「では牧野様、早速ではございますが」
案内された部屋は成功者に相応しい部屋だった。
つくしは西田に勧められたソファに腰かけると出されたお茶を一気に飲み干していた。
さっきから喉が渇いて仕方が無かった。本当はお代わりを求めたいと思ったが止めた。
「牧野つくし26歳。思ったより年食ってんだな。もっと若いと思った」
司はソファに腰かけず大きなデスクの端へと身体を預けると腕組みをしてつくしを見た。
「ち、小さいし、どちらかと言えば童顔なので若く見られることは多いです」
「そんななりでもおまえ俺の恋人になったんだから、もう少しなんとかしねぇとな」
「どう思う?西田?」司は西田に目で問いかけた。
「そうですね、もう少し身だしなみには気をつけて頂かないといけませんね」
ジロリと見られ、つくしは慌てて髪に手をやると手ぐしで整えた。
そんなことは言われなくてもわかっていた。
元を正せば誰のせいでこんなことになったのか・・・
つくしは思い出した。自分のせいだ。自分が足を取られて転び損ねたせいだ。
あのままこの男に抱き留められることなく、いっそのこと顔面から床に打ちつけられていても構わなかった。
そうすればこんな騒動に巻き込まれてはいなかったはずだ。
「そ、そう言うど、道明寺さんはどうなんですか?」
「なにがどうなんだよ?」
「道明寺さんこそおいくつなんですか?」
「おまえよりいっこ上だ」
「27歳?」
つくしは驚いた。
実は道明寺司の年齢まで知らなかった。
大方30歳くらいだと思っていた。それにしても27歳で社長に就任するなんて余程のことなんだろう。余程優秀なのか、後継者問題に絡むお家事情があるとか。
確か前任の社長が退任を決めたのはつい最近の出来事だった。
前社長とは言っても道明寺司の父親で退任といってもその後は会長職に着く予定で
オーナー企業であることには変わりがない。
発行株式の半分近くを道明寺家で保有する筆頭株主であり世襲経営者だった。
そしてその息子もこれまた世襲だった。
どちらにしてもこの男の経歴はきらびやかで、その経歴にまたひとつその輝きが付け加えられるわけだろ。
そんな男がどうしてあたしにかりそめの恋人役なんてと驚く以外に何が言える?
「あの、色々とお聞きしたいことがあるのですが・・」
「何か気になることでもあるのですか?牧野様」
あるある!
「どうしてあたしにこんな・・・えっと、かりそめの恋人役なんて頼むんですか?」
司はつくしと目を合わせた。
「適当」
「て、適当?」つくしの声は素っ頓狂に裏返った。
「そうだ」
「そうだって・・・」
「だってそうだろ?おまえがたまたま近くにいたから、そうなった」
「たまたま・・近くに?」
確かにそれはそうだけど・・
「そ。それにおまえ新聞記者だろ?記者なんて特ダネ掴んでなんぼだろ?おまえみたいなドンくさそうな記者なら特ダネ欲しさに身売りでもするんじゃねぇの?」
「代議士の女秘書丸め込んで懇ろになって情報を聞き出すとか得意だろ、おまえら」
「男芸者みたいな記者知ってんぞ」
つくしはカチンときた。
「随分とあけすけにおっしゃいますね」
確かにそんな記者がいるとは聞いたことがある。
「そうか?正直に言っただけだけど?」
「それに新聞記者が恋人だなんて、マスコミ連中からしたら信じられねぇことだろうから面白そうだろ?あのマスコミ嫌いの道明寺司の恋人は新聞記者だった!なんてよ」
「だから自分達には取材させてもらえなかったんだって納得するだろ?」
「そうだ、これからは取材に来た記者どもには二人のことはおまえに聞いてくれって言えばいいな?」
司は口の端をかすかだが歪めた。
「そんなこと言って大丈夫なんですか?道明寺さん。随分とあたしのことを信用されてるみたいですけど?」
「そんなに言うならあることないこと喋るかもしれませんよ?」
つくしはムッとした口調で言った。
「牧野様、そのようにむきにならないで下さい」
「冗談ですから」
とても冗談には見えなかった。それに冗談だとしても侮辱するにも程がある。
が、もし冗談だとしたらこの男、相当芝居が上手いに違いない。男の態度に芝居じみたところなど感じられず、二人とも大真面目で言い合っていた。
企業経営者は本当の顔を見せることはないと言うのは分かってはいたが、この道明寺司と言う男、どこまでが本音でどこまでが冗談なのか、出会ったばかりのつくしには見極めることが出来なかった。
だが西田にきっぱりと言われ、話の接ぎ穂を失い司もつくしも黙り込んでいた。
こんな男の言う約束なんて信じられない。
まさかあたしと・・・いや考えたくもないがあたしを弄んで・・都合のいい女・・
なんてこと考えてないでしょうね?
