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2016
03.10

第一級恋愛罪 9

今日はもうこれ以上悪いことはないと思っていたがどうやらそうは行かなかったようだ。
二人が乗った車は道明寺ホールディングスビルの前へと到着した。

新聞社まで送ってくれるのかと思えば違った。
確かにあんな騒動になっているし、社に戻っても色々と問い詰められるのは目に見えていた。
すぐに帰れ!と怒鳴られたが今すぐに帰ることは出来そうになかった。
それにつくしとしてもかりそめの恋人役を引き受けるにあたっての条件確認が必要だった。
道明寺司との独占インタビューを成功させるにはやっぱり契約書を交わした方がいいのだろうか?

口約束は約束をした時点で契約として成立するが、それこそ恋人役の契約なんて世間にばれたら金で女を買ったとか、恋人契約イコールそれは愛人契約だなんて思うのが世間一般の考え方だろう。
たとえそこに金銭の授受が含まれないとしてもだ。いや男と女の契約なんだから何らかの対価が支払われたと考えるのが普通だろう。ところで恋人と愛人の違いってなに?
マンションを買い与えたとか、高価な車を買い与えたとか海外旅行に連れて行くとかそんなのどっちにもするでしょ?

もし新聞記者がそんな不謹慎な契約を結んでいただなんてことが知られたら・・・
民法第90条公序良俗違反に当てはまって人倫に反する行為だなんて言われるのがおちだ。
でも相手は独身なんだし愛人契約を結ぶわけじゃないんだし、人倫に反してなんて言えるのだろうか?それに肉体関係もないわけなんだし。
どちらにしてもこれ以上騒ぎの主役にはなりたくはない。
純粋な恋人同士ならそれも違うんだろうけど。

まあ道明寺司に関して言えば、金で女を買うとか、愛人の契約なんてしなくても履いて捨てるくらい女が群がるのだろうけど。
何しろ地位も名誉も美貌も備えたと言われる男だ。天は二物を与えずなんて言うけど、二物もどころか三物も与えてるじゃない!
だが、その性格までは世間には知られていないのだろう。
道明寺の御曹司か・・・



都内の一等地に立つ建物は他に入居している企業はなく道明寺ホールディングス東京本社が全フロアを占めていた。
このビルの名前は道明寺ホールディングスビルだとしても自社ビルとは限らない。
ビルの所有者は不動産会社だったりする。それはどの巨大企業にも見られることだった。
つくしは後で調べてみようと思った。
半年後にはこの男についての独占インタビューが約束されるわけだし、もっとこの会社について知っておいて損はない。


大層ご立派なエントランスには出迎えの人間が大勢並んでいた。
いったい何人いるのか。
まずは黒っぽいスーツを着た男が車のドアを開ける為に近づいてきていた。
「お疲れ様でございます」
「お帰りなさいませ、社長」


隣にいた男はネクタイを締め直すと車を降りて行った。
あたしはこの車から降りてもいいのだろうか?
でもどのタイミングで降りたらいいの?
呼ばれない限りはここにいた方がいいのだろうか。
それにしても挨拶が長い。挨拶もほどほどにしないと日が暮れる・・
なんて思っていたら男が急に振り向いて車の方へ戻ってきた。


「牧野つくし、早く降りてこい」
車の高さに身体を屈めると中を覗き込んできた。
「え?い、今あたしがここで降りてもいいんですか?」
「いいんだよ!どうせおまえの顔はもう知れ渡ってるんだから今更だ」

は・・確かに。

つくしはひとりごちると車から降りようとした。
そしてまたもや前につんのめって転びそうになったところを受け止められた。
本日二度目の転倒未遂事件だった。
今度は抱き留められるじゃなくて、受け止められた。
この違いは大きい。ようは手だけで支えられたと言うことだ。
これ以上ひと目のあるところでの抱かれる行為は慎みたい。

