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2016
04.25

第一級恋愛罪 42

「これ以上おまえにちょっかいを出すとどうなるかあの男にわからせてやった」
それは数日前に聞かせた話。
「おまえはもう二度とあの男に煩わせられることはねぇぞ」

牧野は危ぶんだ顔をして何か酷いことをしたのかと聞いてきたが俺の話を聞いて意外とすんなり納得したようだ。
まさか俺がバカなまねして何かしでかすんじゃねぇかと思ったみたいだが就業規則に乗っ取っての処罰ならあたり前だと頷いた。当然だが処分は懲戒解雇だった。
牧野にとってあの男のことは青春時代の苦いひとコマだと考えればいい。
人間誰しもバカなことに遭遇することがある。俺だって10代の頃は牧野には言えないような事もしたものだ。
だが幸いにして人生の全てをかけてもいいと思える女に出会った今だからこそ、過去を振り返ることも余裕で出来るってものだ。
なのに、
「おまえ、つくしちゃんから指輪を返されそうになってるんだって?」あきらが聞いた。
「あの指輪だよな?ストーカー女が取り上げようとしていた例の指輪」
「そうだ」

いつもならこいつらを早々に追い返す俺だが今夜は話をしたい気分だった。

例の指輪はとは、かりそめの関係だった俺たちを本物らしく見せる為と言う名目で買い入れた指輪だ。
俺はあの頃からそんな関係を本物に変えてやるつもりでいたし、事実そうなった。
なのに、あいつ何が気に入らないのか知らないがあの指輪を俺に返そうとしてきた。
今は恋人同士なんだぞ?その男が買った指輪を返すってことの意味はなんなんだよ!
おまえこの指輪に込められた意味を分かった上で俺に返すのか?もちろん俺は受け取らなかった。

「で、つくしちゃんは何が気に入らないんだ?」
「いや・・気に入らねぇってんじゃなくて・・」
「おまえ、彼女に何か言ったんだろう?」
あきらの言い方はまぎれもなく非難の響きがあった。
なんで俺が非難されなきゃならない?

「あいつに仕事を辞めるなんて考えた事はないのかって聞いたら・・」
司にしてみればその問は将来を見据えての問いかけだった。

「なるほどな・・」
あきらは司の答えにすぐに反応した。
「司、彼女がどれだけ自分の仕事に誇りを持ってるか知ってるんだろ?」
「新聞記者になってまだ三年目だぞ?三年目ったら記者の世界じゃ新人に入る。それを辞める気がないかだなんて聞いたら動揺するのも当然だろう?」
「それにおまえの独占インタビュー記事が書きたいが為におまえのかりそめの恋人役を引き受けた女だろ?」
あきらの話はもっともだった。二人の関係の始まりは独占記事が書きたい女との取引からだ。
あいつ俺の言葉に動揺したのか?

「そうだぞ司?それだけ仕事に対しての使命感が強い女だぞ?いきなりそんなこと言ったら・・」同意したのは総二郎だった。
「いや・・いきなりじゃねぇ・・」
「俺との結婚を見据えた上でだ」
「約束の独占インタビュー記事を書き終えたら俺と一緒にならないかってな」
司は照れくさそうにしていたが、心の中では先走り過ぎたのではないかと後悔していた。

「そうか!ついに言ったのか!」
「けどおまえ仕事を辞めろって言ったのか?」
「その記事書かせてやるからそれを最後に辞めろってことだよな?」
あきらのヤツ俺が気にしてるところをガンガン突いてきやがる。

「男が勝手に女の将来を決めちゃまずいよな?今の世の中はそんな時代じゃねぇぞ」
総二郎、茶の世界はどうなんだよ?おまえらの世界は昔から変わらねぇはずだ。

「いや、辞めろなんて言ってはねぇけど・・まあ言葉のニュアンスとしては含まれていたかもしれねぇ」
「ただ俺はあいつを守ってやりてぇんだ。色んなものから」
だってそうだろ?好きな女が傷つく姿なんか誰も見たくはないはずだ。
司の思いはただそれだけだった。
「けどそれをあいつに言ったら、あたしはあんたに守ってもらわなきゃいけないような女じゃないと来た」

