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2016
05.11

大人の恋には嘘がある 1

つくしは今朝もパソコンの中で上げ下げを繰り返すある会社の株価の動きを見ていた。
黒い画面はいくつかに分割をされ株価の動きや経済に関するニュース、それに株価チャートなどが表示されていて市場(しじょう)の状況が瞬時に見て取れる。黒い画面に黄色い数字が点滅を繰り返しながら刻々と変わる値段と出来高。
東京市場が開いて既に30分が過ぎようとしていたが株価は寄り付きからさほど変わらずそれでも売り買いは活発に行われていた。今のところは極端と思われる大量の売りも買いもない。

「牧野、例の会社のTOBの件だけど・・」
「なに?どうしたの?何か問題が?」

つくしは同僚の話を聞きながらも目は刻々と変わる株価の動きを追っている。

「先方からもう少し買い取り価格を上げて欲しいと連絡が来た」

TOB、株式の公開買い付けの価格を上げて欲しい・・
つくしの会社はある企業の買収を手掛けていた。公開買い付けとは決められた期間に、決められた株数を一定の価格で買い取りますと宣言し、不特定多数の投資家から株を買い集める行為だ。市場を通さずに行われるTOBの価格は現在の価格よりも高い価格を設定するのが一般的だ。その方が投資家から応募してもらいやすい。TOBを仕掛けられた会社は、TOBに対して賛同するか賛同しないかの意志を示すが賛同しない場合は敵対的TOBとなりその行く末は会社の乗っ取りだ。株式の過半数を取得することが出来れば経営権が取得できる。

「・・そう。わかった。相談してみるわ」

つくしはそうは言ったものの困ったと思った。
株式の買取り価格を上げろと言ってきたのは買収先の大口株主で機関投資家だった。
相談するのは買収を仕掛けた会社でつくしは買収するにあたっての実務を請け負っている代理交渉人だ。交渉し、契約書を作成し、融資を行い、最終的に相手の会社に網をかける準備をする。買収先の会社の大口の株主は機関投資家と呼ばれる生命保険会社や銀行などの金融関係の大企業が多い。もちろん大口の株主の中には個人も含まれている。
そんな大口の株主の彼らが持つ株式の大半がこちら側に流れることによって買収も容易くなることは確かだ。価格を上げるべきなのか?適正な価格だと思ったんだけど・・

「それからどうやらライバルも現れたみたいだぞ?」

ライバル・・それはこの買収を阻止しようとする会社のことだろう。
第三者でホワイトナイトと呼ばれ敵対的買収を仕掛けられた会社を買収者に対抗して友好的に買収する会社だ。

「で、ホワイトナイト気取りなのはどこなの?」
目はパソコンの画面上で点滅を繰り返しながら変わる株価を見ていた。
「道明寺ホールディングスだ」
つくしはその名前に初めて男の顔を見た。

「・・そう・・道明寺HDが・・」
「まあどこかが乗り出して来ることは想定内だからな」

あの会社も同じ獲物を狙う鮫ってことか・・
と言ってもただの鮫じゃない。あの男の場合は人食い鮫だ。
道明寺HDの買収方法はなかなか手が込んだことをしてくれる。
今までも何度か道明寺HDに買収を阻まれたことがあった。

「しかしまたなんで道明寺なんかがあの会社に興味があるのか不思議だよな・・」
「じゃあ、一応この資料渡しておくから」
「うん。ありがとう・・」

つくしは同僚の男性社員から資料を受け取るとパラパラとめくり始めた。
道明寺ホールディングスか・・
やっぱり出て来た。
敵は大きいわね。

道明寺司か・・
つくしは資料の中の司の顔写真を指で弾いた。
道明寺ホールディングスの副社長・・
写真の男は無表情にこちらを見据えている。
この男には負けられない!
二人が初めて会ったのは3年前のニューヨークだった。
今まで何度こいつの会社に邪魔をされたか・・
その度に思ったのはこの男は傲慢だと思った。
傲慢で、意地悪でいけすかない男だった。
でも傲慢と自信は紙一重と言うけど・・
それにしてもこの男について金儲けは第二の天性と言われている。
なら第一の天性ってなに?
女に対してとか?もしかしてとんでもないプレイボーイとか?
どちらにしてもあいつは意味もなくあたしを苛立たせる名人だ。


そもそも今回の買収劇の始まりは半年前にさかのぼる。


「おい、チビ」
懐かしい声だった。つくしは驚いて振り向いた。
道明寺司・・道明寺ホールディングスの副社長で超がつくほど男前。
漆黒の髪に世の芸術家が喜んでその形を模ってくれるような造作のお顔。
背が高くモデル並のスタイルで足の長さはつくしの胸の高さくらいまでありそうだ。
何が悔しいって男なのにその睫毛の長さ!ビューラー要らずできれいにカーブなんか描いちゃって男のくせに無駄でしょ!
それに内側から滲み出るのは育ちのいい人間ならではの品だ。口さえ開かなきゃ超絶いい男なのに・・
それにしてもどうしてこの男がこんな所にいるのよ?この男はニューヨークで優雅な独身貴族の生活を満喫してるはずだ。
なのに何故このセミナーにこの男が来てるのよ!

