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2016
03.20

Collector 14

Category: Collector(完)
「社長、お電話でございます」
黒いスーツを着た男がプールサイドに現れた。
「誰だ?」
「北村商事の北村様です」
「今日は何日だ?」
「27日でございます」
「うせろ。そう言え」
黒いスーツの男は頷くと踵を返して去った。

司はプールに飛び込むと泳ぎはじめた。
滅多に使わない邸のプールだがいつでも使用できるように管理されていた。
彼は広いプールを何度か往復したあと水面を漂うかのように浮かんだ。
天井を見ながら、かつて誰よりも会いたいと願っていた女のことを思っていた。
あの日の記憶が心の中から消えることはない。



「すべてはあるべき形になってきた」
司はもはや自分を愛していないと言うひとりの女に執着するだけの男だった。
だがそれは個人的な問題であって他人に知られる必要はなかった。
そしてその思いは決して事業を蔑ろにすると言うわけではなかった。
帰国したが山荘に行く前に都内で片を付けたい仕事があった。

いま、彼が狙うのは最盛期を過ぎたと思われる中堅規模の総合商社だった。
そこは海外での事業を拡大し過ぎて債務超過に陥っていた。
一時はどこの日本企業も海外進出を積極的におこなっていた時期があった。
だが、その戦略が裏目に出た。海外の子会社に出資すればするほど赤字を生み出していくという状況だ。資源開発事業にも手を出したが失敗し、巨額の損失を計上した。
今ではその事業が金喰い虫となり資産を食い潰し身動きが取れない状況になっていた。
沈む船から逃げることねずみの如し。優秀な人材なら他社へと渡りをつけて移っていく。
いつの間にか姿を消す人間が増えてくれば、会社の運命を推し量ることが出来た。

会社が資金繰りに困ったとき、手持ちの有価証券の売却が一番手っ取り早い。
資産として保有している土地建物も売却を考えるが抵当に入っていればそれも出来ない。
銀行に融資を頼んでも受けてくれるところも無くなれば金策尽きたとしか言えない。
手形決済日が近づいてくれば、万策尽きたとばかりに白旗を上げるしかない状況に陥る。
会社更生法の申請をするしかないのか。

いよいよか・・あの会社も。
司は会社を手玉に取っている感覚が好きだった。
真綿で首を絞める様を眺めるのもいいが苦しむ人間に綱を渡してやれば、自らの手でその綱を絞める。
司は躊躇しなかった。猟でも同じだ。引き金を引くときは一気に引く。
急所を外せば獲物の苦しみが長引くだけだ。

いつもと同じだ。
どこの会社も。
さっさと支援を求めればいいものを。
あの会社は一度道明寺からの融資申し出を断っていた。
国内外の銀行からの融資を断られはじめたときに既に先はなかったはずだ。
だが道明寺から融資を受ければどうなるかが目に見えていたからこそ断って来たのだろうが、メインバンクに見放されれば末路は見えた。約手の不渡りが意味するところは倒産だ。
さっさと腹をくくればいいものを。

世田谷の邸で司は男の訪問を受けていた。
もちろん約束などしていない早朝の時間帯ではあったが面会を許可した。
それは昨日電話をかけてきた男だった。
「道明寺さんお願いします。お金が必要です」
「月末の手形の決済の為のお金が」
男は膝に手をついて頭を下げた。

「100億か?」司は口の端をかすかに歪めながら言った。
「どうしてそれを・・」
「あんた、うちが融資しようかと言ったとき必要ありませんと断ったが覚えているか?」
「どうせ100億なんて当座の金だろ?所詮持っても2ヶ月ってところか」
司の表情には冷笑が浮かんでいた。

「あんたオーナー経営者だよな?全てを売り払ってでもなんとかするもんだろ?」
「もちろん、そのつもりですが・・わたしの持っている資産はすべて抵当権が設定されています」
「ですから・・」
「無い袖は振れない・・か?」司はおっかぶせるように言った。
「言っとくが俺が欲しいのはあんたんところの子会社で他には興味がない」
「それにわかってると思うが、うちからの融資を受けると言うことはあんたの会社はそのうち無くなる。人員整理は早いほうがいいと思うぞ」
「まさか従業員だけに犠牲をしいて経営者が責任を逃れるなんてことはないよな?」
「無能なトップだと従業員は痛い目を見る」
「従業員の為を思うなら金のあるうちに退職金払って切り捨てろ」と口早に言った。



