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2016
04.24

第一級恋愛罪 41

木田は自分が所属する広報室の室長から今日は大会議室で朝礼を開くから君も参加してくれないかと言われた。
どうして自分が課長職以上の参加する朝礼に参加しなければいけないのかが分からなかった。
普段なら部長職以上の幹部社員のみを集めての朝礼に課長が参加することも不思議だったし、この朝礼を各フロアにあるテレビで社員全員が視聴できるように流すという試みも今まで無かった。
いや、あると言えば親会社にあたる繊維会社の社長が毎月初めに寄こす録画映像を流すことだけだった。
それが突然、朝礼を生中継で各フロアに放送するなんて何か大きな問題が起きたとしか考えられなかった。皆考えることは同じなのか、それともカメラが入っているせいか私語は少なく居並んでいるどの顔も硬い。

「木田君、悪いね。急に決まったことなんだ」
「いやね、今日はうちの親会社のその上の、道明寺ホールディングスの社長の視察が決まってね。なんでも道明寺社長がうちの朝礼に出たいということなんだよ」
木田に話しかけてきている広報室長は総務部部長も兼任しており幹部社員が集まる朝礼にはいつも出ている。

「あの道明寺社長だよ、まさに雲の上の人だよ?凄いと思わないか?そんな人がうちに視察にお見えになるなんて!」広報室長は興奮を隠せないようだ。
「はい。凄いですよ、室長!」

木田は自分と年が変わらない司が大企業のかじ取りを任され経営している姿に感銘を受けていた。頭もよく、まるでモデルと見紛うばかりの外見で当然ならが金持ちだ。
女性でなくても憧れる存在の男だ。だが道明寺司が子会社の朝礼とはいえ、生でカメラの前に立つなんて行為はメディアへの露出を嫌う男にしては意外だった。
そんな男がこの会社のテレビに映し出されるなんてさぞ女子社員は歓喜することだろう。

何か意図があるには違いないはずだ。もちろん木田は本人を見るのは初めてだ。
恐らくここにいる殆どの人間がそうだろう。
子会社が多く、組織も大きくなると末端の会社まで目を配るのは大変だと思うが、道明寺司という人物はその末端の会社まで気にかけるような男なんだろうか。

まるで木田のその思いが伝わったかのように大会議室の扉が開かれ、長身でゴージャスな顔をした男が颯爽と入って来た。
道明寺司の突然の訪問もそうだが幹部社員を招集するなんて余程のことがあるに違いないと言う思いなのか、居並ぶ者たちは不安と戸惑いを必死で隠そうとしていた。

男はひとつだけ空いている席に着くと始めようとひと言いった。
「おはよう。道明寺司だ。今日は急なことで申し訳ない。
業務開始前とは言え、それぞれに取引各社との予定もあったと思うが参加してくれて感謝する」
声は低くて他人を寄せ付けない冷たさが感じられ、とても感謝しているようには思えなかった。
「今日この朝礼を開いてもらったのは他でもない」
司は大会議室の中を見渡すと目当ての人物を見つけていた。

「実はこちらの会社の広報の木田君だが・・」
「木田君悪いが起立してくれないか?」
木田はその場で立ち上がったが困惑が隠せなかった。
「木田君だが、彼ほど優秀な広報はいないと思ってる。今日はそれを全ての社員に知ってもらいたいと思いこの朝礼を招集してもらった」
幹部社員たちは皆一様に驚いたようで不思議そうな顔をしていた。
もちろん当の本人も驚いた。
それもそうだろう。何故いち社員を紹介するためにこのような朝礼、しかも全社員へのテレビ中継を必要とするのか。

「彼は広報としては一流だな」
「聞けば各メディアでの受けも非常にいいらしい。物腰が柔らかくて特に女性の関係者には受けがいいと聞いた」
「この会社の製品のターゲットは若い女性がメインだ。媒体も若い女性が対象となるものが殆どだ。当然だがプレス関係者も女性が多い。
木田君はそんな女性達にも素晴らしい心配りと思いやりを持って接してくれている」

派手なネクタイしやがって。アパレルの人間ならもっと趣味のいいやつを選べ!
司は自分の精神状態が穏やかだからこそ、こうして話しを続けられるのだと思っていた。
そうでなければ、牧野の話を聞いたばかりの時なら激しい怒りを抑えることが出来なかっただろうと感じていた。

「それにわたしが知るある女性がとても彼の人柄を褒めていた。女性に対しての思いやりが執念深いくらいあるらしい」
「その女性は彼にひとかたならぬ世話になったと言って感謝している」
「自分が男性に対して抱いていた思いを180度変えてくれたと言っていた」

