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2016
03.28

第一級恋愛罪 19

「ところで牧野、あの噂は本当なのか?」
「あの噂?」
「おまえは本当に道明寺司と付き合ってるのか?」
「えっ?」

つくしは取材先から編集局に戻って来たところでカメラマンに声を掛けられた。
お昼を食べ損ねたので近くのコンビニでサンドイッチを買いこれから自分の席で食べようとしていたところだった。昼を過ぎたこの時間帯の局内は人影もまばらだ。


なんと答えたらいいのだろう。否定をしたいが否定すればかりそめの恋人であることが知られてしまう。だからと言って堂々と交際宣言をするわけにもいかず、世間にはなんとなく二人が恋人同士ですと言う雰囲気が伝わればそれでよかった。
なにしろあたしの役目はあの男に群がるうるさい虫を追い払う役目だから。

でもあたしみたいな女が虫除けになるのだろうか?その点が不思議だがつくしとしては仕事と割り切ってのことだから虫除けとして役割はそれなりに果たしていくつもりだ。
実体を伴わない虚像でもよかったが、やはりそれなりに顔を出さなければならない場面もあるらしくあれから何回か呼び出しを受けていた。
何がしかのパーティーに行けば相変らずこんなドンくさそうな女の何がよくてと思われているのはわかっていたが、道明寺司を前にしてそんな態度がとれるはずもなく、どうせこの場限りのことだ、不承不承という感じではあるが受け入れてはもらえていた。

つくしにとっては経済界に名の知れた男の同伴者ということはそれなりにメリットもあった。
オフレコとはいえ財界の大物が大勢参加するようなパーティーでは思いもよらぬ話を耳にすることもあった。記事に出来ないのが悔やまれるが仕方がない。



「あたしがあの男と付き合っているのは・・・」つくしは言葉を選びながら話はじめた。
「帰国して日本に友達がいないから、そ、それで・・こうなんか話をしてたら盛り上がって来てまずはお友達として・・」

自分でも何が言いたいのかよくわからなかった。これではまるで大学生がノリのいい合コンで知り合った男と付き合い始めたみたいだ。
こんな話を信じてもらえるとは思ってはいないが、二人の関係を他人にぺらぺらと話すわけにもいかずどうしたらいいものかと考えていた。仕事上の取り決めにすぎない公式な恋人という立場は世に言う仮面夫婦的なものだとは思うが・・


「友達って?おまえらは恋人同士なんだろ?」
「え、あの・・気の置けない友達みないな・・でも・・」
「あのなあ牧野、男と女の間で友達関係なんていうのはまず無い。とくに男は下心がある動物であわよくば的なことを考える生き物だ」
「それにあの道明寺司と付き合うことになったら殆どの女は大喜びすると思うぞ?」

「あたしはその殆どに入らない女です」
「おまえ、それ本気で言ってるのか?」
「もちろんですよ!」
「なんだそりゃ?それじゃあおまえらは付き合ってないのか?」
「い、いえ・・つ、付き合っています!」
「でも男女の仲は水物って言うじゃないですか?だからいつ・・」
「なんだよ?おまえたちは別れることを前提にして付き合っているのか?」
「いえ・・その・・でももしかしたら・・」つくしは考え込むようにして言った。



「まあ、あの道明寺司についての報道はまかり成らんと社主からお達しが出てる手前、うちの社は系列を含めて記事にはしないが、三流処の雑誌社には書かれるぞ?」
「わ、わかってます。でもあたし達なんて言うんでしょうね・・同志?だ、男女の仲を超越してるって言う感じで気が合ったんです」

先輩であるカメラマンのおまえ、それ本当かの視線が痛かったが無視した。
「先輩、あ、あたし自身も驚いたんですよ?あの男が・・いえ道明寺さんがあたしと・・付き合うなんてことになって!」
つくしは自分があの男との交際を否定しているのか肯定しているのか良く分からなくなって来ていた。




***





何が処女喪失したかったらいつでも言ってくれよ!
この男の気を惹こうだなんて考えてもいないしとんでもない話だ。
あの時のことを考えるのは極力避けてきた。
今思い出してもよくもまあぬけぬけとあんなことが言えたものだ。例え世の中に男がこいつただひとりになったとしても誰があんたなんかにお世話になるものですか!
車の後部座席で隣に座るのは道明寺ホールディングスの若き社長で目下つくしのかりそめの恋人道明寺司。
無礼で嫌味で傲慢な態度の男は自分の都合でつくしを呼び出していた。