「さすが牧野つくしだな。ストーカー女に立ち向かった女だからな」
あきらは思い出したかのように頷いた。

「女ってのは自立してる自分ってのが好きだからな。男になんて頼りませ~んなんてな」
「けどよ、司が彼女のためにこっそり警護を付けてること、俺たちは知ってるぞ?」
あきらも総二郎も互いに頷きあった。
「しかしまあ司も次から次へとあるよな?」
「でもよ、司はそんな自分が好きなんだぜ?」
「つくしちゃんに振り回されてる自分が!」
「司、おまえはM男か?」
「るせぇ!」
司はばつが悪そうに顎をさすっていた。あきらも総二郎も言いたい放題だ。

「それより、その日を境に俺はあいつと会ってない・・」
「おい司、隣だぞ?なんで会えないんだ?」
「知らねぇよ!そんなこと」俺が聞きたいくらいだ。
「あの女忍者か?それとも蜘蛛女か?」総二郎、おまえの世界はどうなってるんだ?
「なんだよそりゃ?」
「いや、窓から糸垂らして出て行くとか・・」

おまえら一度脳の検査でもしてもらえ!
それこそ蜘蛛の巣が張ってるんじゃねえか?
こいつらに話しても後悔が深まるばかりだ。
あのとき仕事の話なんか持ちだすんじゃなかった!

「よし!俺たちでつくしちゃんに話しをしてみるか?」
「馬鹿な男がひとり寂しそうにしてますって?」
「そうだな、何だかんだで司の尻ぬぐいをするのはいつも俺たちなんだからな?」
「だろ?類?」
「俺ヤダよ。司の尻ぬぐいなんて。昔っからいつもだろ?あきらと総二郎で行ってよね?」
ソファに転がって話を聞いていた類はむすっとした顔で部屋を出て行った。




***




「なあ、つくしちゃん、司はつくしちゃんのせいで神経過敏になってるぞ?」
あきらが突然呟いた。
「それどういう意味ですか?」

つくしは総二郎とあきらから呼び出しを受けた。
呼び出されたと言うよりも二人が社の近くに現れた。
つくしは取材に出かけたりでずっと社にいるわけではない。
いきなり訪ねて来られても会えるとは限らない。
だが二人は心得たもので新聞が喜びそうな経済ネタを提供してやるとの話でつくしの時間をもぎ取った。もちろん社を通して話しを持ちかけて来ると言う正攻法で来た。
美作商事の専務が会いたいと言えば断れまいと踏んでの行動だ。

「だから・・つくしちゃんが黙っていなくなるってのが怖いらしい」
「あの司がだ!」
「い、いなくなるって・・なんですかそれ?」
「喧嘩したんだろ?」
「喧嘩なんてしてません。ちょっと意見の相違があっただけです」
道明寺は何でもこの人たちに話すんだから!


「けど、ここ数日は朝の出勤も別なんだろ?司が部屋のチャイムを鳴らしても出てこないから心配してる。もしかしたら元のマンションに戻ったんじゃねぇかとかな」
「そうだよ、あいつ胃が痛いだなんてこと今まで言ったことなんてなかったぞ?」
「そ、そんなの・・そのうちに治ります」
「しかしなぁ・・あれじゃまるで10代の男の恋煩いみたいだ」

つくしは10代の男の恋煩いと言われてもさっぱり分からなかった。
大体この人たちが恋煩いなんて言葉を知っていることが不思議だった。
二人とも遊び人で若い頃から女にモテたと聞いている。あの男もだけど・・

「司がつくしちゃんの仕事について口を挟んだことが気に掛かってるんだろ?」
「つくしちゃんも司のことが好きなんだよな?」
「す、好きです・・・でも・・」今更気持ちを偽るなんてことはしたくない。
「結婚したいって言われたんだよな?」
「仕事を辞める考えがあるかと聞かれたんだよな?」
なんだかこの二人と話していると状況が複雑化しそうな気がしてくる。

