fc2ブログ
2016
03.17

第一級恋愛罪 13

パーティーに参加しろ。

着の身着のままでいいから会社まで来いと言われたつくしは、いつも通り代わり映えのしないビジネススーツで道明寺ホールディングスへと足を運んだ。
着る物は秘書が用意すると言ったんだからそれでいいじゃない。
どうせ雇われマダムみたいなものだ。あの男の隣でにっこりほほ笑んで見せればいいのだろう。
つくしはもともとパーティーに参加するような人間ではなかったので、どんな服装で参加すればいいのかよくわからなかった。
それにパーティーで着ると思われるようなドレスなんて一枚も持ってない。
だいたい冒険するような人間ではなく、どちらかと言えば保守的な考えかとも言われた。
だから服装もいたって地味だった。
これまで冒険するとか危険を冒すとか考えたこともなかった。
だから恋愛もなかなか上手くいかなかったのかもしれない。
これはある意味いい経験なのかもしれない。
そうよ!疑似恋愛だとでも考えてみればいい。

会場はホテルメープル東京で、としかわからなかった。
それにこの会社のいうドレスコードがどのあたりを指すのかもわからなかった。
道明寺クラスのパーティーにもなると格が違うと聞いたことがある。
政財界のトップクラスが参加して駐日外国公館の大使とか総理大臣経験者に現役総理大臣までが参加すると聞いたことがある。
そういえば首相動静欄で見たことがある。

『道明寺ホールディングス社長道明寺衡氏と山梨でゴルフ』とか
『ホテルメープル東京で道明寺ホールディングス主催のジャパンフォーラムに参加』

つくしも取材先がそんな会場になることがある。
互礼会とか賀詞交歓会とかどこかの会社の会長が叙勲したとか・・所詮新人記者が割り当てられるのはその程度だけど。

だが、今回は取材ではない。
でも仕事だ。
そう。これはつくしにとっての仕事であることにはかわりない。


それ以外にこの場所にいる理由はない。
なによ!そっちから時間を指定しておいて待たせるなんて。

とは言え、仕方がないのだろう。
それこそこの男のタイムスケジュールは総理大臣なみに細かく決められているのだろうが会議が長引いているのかつくしは執務室のソファで待ちぼうけを食っていた。

つくしは出されたお茶を飲み干すとじっとしているのも退屈だと部屋の中を歩き回っていた。
広い部屋だった。
一流企業の社長室とはこう言うものを言うのだと知った。
この前は部屋を見る余裕なんてなかったのでここぞとばかりに見学させてもらうことにした。
調度品は少なくてあっさりとした印象を受けた。
あの男の性格はあっさりとしているようには思えなかったが。
つくしが受けた印象はカッコイイけど嫌味な男だった。

広いデスクの上には電話とパソコンしか無かった。
極力ものを置かないと言う方針なのだろうか?
決済待ちの書類を入れるようなボックスも無かった。
それともあたしがここに入ることを見越して書類がデスクに乗っていないだけなのだろうか?いや。社内での書類の扱いが重要視されている現れなのかもしれない。

離席するときに個人情報が含まれた書類を扱っている場合などはその書類を裏返して離れる。
例えそれが社内の人間しかいない場所であっても情報漏れを防ぐ為に徹底している企業もある。
ブンヤと呼ばれる人間が社内いるとすれば書類の扱いに慎重になるのも当たり前か。
秘密保持契約の書類にはサインをした。だから例え今、ここで何かを知ったとしても喋るつもりはない。

壁に掛けられた絵は本物だろうか?
どこかの美術館にあってもおかしくないような絵が飾られていた。
つくしはよく見ようと思い絵に近づいた。
それは多分世界的名画と呼ばれる絵のひとつだった。
バブル時代に日本のいくつかの企業がそんな名画を買い漁ったことがあったと聞いたがその名残なのだろうか?
当時日本の企業が買い漁った名画で国内に残っているものは少なかった。

窓の外は高層ビル群が見える場所にこのビルは建っていた。
つくしは窓の外を見つめた。
東京の春。季節の変わり目だ。
ガラス越しに見る景色は夕陽に照らされている。
別にどこを見ていると言うわけでもなかったが、なんとなくぼんやりと外を見つめていた。
職場についての感想としてはおかしな言い方かもしれないが、この部屋の居心地は良さそうに思えた。
そりゃそうよね?都内の一等地にそびえ立つビルの最上階でこんな景色を見ながら仕事が出来るなんて羨ましいかぎりだ。




