道明寺司を意識している。意識し過ぎていると言ったほうがいいかもしれない。
嫌味な男だけとかっこいい。
かっこいいけど嫌味な男。
まあ、どっちも同じことか・・
口が悪くていやらしいことも平気で口にする男。だけどそんな話をしていてもどういうわけか胸が高まる。
パーティーに出れば誰よりも華やかさを纏っていて自信満々の態度。
だけどあいつ外面は氷の仮面を被っているみたいで人当たりがいいなんてとても言えたものじゃない。知り合った初めの頃がまさにそれだった。なんの心積もりもなくかりそめの恋人になったわけで、その時のつくしにしてみればあの男のはっきりとした目的も分からずじまいだったが独占インタビューが出来るということに舞い上がってしまっていた。
どうせかりそめの恋人役なんて大したことがないと高を括っていたが、あの男の立場に立ってみればモテる男も結構大変なんだと思い始めていた。
自分の娘をあてがいたがるタヌキ親父とか、自らの体を投げ出さんばかりに近づいてくる女狐とか、まさに狐とタヌキの騙し合いみたいなこともあった。
それも一度に何人もの女が寄ってくるんだから大変だ。でもあの男ならそんな女なんて自分で対処できるはずだなんてことを考えてもみたが、ここまで来たらもうどうでもよくなってきた。こうなったら駆け出し女優から脱皮して主演女優として与えられた役を演じ切ってやる!
しかし道明寺も気の毒に。人妻からストーカーされるなんて、それもお姉さんの友人だったというから対処に困るのも無理はないか。
履きなれないヒールでの足の痛さも、普段着る事のないドレスも半年の約束が終わればお姉さんに返すつもりだ。一度袖を通したものなんて価値がないのはわかっているけど、あんなものはあたしには分不相応で持て余してしまう。
地味でドンくさい女がプリンセスに変身したとは思わないけど女性として美しく着飾るという楽しみを味わわせてもらった。
つくしはそんな思いを巡らせながらトイレの個室から出ようとしていたところで入口の扉が開く音を聞いた。
「ねえ、道明寺さんの連れの女性・・」
「ああ、あの人?」
「彼女のこと知ってる?」
どうやら女性三人が連れだって来たらしい。交わされている話の内容が自分のことだとわかったつくしはそのまま暫く個室にとどまることにした。
まさか噂話の張本人が扉一枚隔てた個室の中で便器の蓋に腰かけているなんてこととは思ってもいないだろう。つくしは息を殺して大人しくしていた。
「とてもあたし達とはつき合いがあるような人間には見えないんだけど」
「道明寺さん、どうしてあんな人とつき合っているのかしらね?」
「ただ興味本位なだけなんじゃない?」
三人の声はいちいち耳に障るような高い声だった。
興味本位なだけの女があんた達の後ろでロダンの考える人みたいな姿勢でいるなんて思いもしないだろうけど。
「え?まさか・・体だけが目当てとか?」
「やだ、まさかあの体よ?どこがいいのよ?」バカにしたような声が聞えた。
「そうよね?あんな貧弱な胸なんて男が欲しがるような胸じゃないわよね?」
「あんな女そのうち捨てられるわよ」
「豊胸手術でもすれば違うんじゃないの?」
「ついでに顔もしてもらえば?」
「それにあのドレスなに?全然似合わない」
出るに出られなくなった。
つくしは目を伏せてドレスを見た。お姉さんが選んでくれたドレスなのにどこが悪いのよ?貧弱な胸で悪かったわね!顔なんて今のままで充分よ!
