挑戦的な視線を注がれてつくしは落ち着かない気持ちになった。
「なんでその年で処女なんだ?」
司は自分のコーヒーを口にした。
「な、なんでって・・たまたまそうなっただけで・・」
「い・・いいじゃない・・そんなことはどうでも・・」
「いや。良くない」
「な、なにが良くないのよ?」
「これからひと前で俺の恋人を装うわけだろ?」
「それとあたしが処・・経験が無いことの何が関係あるのよ!」
感情が開けっぴろげな女は体の方は開けっぴろげではないらしい。
司はここ何年も感じたことがなかった刺激的なものを見つけたように思った。
つつくと体を膨らませて懸命に強がってみせ、威嚇する態度をとるハリネズミのような小動物。危険を感じたらその体を丸めてみせるのか?
ドンくさいと思われた女は今まで自分の周りにいた女とは異なるタイプで、その態度は自分を誘うようなところはまったくない。この女とは半年間かりそめの恋人役を引き受けた見返りとして独占インタビュー契約を結んだとはいえ、どこかに女として下心があるはずだと踏んでいたが・・
自分に対して真っ直ぐな言葉で反論してくる女。そんな女は今までいなかった。
本人はまったく意識せずの行動だろうがそんなところになぜか興味を惹かれた。
もしかしたら自分はそんなところが新鮮で、どこかそそられる思いがしているのかもしれない。
「いくら男と経験がないからって俺の隣でガチガチに緊張してたら変だろう?」
「昨日のおまえの態度はどう見ても恋人同士って感じじゃなかった」
「恋人同士ったらもっと甘い雰囲気があるはずだ」
言われてみればそうだった。
世界を股にかけるような男の恋人として現れたつくしは否応なしに注目の的だった。
慣れないパーティーに付き合い大勢の人間からの突き刺さるような視線は正直辛いものがあった。
どうしてこんな女が道明寺司の隣にいるのかと訝しがる人間がほとんどだったからだ。
それにどう見てもつくしが好きな男性と楽しい時間を過ごしているという感じには見えなかったはずだ。
「なんなら俺が相手になってやろうか、初めてってやつの?」
司はウェーブのかかった黒髪をかき上げすっと目を細めるとつくしを見た。
女を誘惑する手練手管は必要なかった。
彼が視線を投げかけるだけで体を投げ出してくるような女は沢山いた。
整った口もとは緩くカーブを描き引き結ばれていた。
つくしは言葉が出なかった。
ま、まさかご冗談を!
この男の胸に抱かれている自分・・
思わずその場面を想像してしまい、つくしは顔が赤く染まるのが分かった。
脈拍は急上昇して胸がどきどきして体全体が熱を持ってほてっていた。
こ、この男・・
自分の魅力を十分理解しているのか見せ方を心得ているような気がした。
もしかしてとんでもない自信過剰な男?
つくしの目線の先にいる男からくくっと忍び笑いがもれた。
も、もしかしてからかわれた?
危険だ。
この男は昨日まであたしになんか興味がなかったはずだ。
なのにこの突然の変わりようはいったいどうしたんだろう。
つくしは唇を舐めると神経質にならないように振る舞おうとしていた。
相手のペースに飲まれてたまるかと気を引き締めた。
だが目の前にはネクタイを付けずシャツのボタンが三番目まで開けられた状態で座っている男の喉仏が見えていた。
話すたびに上下する男性的な象徴。
つくしの目は思わず司の喉元に釘付けになっていた。
「なんだよ?」
うっすらと口元に笑みを浮かべた。
「もしかして誘ってるのか?」
「さ、誘ってなんかいません!どこをどう取れば誘ってるように見えるんですか!」
昨夜のタキシード姿の黒ヒョウが今は目の前の獲物を前脚で弄ぶライオンのように見えた。
この男は捕食者の雰囲気がする。
「俺とおまえはこれから半年間は恋人だ。かりそめじゃなくてマジで楽しむか?」
つくしはふざけないで!という目で睨らんだ。
だが二日酔いまでとは言わないが酒にやられて思考回路がどうかしてしまったのだろうか。
つくしは司を意識するあまり胸がどきどきしていた。
「この際、はっきりさせておきたいんだけど、あたしはあんたと寝るつもりはないから」
「あたしはかりそめの恋人を引き受けただけで、あんたの性生活の相手を引き受けたわけじゃないから、か、勘違いしないでよね?」
つくしは自分の胸の鼓動が相手に聞こえているのではないかと思っていた。
司を見据える目は本気よ真剣に話しているんだからねと訴えていた。
司は舌打ちをしたいのをこらえた。
「なんだ。冒険する勇気はないってわけか・・そりゃ残念だ」
