑張れということだけだった。
いったい幾らの契約料でうちの会社はあたしを人身御供に出したのか?
今朝のつくしは一流とまでは言わないが、つくしなりの勝負服を着ていた。
勝負服・・いったい何に対して勝負をしようと言うのか・・
つくしは背の高い男を目の前にして委縮しないようにと、いつもより踵が高いハイヒールを履いていた。戦う女じゃないけど、やっぱり戦ってる?
どうしてあたしの人生はいつも戦ってばかりなんだろう。
これって生まれ持った性格なんだろうか?

エレベーターを降りた先にいたのは道明寺司の秘書の男性だった。
歳の頃は40半ばと言った感じだろうか。
銀縁のメガネをかけ、濃紺のスーツを皺ひとつなく着こなしている。

「牧野様。本日からよろしくお願いいたします」
「お、おはようございます。こちらこそよろしくお願いいたします」

ではどうぞと案内され副社長室まで続く廊下はつくしにとってまるで地獄への道案内のようだった。
でもこうなれば前進あるのみだ。副社長室のドアは目の前だ。

いきなり内側からドアが開いた。

「おはよう牧野」歯切れよく言われた。
「今日からよろしくな」

つくしはいきなり目の前に現れた男に思わず声を上げそうになった。
び、びっくりするじゃない!なんでこの男がドアの前に立ってるのよ!
高価なオーダーメイドのスーツを好む男はモデル顔負けのスタイルでつくしの前に立っている。

ダメだ。冷静に、冷静に・・
つくしはこれから何があっても決して短気は起こすまいと決めていた。
この前ここに来た時は思わず感情的になってしまい理性を失ってしまったとしか言えなかった。
感情が顔に現れ易いと言われていたが、最近では随分と上手く仮面を被ることが出来るようになって来たはずだった。だけどそれはこの男に再会するまでだった。
もう二度とあんなまねはしないようにしないと・・
つくしは最高の営業スマイルを浮かべようと努めた。
だけどこれがなかなか難しい・・この前は出来たのに何故か今日は上手くいかなかった。
そんなのあたり前だ。
おまえが欲しいだなんて言って来た男を前に平常心で接する方が無理だ。
何もなかった、聞かなかったふりをするしかない。

「おい、ボケっと立ってる場合じゃねぇぞ!早く中へ入れ」
つくしは部屋の中へと招き入れられると、いきなり手にしていた鞄を取り上げられた。
「ちょっと!なにするのよ!」
「重そうだから俺が預かってやる」
「余計なことしないでよ!返して!」
「いいじゃねぇかよ、別にすぐそこに置いとくんだから」
司は自分のデスクの上へとつくしの鞄を置き、ソファに座るように促した。

「コーヒーでいいか?」
「え?あ、はい」

つくしは座れと言われ革のソファへと腰かけた。
司はデスクの上の内線ボタンを押すとコーヒーを2つ持って来いと指示をしていた。

司はつくしについて調べていた。
家族は両親と弟。
今は仕事が生きがいかと言えるような女。
男とつき合うくらいなら仕事にのめり込む方がマシってやつだな。
いま、つき合ってる男はいない。これが一番重要だ。
俺もやっと日本に帰国することが出来たんだ。これから時間はたっぷりある。
何も焦ることはないはずだ。こいつが日本に帰国してからどうしているか気になっていた。 あるときからセントラルパークのコーヒースタンドに現れなくなったこいつ。
気持ちは分かる。確かに俺が仕事絡みで敵対している会社の副社長だなんて知って驚くなと言う方が無理だ。それにタイミングが悪かったと言うか、こいつの会社の顧客とうちの会社が対立することが多かった。
ビジネスはビジネスだ。いくら相手が好きな女でも手を緩めるわけにはいかなかった。
だがこいつの目には俺が酷い男だと映っているのは分かっていた。
どうしよもねぇよな・・あのときは。
今だって俺の前に座る女は硬い表情のままだ。

