司は高熱を出し、つくしのことを思い出していた。
何故このタイミングで思い出したのかは神のみぞ知るとしか言いようがない。
どうすればいい?
俺はもう昔の俺じゃない。
何がどう違うかと言われても困るが
18歳の俺と今の俺では牧野に対する思いが違うんだろう。
昔、好きでたまらなかった女も今は俺の妻だ。
これが喜ばずにいられるか?
喜ばすにはいられないはずだ。
覆水盆に返らず、という諺があるが俺と牧野は今は夫婦になっている。
これまでの人生で色々とあったかもしれないがもう大昔のことだ。
それに俺は同じ女に二度目の恋をしている。
二度目の出会いは俺たちの結婚式。
牧野を知るたびに新しく芽生えた気持ちがある。
時計の針を戻すことは出来ないが、俺は今からでもまた牧野のことを愛することが出来る。夢に見た記憶がもう消えることはもうない。延々と続く夢の先に見たのはおまえの姿だったんだな。今まで別々の道を歩んでいたのはあの日の為だったのか?
天命だったか?
俺の目線の先にいる牧野。
そんな牧野の髪が揺れる度に俺の視線も揺れ動くようだ。
牧野、あの日俺はおまえを忘れ去ってしまった。
そして大切な約束も・・・。
いつかの″お前じゃなきゃだめだ″が今でもおまえの記憶の中にはあるか?
暗闇を彷徨う俺に永遠を与えてくれたのはお前だった。
失いかけていたお前をこの手に取り戻したこともあった。
そして今お前と迎える新しい夜明けがある。
終わらない記憶をこれから一緒に刻んでいきたい。
***
最近の道明寺は様子がおかしい。
相変らず仕事は精力的にこなしてはいるが何かが違うと感じる。
つくしはふわりとスカートが広がるシルクタフタのストラップドレスを着ていた。
胸元を飾るのは見事なサファイアとダイヤモンドのネックレス。
化粧室から出ると司の待つ階下へと戻る為階段へと歩みを進めた。
司はあたりを見回し、妻を探した。
そのとき誰かが自分の名を呼ぶのを聞いた気がした。振り向いて階段の上を見上げた瞬間、シャンパングラスを手に司は固まってしまった。
そこで目にした女。出会った頃はまだ子供と言ってもいいような年齢だった女が美しい姿で立っていた。
『牧野 きれいだ』
心の中でしか呟くことが出来ないでいる。
もう二度と忘れたくないから、離れたくないから、決して消せない、消えない思い出を作りたいと司は願っていた。
階段を降りてくるつくしはひとごみのなか、司の姿を探しながら最後の一段を降りた。
立ち尽くしている司の傍には人だかりが出来ている。だが、まわりの人間の話し声はただの喧騒としか感じられない。つくしは司が見つめていることに気づくと、足早に近づいた。
「お待たせ」
少し息をはずませた声が出る。
「道明寺さん、本日はようこそおこし下さいました。奥様もどうぞごゆっくりしていって下さい」
二人の間に割って入るように握手を求めて来たのは、司が敵対的買収を計画している会社の社長だ。そんな事とはつゆ程も思いつかない男は呑気に話かけていた。男の会社はバイオ関連の特許をいくつも持っている。それも特許の有効期間が長いものばかりだ。司はその会社に対し、役員を送り込もうとしていた。
「道明寺さん、最近敵対的買収が増えて来ていることについてどう思われますか?」
この男感づいたか?
誘導尋問的なことを予想はしていたが、司は上手くはぐらかした。
「いい会社は狙われるものです。我社はいい会社なら買収したいと考えます。それはお互いの為にはいい事ではないでしょうか? 仮にですがもし我社が買収を試みるのならその会社のためには利益になるのでは?」
「しかし、その会社が買収を望んでいないとしたら?」
「それは残念です。我社ほど資本がある会社の傘下に入るなら色々とメリットもあるはずだが?」
袖口の時計へと目を落とすと時間を気にする素振りをした。
「申し訳ないが、このあと妻と約束をしている事がありますので失礼をさせて頂きます。」
牧野の手を取りパーティーを後にした。

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どうすればいい?
俺はもう昔の俺じゃない。
何がどう違うかと言われても困るが
18歳の俺と今の俺では牧野に対する思いが違うんだろう。
昔、好きでたまらなかった女も今は俺の妻だ。
これが喜ばずにいられるか?
