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2016
04.23

第一級恋愛罪 40

「なんだよ・・これ・・」
司が目にしたのはつくしの白い腕に色濃く残る痣。
色は紫のようにも見え、藍色のようにも見える。
「どうしたんだっ!何があったんだっ!」

うまい理由が思いつかない・・
だって捻ってこんな痣が出来るわけない。
右腕の手首から肘までの皮膚の柔らかい内側が広範囲に内出血しているのが分かる。
ぶつけた覚えがないのに青あざが出来ていることがある。
心あたりがないのに出来た青あざ。
それは多分机や書類棚の角に体をぶつけていつの間にか出来た青あざだ。
その時は他の事に気を取られていて、ぶつけたことに気が付かないことが殆どだ。
でも腕の内側なんてぶつける場所じゃないし、この場所にはっきりと何かで押さえつけられたような痕が残ることなんてない。
それは意図しないかぎり無理だ。

「こ、これ?な、内出血したみたい」
「えーっとね、今日け、献血に行って・・か、看護師さんがあたしの静脈になかなか注射針が刺さらなくて、何度も刺したり抜いたりして・・」
「看護師さん下手だったのかな・・針を刺したままで動かしたりして静脈を探したみたい・・」

「なんか痛いなぁ~なんて思って時間がたったらこんなになっちゃって・・あたし静脈が浮き出にくくて見つからないから・・何度も・・・」
「ほら、街頭でけ、献血車が止まってるでしょ?あれで・・・」

司はおまえの下手な言い訳なんて誰が信じるかと言わんばかりだ。
「おまえ・・献血なんてしてる暇があったのかよ・・」
「普段から忙しいおまえが、ベッドに寝転がって献血してる暇があんのかよ?」
「う・・」
「それにどう見てもこれが注射針のせいだなんて思えねぇ」
「ぶ、ぶつけたのよ!ほら、えー電車でつり革につかまってて・・・・」

献血じゃなかったらつり革につかまってて?なんだよそりゃ?
司はあまりにも嘘臭い理由に呆れ顔だ。
「なにがあったんだよ?」
心配そうな声が頭の上から聞こえる。
司はすぐ横に立ってつくしの痛々し右腕を優しく掴んでいた。
よく見れば青あざと言うより赤紫か?
つくしは彼を見上げたまま本当のことを話すかどうかを考えていた。
心配そうに自分を見つめている黒い瞳を見ていると何故か申し訳ない気持ちになる。
心配かけてごめんと・・

「これ・・どう見ても誰かに何かされた跡だよな?」
「強く掴まれた・・か?」
「こんな跡が残るくれぇ掴めるのは男だろ?」
「知り合いか?」

黙っているところを見れば知り合いだと察しがついた。
その知り合いってのはなんでおまえにこんな痣をつけることになったんだ?
「誰にこんなことされたんだ?」
「おまえが言わねぇんだったら・・」

「道明寺には・・関係ない・・」
関係ないだなんて言われてはいそうですかなんて引き下がれるかよ!
その言い方なら男だろうと察しがつく。
「関係あるかないかは俺が決めてやるよ」
「そいつがやったのか?」
「誰なんだよ!その男は!」


つくしの体がこわばった。
道明寺は意外と勘が鋭い。この腕を見て何か感じとったのだろう。
その男とは昔の恋人だった男のことで、そんな男のことは口にしたくなかった。
ずっと考えないようにしていて、もう忘れかけていたのに再会してしまった。

腕を掴んだのが男だと白状しても、どうしてこんなことになったのか聞くだろう。
どうして?それはあたしが男の元を立ち去ろうとしたら無理矢理引き留められたわけで・・
なら、どうして無理矢理引き留められたのか聞くだろう。
どうしてと聞かれても引き留めたのは男であってあたしじゃない。
それに別れた男が復縁を迫ってきたなんて言えない。

元彼から復縁を迫られたなんて言ったら別れた理由も聞くかもしれない。
適当に誤魔化せばいいと思うけど、あたしは嘘をつくのが苦手だ。
思い出したくもないあのことを話さないといけないとなると・・
そんなの詳しく話せるわけがないじゃない!
彼氏がベッドで女と絡み合ってたところを目撃したなんて!
簡単に騙せるような女みたいな扱いで、バカにされたようで、男に捨てられたような女なのに・・そんな女があんたの恋人だなんて・・知られたくない。それに余計な心配をかけたくない。


つくしは大きく息を吸い込んだ。
「あの人は関係ない人・・道明寺には関係ない人だから」
「お、お願いそろそろ帰ろうよ・・もうお腹いっぱいだから・・」
つくしは席を立とうとしたが立てなかった。