ホテルメープルにあるバンケットルームは同時通訳の設備も完備されていて国際的な会議にも対応が可能だ。その会場で行われたのは海外の投資環境についてのセミナーだった。
どうりでさっきから周りの女性陣の様子がおかしかったはずだ。だけどどこからこの会場に入ってきたんだろう?VIP専用の秘密の出入り口とか?そう言えばこのホテルって道明寺グループのホテルだったわね。誰もが憧れる五つ星の高級ホテルでラグジュアリー感満載だ。




司はつくしより年上で、企業経営者で女に悪態をつくことはとっくの昔に止めていた。
いい大人の男が女相手に悪態をつくことがいかにバカげたことだと知ったのはもう随分と前になる。他人に悪態をついて喜んでいるのはガキだけだ。
なのに何故かつくしにだけは悪態をつく。
3年ぶりだった。3年経っても相変わらずの態度だ。
3年もたてばお互いに変わったといってもいいはずだ。

「チビ、久しぶりだな」
「道明寺副社長、お変わりなくお元気そうで良かったですね?」
つくしは辛辣なほほ笑みを浮かべた。
「おまえも・・」
「それからあたしの名前はチビではありません。牧野です」
「ふん。相変らずチビのくせして態度がデカいのは昔のままか」
司はするりとつくしの言葉に含まれた棘をかわした。

つくしは目を細めると司を睨みつけた。
司はつくしが昔と変わらない態度に笑いそうになった。
相変らずこのチビっ子は態度だけはデカい。どんなに自分を大きく見せようと頑張ったところで知れているのにこの態度。背筋をピンと伸ばし、両脚踏ん張ってるところなんて何に対して虚勢をはってんだか。なんだよ?それとも俺を威嚇してるつもりか?


「道明寺副社長も3年も経てば少しは大人になったかと思いましたが相変らずお口は悪いようで」
「なんだよその言い方は?牧野のくせして俺のことまだ恨んでるのか?」

恨むもんですか!誰があんたなんか!
それになによ!その牧野のクセしてって!
つくしはいきなり背を向けると司の前から立ち去ろうとした。
身長が160センチしかないつくしは180センチ以上の人間の前では・・恐らく185センチくらいあるかと思われるこの男の前では見下ろされてしまい、どうしても委縮しそうになる。もっとヒールの高い靴を履いてくるべきだったと後悔していた。
そうすればこいつの足を踵で思いっきり踏みつけてやるのに。

司はいきりたった。
この女!俺を無視する気か?
「おい、待てよ!」
「待ちません!」
つくしはスタスタと歩いて行く。
「待てよ!牧野!」司は長い脚を駆使すると数歩でつくしに追いつき横に並んだ。
つくしは司に付き纏われるのは嫌だった。
「俺、ニューヨークから帰って来たからまたよろしくな?」
「それにおまえにやって欲しいことがある」

か、帰って来た?なんでこの男が帰って来るのよ!
あんたなんか一生ニューヨークにいればいい!
それにいきなり何を言いだすかと思ったらあたしにやって欲しいことってなんなのよ!

「いったい何がよろしくですか?それに、いったい何をやって欲しいって言うんですか?
あたしに道明寺副社長のお役に立てることがあるとはとても思えません」
つくしは歩みを止めることなく歩き続けていた。

「それに道明寺副社長がお望みになる物なんてあたしは持ってませんから!」
司はつくしの隣を歩きながら、チラッとつくしの表情を窺った。
こいつあの時から比べたら少し痩せたんじゃねぇか?
いや。大人っぽくなったってことか?


司の望みは3年前から決まっていた。

「欲しいものか?」
「おまえだ」
「おまえが欲しい」






寄り付き(よりつき)=株式市場が開いてから最初に成立した売買。その時ついた値段。
出来高(できだか)=株の売買が成立した株数

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応援有難うございます。新連載を始めましたのでよろしくお願いします。
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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.05.11 11:49 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.05.11 15:00 | 編集
H*様
おはようございます^^
そうですねぇ・・暫くはハラハラ・・
まだ始まったばかりですので・・(笑)
また楽しんで頂けるように頑張ります。
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.05.11 22:26 | 編集
ま**ん様
会社買収、株の取引き・・これは完全に個人的なアレです(笑)
難しい話しにはしませんので大丈夫だと思います。
道明寺はチビが好き・・
つくしと司のそれぞれの言い分を聞いてやって下さいm(__)m
ま**ん様に楽しんで頂けるといいのですが・・
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.11 22:33 | 編集
さと**ん様
そうですよね・・いろんな出会いから・・
それに二人が見知らぬ人同士からのスタートと言う拙宅の話。
ワンパターンですねぇ・・
【欲しいものか? おまえだ。おまえが欲しい】ほんと、こんなフレーズばかりで・・
花いちもんめ攻撃・・素晴らしいネーミングを有難うございます!
またさと**ん様に喜んで頂けるように頑張ります!
コメント有難うございました(^^)


アカシアdot 2016.05.11 22:42 | 編集
vi**o様
企業・金融小説あまり難しい話しを書くと面白さが欠けるかとも思いましたが、そこは愛を絡めて書きたいと思います。
こちらこそ、いつも有難うございますm(__)m
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.05.12 22:11 | 編集
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