FC2ブログ
2015
08.23

いつか見た風景23

メープルで一夜を明かした二人。

昨夜、シャワーから出て来た司は、何か考えているのか押し黙ったまま眠りについた。

朝起きた男はまだ身体が辛いのか、少し顔を歪めていた。
つくしはそんな司に何かしてあげられるはずだと思い、朝食はホテルのレストランから彼の食べやすいものをオーダーした。体調が優れない人間には丁度いいと思える消化の良い物を選んだつもりでいるが、食べてくれるだろうか?

暫くして寝室から出て来たのは既にパリッとしたスーツを着こなしたいつもの道明寺だ。
それでも、いつものどこか余裕のあるあの表情は見られなかった。

「ねえ、朝食を頼んでおいたから一緒に食べない?」
「いや、要らない」
「でも、せっかく頼んだんだからひと口くらい食べたら・・」
「悪いが今日はこれからブレックファーストミーティングがある」

司はデスクからタブレット端末を取り出かけようとしていた。
だが、ふとその手を止めつくしの方に視線を向けてきた。

「・・牧野、おまえ・・・」
言いかけた司だったがその先の言葉はなかった。

「副社長、そろそろお時間です。奥様、申し訳ございませんが司様のご予定が詰まっておりますので失礼致します」

秘書に声をかけられた男は、部屋を後にするため扉へ向かいながら、ためらった。
そして一瞬だが、つくしの方を振り返ると出て行った。
その様子を見ていたつくしの胸には妙な感じが残っていた。



***



司は牧野つくしの事を思い出した。
9年間もの間忘れていた女のことを。
何故このタイミングだったんだ?

ブレックファーストミーティングを終え、社に戻った。

「諸君、この後も会議が詰まっている」

司は居並ぶ重役達を一瞥すると買収計画のあるK社の資料を革張りのファイルへと収めた。企業買収後のやり方に文句を言う重役もいるが、それは無駄な時間を省く為の手段だ。
K社の中でも欲しいと思っている部門だけにそれぞれの専門分野の男達を派遣し、部門ごとの仕事内容について今後の方針とそれぞれの長所と短所を見極めさせる。当然不要な部門も出てくる。切り捨てる部署も出てくるということだ。だが今までの司の仕事に対しての批判はない。利益優先で動くならば、多少の揉め事があっても当然だ。トップは限られた時間でマルチタスクをこなさなければならない。いつまでもK社だけに関わっている訳にはいかない。



そんな司は牧野つくしのことを考えていた。

どうしたらいいんだ。

正直俺はどうしたらいいのか分からないでいる。

突然戻った俺と牧野との記憶。


会議室を後にして執務室へと踵を返す。
後ろから付き従う西田がこの後のスケジュールについての報告をしてくる。
「・・・副社長?」
「ああ、分かっている・・」
心なしか声が掠れてしまった。
「まだご体調が優れませんか?」
「いや。大丈夫だ。悪いが5分、時間をくれないか? それから水とアスピリンをくれ」
司は革張りのソファへと腰をおろしネクタイを緩める。
そして両腕を広げソファの背もたれへと腕を掛けつくしが眺めていた絵画へと目を向けた。

『色がきれいだね』そんな風に言っていた牧野。


そうだな、きれいな色だな。
俺も昔お前と出会ってから人生が色付き始めたんだったな。
お前と出会う前は色を無くして孤独だった俺がいた。
お前がいるから色とりどりの風景が見えるようだ。


司はアスピリンを流し込みネクタイを締め直すと次の会議へと向かうべく立ち上がった。






人気ブログランキングへ

応援有難うございます。
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.08.23 14:01 | 編集
の*様
ご訪問有難うございます。
難しいご質問が・・(笑)
今ここでお答えするとネタバレになりますので明日以降のお話をお待ち下さいませ。
ひとつ言えるのは司くんも大人になりましたので色々と悩みは多いようです。
9年も前の記憶が突然戻るのですから、精神的ストレスも相当なものかと・・。
いい男が悩む姿もなかなか良いものです。
アカシアdot 2015.08.23 21:28 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top