「逃げんなよ」司の低い声が聞えた。その声につくしは立ち上がるのを止めた。
それは今まで聞いたことがないような声だった。
外見こそクールなイケメンだけどその声に内面はぞっとするような凶暴さが潜んでいるような気がする。もしここで逃げ出したら絶対に追いかけて来るのは目に見えている。

「誰だ、その男は?」
「言わないんだったら・・」

こんな話道明寺としたくないしもうこれ以上昔話なんてしたくなかった。
でも道明寺は納得しそうにない。

「む、昔つき合ってた・・」
昔の男だと?
まさか・・
「偶然会ったの・・お昼を食べに出かけたとき・・」
「なんでその男がおまえの腕に痣を付けるようなことをしたんだ?」

司はつくしの横に立ったままで、つくしは椅子に腰かけたままだ。
威圧しているというわけではないだろうが、体格のいい男に見下ろされていればどうしても威圧感が感じられる。

「なあ・・どうしてこんなことになったんだ?」
「おまえ、何か掴まれて痣を付けられるようなことを・・」
思い浮かべなくていいことが頭を過ったが打ち消すように目を閉じた。
だが次に開かれたときには鋭い光が宿った目でつくしを見ていた。

「まさかその男と・・」
「おまえ、まさか昔の男が忘れられねぇなんて言うんじゃねよな?」
思わず口をついて出た言葉は恋人同士の関係になった女性に言うべきではない言葉だ。

「ひどい・・」
つくしは絶句した。顔が蒼白に変わっていた。
「だからその男をかばってんじゃねぇのか?」
「そうだろうが!昔の男が忘れられないんだろうが!」
「ちがう!」

強い口調で言われ司は一瞬だが押し黙ってしまった。
こいつは嘘をつくのが下手で感情あけっぴろげな女だ。
言ってることは本当だろう。

「なら、言えよ」司の声がやさしくなった。
「話してくれよ、つくし?」
「なんでおまえの腕にこんな痣があるんだ?」

「道明寺に迷惑をかけたくない・・」呟かれた声は小さかった。

昔の男が忘れられないんだろうなんて言われて悲しくなった。
あたしは道明寺のことしか考えていないのに・・
ひとりでいた頃なら強い態度で道明寺にくってかかれた・・・
ひとりでいた頃はこんなに涙もろくなんてなかった・・・
つくしは大きな瞳に涙を滲ませたがこぼれ落ちるのを隠すため、うつむいた。
ポタポタと落ちる涙がグレーのスカートにしみを作った。

「クソッ。泣くな・・」
ひどいと言われ、司もひどい言葉を口にしてしまったとすぐに後悔した。
どうしてあんなことを口にしてしまったのか。
クソッ!

「なあ牧野。・・つくし」やさしい声色でからかうように言った。
「おまえは俺の恋人なんだ。おまえのことを俺が心配するのは当然だろ?」
「さっきはひどいことを言って悪かった。つい・・カッとなっちまって・・悪かった」

司はうつむいたままのつくしに話しかけていたが表情が分からず困惑していた。
「それに何が迷惑になるってんだ?心配事があるなら俺に相談しろよ」
司は席に戻るとうつむいているつくしに聞いた。
「デザートは食べるのか?」
つくしは向かいの席で首を横にふっていた。

「つ、つき合ってくれって言われた・・」とつとつと話し始めた。
「もちろん断った・・逃げようとしたら・・」
「ちくしょう!やっぱりその男がやったんだな?」
つくしはおとなしく頷いた。

昔の男が忘れられないんだろうなんて言っちまったのは完全に俺が悪い。
他の男と街中を歩いている姿を想像して嫉妬してしまったとしか言いようがなかった。
自分が知らない6年前のこいつ。
自分がまだ知らない頃のこいつのことを知っている男が憎いと思ってしまった。
なのにその男じゃなくて、こいつを罵っちまった。
責められるのはこいつの腕に痣なんかつけやがったその男だってのによ!
こいつが誰の女かわかってればそんなことなんて絶対に出来ないはずだ。

今まで嫉妬という感情を持ち合わせたことがなかった司はどれだけ自分がつくしに執着しているのかと言うことに気が付いた。

司は自分が昔から品行方正な坊ちゃんだったなんて思ってもいない。
10代の頃はやんちゃもした。人を傷つけることもした。
こいつはそれを知らないが・・あの頃の俺を知ったらこいつは驚くぞ?
けど、あの頃から決して自分を偽ることはしてない。
そして嘘をつかないことが信念としてあった。
女を傷つけるようなこともした覚えはない。
別れる時もいつもスマートに別れて来たつもりだ。
牧野に手を上げる・・牧野を傷つけるなんてことが許されるか?
ああ。その答えはすぐに見つかった。
こいつが言わなくてもどこのどいつか知らねぇが、すぐに探し出してやる。