うわっ!ダメよ、そんなこと考えたら。
心に思うと現実になってしまうこともある。
まずはきちんとした約束を取り付けなければ。
金銭的な見返りではなく、独占インタビューの約束だ。
つくしはあんたに気に入られようなんて思ってないんだから、言いたいことは言わせてもらうわよとばかりに男を睨んだ。
「牧野様、御含み頂きたいのですが。前社長は3月の取締役会で退任します。4月からは司様が新社長としてご就任されます」
「つきましては新社長就任披露のパーティーがございますので、そちらへ司様の恋人としてご出席をお願い致します」
「パ、パーティーですか?」
「お断りしてもいいですか?」
「そのお断りはこちらからお断りさせて頂きます」
と一刀両断された。

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「牧野つくし26歳。思ったより年食ってんだな。もっと若いと思った」
司はソファに腰かけず大きなデスクの端へと身体を預けると腕組みをしてつくしを見た。
「ち、小さいし、どちらかと言えば童顔なので若く見られることは多いです」
「そんななりでもおまえ俺の恋人になったんだから、もう少しなんとかしねぇとな」
「どう思う?西田?」司は西田に目で問いかけた。
「そうですね、もう少し身だしなみには気をつけて頂かないといけませんね」
ジロリと見られ、つくしは慌てて髪に手をやると手ぐしで整えた。
そんなことは言われなくてもわかっていた。
元を正せば誰のせいでこんなことになったのか・・・
つくしは思い出した。自分のせいだ。自分が足を取られて転び損ねたせいだ。
あのままこの男に抱き留められることなく、いっそのこと顔面から床に打ちつけられていても構わなかった。
そうすればこんな騒動に巻き込まれてはいなかったはずだ。
「そ、そう言うど、道明寺さんはどうなんですか?」
「なにがどうなんだよ?」
「道明寺さんこそおいくつなんですか?」
「おまえよりいっこ上だ」
「27歳?」
つくしは驚いた。
実は道明寺司の年齢まで知らなかった。
大方30歳くらいだと思っていた。それにしても27歳で社長に就任するなんて余程のことなんだろう。余程優秀なのか、後継者問題に絡むお家事情があるとか。
確か前任の社長が退任を決めたのはつい最近の出来事だった。
前社長とは言っても道明寺司の父親で退任といってもその後は会長職に着く予定で
オーナー企業であることには変わりがない。
発行株式の半分近くを道明寺家で保有する筆頭株主であり世襲経営者だった。
そしてその息子もこれまた世襲だった。
どちらにしてもこの男の経歴はきらびやかで、その経歴にまたひとつその輝きが付け加えられるわけだろ。
そんな男がどうしてあたしにかりそめの恋人役なんてと驚く以外に何が言える?
「あの、色々とお聞きしたいことがあるのですが・・」
「何か気になることでもあるのですか?牧野様」
あるある!