「金曜の夜、食事だ」
その言葉は命令なのか要求なのか、それとも誘いなのかわらなかった。
「それって命令?」
と一番始めに感じられた思いで聞いていた。
「命令だ。恋人が必要だ」

おまえに会わせたい人間がいるから来いと呼び出され、迎えの車で訪れた先は古い造りの静かなレストランだった。
あたしに会わせたい人間?こんな小さなレストランでとてもではないが大勢の人間が集まってパーティーを開いているようには思えなかった。
つくしが恋人役として駆り出されるのは女性も含め来賓客が多いパーティーばかりだった。
だがここは純然たる取引である二人の関係を見せびらかすような場所には思えなかった。
どちらにしてもあたしは人に見せびらかすような美人でもないが。

「行くぞ」
と声を掛けられたつくしは車の外から差し出された手を取った。
やるなら徹底的に恋人気取りを決めたらしい。
それとも単なる女性に対する礼儀なのだろうか?
脚を踏み出した先は石畳の造りでつくしは石と石の間にハイヒールの踵を取られそうになっていた。

「おまえはきちんと歩くことも出来ない女なのか?」
「歩くときはちゃんと前を見て歩け!」
「いつもはちゃんと前を見て歩いています!」
「だいたいこんな高いヒールの靴なんて普段のあたしには用がないんです!」

案内されて店内を進むにつれて食欲をそそるような香りがしてきた。
係の男性がこちらでございますと指し示した奥のテーブルにはすでに先客がひとりいた。
そこにいるのはそこはかとなく上流階級の匂いがする女性だった。
まさかとは思ったがこれは・・・


「えっと道明寺、もしかして・・あの女性・・」
つくしは隣の男に聞いた。
「遠ざけろ」
「おまえはそのための恋人だ」
「えっと具体的にはどうしたら・・」
「任せるからなんとかしろ」

これから見合いをしようかという男がまさかその席に女性を同伴するなんて普通じゃ考えられないことだ。
つくしは同じ女としてテーブルで待つ女性を気の毒に思った。
あの女性と自分との立場を置き換えてみればそれは十分理解ができた。
どう見ても品が良さそうでおとなしいお嬢様タイプの女性だ。

「でもどうやったら・・」
「適当にやってくれたらいい」
「ちょっと、道明寺さ・・道明寺どこに行くのよ?」
つくしは眉をひそめた。
「まさかあたしだけここに残して彼女の相手をしろってことじゃないわよね?」


「電話だ。これから電話をしなきゃならないところがあるんだ」
「だから俺が戻るまでになんとかしておいてくれ」
「な、なに言ってるのよ!なんとかだなんて出来るわけないでしょ?」
「おまえは俺の恋人だろ?恋人なんだから自分の彼氏を守るつもりで戦ってみろ」
司はつくしを残してどこかへ行ってしまった。

どうしてあたしがあんたを守るために戦わなくちゃいけないのよ!
そんなこと契約に入ってるの?
ひとり残されたつくしは仕方なく女性が待つテーブルへと近づいた。
「あの・・・どうも今晩は」
「・・あなたは誰?」
女性はつくしを不審な目で見た。





つくしが話しかけた女性は艶のある美しい黒髪をした物腰が優しそうな人だった。
彼女の質問になんと答えたらいいんだろう。あの男の恋人としてここに連れてこられたのだからあいつの恋人と答えるべきだろうか?だが今までそのことを公言しなくてもあの男といることでその場にいる人間はおのずと理解させられてきたから自分の口から恋人ですなんて言ったことがない。
それに自分からあの男の恋人だなんて口が裂けても言いたくなかった。


「あ、あたしは・・その・・道明寺司の・・姉です!」
「お、お姉さま?」
女性は驚いた様子でつくしをまじまじと見つめた。
先程まで向けられていた不信感いっぱいの視線が好意的な視線に変わっていた。