司の持ち上げっぷりに木田は嬉しそうにしていた。
なぜ自分がこんなふうに言われているかなど知りようがないのだから、ただ嬉しそうにしていた。
ちょっと来いと呼ばれ司の傍に行った木田は、男なのにあまりにもきれいな司の顔を見て
思わず顔を赤らめていた。

立ち上がった司は木田の顔を真っ向から見据えた。
こいつ顔なんか赤くしやがって気持ちわりぃ男だ。

木田の頭の片隅にはいつか自分も広報の仕事ではなく、もっと広い世界で仕事がしたいという思いがあった。男なら誰しも上を目指すことが本能だ。大きな世界で実力を試してみたい。
あの道明寺司が自分の隣にいて、自分を褒めてくれているなんて・・
俺が世話をした女って誰だと思ったが、そんなことよりもしかしたら今の仕事じゃなくて道明寺の本社に異動するなんてことも出来るのではないかと考えた。

司は木田の両肩に手をおき、カメラの方へと顔を仕向けた。

「木田君、カメラの向うにいる社員に何か言うことはないか?」

木田はカメラに視線を向けるとレンズの先にいる全社員に向かって語り始めた。
「道明寺社長から過分なお言葉をいただき有難い思いでいっぱいです。こ、これからも会社のために身を粉にして働くつもりでいますので、社員の皆様どうぞよろしくお願いいたします」と、頭を下げていた。

司は声をなごませると
「木田君はデパートの売り場にも顔を出しては販売員に対しての気配りもいいと評判だ」
と、褒め、
「だが、なぜ広報の人間がデパートの売り場まで足しげく出向くのかが不思議だが」
「それにライバル会社の販売員とも仲がいいらしいが」
と、疑問を呈したところで急に声の調子が変わった。

「あれは営業の持ち場だよな?」
地の底から低く響くような声に変わっていた。
「だがそれも仕事熱心の表れだろう。いいことだ。仕事熱心なのは」
司は口元を歪めるとあざけりを込めて言った。
「本当に彼は一流だ。・・・悪い意味で」
「人間は真面目が一番だよな?嘘をつくような人間は軽蔑されて当然だ」
「俺は嘘つきは大嫌いだ」
司の急変に木田は目を剥いて司を見ていた。
「おい木田」
「よく恋愛してる暇があるな」
「おまえ女の尻を追いかけ回しているらしいな」
「勤務時間中にホテルの中をうろついてる理由はなんだ?」

木田はまるで体が固まってしまったかのように身じろぎひとつもしない。
だが動揺しているのか目線だけは左右に動いていた。
司はそんな木田の耳元だけに囁いた。
「おまえが追いかけ回してる牧野つくしは俺の女だ」
「よくもあいつに手をかけてくれたよな?」
その言葉は相当な効果があったようだ。
「ど、道明寺社長・・」顔は真っ青になった。
司はわざとらしく木田の上着に手を伸ばすと襟元を整えてやった。
「スーツはきれいに着こなさねぇとな」
木田のこめかみには汗がにじんできていた。

「おい!こいつの上司は誰だ!」
司は室内にいる人間に向かって声を張り上げた。

「は、はいっ・・わたくしでございます。広報室長の田辺と申しますっ!」
先程まで木田の隣に座っていた男が慌てて司の傍へと駆け寄ってきた。

「おい、おまえ。この男が何をしてるか知ってるのか?」
「な、何をと申しますと・・」
「この男、自社の製品の横流しをしてる。横流しだけじゃねぇぞ?ライバル会社に情報を流していやがった」
急に会議室内がざわついて来た。

「それに自社の製品を倉庫から盗んで自分の女達に与えてる」
何か所からか声があがったが、司がじろりとそちらを睨むと室内は静かになった。

「この会社のデザイン部の企画書がライバル会社で見つかってる」
「なんで企画と製造もやってるこの会社の企画書がライバル会社のデザイン部で見つかるんだ?」
「それにこの男はライバル会社の人間との密会をメープルの一室でしてる」
「領収書までご丁寧に取りやがって経費で落としていやがった」
司の隣に立った木田の体はブルブルと震え出していた。

哀れなヤツだな。けど同情なんてするわけがない。
「経理部長はどこにいる?」
「は、はい!経理の石田です!」
と小太りの男が司のもとへと駆け寄ってきた。
「おまえらはちゃんと見てるのか?領収書があれば確認はとらないのか?」
「まあ、全部取れなんて言わねぇが、抜き打ち検査も必要だ。たまには裏を取れ!」
「も、申し訳ございません!」
マヌケな男だ。この会社の連中は金をドブに捨ててるな。
会計業務をイチからやり直させる必要がある。
ったく、この会社の監査はどうなってんだ!
会計だけじゃねぇ。業務監査はどうなってんだ!