「じゃあなんだ?おまえは一生処女で終わるってわけか?」
「よ、余計なお世話です!」
司は思わず笑みを浮かべていた。
さっき唇の間から少しだけ覗いたこいつの舌に妙な色っぽさが感じられた。
唇の渇きを潤す為に舐めた仕草。
この女は緊張しているということか。
どういうわけかこの女と話していると笑みがこぼれる。
ならばともう少しこのハリネズミをつついてみることにした。
「哀れだよな。男を知らずに死ぬなんてよ」
「だ、だれが男を知らずに死ぬですって?人生にはセックス以外にも素敵なことが沢山あるんです!」
「へえ。そうかよ。で、なんだよそれは?」
司は試す価値があるものなら教えて欲しいものだとばかりに言った。
「なんであたしがあんたにそんなこと、説明しないといけないのよ!」
「寂しい女はどうやって生きて行くのかと思えば興味も湧くだろ?」
「その分別くささがおまえの年で必要なのか?」
司は手にしたコーヒーカップ越しにつくしを見た。
「ま、どうでもいいか。そんなことは」
司はつぶやき、面倒くさそうな顔をした。
からかわれた・・・
こんな男相手に馬鹿正直に答えるんじゃなかった。
「まあ枯れてしまわない程度に潤いだけは与えたほうがいいんじゃないのか?」
「手伝いが必要ならいつでも申し出に応じてやる」
「試すんなら早い方がいいんじゃないか?」
司はにんまりと笑った。
「どうもご親切なお申し出とご忠告ありがとうございます!」
「道明寺さ・・せいぜい道明寺は使い過ぎて萎れてしまわないようにお気お付け下さい!」
「あほか。これから半年はおまえが俺の恋人役なんだから選択の余地はない。使いたくても使いようが無いんだよ!」
「おまえが使わせてくれるんなら別だけど・・」
にやにやと笑いながら言われつくしは口が利けなかった。
その先は聞きたくない!
「処女喪失したくなったらいつでも言ってくれ」
司は椅子から立ち上がり、俺はこれから出勤だがおまえも仕事に行くつもりなら送るぞとの言葉を残しダイニングルームを出ていった。
言葉を失ったつくしは顔を真っ赤にして心の中で叫んでいた。
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感情が開けっぴろげな女は体の方は開けっぴろげではないらしい。
司はここ何年も感じたことがなかった刺激的なものを見つけたように思った。
つつくと体を膨らませて懸命に強がってみせ、威嚇する態度をとるハリネズミのような小動物。危険を感じたらその体を丸めてみせるのか?
ドンくさいと思われた女は今まで自分の周りにいた女とは異なるタイプで、その態度は自分を誘うようなところはまったくない。この女とは半年間かりそめの恋人役を引き受けた見返りとして独占インタビュー契約を結んだとはいえ、どこかに女として下心があるはずだと踏んでいたが・・
自分に対して真っ直ぐな言葉で反論してくる女。そんな女は今までいなかった。
本人はまったく意識せずの行動だろうがそんなところになぜか興味を惹かれた。
もしかしたら自分はそんなところが新鮮で、どこかそそられる思いがしているのかもしれない。
「いくら男と経験がないからって俺の隣でガチガチに緊張してたら変だろう?」
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言われてみればそうだった。
世界を股にかけるような男の恋人として現れたつくしは否応なしに注目の的だった。
慣れないパーティーに付き合い大勢の人間からの突き刺さるような視線は正直辛いものがあった。
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司はウェーブのかかった黒髪をかき上げすっと目を細めるとつくしを見た。
女を誘惑する手練手管は必要なかった。
彼が視線を投げかけるだけで体を投げ出してくるような女は沢山いた。
整った口もとは緩くカーブを描き引き結ばれていた。
つくしは言葉が出なかった。
ま、まさかご冗談を!
この男の胸に抱かれている自分・・
思わずその場面を想像してしまい、つくしは顔が赤く染まるのが分かった。
脈拍は急上昇して胸がどきどきして体全体が熱を持ってほてっていた。
こ、この男・・
自分の魅力を十分理解しているのか見せ方を心得ているような気がした。
もしかしてとんでもない自信過剰な男?
つくしの目線の先にいる男からくくっと忍び笑いがもれた。
も、もしかしてからかわれた?