自分のことをこんなふうに言われていることは知っていた。あからさまな非難なんて今さらだし、なんと言われようが別に構わなかった。別にあの男とあたしは本気でつき合っているわけじゃないし、これはあくまでも仕事の一環であって恋でもないし愛でもない。
恋愛か・・
嫌な記憶が甦った。それは大学生の頃・・・
つくしはたまたま自分の講義が教授の都合で休みになったので早めに帰宅することにした。
そして思い出したかのように当時つき合っていた彼のアパートを訪ねることにした。
そう言えば今日は体調が悪いとかで休むと言っていたし、なにか美味しいものでも作ってあげようと近くのスーパーで買い物を済ませ部屋を訪ねた。
運命のあの日だったのかもしれない。思い立ったのが悪かったのかもしれない。
でもあれで良かったのかもしれない。
アパートの玄関の鍵は開いていた。鍵を掛け忘れたのかと思い何も気にしなかったが
部屋の中へ足を踏み入れたとき何かが違うと気が付いた。脱ぎ捨てられた洋服と靴下。
本当は玄関にその予兆はあったはずなのに気が付かなかった。それはやっぱりあたしがドンくさい女と言われる所以なのかもしれない。
彼はいた。ベッドの中に入っていたがひとりでは無かった。
彼と絡み合っていた女は幸いつくしの知らない女だった。
「ま、牧野・・ま、待ってくれ!」転がるようにして女のうえから降りた男は慌てて服を掴むとつくしの傍に近寄ろうとした。
「ちょっとぉ、誰よこの女?」
「うるさい!黙ってろ!」
「牧野、これは違うんだ!誤解だ!」
つくしはひと言も言わず走って逃げた。
ただひたすら走った。
走って近くの駅まで来たとき、やっと自分が泣いていたことに気がついた。
バカみたい・・
あたしが体を許さなかったから他の女と寝たとあとから聞かされた。
男なんて欲望の塊なんだ。彼女がいるのに何もさせてもらえないなんて地獄だ。
たいした女でもないのになに勿体ぶってんだよ?なんでやらせないんだよ?
おまえ女としてどこか問題でもあるのか?
これがあたしの悲惨な恋愛体験。それでも大惨事になる手前だったと自分では思ってる。
自分の彼氏だと思っていた男が他の女と絡み合ってるところなんて誰が見たい?
なのにあたしはそれを目撃したんだから最悪な恋愛経験しかまだない。
でも、かわいそうなあたし・・なんて自分のことを憐れむことなんてしない。
あたしは生涯いち記者として生きるの。
そうよ・・恋人なんていらないんだから!
仕事の妨げになるような男なんてあたしには必要ない。
つくしはぼんやりと物思いにふけっていたせいで、先ほどまで聞こえていた声の持ち主たちがいなくなったことに気づかず座り込んだままでいた。
今のあたしにとっては男なんて必要ない。
それでも心のどこかにあの男を魅力的だなんて思っている自分がいることに不安を覚えた。
あのときの恋愛が自分の心にひどい傷を残したから二度と恋なんてしたいと思わなくなっていたのに・・
特に道明寺司だなんて仕事じゃなかったらかかわり合いになんてなりたくない男だ。
あの男なんて・・嫌味で人に命令することに慣れていて、横暴で、それでもセクシーでカッコいいなんてやっぱり不公平だ。でも人生にはセックス以外にも素敵なことが沢山ある。
今のあたしはあの男のかりそめの恋人役を無事に勤めあげて記事を書くことが目標なんだから。
・・・だから・・・あの男に・・
道明寺司に心が動いたとしても傷つきたくないから・・・
自分の気持ちに蓋をすることにした。

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まあ、どっちも同じことか・・
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だけどあいつ外面は氷の仮面を被っているみたいで人当たりがいいなんてとても言えたものじゃない。知り合った初めの頃がまさにそれだった。なんの心積もりもなくかりそめの恋人になったわけで、その時のつくしにしてみればあの男のはっきりとした目的も分からずじまいだったが独占インタビューが出来るということに舞い上がってしまっていた。
どうせかりそめの恋人役なんて大したことがないと高を括っていたが、あの男の立場に立ってみればモテる男も結構大変なんだと思い始めていた。
自分の娘をあてがいたがるタヌキ親父とか、自らの体を投げ出さんばかりに近づいてくる女狐とか、まさに狐とタヌキの騙し合いみたいなこともあった。
それも一度に何人もの女が寄ってくるんだから大変だ。でもあの男ならそんな女なんて自分で対処できるはずだなんてことを考えてもみたが、ここまで来たらもうどうでもよくなってきた。こうなったら駆け出し女優から脱皮して主演女優として与えられた役を演じ切ってやる!
