司は全力で駆け出していた。
独占欲の強い男にとって自分の好きな女を守れないことがどれほどの屈辱か。
牧野は俺のものだと言う権利はまだないがあいつは俺のものだ。
あいつ確かに化粧室って言ったよな?見取り図を見なくても場所は分かる。
そこは長い廊下の角を曲がった奥に配置されていた。
「牧野っ!」
化粧室に飛び込んだ司が見たのは真紀の後姿だった。
そしてその向こうに手を掴まれたつくしの姿を認めた。
「ど、道明寺!」
「てめぇ何してやがる!」怒号が上がった。
それは今までつくしが聞いたことがないような声だ。
「司っ、来てくれたのね?この女がわたしの指輪を取ったの!」真紀は振り向くと叫んだ。
「司がわたしの為に選んでくれた指輪なのにこの女が盗んだのよ!」
「この女は泥棒猫よ!」
真紀の顔が憤怒に歪んでいるのが見て取れた。目はつり上がり、唇がわなわなと震えている。真紀はつくしの手を掴んだまま離そうとはしなかった。
「おい女!牧野に触るんじゃねえ!」女でも容赦しないとばかりに凄んだ。
「道明寺、やめて!」
「ま、真紀さんは心の病気なのよ!」つくしは気丈に振る舞ってはいたが内心では怯えていた。
「病気だろうがそうじゃなかろうがそんなことは関係ねぇ!」
司は目を怒らせ真紀を睨みつけているが、今にも殴りつけそうな勢いだ。
「おい、司!やめろ!相手は女だぞ!」
さして時間を置かず化粧室に飛び込んできたのはあきらだった。
司はくるりとふり向いた。
その途端、真紀はつくしから手を離し司の背中へと抱きついた。
「司っ!わたしのこと嫌いになったの?」
「わたし捨てられるの?」真紀は泣きはじめた。
「・・っつ、離れろ!おまえみたいな女誰が捨てるんだ!」
「捨てるも何も俺たちはつき合ってなんかねぇぞ!」
「離れろ!ブス女!」
「嫌よ!絶対に離れない!」
真紀は司の背中に縋り付いて離れようとはしない。
「真紀さん?」つくしは傍に寄ると優しく声をかけた。
「牧野っ!この女に近寄るな!こいつは狂ってる!」
「おい!あきらなにしてるんだ!この女なんとかしろ!」
司は背中に抱きつく女を振りほどこうとしていた。
「道明寺、いいのよ・・大丈夫だから・・じっとしてて・・」
「何がいいんだよ!この女をなんとかしろ!」
「あきら!なにしてんだ早くしろ!」
司は早くこの女を自分の背中から引き離せと喚いていた。
「ちょっと!道明寺、お願いだから少しだけじっとしてて!」
「真紀さん?この人はあなたの御主人じゃない。違うの。あなたの御主人はリチャードさんでしょ?」つくしの問いかけに真紀はわずかながらに頷いた。
「真紀さん?」つくしはゆっくりと尋ねた。
「あの人、会社の若い女に手をつけたの!わ、わたしのことなんて・・もう愛してないのよ!」目に涙を溜めて体を激しく震わせている。
「わたしは彼のことを愛しているのに・・わたしは捨てられるの?」
「わたしのどこがいけないのよ?」
真紀は呟くほどの声で自分自身に問いかけているようだ。
「嫌よ!そんなの絶対許さない!」
「わたしは絶対に別れてなんかやらないわ!」
否定の言葉は強くなり自問自答を繰り返していた。調子を合わせた方がいいならそうしようと思った。こんなとき否定をすることは良くないはずだ。
つくしは記者という仕事柄学んでいた。
他人の話を聞くと言うことを。自分の意見はなるべく言わず、あまり受け答えをせず、親身になって話を聞くこと。そしてただひたすら話を聞いてあげることが大切だ。今の真紀さんは喋りたがっている。そんな時は喋らせる方がいい。
「真紀さん、大丈夫だから・・」つくしは真紀に調子を合わせてみることにした。
「ね?落ち着いて・・」
「話したいことがあったら何でも聞くから」
つくしは真紀の肩に手を添えると自分の方へと体をあずけさせるようにした。
真紀は司の背中から離れ、つくしに抱きつくとわっと声をあげ泣きはじめた。