「ええ。そうです。姉です。ど、どうみ・・つ、司は緊急の電話が入りまして・・」
「す、すぐに来ますから・・」
「お姉さまがいらっしゃるとはお伺いしていますが今はアメリカで生活をされているとか?」

まずい!本当にお姉さんがいたなんて知らなかった。

「ええ。そうなんですよ?普段はアメリカなんですが今ちょうど帰国していまして・・」
「今日は司がこちらのレストランで食事をするというので、あ、あたしも久しぶりにこちらで食事をしようかと思って弟の車に便乗させてもらったんですの」

あの男の姉と名乗ったからには迂闊なことは言えない。
色々と聞かれたらどうしよう。どうしてあたしは姉だなんて言ってしまったのだろうか。
姉弟なのに似てるところがないなんて言われたどうしよう。

「えっと・・今日は司と食事のお約束をされている・・?」
「ええ。そうなんです。父が席を設けてくれました」
「お、お父様が?」
「はい。お見合いとまでは行きませんが司さんにご無理を申し上げたようです」

あの男自分で引き受けておいてあたしに押し付けるってどういう了見なのよ!
「あのお姉さま、司さんって・・・」
「つ、司がなにか?」息を呑んだ。
「司さんってお付き合いされている女性の方がいらっしゃるとか?」
つくしは自分のことを言われて身が縮む思いがした。

「そ・・そうみたいね・・」
「そうですか。噂は本当だったんですね。わたくしはお見かけしたことが無いのですが最近よくその方とパーティーでご一緒されているとお伺いしました」
「あの・・あなたは・・」
「お姉さま、わたくしは一度司さんとお食事が出来ればそれでいいんです。わたくしも英徳なんですよ?学年は離れていますので在学中にお目にかかることはなかったのですが、ご高名な方でしたのでお噂だけは・・司さんはわたくしの憧れの方なんです!」
「ですからお食事が出来るだけ満足ですの」
「そ、そう・・」

どうやら彼女は悪い人ではなさそうだ。単にあの男に憧れているだけのように思えた。
それはまるでアイドルに熱を上げる高校生のような感覚だと感じられた。
つくしはそれから延々と彼女の話を聞かされていた。
きらびやかな英徳学園の話を聞きながら自分の地味な高校時代を思い出していた。
つくしが卒業した高校は都立でも比較的成績上位の者が入る高校だった。
高校時代は勉強もしたけどバイトもした。裕福な家庭ではなかったがお金がないことが惨めだとは思わなかったのでそれなりに楽しい高校時代だったけど、道明寺司が卒業した英徳学園の話を聞かされると世の中には使っても使い切れないほどのお金持ちがいるものなんだと感心した。
そんな話の中でどれだけ道明寺司が凄い人物だったかと聞かされ続けるのは正直疲れる。

ようやく司がテーブルに着いたときつくしは彼をひと睨みした。
つくしはこれで会話は終わる、自分は解放されると息をついた。

「つ、司、あたしは・・お姉さんはちょっと席をはずし・・・」
しかしそれを言い終わらないうちに司の携帯電話が鳴った。
司は申し訳ないと断り席を立つとまたどこかへ消えた。

「ちょっと道明寺? ・・つ、司待ちなさい!」

つくしは司が消えた方向を睨んだ。
あの男あたしに押し付けたわね!
あとで覚えときなさいよ!


「お、弟は・・・司は忙しいみたいだからもしあたしでよかったら・・ふ、ふたりで先に食事をはじめましょうか?」

つくしは会話が終わりを迎えそうにないと覚悟した。







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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.03.28 11:26 | 編集
さと**ん様
思わず出た「姉です」またどうしてそんな発言を!(笑)
どう見ても無理がありますよね。
そしてこのつくし。人に親切にしたがる気質なのでしょうか。海ちゃんが出て来た時を思い出してしまいました。
エ*山?(笑)私叫んでました?
舞台の上から山頂に場所を移したのでしょうか?いつの間に山ガールに?(笑)
もう本当にすみませんm(__)m 歯止めが効かないというかどうしてこんなことを・・
多分さと**ん様に言われなければそんなにアレだとは感じていない私が変なのでしょうか・・・
あちらへのお便りお待ちしています。またご要望などございましたらこっそりとお話頂ければと思います。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.28 23:49 | 編集
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