危険だ。
この男は昨日まであたしになんか興味がなかったはずだ。
なのにこの突然の変わりようはいったいどうしたんだろう。
つくしは唇を舐めると神経質にならないように振る舞おうとしていた。
相手のペースに飲まれてたまるかと気を引き締めた。
だが目の前にはネクタイを付けずシャツのボタンが三番目まで開けられた状態で座っている男の喉仏が見えていた。
話すたびに上下する男性的な象徴。
つくしの目は思わず司の喉元に釘付けになっていた。
「なんだよ?」
うっすらと口元に笑みを浮かべた。
「もしかして誘ってるのか?」
「さ、誘ってなんかいません!どこをどう取れば誘ってるように見えるんですか!」
昨夜のタキシード姿の黒ヒョウが今は目の前の獲物を前脚で弄ぶライオンのように見えた。
この男は捕食者の雰囲気がする。
「俺とおまえはこれから半年間は恋人だ。かりそめじゃなくてマジで楽しむか?」
つくしはふざけないで!という目で睨らんだ。
だが二日酔いまでとは言わないが酒にやられて思考回路がどうかしてしまったのだろうか。
つくしは司を意識するあまり胸がどきどきしていた。
「この際、はっきりさせておきたいんだけど、あたしはあんたと寝るつもりはないから」
「あたしはかりそめの恋人を引き受けただけで、あんたの性生活の相手を引き受けたわけじゃないから、か、勘違いしないでよね?」
つくしは自分の胸の鼓動が相手に聞こえているのではないかと思っていた。
司を見据える目は本気よ真剣に話しているんだからねと訴えていた。
司は舌打ちをしたいのをこらえた。
「なんだ。冒険する勇気はないってわけか・・そりゃ残念だ」
「じゃあなんだ?おまえは一生処女で終わるってわけか?」
「よ、余計なお世話です!」
司は思わず笑みを浮かべていた。
さっき唇の間から少しだけ覗いたこいつの舌に妙な色っぽさが感じられた。
唇の渇きを潤す為に舐めた仕草。
この女は緊張しているということか。
どういうわけかこの女と話していると笑みがこぼれる。
ならばともう少しこのハリネズミをつついてみることにした。
「哀れだよな。男を知らずに死ぬなんてよ」
「だ、だれが男を知らずに死ぬですって?人生にはセックス以外にも素敵なことが沢山あるんです!」
「へえ。そうかよ。で、なんだよそれは?」
司は試す価値があるものなら教えて欲しいものだとばかりに言った。
「なんであたしがあんたにそんなこと、説明しないといけないのよ!」
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「その分別くささがおまえの年で必要なのか?」
司は手にしたコーヒーカップ越しにつくしを見た。
「ま、どうでもいいか。そんなことは」
司はつぶやき、面倒くさそうな顔をした。
からかわれた・・・
こんな男相手に馬鹿正直に答えるんじゃなかった。
「まあ枯れてしまわない程度に潤いだけは与えたほうがいいんじゃないのか?」
「手伝いが必要ならいつでも申し出に応じてやる」
「試すんなら早い方がいいんじゃないか?」
司はにんまりと笑った。
「どうもご親切なお申し出とご忠告ありがとうございます!」
「道明寺さ・・せいぜい道明寺は使い過ぎて萎れてしまわないようにお気お付け下さい!」
「あほか。これから半年はおまえが俺の恋人役なんだから選択の余地はない。使いたくても使いようが無いんだよ!」
「おまえが使わせてくれるんなら別だけど・・」
にやにやと笑いながら言われつくしは口が利けなかった。
その先は聞きたくない!
「処女喪失したくなったらいつでも言ってくれ」
司は椅子から立ち上がり、俺はこれから出勤だがおまえも仕事に行くつもりなら送るぞとの言葉を残しダイニングルームを出ていった。
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Comment:2
コメント
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椿お**ん☆様
お久しぶりです(^^)
こちらのお話は一応コメディ路線です。
ちょいエロの会話はこれからもあると思います。
特に司がつくしちゃんに対して言いたい放題みたいですがつくしも負けていません(笑)
聞かれたことに対して馬鹿正直に答えて恥ずかしそうにしている彼女。
性格が真面目なので仕事にも恋にも一生懸命と言う感じでしょうか(^^)
次は月曜日の予定ですのでまたお立ち寄りくださいませ。
コメント有難うございました(^^)
お久しぶりです(^^)
こちらのお話は一応コメディ路線です。
ちょいエロの会話はこれからもあると思います。
特に司がつくしちゃんに対して言いたい放題みたいですがつくしも負けていません(笑)
聞かれたことに対して馬鹿正直に答えて恥ずかしそうにしている彼女。
性格が真面目なので仕事にも恋にも一生懸命と言う感じでしょうか(^^)
次は月曜日の予定ですのでまたお立ち寄りくださいませ。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.03.26 23:55 | 編集
