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2016
03.21

Collector 15

Category: Collector(完)
寒い夜に現実が戻ってきた。
つくしは寝室として与えられた部屋を出て廊下を進むと階段を降りた。
あいつが、道明寺が来た。
階下を動き回る男の足音が聞こえていた。
つくしが司に会うのは10日ぶりだった。

世田谷にいた時と違いこの10日間は眠るときは深い眠りが訪れていた。
道明寺の唇や手が自分の身体を這うことはなかったが、それでもその時のことを思い出して布団を蹴り飛ばしていたことがある。夢を見る日があった。だがそれは普通に見る夢ではなかった。
道明寺が深い眠りの中に入り込んできて、まるで悪夢のようにつくしの頭の中に入り込んで囁く声が聞えたことがあった。
唇が耳もとで囁く。

『 どうして俺を捨てた? 』





管理人の男が暖炉に薪をくべると食事の支度が出来たと声を掛けてきた。
司は手にしていた煙草を灰皿に置くとゆっくりと煙を吐き出した。煙は上にあがっていき大きく広がると消えていった。
暖炉の近くの安楽椅子に腰かけていた男はすでに一杯口にしていたのか、琥珀色の液体が入ったグラスを手に立ち上がると入口の扉のそばで佇むつくしの傍に来た。

司はつくしを観察した。
彼は今更だがつくしの目が自分を嫌っているのを感じていた。
分かり切っていたことだが、ニューヨークへ立つ前にここで抱いた女は相変わらずの態度だった。
灰皿に置かれた煙草の煙は静に上へとのぼり続けては消えていく。
二人は黙ったまま互いを見つめ合っていたが男が口を開いた。
「ここは相変わらずのようだ」
つくしはこの男が何を言いたいのかわからなかったが視線は遠慮なく自分の身体を見ているのを感じていた。

「胸がむかつく・・」

「ガキが出来たか?」

その答えは聞かなくても知っているはず。
つくしは決して怯えた姿など見せるものかと司を見た。
だが男の雰囲気はいつもと違うように思えた。とらえどころがないようでいて、わかりにくかった。いつものように怒りの感情とは違う何かが感じられた。この10日間に何かあったのかと思わずにはいられなかった。ニューヨークで何かあったのだろうかという気持ちが湧いてきて疲れているのではないかと心配をしていた。だがそれは人として他人を気遣う気持ちであってそれ以外ではないはずだ。

つくしはじっと見つめられて今の自分がどんな表情でいるのかが気になった。
気持ちがすぐに顔に表れると言われている自分だけにこの男に心を読まれてしまうのではないかと思っていた。

そのとき男は手を伸ばすとつくしの頬に触れてきた。
その行為をどう理解していいのかわからなかったが優しく触れられて遠い昔を思い出していた。
その手は優しくも力強くもある不思議な手で迷っていた自分を導いてくれる手だった。

そんな手で自分の頬に触れられていたつくしは心を奪われたように男の顔を見つめていた。
だが身を屈めて来られると酒の匂いを嗅ぎ取った。
「おまえも飲むか?」男はつくしの頬から手を下ろすと言った。




つくしが飲みたくないと言う前にグラスには赤色の液体が注がれていた。
暖炉で燃える薪の音がパチパチと聞こえる以外は静かな夕食だった。
ひっそりと静かな時間が流れているのではない。つくしにとっては屠られる羊が最後の食事を与えられているような心境で漂う空気は重苦しかった。

端正な男の顔に疲労の影が見えるような気がしたが気のせいだろう。
だが、都内からこの山荘までの距離は相当あると思われるだけにヘリを飛ばして来たのではないかと訝っていたが多分そうだろう。
使い切れないくらいの金を持つような男がなぜ今でも自分に執着するのが分からない。
たとえ金や地位がなくても生まれ持った魅力というものを持っているのが道明寺という男だ。こんな男から求められた女は虚栄心がくすぐられる思いだろう。
だが今のつくしにとって彼は何かに憑りつかれた恐ろしい男としか言えなかった。

沈黙が垂れこめるなかつくしは言った。
「無理矢理いうことを聞かせて面白いの?」
男と女である以上、力の差は歴然としている。どんなに抵抗したところで男の力に敵うだなんて思っていない。執着された人間はどうしたところで逃げようがなかったが聞かずにはいられなかった。

「面白いか面白くないかは俺が決める」
「食事が済んだんなら話でもするか?」
「それとも上に行くか?」司の目が危険な光をおびた。
「話がしたい。あんたとはきちんと話がしたい」
つくしはしっかりとした声で言った。

10日間ひとりでこの場所にいて考える時間はあった。
「何を話すんだ?」司は鼻先で笑った。
「おまえが行方不明になったと届け出が出されて、その届け出が灰になった」
司は淡々となんの感情も込めず話はじめた。
「だからおまえは行方不明でもないし、失踪者でもない」
「人知れずひっそりと生きようと思っていたんだろ?そんなおまえを探す人間なんていない」 
「こんなところか?」