夫の浮気に悩むあまり心の病にかかってしまったのだろう。
自分の前に現れた司に何かを感じたのかもしれないがこの女性の心は、すでに精神的に持ちこたえられる限界まで来てしまったようだった。
「み、美作さん?」つくしはあきらを見た。
「会場にリチャード・ベケットさんがいるはずなので探して来てもらえませんか?」
「ああ。わかった。すぐに呼んで来るけど・・大丈夫なのか?」
あきらはこのまま三人にしても問題はないのかと聞いた。
「大丈夫ですから・・」
「でもなるべく早くお願いします」
つくしの返事を聞いたあきらは司へと目をやり何やら納得したように頷いた。
ここは俺がついてるから問題ないと言われたのだろう。あきらはすぐに探してくるからと言ってパーティー会場へと戻って行った。
真紀はつくしに縋り付いたまま泣き続けていた。
化粧は涙で流れ落ちてしまい初めて会った時の美しさは無かった。
「真紀さん!」
「しっかりして!」
と、つくしは一喝した。
***
あきらに連れてこられたリチャード・ベケットは化粧室で妻のおかれた状況を見て瞬時に理解したようだ。当人の話では確かに自分は会社の若い女性と浮気をしていたことはあるが、今はそんなことはない。それに自分は今でも妻を愛していると答えた。それが真実かどうかは分からないが真紀のことは迷惑をかけてしまい大変申し訳なかったと謝罪した。
つくしは決して寒いわけではないのに自分の体に腕を回しブルブルと震えていた。
それは先ほどまで見せていた態度からは一変していた。
強い態度でいたのは見せかけで相当怖い思いをしたということだろう。
司はジャケットの上着を脱ぐとつくしの肩にそっとかけた。
「あ、ありがとう」胸元を手繰り寄せるようにすれば匂いとぬくもりに包まれた。
つくしは何を見ているというわけではなかったが、目の前に見える司の手を見ていた。
糊のきいた白いシャツの袖口に覗く時計とカフリンクスを見ていた。
今日もオニキスなんだ・・でもこの前のとは違うなとぼんやりと思った。
「俺のせいでこんなことになって悪かった」
ぼんやりとしているつくしの顔を覗き込むようにして言った。
目の前に見える司の顔は怒りの表情から打って変わり血の気が引いたように青ざめていた。
「ううん、大丈夫。気にしないで・・」
「あたしも、まさか真紀さんがあんなことをするなんて思ってもみなかった・・」
真紀はつくしの左手薬指に嵌まっている指輪を抜き取ろうとしていた。真紀がつくしの指輪に執着した理由は不明だが愛が込められた婚約指輪というものが憎らしかったのかもしれない。
でも・・・
あたしの指輪には愛など込められていない借り物の指輪に過ぎないけれど・・
「俺がおまえをかりそめの恋人だなんて仕立てなきゃこんなことにはならなかったよな?」
「だ、大丈夫よ!ほら何も無かったんだから・・」
「そ、それに道明寺のせいじゃないんだから・・」
「あ、あたしは守ってもらわなきゃいけないような女じゃないし・・」
つくしはそう言いながらも本当は守ってくれてありがとう、助けにきてくれてありがとうと言いたかった。でもそれは自分の心の中にだけに留めることにした。
「あんな女、痛い目にあわせてやればいい」
「だ、ダメよ道明寺!あ、あの人、真紀さんは心が病んでるの・・」
「そんなことしたら・・」
「もしあの女がおまえに手ぇ出してたら手段選ばずだったな」
「な、なにそれ?あんた・・まさか・・」
「なんだよ?あほか。いくら何でも殺しゃしねえよ」
「けど、おまえに何かあったらそんな選択もあったかもしれねぇな」
司は無表情でそんな言葉を言い放った。
こいつは何も無かったんだからいいと言うがはたして俺が来なくても、なんとかなったのかと思わずにはいられなかった。行ってみたらあの女がこいつの手を掴んで離しゃしねぇ。あの時のあの女の目つきはどう見ても異常だった。刃物でも持ってて刺されたらどうするつもりだったんだよ!
