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2016
04.15

第一級恋愛罪 32

女とつき合うということがこんなにも難しいことだなんて俺は今のいままで知らなかった。
この前は一歩間違えば大失態を演じていたかもしれない。
だが大人の俺たちがつき合うとなれば、下腹部に生じる変化もあることは理解しているはずだ。
牧野も俺の気持ちと相通ずる何かを感じているらしく、今の二人の関係はつき合いの度合を深めて行く過程にある。それは相互理解を深める過程と言ってもいいはずだ。
勿論、この過程の先にあるのは二人の未来。つまり結婚だ。

結婚を考えたのはこれが初めてだ。
過去に俺と結婚したがった女はいたが、まったくそんな気にはなれなかった。
女の為に自由が奪われる、女の為に時間を使うなんてことは考えられなかった。
だけど今は自由を失っても構わない。むしろ俺の自由な時間は全てあいつの為にある。
だから俺もあいつの時間全てが欲しい・・

問題はあいつの言ってた自制心ってやつをどう突き崩して行くか・・
自制心がある人間は成功すると言われているが、それはあいつにも俺にも当てはまるはずだ。けどあいつが言ってる自制心は欲望を抑えるという意味だろう。克己心とも言うな。

それこそ俺のニューヨーク時代、つまりこいつと出会う前の俺は持ち前の自制心のおかげで、顔に考えが表れることはなかった。クールビューティだと言われた俺。だが今はあいつの前ではその片鱗もないはずだ。

あいつは相変わらず仕事熱心で、それはそれで褒められることだがデートをキャンセルされることもしばしばだ。

この俺が女からデートをキャンセルされるってどういうことだよ!

けど、そうなってみれば俺が昔の女達に味合わせたのと同じ思いってのを理解することが出来た。女に不自由したことがない俺が牧野ひとりに振り回されてるなんてニューヨーク時代の女達が聞けば驚くだろう。
だが俺は牧野に振り回されるのはかまわねぇ。なんなら犬笛でも吹いてくれりゃあすぐにでもあいつの所へ駆けつけるつもりでいる。ああ。俺はあいつの犬になってやる。


牧野いわく、新聞記者はネタが命。常に大きなネタを探して回らなければ他社に出し抜かれるときた。なら俺がおまえだけにうちの会社のネタをやろうか?おまえ俺のインタビュー取りたいって言ってたよな?まだどこの社からのインタビューも受けたことがない俺のインタビューだ。特ダネ級の記事になることには間違いない。約束の半年までは時間があるがこのままで行けばその頃には俺たちはかりそめの恋人から本当の意味での恋人になってるはずだ。
だから約束の半年を待たずにインタビューに答えてやってもいい。
そんなことを言えば約束は約束だから今はまだダメときた。あいつはどこまでも真面目な女だ。
まあ俺はそんな牧野が好きなんだが。




***




「で、なに?司はフラれたの?」感情の起伏が乏しいと思われている類が笑っていた。
「類、俺はフラれてなんかねぇ・・」
笑えば天使と微笑みと言われる男に面白可笑しく言われた司は不機嫌そうに言った。

いつもの四人で飲んでいるのは居心地のいいバーだった。明かりが落とされたなか、ジャズが静かに流れ、革で出来たソファはゆったりと配置され隣の席とは距離があった。
ニューヨーク帰りの男が好むのはバーボンだ。司は二杯目を飲み干したあとで次のグラスが来るのを待っていた。


「司よ、つくしちゃんにデートをドタキャンされたからってその度に俺たちを呼び出すな!」総二郎は不満そうに言い放ったが、幼い頃からの友人の恋の相談には喜んで乗るつもりだ。「あ、でも司。おまえらつき合い始めたって言うけど、そんなんでつき合ってるって言うのか?」
「そうだよ司。おまえら・・ふたりの関係ってあれからどうなったんだ?」
唯一ストーカー事件の現場に立ち会ったあきらはその後の二人の関係を知りたがった。
あきらはホテルの化粧室での出来事を仲間二人に話していた。
実のところ司にも自分達のつき合いは、はたして大人の男女のつき合いなのかと考えることがあった。
食事をして大人しくマンションに帰り、互いの部屋の前で別れるというのをデートと言うのか?それすら疑問に感じていた。
大人の男女ならもっと進展があってもいいはずだが・・