「進と類はわたしがいなくなったことを知ってる」
「あいつの・・類の名前を出すんじゃねぇ」
司の脳裏に思わぬ記憶が甦った。
こいつは俺を好きになる前は類のことが好きだった。
司は手元のグラスの中身を飲み干すとオレンジ色の炎が揺らめく暖炉の中へと投げ捨てた。
グラスは暖炉に当たって砕けた。

司はつくしの目を捉えた。
「おまえと類の関係はなんだ?あの男おまえに手も出さず一緒に暮らしてたなんてやっぱ不能か?」
「それともあれか?男が好きなのか?」
「馬鹿なこと言わないで!類はそんなんじゃないわ」
「フン、そんなことはどうでもいいか」
「お願い道明寺聞いて。わたし達はあの日に別れた・・・」
次の言葉を口にするとき、口ごもった。
それでもと意を決して言った。


わたしだってあの日を忘れたことは無かった。




「あんたと付き合ってたのは・・・お金の為だった・・」
つくしは平静を装って言ったがこの男の目が恐ろしかった。気が狂ったような男に何を言っても聞き入れてはもらえないと言う思いでいたが話を続けた。
「あんたがお金持ちだったから付き合った・・だけど・・あんたみたいに面倒くさい男なんてもう嫌になったから別れた・・」
「あんたのことなんて・・本当は愛してなんか・・好きじゃなかったわ」
言葉が堰を切るように出た。
「うちが貧乏だったってことはあんたもよく知ってたはずよね?」
「類よりあんたがお金持ちだったからあんたと付き合ったの」
つくしは目の前の男が恐ろしかったが冷やかに笑って見せた。
「そんなことに気がつかないなんてあんたもバカね」


つくしは男を愚弄した。

わたしはあんたみたいな男が相手にする女じゃない、そんな価値なんてない。そう思わせたかった。
お金に汚い女なんて道明寺が一番軽蔑するはずだ。
そうよ。こんな女なんてあんたが一番軽蔑する女でしょ?
だからもういいじゃない?復讐する価値もない女だと、相手にする価値もない女だと思われたかった。軽蔑に値するような女を傍に置いてもいいことなんてないとわからせたかった。
二人の関係は始まる前に終わっていたの。何も始まってなんてなかった。
あれは思春期によくある勘違いで、二人ともそんな感情に恋をしてた・・・
つくしは司にそう思って欲しかった。

牧野つくしはあんたなんて好きじゃなかった。
今となってはそう思ってくれる方がつくしには良かった。
でも道明寺がこんな人間になってしまったのはわたしのせいなんだろうけど・・




「そんなことはどうでもいい。おまえは勘違いしている」
「もうどうでもいいことだ。そんなことは」
「な、なにがどうでも・・」
「プライドの問題だ」
「いいか牧野。よく聞いておいたほうがいい。これは俺とおまえの問題だ」

司はずっと頭と心の中にいた女について話はじめた。
今でも思い出されるあの日の光景。
雨のなか立ち尽くす自分の姿・・・
あのときの絶望的な思いが甦った。

「俺がはじめて好きになった女がおまえだ。そんな女にコケにされて黙っていられるか?」
「この俺がだ!」
「面倒くさくなっただと?類なら面倒くさくはなかったのか?聞くが同じ金持ちでも類のところは面倒くさくなかったってことか?」
「答えろよ牧野?」
「答えてみろよ?」
「おまえら二人して俺をバカにしやがって・・」
司の声は険悪で低く黒い瞳はつり上がっていた。
「俺はおまえが、おまえのことが好きだった。おまえが欲しくてたまらなかった」
「10年もの間、何度かおまえの行方をあの男に聞いたが牧野つくしなんて知らないとしか言わなかった」
「あの会社でおまえを見つけたのは偶然だったが行方知れずの牧野つくしは花沢邸にいた。これをどうとればいい?」
あんな男に舐められてたまるか。そんな思いに司は頭がカッと熱くなった。
「おまえも類も許さない」





過去に白昼堂々と拉致されたことがあった。
まさか10年後にまたそんな目に遭うとは思わなかった。
だがあのときと違うのはこの男はもう少年ではない。
成人した男性で、自分自身の力で全てを自由にすることが出来る男だった。


「牧野、おまえは相変わらず言いたい放題だな」
司は軽蔑したように言ってはいたが口調は穏やかだった。
「何でも正直に言えばいいってものじゃないってことを習わなかったのか?」
「けどやっぱり牧野はこうじゃなきゃな」
「おとなしい人形みたいなのは牧野じゃないからな」
男の顔がやけに穏やかにほほ笑んだ。









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コメント
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dot 2016.03.21 12:24 | 編集
さと**ん様
本当はもう少し長かったのですがここで切り次回へ持ち越ししました。
病んでる司で精神状態が不安定で何かに憑りつかれた人ですので御曹司の司とは違った意味でアレです。
でもこんな司も好きです。Mですね、多分私も(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.22 00:04 | 編集
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