***



類はつくしの行方を捜していたが、足取りはつかめなかった。
弟の進からも何の連絡もなかった。
だが予想は出来る。司のところにいるはずだ。ただどこにいるのかがわからなかった。


つくしが働いていた会社の現状は知っていた。
あの会社の経済的苦境は目に余るものがあった。
自社ビルは抵当に入り、他の不動産も借入金の担保として銀行に差し押さえられていた。
もし銀行がすぐにでも貸した金を返せと融資の回収に乗り出せばこの会社は倒産だ。
司のところが貸付けていた金額も相当なものだろう。
倒産して会社更生法の申請をしたとしても、裁判所が更生開始の決定をしてくれなければ会社は消滅する。更生法の適用を受ければ会社は存続されるが、不採算部門を切り捨てて出直す以外ない。
そしてどこかの会社が買い取って子会社化をする。
そのどこかの会社が司の会社だったってことか。でも倒産寸前で莫大な負債を抱えているこの会社をわざわざ買い取るなんて、今までのあいつならそんなことはしない。
潰れた会社を買ったほうがよっぽど安上がりなはずだ。それに買い取ったとしても、すぐにバラバラにして売り払う男だ。
何か密約でもあるのだろうと勘ぐらずにはいられなかった。

司は金のかかるすご腕弁護士を大量に抱えている
あいつのことだ。何かしたとしても決して跡が残るようなヘマはしていないだろう。


「専務、そろそろお時間ですのでお願いします」
「ああわかった。いま行く」
類は時計に目を落とすと言った。
「悪いけど、道明寺の社長とのアポ取って欲しいんだ」
「社長といいますと、道明寺司様ですよね?」
「そうだね、代ってないなら」
「専務はご友人では?」
類の秘書は真顔で聞いた。
「どうだろう・・」
今は友人と言えるかどうかわからなかった。
高級スーツとイタリア製の靴と権力を身に纏った男は自分が知っていた男とは変わってしまっていた。
喧嘩っ早く、無軌道な男ではあったが心根は純真で自分の信念を貫く男だった。
だが今の司は節操がない。まるでハゲタカと呼ばれても仕方がないような男だ。

「そう言えば道明寺さんは北村商事を買収されるとか」
「ああ。あの会社」
「どうやら海外での事業がお荷物になって債務超過になっているようです」
「社長も交代するらしいです。新社長は道明寺グループから送り込まれるようですが、まあ前社長の海外での拡大路線が悪かったとしかいいようがありませんでしたので仕方がないですね」
「うちもあの会社とは取引がありますので、倒産しなくて良かったですよね?専務」
「経営は結果がすべてですから、専務も頑張って下さい」
「それって俺に対してのあてつけ?」
「いえ。専務は頑張っていらっしゃいます。他意はありません」
秘書は頭を垂れていた。







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コメント
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dot 2016.03.20 12:32 | 編集
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dot 2016.03.20 21:46 | 編集
as***na様
金持ちの御曹司とは違った意味でのドキドキ感を有難うございます。
エロい坊ちゃんも好きですがこんな司も好きです。
こちらのお話もそろそろしっかり書きたいと思っています。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.21 16:35 | 編集
チビ**ママ様
そうですよね、全てタイプの違う司が三人いますね。
エロい御曹司、一見クールな司、そして壊れた司。
どれも好きなんですが書いていると時々キャラが混じります(笑)
エロ坊ちゃんとエロいつくしと言う組み合わせですが笑って頂けて良かったです(´艸`*)
こちらの壊れた司はまだまだ先が長そうです。
司の両親との絡みはまだまだあります。父親が曲者ですね。そんな気がします←?
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.21 16:49 | 編集
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