喜ばすにはいられないはずだ。
覆水盆に返らず、という諺があるが俺と牧野は今は夫婦になっている。
これまでの人生で色々とあったかもしれないがもう大昔のことだ。
それに俺は同じ女に二度目の恋をしている。
二度目の出会いは俺たちの結婚式。
牧野を知るたびに新しく芽生えた気持ちがある。
時計の針を戻すことは出来ないが、俺は今からでもまた牧野のことを愛することが出来る。夢に見た記憶がもう消えることはもうない。延々と続く夢の先に見たのはおまえの姿だったんだな。今まで別々の道を歩んでいたのはあの日の為だったのか?
天命だったか?
俺の目線の先にいる牧野。
そんな牧野の髪が揺れる度に俺の視線も揺れ動くようだ。
牧野、あの日俺はおまえを忘れ去ってしまった。
そして大切な約束も・・・。
いつかの″お前じゃなきゃだめだ″が今でもおまえの記憶の中にはあるか?
暗闇を彷徨う俺に永遠を与えてくれたのはお前だった。
失いかけていたお前をこの手に取り戻したこともあった。
そして今お前と迎える新しい夜明けがある。
終わらない記憶をこれから一緒に刻んでいきたい。
***
最近の道明寺は様子がおかしい。
相変らず仕事は精力的にこなしてはいるが何かが違うと感じる。
つくしはふわりとスカートが広がるシルクタフタのストラップドレスを着ていた。
胸元を飾るのは見事なサファイアとダイヤモンドのネックレス。
化粧室から出ると司の待つ階下へと戻る為階段へと歩みを進めた。
司はあたりを見回し、妻を探した。
そのとき誰かが自分の名を呼ぶのを聞いた気がした。振り向いて階段の上を見上げた瞬間、シャンパングラスを手に司は固まってしまった。
そこで目にした女。出会った頃はまだ子供と言ってもいいような年齢だった女が美しい姿で立っていた。
『牧野 きれいだ』
心の中でしか呟くことが出来ないでいる。
もう二度と忘れたくないから、離れたくないから、決して消せない、消えない思い出を作りたいと司は願っていた。
階段を降りてくるつくしはひとごみのなか、司の姿を探しながら最後の一段を降りた。
立ち尽くしている司の傍には人だかりが出来ている。だが、まわりの人間の話し声はただの喧騒としか感じられない。つくしは司が見つめていることに気づくと、足早に近づいた。
「お待たせ」
少し息をはずませた声が出る。
「道明寺さん、本日はようこそおこし下さいました。奥様もどうぞごゆっくりしていって下さい」
二人の間に割って入るように握手を求めて来たのは、司が敵対的買収を計画している会社の社長だ。そんな事とはつゆ程も思いつかない男は呑気に話かけていた。男の会社はバイオ関連の特許をいくつも持っている。それも特許の有効期間が長いものばかりだ。司はその会社に対し、役員を送り込もうとしていた。
「道明寺さん、最近敵対的買収が増えて来ていることについてどう思われますか?」
この男感づいたか?
誘導尋問的なことを予想はしていたが、司は上手くはぐらかした。
「いい会社は狙われるものです。我社はいい会社なら買収したいと考えます。それはお互いの為にはいい事ではないでしょうか? 仮にですがもし我社が買収を試みるのならその会社のためには利益になるのでは?」
「しかし、その会社が買収を望んでいないとしたら?」
「それは残念です。我社ほど資本がある会社の傘下に入るなら色々とメリットもあるはずだが?」
袖口の時計へと目を落とすと時間を気にする素振りをした。
「申し訳ないが、このあと妻と約束をしている事がありますので失礼をさせて頂きます。」
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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

の*様
そうなんです。色々と戸惑うことがあるようです。
仕事の事も考えながらつくしちゃんの事も考える。
仕事をバリバリこなす司くん、カッコいいですか?
もっと仕事をさせようかと思いつつも、また無理がたたって
寝込まれたら困るので止めました(笑)
司くんニューヨーカーですのでカッコよく行かせたいと思います。
そうなんです。色々と戸惑うことがあるようです。
仕事の事も考えながらつくしちゃんの事も考える。
仕事をバリバリこなす司くん、カッコいいですか?
もっと仕事をさせようかと思いつつも、また無理がたたって
寝込まれたら困るので止めました(笑)
司くんニューヨーカーですのでカッコよく行かせたいと思います。
アカシア
2015.08.24 22:36 | 編集