「けどおまえ、なかなか肝が据わってんな」
「普通の女なら泣き叫ぶとかしてんじゃねぇのか?」
司はしげしげとつくしの顔を見た。
「へ、平気よ!このくらい」強がりな口をきいた。
「新聞記者なんて修羅場を乗り越えないと出来ないんだから・・」
「ストーカー事件なんて、こ、これ以上の・・」
「こ、このくらいの修羅場なんて・・・」
つくしは先ほどまでピンと張っていた緊張の糸が切れたかのようにヘナヘナと床に座り込んでしまった。それはまるで全身の力が抜け落ちてしまったようだった。
「おい?ま、牧野?大丈夫か?」司は座り込んだつくしの前に膝をついた。
「う、うん・・だ、大丈夫・・だから・・」
嘘だ。限界だった。傍から見れば落ち着き払ったように見えたかもしれないが怖くてどうしようもなかった。それでも心配はかけまいと答えていた。
「なあ牧野・・」司はじっとつくしを見た。
こいつは自分がどれだけ俺に心配をかけたかなんて気にも留めてないんだろう。
おまえに気がある男が目の前にいるっていうのにこの無防備さ。
男の扱いなんてまったく分かってない。
今のこいつの顔には隠そうにも隠せない開けっぴろげな気持ちが表れていた。
それは俺がこれから何をするのかという不審が窺えた。
こいつは他の女とは違う。まったく違う女だ。他の女がどこでどうなろうと知ったこっちゃねぇがこいつが傷つけられるなんてことは俺には許せない。そんなことをする人間がいたら俺が始末してやる。心配かけやがってと悪態をつきたくなるのをぐっとこらえた。
しかし、よりによってこの女はなんでこんなに無防備な顔して俺を見てるんだ?
さっきまで不審そうに見てたこいつの顔はいつの間にかいつもの顔に戻っていやがる。
だからおまえはお人よしだって言うんだよ!
なあ牧野、かわいらしい顔してみろよ?笑ってみろよ?
暖かい手がつくしの頬に触れたかと思うと切れ長の瞳が目の前に迫ってきた。
「抱きしめてもいいか?」
驚いた様子で返事は無かったが司はつくしを引き寄せると背中に両手をまわした。
「俺はおまえに何かあったらと思ったら生きた心地がしなかった」
「俺はおまえが好きだ」

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化粧室に飛び込んだ司が見たのは真紀の後姿だった。
そしてその向こうに手を掴まれたつくしの姿を認めた。
「ど、道明寺!」
「てめぇ何してやがる!」怒号が上がった。
それは今までつくしが聞いたことがないような声だ。
「司っ、来てくれたのね?この女がわたしの指輪を取ったの!」真紀は振り向くと叫んだ。
「司がわたしの為に選んでくれた指輪なのにこの女が盗んだのよ!」
「この女は泥棒猫よ!」
真紀の顔が憤怒に歪んでいるのが見て取れた。目はつり上がり、唇がわなわなと震えている。真紀はつくしの手を掴んだまま離そうとはしなかった。
「おい女!牧野に触るんじゃねえ!」女でも容赦しないとばかりに凄んだ。
「道明寺、やめて!」
「ま、真紀さんは心の病気なのよ!」つくしは気丈に振る舞ってはいたが内心では怯えていた。
「病気だろうがそうじゃなかろうがそんなことは関係ねぇ!」
司は目を怒らせ真紀を睨みつけているが、今にも殴りつけそうな勢いだ。
「おい、司!やめろ!相手は女だぞ!」
さして時間を置かず化粧室に飛び込んできたのはあきらだった。
司はくるりとふり向いた。
その途端、真紀はつくしから手を離し司の背中へと抱きついた。
「司っ!わたしのこと嫌いになったの?」
「わたし捨てられるの?」真紀は泣きはじめた。
「・・っつ、離れろ!おまえみたいな女誰が捨てるんだ!」
「捨てるも何も俺たちはつき合ってなんかねぇぞ!」
「離れろ!ブス女!」
「嫌よ!絶対に離れない!」
真紀は司の背中に縋り付いて離れようとはしない。
「真紀さん?」つくしは傍に寄ると優しく声をかけた。
「牧野っ!この女に近寄るな!こいつは狂ってる!」
「おい!あきらなにしてるんだ!この女なんとかしろ!」
司は背中に抱きつく女を振りほどこうとしていた。
「道明寺、いいのよ・・大丈夫だから・・じっとしてて・・」
「何がいいんだよ!この女をなんとかしろ!」
「あきら!なにしてんだ早くしろ!」
司は早くこの女を自分の背中から引き離せと喚いていた。
「ちょっと!道明寺、お願いだから少しだけじっとしてて!」
「真紀さん?この人はあなたの御主人じゃない。違うの。あなたの御主人はリチャードさんでしょ?」つくしの問いかけに真紀はわずかながらに頷いた。
「真紀さん?」つくしはゆっくりと尋ねた。
「あの人、会社の若い女に手をつけたの!わ、わたしのことなんて・・もう愛してないのよ!」目に涙を溜めて体を激しく震わせている。
「わたしは彼のことを愛しているのに・・わたしは捨てられるの?」
「わたしのどこがいけないのよ?」