「時間を守る女に会うのは初めてだ」
挨拶もなしに入ってきた男はやっぱり嫌な男だった。
つくしは急いで窓の側を離れるとソファまで戻った。

「牧野様、お待たせして申し訳ございません」
あとに続いて入って来た西田秘書に言われた。
秘書の方がきちんと挨拶が出来るなんてと思わず笑いそうになった。
もしかしてこの秘書はこの男のお守役なのでは?と思った。


「いえ。お忙しいご身分ですから仕方がありません」
「それに私は呼ばれた身ですから」
人を呼んで待たせておいて詫びのひと言も自分で言わないなんて最低だとの思いを込めて言ってみた。

男はデスクの椅子に腰かけるとネクタイを緩めていた。

司は上着のポケットから万年筆を取り出すとデスクを叩いた。
それを合図とばかりに秘書は書類をデスクのうえへと滑らせていた。
書類に目を通しながらサインをしていく男を眺めながらあとどのくらいここでこうして待たされるのかとつくしは思わず漏れるため息を押さえていた。





暫くするとサインをする書類が終わったのか、椅子から立ち上がるとつくしに目を向けた。

「西田、ドンくさい女に用意したドレスは?」
「ホテルにご用意しております」

「あ、あのドレスっていってもあ、あたしのサイズ・・」
つくしがあげた声はまるで聞こえていないかのように無視された。

「しかし、子供服売り場でよく見つかったよな?」
「社長、子供服売り場ではございません。ホテルのブティックを通して用意させましたので何着がご用意しております」
「メープルで全部揃うのか?」
「はい。問題ありません」
「おい、おまえ」
「な、なによ?」
つくしは自分を無視して進められていた会話に突然加わることになった。
「契約したからには役をこなせ」
「そ、そのことで聞きたいんですが、恋人役が婚約者になっているみたいなんですけど」
「そんなこと知らねぇな」
「なんだよ?そんなことはどっちでもいい。おまえは所詮かりそめなんだから」

確かにそうだ。かりそめなんだからどっちでもいいと言われればそれまでた。
「で、でも・・あ、あたしたちの出会いとか聞かれたどうするの?」
いきなり役を押し付けられたような形で始まったのだから、口裏合わせとか打ち合わせとか何もなしと言う状況でどうやって演技をしろと言うのだろう。
それにどう見ても、いかにもぽっと出の駆け出し女優クラスなのに。
「笑っとけ」
のひと言で済まされた。



***




つくしはホテルの一室に用意されていた「衣装」に着替えていた。
馬子にも衣装とはまさにこのことだろうと思っていた。
こんなドレスなんて一般人には用がないと思われるような代物だった。
役に相応しいということか。
身体にはあっているんだから文句はない。だがどうやってあたしのサイズがわかったのかは知らない方がいいのかもしれない。
西田秘書の目から出たレーザー光線であたしのサイズを読み取ったのだとしたら凄い。
それとも道明寺司は女を見ただけで服のサイズがわかるような男なのか?
それは経験がそうさせるのか?
深く考えるのは止そう。
あたしには関係のない話だ。
あたしには夢がある!キング牧師じゃないけど目的があるから出来る。



つくしの目の前に黒の正装で現れた男はわが目を疑う以上にハンサムだった。
確かに並外れたカッコよさだとは思っていたが、生まれながらの品の良さというのか、人を圧倒するオーラというのだろうか。抵抗出来ない何かを備えた男と言うのはこう言う男のことを言うのだろうか?
そしてその全身を包むような冷たさはどこからくるのだろうか?
ビジネス界の若きプリンスはプライドの高を象徴するような視線でつくしを見た。

「来い。パーティータイムだ」







にほんブログ村

人気ブログランキングへ

応援有難うございます。
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.03.17 15:36 | 編集
さと**ん様
「来い」良かったですか?
嫌味で冷たく美しい男に言われたい!(´艸`*)
ドSの司に言われたいです!
西田さんのレーザー光線がマジンガー!(笑)
古くないです。普通に歌えます(^^)/
この西田さんムッツリスケベかもしれません。
ところでさと**ん様、次回の御曹司が凄いことになって来たんですが?
歯止めが効かない状態?舞台の上から**を叫びすぎ?←その時は一緒に叫んで下さいっ!(笑)
でも愛し合う二人なので許してもらえることを祈りつつ、週末公開を予定しています。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.17 22:29 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top