しかし道明寺も気の毒に。人妻からストーカーされるなんて、それもお姉さんの友人だったというから対処に困るのも無理はないか。
履きなれないヒールでの足の痛さも、普段着る事のないドレスも半年の約束が終わればお姉さんに返すつもりだ。一度袖を通したものなんて価値がないのはわかっているけど、あんなものはあたしには分不相応で持て余してしまう。
地味でドンくさい女がプリンセスに変身したとは思わないけど女性として美しく着飾るという楽しみを味わわせてもらった。
つくしはそんな思いを巡らせながらトイレの個室から出ようとしていたところで入口の扉が開く音を聞いた。
「ねえ、道明寺さんの連れの女性・・」
「ああ、あの人?」
「彼女のこと知ってる?」
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まさか噂話の張本人が扉一枚隔てた個室の中で便器の蓋に腰かけているなんてこととは思ってもいないだろう。つくしは息を殺して大人しくしていた。
「とてもあたし達とはつき合いがあるような人間には見えないんだけど」
「道明寺さん、どうしてあんな人とつき合っているのかしらね?」
「ただ興味本位なだけなんじゃない?」
三人の声はいちいち耳に障るような高い声だった。
興味本位なだけの女があんた達の後ろでロダンの考える人みたいな姿勢でいるなんて思いもしないだろうけど。
「え?まさか・・体だけが目当てとか?」
「やだ、まさかあの体よ?どこがいいのよ?」バカにしたような声が聞えた。
「そうよね?あんな貧弱な胸なんて男が欲しがるような胸じゃないわよね?」
「あんな女そのうち捨てられるわよ」
「豊胸手術でもすれば違うんじゃないの?」
「ついでに顔もしてもらえば?」
「それにあのドレスなに?全然似合わない」
出るに出られなくなった。
つくしは目を伏せてドレスを見た。お姉さんが選んでくれたドレスなのにどこが悪いのよ?貧弱な胸で悪かったわね!顔なんて今のままで充分よ!
自分のことをこんなふうに言われていることは知っていた。あからさまな非難なんて今さらだし、なんと言われようが別に構わなかった。別にあの男とあたしは本気でつき合っているわけじゃないし、これはあくまでも仕事の一環であって恋でもないし愛でもない。
恋愛か・・
嫌な記憶が甦った。それは大学生の頃・・・
つくしはたまたま自分の講義が教授の都合で休みになったので早めに帰宅することにした。
そして思い出したかのように当時つき合っていた彼のアパートを訪ねることにした。
そう言えば今日は体調が悪いとかで休むと言っていたし、なにか美味しいものでも作ってあげようと近くのスーパーで買い物を済ませ部屋を訪ねた。
運命のあの日だったのかもしれない。思い立ったのが悪かったのかもしれない。
でもあれで良かったのかもしれない。
アパートの玄関の鍵は開いていた。鍵を掛け忘れたのかと思い何も気にしなかったが
部屋の中へ足を踏み入れたとき何かが違うと気が付いた。脱ぎ捨てられた洋服と靴下。
本当は玄関にその予兆はあったはずなのに気が付かなかった。それはやっぱりあたしがドンくさい女と言われる所以なのかもしれない。
彼はいた。ベッドの中に入っていたがひとりでは無かった。
彼と絡み合っていた女は幸いつくしの知らない女だった。
「ま、牧野・・ま、待ってくれ!」転がるようにして女のうえから降りた男は慌てて服を掴むとつくしの傍に近寄ろうとした。
「ちょっとぉ、誰よこの女?」
「うるさい!黙ってろ!」
「牧野、これは違うんだ!誤解だ!」
つくしはひと言も言わず走って逃げた。
ただひたすら走った。
走って近くの駅まで来たとき、やっと自分が泣いていたことに気がついた。
バカみたい・・
あたしが体を許さなかったから他の女と寝たとあとから聞かされた。
男なんて欲望の塊なんだ。彼女がいるのに何もさせてもらえないなんて地獄だ。
たいした女でもないのになに勿体ぶってんだよ?なんでやらせないんだよ?