真紀は呟くほどの声で自分自身に問いかけているようだ。
「嫌よ!そんなの絶対許さない!」
「わたしは絶対に別れてなんかやらないわ!」
否定の言葉は強くなり自問自答を繰り返していた。調子を合わせた方がいいならそうしようと思った。こんなとき否定をすることは良くないはずだ。
つくしは記者という仕事柄学んでいた。
他人の話を聞くと言うことを。自分の意見はなるべく言わず、あまり受け答えをせず、親身になって話を聞くこと。そしてただひたすら話を聞いてあげることが大切だ。今の真紀さんは喋りたがっている。そんな時は喋らせる方がいい。
「真紀さん、大丈夫だから・・」つくしは真紀に調子を合わせてみることにした。
「ね?落ち着いて・・」
「話したいことがあったら何でも聞くから」
つくしは真紀の肩に手を添えると自分の方へと体をあずけさせるようにした。
真紀は司の背中から離れ、つくしに抱きつくとわっと声をあげ泣きはじめた。
夫の浮気に悩むあまり心の病にかかってしまったのだろう。
自分の前に現れた司に何かを感じたのかもしれないがこの女性の心は、すでに精神的に持ちこたえられる限界まで来てしまったようだった。
「み、美作さん?」つくしはあきらを見た。
「会場にリチャード・ベケットさんがいるはずなので探して来てもらえませんか?」
「ああ。わかった。すぐに呼んで来るけど・・大丈夫なのか?」
あきらはこのまま三人にしても問題はないのかと聞いた。
「大丈夫ですから・・」
「でもなるべく早くお願いします」
つくしの返事を聞いたあきらは司へと目をやり何やら納得したように頷いた。
ここは俺がついてるから問題ないと言われたのだろう。あきらはすぐに探してくるからと言ってパーティー会場へと戻って行った。
真紀はつくしに縋り付いたまま泣き続けていた。
化粧は涙で流れ落ちてしまい初めて会った時の美しさは無かった。
「真紀さん!」
「しっかりして!」
と、つくしは一喝した。
***
あきらに連れてこられたリチャード・ベケットは化粧室で妻のおかれた状況を見て瞬時に理解したようだ。当人の話では確かに自分は会社の若い女性と浮気をしていたことはあるが、今はそんなことはない。それに自分は今でも妻を愛していると答えた。それが真実かどうかは分からないが真紀のことは迷惑をかけてしまい大変申し訳なかったと謝罪した。
つくしは決して寒いわけではないのに自分の体に腕を回しブルブルと震えていた。
それは先ほどまで見せていた態度からは一変していた。
強い態度でいたのは見せかけで相当怖い思いをしたということだろう。
司はジャケットの上着を脱ぐとつくしの肩にそっとかけた。
「あ、ありがとう」胸元を手繰り寄せるようにすれば匂いとぬくもりに包まれた。
つくしは何を見ているというわけではなかったが、目の前に見える司の手を見ていた。
糊のきいた白いシャツの袖口に覗く時計とカフリンクスを見ていた。
今日もオニキスなんだ・・でもこの前のとは違うなとぼんやりと思った。
「俺のせいでこんなことになって悪かった」
ぼんやりとしているつくしの顔を覗き込むようにして言った。
目の前に見える司の顔は怒りの表情から打って変わり血の気が引いたように青ざめていた。
「ううん、大丈夫。気にしないで・・」
「あたしも、まさか真紀さんがあんなことをするなんて思ってもみなかった・・」
真紀はつくしの左手薬指に嵌まっている指輪を抜き取ろうとしていた。真紀がつくしの指輪に執着した理由は不明だが愛が込められた婚約指輪というものが憎らしかったのかもしれない。
でも・・・
あたしの指輪には愛など込められていない借り物の指輪に過ぎないけれど・・
「俺がおまえをかりそめの恋人だなんて仕立てなきゃこんなことにはならなかったよな?」
「だ、大丈夫よ!ほら何も無かったんだから・・」
「そ、それに道明寺のせいじゃないんだから・・」
「あ、あたしは守ってもらわなきゃいけないような女じゃないし・・」
つくしはそう言いながらも本当は守ってくれてありがとう、助けにきてくれてありがとうと言いたかった。でもそれは自分の心の中にだけに留めることにした。
「あんな女、痛い目にあわせてやればいい」
「だ、ダメよ道明寺!あ、あの人、真紀さんは心が病んでるの・・」
「そんなことしたら・・」
「もしあの女がおまえに手ぇ出してたら手段選ばずだったな」
「な、なにそれ?あんた・・まさか・・」
「なんだよ?あほか。いくら何でも殺しゃしねえよ」
「けど、おまえに何かあったらそんな選択もあったかもしれねぇな」
司は無表情でそんな言葉を言い放った。
こいつは何も無かったんだからいいと言うがはたして俺が来なくても、なんとかなったのかと思わずにはいられなかった。行ってみたらあの女がこいつの手を掴んで離しゃしねぇ。あの時のあの女の目つきはどう見ても異常だった。刃物でも持ってて刺されたらどうするつもりだったんだよ!