「どうしてあたしにこんな・・・えっと、かりそめの恋人役なんて頼むんですか?」
司はつくしと目を合わせた。
「適当」
「て、適当?」つくしの声は素っ頓狂に裏返った。
「そうだ」
「そうだって・・・」
「だってそうだろ?おまえがたまたま近くにいたから、そうなった」
「たまたま・・近くに?」
確かにそれはそうだけど・・
「そ。それにおまえ新聞記者だろ?記者なんて特ダネ掴んでなんぼだろ?おまえみたいなドンくさそうな記者なら特ダネ欲しさに身売りでもするんじゃねぇの?」
「代議士の女秘書丸め込んで懇ろになって情報を聞き出すとか得意だろ、おまえら」
「男芸者みたいな記者知ってんぞ」
つくしはカチンときた。
「随分とあけすけにおっしゃいますね」
確かにそんな記者がいるとは聞いたことがある。
「そうか?正直に言っただけだけど?」
「それに新聞記者が恋人だなんて、マスコミ連中からしたら信じられねぇことだろうから面白そうだろ?あのマスコミ嫌いの道明寺司の恋人は新聞記者だった!なんてよ」
「だから自分達には取材させてもらえなかったんだって納得するだろ?」
「そうだ、これからは取材に来た記者どもには二人のことはおまえに聞いてくれって言えばいいな?」
司は口の端をかすかだが歪めた。
「そんなこと言って大丈夫なんですか?道明寺さん。随分とあたしのことを信用されてるみたいですけど?」
「そんなに言うならあることないこと喋るかもしれませんよ?」
つくしはムッとした口調で言った。
「牧野様、そのようにむきにならないで下さい」
「冗談ですから」
とても冗談には見えなかった。それに冗談だとしても侮辱するにも程がある。
が、もし冗談だとしたらこの男、相当芝居が上手いに違いない。男の態度に芝居じみたところなど感じられず、二人とも大真面目で言い合っていた。
企業経営者は本当の顔を見せることはないと言うのは分かってはいたが、この道明寺司と言う男、どこまでが本音でどこまでが冗談なのか、出会ったばかりのつくしには見極めることが出来なかった。
だが西田にきっぱりと言われ、話の接ぎ穂を失い司もつくしも黙り込んでいた。
こんな男の言う約束なんて信じられない。
まさかあたしと・・・いや考えたくもないがあたしを弄んで・・都合のいい女・・
なんてこと考えてないでしょうね?
うわっ!ダメよ、そんなこと考えたら。
心に思うと現実になってしまうこともある。
まずはきちんとした約束を取り付けなければ。
金銭的な見返りではなく、独占インタビューの約束だ。
つくしはあんたに気に入られようなんて思ってないんだから、言いたいことは言わせてもらうわよとばかりに男を睨んだ。
「牧野様、御含み頂きたいのですが。前社長は3月の取締役会で退任します。4月からは司様が新社長としてご就任されます」
「つきましては新社長就任披露のパーティーがございますので、そちらへ司様の恋人としてご出席をお願い致します」
「パ、パーティーですか?」
「お断りしてもいいですか?」
「そのお断りはこちらからお断りさせて頂きます」
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Comment:1
コメント
v**go様
西田さんのひと言にサイコー有難うございます(^^)
そしてドキドキ有難うございます。
ドンくさい女と思われているつくしちゃんと司の恋物語となっております。
まだ二人の絡みが少ないですがそろそろ絡んで来る予定です(笑)
こんな二人、どうやって親しくなるんでしょうね・・
そのあたりをお楽しみ頂けるといいのですが・・(^^♪
拍手コメント有難うございました(^^)
西田さんのひと言にサイコー有難うございます(^^)
そしてドキドキ有難うございます。
ドンくさい女と思われているつくしちゃんと司の恋物語となっております。
まだ二人の絡みが少ないですがそろそろ絡んで来る予定です(笑)
こんな二人、どうやって親しくなるんでしょうね・・
そのあたりをお楽しみ頂けるといいのですが・・(^^♪
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.03.14 22:20 | 編集