おまえ女としてどこか問題でもあるのか?
これがあたしの悲惨な恋愛体験。それでも大惨事になる手前だったと自分では思ってる。
自分の彼氏だと思っていた男が他の女と絡み合ってるところなんて誰が見たい?
なのにあたしはそれを目撃したんだから最悪な恋愛経験しかまだない。
でも、かわいそうなあたし・・なんて自分のことを憐れむことなんてしない。
あたしは生涯いち記者として生きるの。
そうよ・・恋人なんていらないんだから!
仕事の妨げになるような男なんてあたしには必要ない。
つくしはぼんやりと物思いにふけっていたせいで、先ほどまで聞こえていた声の持ち主たちがいなくなったことに気づかず座り込んだままでいた。
今のあたしにとっては男なんて必要ない。
それでも心のどこかにあの男を魅力的だなんて思っている自分がいることに不安を覚えた。
あのときの恋愛が自分の心にひどい傷を残したから二度と恋なんてしたいと思わなくなっていたのに・・
特に道明寺司だなんて仕事じゃなかったらかかわり合いになんてなりたくない男だ。
あの男なんて・・嫌味で人に命令することに慣れていて、横暴で、それでもセクシーでカッコいいなんてやっぱり不公平だ。でも人生にはセックス以外にも素敵なことが沢山ある。
今のあたしはあの男のかりそめの恋人役を無事に勤めあげて記事を書くことが目標なんだから。
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道明寺司に心が動いたとしても傷つきたくないから・・・
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Comment:4
コメント
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as***na様
つくしちゃんの過去。嫌ですね、こんな男。
と、いいながらも我が友に踏み込まれた女がいます。
踏み込んだ相手は逃げて行かずでしたのでね。大変みたいでした。
つくしちゃんの心の蓋をこじ開けるのはやはり司しかいないと思います。
コメント有難うございました(^^)
つくしちゃんの過去。嫌ですね、こんな男。
と、いいながらも我が友に踏み込まれた女がいます。
踏み込んだ相手は逃げて行かずでしたのでね。大変みたいでした。
つくしちゃんの心の蓋をこじ開けるのはやはり司しかいないと思います。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.04.11 22:49 | 編集

さと**ん様
とんでもない男との恋愛経験で心に傷を負ったつくしです。
あとから聞かされた話は直接聞いたようです。それもまた悲しいですよね・・
現場で言い訳!何が誤解だ!(; ・`д・´)上に乗っかっといて何を言ってんだッ!
実際に目撃した場合・・そうですねぇ・・③はちょっとアレなんで、④もいいけどもうやってないし・・
消去法でやっぱり①でしょうか。う~ん、でもどれも捨てがたい・・(笑)
さと**ん様の⑤の選択、想像すると笑えますが司でやってみたい気もするんです。
あの司なら承諾してくれそうですよね(笑)
コメント有難うございました(^^)
とんでもない男との恋愛経験で心に傷を負ったつくしです。
あとから聞かされた話は直接聞いたようです。それもまた悲しいですよね・・
現場で言い訳!何が誤解だ!(; ・`д・´)上に乗っかっといて何を言ってんだッ!
実際に目撃した場合・・そうですねぇ・・③はちょっとアレなんで、④もいいけどもうやってないし・・
消去法でやっぱり①でしょうか。う~ん、でもどれも捨てがたい・・(笑)
さと**ん様の⑤の選択、想像すると笑えますが司でやってみたい気もするんです。
あの司なら承諾してくれそうですよね(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.04.11 23:05 | 編集