「けどおまえ、なかなか肝が据わってんな」
「普通の女なら泣き叫ぶとかしてんじゃねぇのか?」
司はしげしげとつくしの顔を見た。
「へ、平気よ!このくらい」強がりな口をきいた。
「新聞記者なんて修羅場を乗り越えないと出来ないんだから・・」
「ストーカー事件なんて、こ、これ以上の・・」
「こ、このくらいの修羅場なんて・・・」
つくしは先ほどまでピンと張っていた緊張の糸が切れたかのようにヘナヘナと床に座り込んでしまった。それはまるで全身の力が抜け落ちてしまったようだった。
「おい?ま、牧野?大丈夫か?」司は座り込んだつくしの前に膝をついた。
「う、うん・・だ、大丈夫・・だから・・」
嘘だ。限界だった。傍から見れば落ち着き払ったように見えたかもしれないが怖くてどうしようもなかった。それでも心配はかけまいと答えていた。
「なあ牧野・・」司はじっとつくしを見た。
こいつは自分がどれだけ俺に心配をかけたかなんて気にも留めてないんだろう。
おまえに気がある男が目の前にいるっていうのにこの無防備さ。
男の扱いなんてまったく分かってない。
今のこいつの顔には隠そうにも隠せない開けっぴろげな気持ちが表れていた。
それは俺がこれから何をするのかという不審が窺えた。
こいつは他の女とは違う。まったく違う女だ。他の女がどこでどうなろうと知ったこっちゃねぇがこいつが傷つけられるなんてことは俺には許せない。そんなことをする人間がいたら俺が始末してやる。心配かけやがってと悪態をつきたくなるのをぐっとこらえた。
しかし、よりによってこの女はなんでこんなに無防備な顔して俺を見てるんだ?
さっきまで不審そうに見てたこいつの顔はいつの間にかいつもの顔に戻っていやがる。
だからおまえはお人よしだって言うんだよ!
なあ牧野、かわいらしい顔してみろよ?笑ってみろよ?
暖かい手がつくしの頬に触れたかと思うと切れ長の瞳が目の前に迫ってきた。
「抱きしめてもいいか?」
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Comment:5
コメント
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H*様
おはようございます!
司、自分の気持ちをストレートに伝えました。
やはりシンプルな言葉が一番気持ちを伝えることが出来るのかもしれません。
さあ、つくしちゃんはどうするのでしょう。
拍手コメント有難うございました(^^)
おはようございます!
司、自分の気持ちをストレートに伝えました。
やはりシンプルな言葉が一番気持ちを伝えることが出来るのかもしれません。
さあ、つくしちゃんはどうするのでしょう。
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.04.13 23:23 | 編集

委*長→ゆ**ち様
やっとここまで来ました(^^)
つくしちゃんは勘違い妄想が得意です。
考え過ぎなんですよね、うちのつくしちゃん。
どうも頭でっかち女の傾向があるようです(笑)
コメント有難うございました(^^)
やっとここまで来ました(^^)
つくしちゃんは勘違い妄想が得意です。
考え過ぎなんですよね、うちのつくしちゃん。
どうも頭でっかち女の傾向があるようです(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.04.13 23:39 | 編集

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さと**ん様
男の扱いを知らないつくしですので、司のこの先が思いやられます。
抱きしめてもいいか?←聞いて欲しいです!答えはもちろんYES!
いいですよね・・抱きしめて欲しいです!
「おまえが好きだ」それだけでも満足ですが、やはり気の利いたセリフがあれば場も盛り上がりそうですよね?(^^)
コメント有難うございました(^^)
男の扱いを知らないつくしですので、司のこの先が思いやられます。
抱きしめてもいいか?←聞いて欲しいです!答えはもちろんYES!
いいですよね・・抱きしめて欲しいです!
「おまえが好きだ」それだけでも満足ですが、やはり気の利いたセリフがあれば場も盛り上がりそうですよね?(^^)
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.04.14 23:09 | 編集