「おまえも俺と仕事するのは気が向かねえってのがあるかもしんねぇけど
 社会人なら分かるよな?例えどんな仕事でも仕事は仕事だ」
「それに人は困難に打ち克つたびに強くなるって言うだろ?」

あんたは困難か!
思わずこの男に突っ込んでしまいたくなった。
まあある意味そうだろうけど・・

「とにかくだ。おまえは俺の専属コンサルタントだからな?」
「は?」
「だから俺のだ。俺専属のコンサルタントだ」
「いったいなんの話をしてるの?」
「道明寺HD本体の方はおまえの会社に任せたが、おまえは俺の専属だ」
「な、なにそれ?か、会社じゃないの?」

ドアがノックされ、秘書の男性が2人分のコーヒーを持って現れた。
「どうぞ、牧野様」
「あ、ありがとうございます」
つくしは取りあえずコーヒーを運んできたことに対して礼を述べたが、司の言葉の意味を考えるのに精一杯でコーヒーどころじゃなかった。

司は出されたコーヒーには手を付けず、ソファにゆったりともたれかかりつくしをじっと見た。
「牧野、遠慮するな」
こいつと一緒にコーヒーを飲むなんてセントラルパークのあの時以来だよな。

つくしはやっと言葉の意味が理解出来たかのようで、じろりと司を睨んだ。
「あんた・・うちの会社とどんな取引をしたのか知らないけどね?会社に戻ったらそんな取引無効にしてやる」
いったいうちの会社何考えてるのよ!節操がなさすぎるでしょうが!
これじゃあたしは本当の人身御供じゃない!道明寺司個人のコンサルタント?なによそれ!
あたしはてっきり会社のコンサルタントだとばかり思っていた。
この男の資産が幾らあるか知らないけどね?なんであたしがそんなことしなきゃいけないのよ!

「契約破棄なんか出来ねぇぞ?」
「そんなことしたらおまえの会社、大変だよな?」

こ、この男あたしの足元見て・・
こうなったらあんたの資産、目減りさせてやる!
覚悟しなさいよ!

つくしはコーヒーと一緒に運ばれて来ていた水に目を留めた。
おもむろにグラスを掴むと、立ち上がり、
司の顔に向かってぶっかけた。









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コメント
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dot 2016.05.16 19:23 | 編集
H*様
何をされても付いて行く・・
そうですよねぇ。司にだったら付いて行きたいですよね。
でもつくしちゃん水をぶっかけてしまいました。
あちゃー ←(笑)まさに今の気持ちですよね?
H*様の第一声に私も思わず あちゃーです(笑)
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.16 21:59 | 編集
サ*ラ様
こんばんは^^
坊ちゃん強引です。お金持ちですから何でもありです。
何しろ金持ちの御曹司ですから(笑)
そんな坊ちゃんへのお手紙有難うございました。
御曹司坊ちゃんの色んなところでのオイタは許して貰えると言うことですよね?
そうです、心も体もつくし一筋ですから一途なかわいい坊ちゃんなんです。
ただ、妄想が激し過ぎるかな?なんて思って公開するとき、考えてしまうこともあります。
実はですね、読者の皆様はこの坊ちゃんのキャラの受け止め方はどうなのかと思いサ*ラ様のご意見をお伺いいたしました。
単なるエロか、それとも2人の愛は感じて頂けているのか・・次の御曹司も妄想が爆発しそうで・・
またその時はご感想をよろしくお願いいたしますm(__)m
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.16 22:24 | 編集
つか**Pちゃん様
ぶっかけましたね、つくしちゃん。
また思い切ったことを・・。
こちらは大人の恋の色々です^^
コレクター・・そうですよね、いつもプッシュされてばかりで申し訳ないですm(__)m書きたいんですが、止まってますよね。
よし書くぞと思うんですが・・
プロットはあるんですが進まないんです。
でも頑張って書きたいと思います。いつも待っていて頂いて申し訳ないです。m(__)m
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.17 22:58 | 編集
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