「ま、まだそんな結婚するみたいな話にはなっていません!別にはっきりと言われたわけでもないし・・そんなの仮定の話だと思います」

「あのな、つくしちゃん。司は体はデカいがああ見えて案外気の小せぇところがある」
「つくしちゃんの事が心配でしょうがねぇんだよ・・」

「あの、もし仮に・・あたし達が結婚したとしても仕事を辞めるとか・・そんなこと・・」
考えていないとはっきり言えないつくしがいた。

「つくしちゃん、よく聞いてくれ。司がその気になればつくしちゃんが新聞社で働くことが出来なくなるのは確かだ。あいつはそれだけの力がある男だ」

「あいつ、好きなものは絶対にあきらめたり手放したりはしない男だ」
「そのかわり、手に入れたらすげぇ大事にするし大切にする」

「そりゃ司がつくしちゃんに仕事を辞めるつもりがあるか聞いたのは・・あいつが男としての責任をどう果たしていくべきかを考えてのことだと思うぞ?」

「ひとりの人間の人生を背負うわけだからな。まあ今のあいつは何万という従業員の生活を背負って仕事をしてるわけだが・・正直あいつにとって何万の従業員より愛する女の人生を背負ってく方が大切だから色々考えてるわけだ」
総二郎はつくしを安心させようとしていた。

「司の今の望みはつくしちゃんをどうすれば幸せに出来るかってことだからな」

「多分俺が思うに仕事を辞める気があるか、なんて聞いたのは辞めた後のつくしちゃんの身の振り方を考えて言ったんじゃねぇかと俺は思ってる。何しろあいつ道明寺ホールディングスの社長だ。結婚すればつくしちゃんは社長夫人だぞ。現実問題として考えなきゃいけないことも沢山あるよな?だからもしつくしちゃんが仕事を辞めるならそれなりに考えなきゃいけないと思っているから聞いたんだと俺は思う」

「だから悪いが、もう少し考えてやってくれよ」
「司はことつくしちゃんに関しての話しには主語がないから、悪いがよくかみ砕いて聞いてやってくれ。そこは新聞記者として言葉の裏を読むとか表情から感じ取るとかしてやってくれないか?」
「面倒くせぇ男だけど、頼むよ」
つくしはその言葉にようやくこの人たちの本音が聞けたと思った。




***




眠れない。
つくしは仕事をバリバリやっている自分を想像してみた。
道明寺と出会う前の自分だ。
あの頃は仕事が生きがいと言える部分もあった。
あいつの独占記事が書けるならと半年間と言う約束でかりそめの恋人を引き受けた。

・・でもあたし達は本当の恋人同士になった。
約束の半年が来ればインタビューは受けると言った道明寺。
あたしは自分の署名入りであいつの記事が書ける。
道明寺はあたしが記事を書き終えたらその先のことを考えないか、二人の関係を変えないかと言っていた。

どうしよう・・

美作さんと西門さんが言ってたようにあの時のあいつの言葉の真意はもっと別にあると感じていた。
だけどそれには気づかないふりをしたのかもしれない。
なんのことか分からないふりをした。
つき合ってまだ半年も経ってないあたしにいきなり結婚の話をするなんて・・・。
それでもあたしも心のどこかでそんなことを意識していた。

あたしは道明寺が好き。
でもあの二人が言ったように道明寺と結婚すればあたしの生活は今とはかけ離れたものになるはずだ。華やかなパーティーにも沢山参加して来たし、日本の政治経済の中心にいるような人物にも会った。だから結婚すれば求められるものはわかっていた。
結婚を承諾するには勇気と覚悟が必要だ。


寝返りばかりで目が冴えてきた。
つくしはベッドから起き上がるとパジャマを脱ぎ洋服に着替えた。
眠れないなら眠れるように問題を解決するのが一番だ。

つくしは部屋を出ると隣の部屋のインターホンを押した。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.04.25 15:43 | 編集
さと**ん様
結婚したい司。それに対してはぐらかしたつくしです。
就職して3年目は楽しい頃ですよね?仕事も一通り覚えて独り立ちです。
イケイケドンドン!(笑)です。若さは怖い物知らずって今なら言えます(笑)
指輪を返された司・・へこんでいます。胃が痛いんです。
私も最近胃が痛いです。
あきらと総二郎も司の為に頑張りましたのでその努力が報われるといいな。
と言う感じですよね?
明日のお話はつい先程書き終わりました(^^)
こんな時間にコーヒーを飲むから胃が痛いのかもしれませんね。
コメント有難うございました(^^)いつも有難うございます。書く励みになりました(多謝)
アカシアdot 2016.04.26 00:35 | 編集
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