***







司はつくしの背中に片手をまわすとそっと優しく抱き上げた。
あれから道明寺系列の病院で診察したが特に異常は見当たらず打撲だと言われた。
全治どのくらいだと聞けば3週間くらいでしょうと言われた。
念のためレントゲンも撮り骨に異常はなかったが、神経の損傷があったら困るからな。
右腕には鎮痛消炎作用のある湿布を貼ったが暫く様子見だな。
これから患部が腫れて神経なんぞ圧迫されるようなことがあったらこいつが困るじゃねぇかよ!右腕だぞ?こいつ記者だぞ?ペンを持つ手が痺れるようなことがあったら困る。
そんなことになったら昔の男ってヤツをぜってぇに許さねぇからな。

こいつは意地っ張りのところもあるが、素直に甘えることも出来る。
まあ、それは最近になってのことだが。
「おまえ、デザート食べなかったけど腹減ってないのか?」
つくしは黙って頷いた。
病院からの帰り牧野はしぶしぶだが相手の男がどんな男かを話し始めた。
聞けばこいつが取材に来たうちの子会社で働く広報の男だった。
なら話しは早い。処分は早いに越したことはない。
それに別れた理由も聞いた。
二十歳で自分の男だと思っていたヤツが他の女とヤッてるところを見たなんて、こいつにとってはかなりショックなことだっただろう。それに自分は男に簡単に騙されるような女だと卑下していたことも知った。だから恋は出来ないと思っていたらしい。
騙されるような思いはしたくないってことか・・
自分が騙されて捨てられたような思いを感じていたから、それを知られたくなかったということも分かった。
ようは女としての自信がないってことだな。それもその昔の男のせいか?


「いいか、つくし。そんな昔の男なんかことで悩む必要なんかないからな」
俺に変な気を使いやがって。俺には何でも正直に話せよ!
おまえが26まで処女だった理由を作った男がそいつ。
その男のせいで男に興味を無くしたんだよな、おまえは。
俺にとってはその男のおかげで・・おまえの初めての男になれたんだからアレだが・・
けど道明寺系列の子会社の社員がストーカーまがいのことをして女を悩ますだと?許せるわけがねぇ。社員教育がなってねぇな。
それも俺の女に手を出す?知らぬが仏ってのはその男のことだな。
そいつには神も仏も居ねぇ地獄行の特急チケットを送りつけてやる。

「うん・・ごめんね・・なんか色々を心配かけて・・」
「逆に俺はおまえの気持ちがわかって嬉しいくらいだ」
だってその男を振り払って逃げようとしてこんな目にあったんだよな?
それって俺の為だろ?


「つかさ・・」
司はつくしをそっとベッドの上に降ろしながら低い声で囁いた。
「愛してる・・つくし」髪を撫でつけると頬に短くキスをした。
「おい、無理しなくていいんだぞ?腕・・」
もう随分と耳慣れてきた低い声が心地よかった。
「大丈夫だから・・」
「だから・・」
ああ、わかってる・・

おまえがそう言う気持ちなら俺もそう言う気持ちだ。

司はつくしの口元に目を落とすとゆっくりと唇を近づけた。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.04.23 07:20 | 編集
ゆ**丸様
おはようございます!
お久しぶりです(^^)お元気ですか?
大人になった司の制裁ですね。
さすがに大人ですので殴る蹴るは・・(笑)
はい、大人対応で制裁してみましたが・・
司の水戸黄門(≧▽≦)!
それにしても御老公様の勧善懲悪は見ていて安心しますよね。
いつもお読み頂きありがとうございます。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.04.23 23:28 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.04.24 22:59 | 編集
さと**ん様
やんちゃな10代を過ごしニューヨーク時代を経験し大人になった司です。
つくしの全てを包み込むような司です。私もそんな司に包まれたい思いでいっぱいです!
司は自分に対しての曖昧な態度は嫌いです。だからごまかすような態度のつくしに少しイライラしていました。
でもつくしの全てをしっかりと受け止めてくれるのが司です。
恋人同士なので甘い時間も必要です(/ω\)同じ気持ちでベッドで何したのでしょう・・
木田、*獄行の特急列車でレッツゴーです。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.04.25 00:49 | 編集
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