「おい!テレビを見てるおまえら!」
司はカメラ目線になると怒鳴りつけた。
「よく聞いとけ。アパレルの人間だからってな、チャラチャラしてるようならおまえら全員 くそダセェ制服着用にするぞ!」
「いいか!わかったか!」
「以上だ!」
「放送終了だ!カメラ止めろ!」
クソッたれが!司は声に出さずに毒づいた。







***








「なにそれ?」
「面白すぎる・・」
「それマジな話?」

それにしてもこいつら3人はいつもいつもどうしてこんな時間に俺のマンションに集まって来るんだよ!時計は9時を回ったがあいつはまだ隣に帰って来てないからいいようなものの、帰って来たらおまえらさっさと帰れよ!
どんだけ酔っぱらっていようが絶対に帰れ!俺の部屋に泊まっていいのは牧野だけだ!
今の司は子供の頃からの友情よりつくしとの愛情の方が100倍も勝っていた。
よっぽど迎えに行きたかったが今夜のあいつは社のつき合いで遅くなるなんて話だ。

「ああ。もちろんマジだ」
「へぇ~司って好きな女のためにそんなことまでしたの?」
類、おまえもいつか本気で好きな女が現れたらどんなことでもするはずだぞ?

「そんなことってなんだよ!子会社とは言え、うちのグループだ。そんなひとつにはびこる悪を退治して何が悪いんだよ?」
「ひとつでもそんなことを見逃し続けたら将来にはもっとデカい犯罪行為に走るからな」

あいつは俺の目を盗んで牧野にまで手を出そうとした男だ。それだけでも重罪に値する。
今回の件だって牧野絡みじゃなきゃ知らなかったかもしれねぇ。大体あいつ絡みじゃなきゃあんな男のことなんか調べるかよ!
棚からぼた餅じゃねぇがまさにそれだ。

「いや。悪くはないぞ。司の言う通りだ。美作だってグループ会社が山のようにあるけど、そんな中で何か不正を働かれても分かんねぇことが多いからな」
「で、その男の処分は?茶の世界なら破門だな」
ああ、総二郎の言うとおりだ。

「それはあの会社の社長に任せた。子会社とは言え俺にはそこまでする権限はねぇからな」
懲らしめる方法はいくらでもあるがあの会社にも社長はいるんだからそいつが処分を決めるのが正しい。
「なんだ、司のことだから息の根をとめたと思ってた・・」
「そうか・・おまえのことだからコンクリートを抱かせて東京湾に沈めるんじゃねぇかと・・」
「類、総二郎おまえらバカか?今の俺がそんなことするわけねぇだろうが!」
今の俺は昔と違うんだよ!いつまでもガキの頃の俺と一緒にすんな!

「それより、つくしちゃんとの将来はきちんと考えているのか?」
姉ちゃんにも言われたその言葉。司はあたり前だとばかりに頷いた。
「おう!当然だ」
「そうか・・なら頑張れよ司。お兄さんは応援してるぞ!」
「あきら、いい加減そのネタは止めろ。俺には兄貴はいねぇぞ!」
あきらはそうか?このネタは使い古したか?と笑った。
「それより司、その木田って男のことも解決したみたいだし、つくしちゃんとおまえの間にあった・・わだかまりってのはもうないのか?」
「ああ。もう何も無いはずだ・・」
「そうか・・」

ああ。

俺の気持ちは初めてあいつを抱いたときから変わっちゃいない。
いや、その前からだな。抱こうが抱くまいがその気持ちは変わらない。

だからあとはあいつの・・気持ち次第だ・・

司はつのる思いに笑みがこぼれた。








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コメント
今晩は☺
やはり、つくしに落ちましたね(笑)
猪突猛進の司と恋に目覚めたつくし❤
二人のこれからに目が離せませんね。
素敵なお話をいつもありがとうございます☺
毎日、読ませて頂くのが楽しみで仕方ないです
チビネコママdot 2016.04.24 21:28 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.04.25 00:12 | 編集
チビネコママ様
今晩は(^^)
恋に落ちた二人の日常が続いています。
恋人同士になり色々とありますが二人の恋模様をお楽しみ頂ければと思います。
こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.04.25 00:30 | 編集
さと**ん様
すっきりして頂けて良かったです(^^)
木田の*獄行特急列車の行きついた先はここでした。
全社員の前での悪事を暴かれた木田。
そうなんです、とんでもない男でした。
大学生の頃はまだそうでもなかったはずなのですが・・
はい。彼の居場所はありません。
全社員の前で悪事を暴くことが今後のあの会社の為でもあると思います。
たるんだ子会社に喝を入れておきました(^^)
コメント有難うございました(^^)


アカシアdot 2016.04.25 01:06 | 編集
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