「俺たちの関係か?・・近くて遠い隣人だ・・」
司は深いため息をつくと、しょげた様子で呟いた。
「お、おい・・おまえら隣に住んでるのに、まさか・・まだなのか?」
あきらは信じられないという面持ちで司を見ている。その表情は慰めた方がいいのか憐れんだ方がいいのかと迷っているようだ。

「まじか?司が女とプラトニックな関係でいるなんて信じられねぇ」
総二郎は横目であきらを見た。
「しょうがねぇだろうが!あいつ処女なんだし・・・・」
憐れな隣人司は沈黙に沈むと深くため息をついていた。

「しかし、処女の女に手をこまねく司を見ることになるとは思わなかったな」
「おまえもむやみやたらに迫ってつくしちゃんに嫌われたくないもんな?」
「ああそうだ!総二郎、おまえとは違うんだよ!」
からかい混じりの声に言われた司はムッとした表情で睨んだ。

心の底から欲しいと思う女に手が出せない・・
本当に欲しいものは大切にしたいという思いが司を躊躇させていた。
そう考えてみれば今までの俺は女に対して躊躇などしたことが無かった。
それは本当に欲しかったものではなかったと言うことか?

「まあ頑張れよ、司!」
とあきらが口を開けば総二郎と類も同調し「そうだよ、司」「なんとかなるさ、司」と声をかけた。




隣同士に住むきっかけは俺に対してのストーカー女からの被害を受けないための策だったが、あの問題はもう済んだことだ。
だが牧野は引っ越してはいない。なんならこのまま永久に隣に住んでもいい・・
いや・・隣はだめだ。それじゃあ世帯が別だ。俺は世帯一緒がいい。
住民票の世帯主の欄には俺の名前・・・そして・・「つくし」の名前・・・
同じ世帯にするためには・・隣の部屋との壁をぶち抜いて繋げる手もある。
いっそあいつが留守の間に・・

「それからおまえらに言っとくが、俺はあいつと結婚する」
しばしの沈黙。三人の親友たちは三者三様の顔で見つめ合った。
「つ、司?いま、なんつった?」
「おまえら、まだヤッてもないのにか?」
「そうだぞ、司!体の相性も試してないのにおまえは・・」

三人の表情は明らかに冗談だろうという顔で司を見ていた。
総二郎とあきらは司の突拍子もない行動には慣れてはいたが、いきなり結婚するだの宣言に目を見開いた。昔から司が何かしでかした後、いつも呼ばれたのはこの二人だったからだ。
この調子でいけば何等かのごたごたに巻き込まれるのは目に見えていた。

「俺とあいつは体の相性がいいとか、悪いとかそんなことは関係ないんだよ!」
「そ、そんなもんいいに決まってる」
司は言い張ると体をうしろに倒し腕組みをし、口を緩めほほ笑んだ。

「・・で?つくしちゃんはおまえが結婚したいって思ってることは・・」と類が声を出し司に目をやると「知るわけないか・・」と呟いた。

「おい、おまえら。つくしちゃんなんて気安く呼ぶんじゃねぇよ!さっきから聞いてりゃつくし・・つくしちゃんだなんて・・」
「くそっ!」俺でさえまだ苗字でしか呼んでねぇってのに気安く呼ぶんじゃねぇよ!
どいつもこいつも俺の本気の恋を信じようとはしないなんて、おまえらはそれでもダチかよ!

「しかし司の思い込みは岩をも通すってことか?あいつマジで結婚まで持ち込む気か?」
「いや、通すなら岩じゃなくて隣との壁だろ?」
総二郎とあきらがひそひそと喋っている傍で司は腕を組み直すと三人の男達を睨みつけている。
「・・っるせぇんだよ!俺はこうと決めたらやり通すのが男だと思ってるからな!」
やると決めたらやる。有言実行、初志貫徹だ。

「けどな、司。何も女はつくしちゃんだけじゃないんだぞ?」
「おまえもニューヨークでそれなりに女とはつき合って来たんだからわかるだろうが。可愛いい子は他にいくらでもいるんだぞ?」

「馬鹿野郎!あいつは俺の運命の女なんだよ!」

おまえらに分かってたまるかよ。

あいつは・・
牧野つくしは・・
やっと見つけた運命の女なんだ・・・






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