「なにやってんだおまえは・・」
と呆れたようでいかにもドンくさそうに言われた。
しょうがないでしょ!靴が片方しかないんだから!
誰かのせいであたしの靴は空港のロビーに転がったまま・・・


「牧野様、こちらを・・」と西田がつくしの忘れられていた靴を差し出した。
どうして車内で出してくれなかったのよ!このメタルフレームメガネ!
「ご、ご親切にどうも・・」
つくしは礼を述べると差し出された靴を受け取った。



***



ぎくしゃくした雰囲気のなか、大勢の人間が出迎えに集まっているロビーを抜けて役員専用と思われるエレベーターの中に三人はいた。
こちらは社長専用のエレベーターですので他に誰も使用することはありません。
メガネの男はたったひとつしかないボタンを押した。


乗り込む前にひそひそ声で囁かれていたのは、道明寺司の後ろをついて歩く小柄な女についてだった。

『 あっ、ねえあの人、Mさんよ 』
『 やだうそ!本人なの? 』
『 でもなんでここに? 』

つくしは身をすくませた。
まさか自分が観衆の注目の的になるなんて信じられなかった。
じろじろと見られひそひそと囁かれる。
そんなことが自分の身に起こることが信じられなかった。


つくしは狭い箱の中で自分の隣に立つ背の高い男を意識していた。
記者としての好奇心の方が強くて道明寺司の独占インタビューと言う餌につられてここにいるわけだが、それでも男として見ないわけではなかった。

公平な目で見てもこの男は確かに男前だ。
髪の中に指を差し入れてかき上げる仕草なんて確かに絵になる。
多くの女性達が涎を垂らして追いかけてもおかしくはない。
私生活は謎だがきっと上手く隠しているのだろう。
多分向うに、アメリカに恋人がいて、その恋人をマスコミの目からかわす為にかりそめの恋人を立てることにしたのだろう。
けどあたしをかりそめの恋人として立てることで煩わしいマスコミから逃げるなんて・・
しかもそのかりそめの恋人はこの男が毛嫌いしているマスコミ関係者だなんて・・
世の中にはいくらでもそんな役割を引き受けてくれる女性なんて沢山いるでしょ?
まさかとは思うけど、女が嫌いだなんてこと・・ないわよね?
そう考えれば少しだけ笑えた。






今まで自分の周りにいないタイプを探せばなんとかなると思っていたが牧野つくしはまさにその条件に当てはまる女だった。
今、自分の隣でひとりにやついているのは洗練されたと言う言葉からは程遠く、新聞記者なのにドンくさい女。
多分この女は特ダネを掴むとか絶対に無理だと感じるくらいのドンくささだ。
が、かえってそんな女の方がちょうどいいのかもしれない。
愛だ恋だと求めて本気になられるのだけはごめんだった。
ベッドの相手を求めているわけではなかったし、そう言った相手はいざとなればどこにでもいるものだ。ただ問題はずっと一緒にいたいと思えるような相手には巡り会ったことがないと言うことだ。
今必要なのは自分のことを好きにならない女で夫を求めない女だった。
司は日本に着任してから最低でも半年間は静に過ごしたかった。









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コメント
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dot 2016.03.10 08:38 | 編集
た*き様
にやけるつくしとそれをドンくさい女と見つめる司(笑)
そうなんです。コメディですので勘違いが沢山あると思います。
週刊*春、最近はスクープが凄いですよね?
つくしちゃんも負けないように司の独占インタビューが成功するといいんですが(笑)
ですがドンくさい女と見られているので大丈夫なのでしょうか(^^)
それが少し心配です。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.10 22:59 | 編集
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dot 2016.03.10 23:13 | 編集
さと**ん様
メタルフレームメガネの西田さんです(笑)
今回の新聞記者つくしはああでもない、こうでもない、とひとりで考えてみては納得。
自己完結型人間みたいです。思い込みも激しいのかもしれません。
新人記者にありがちな熱血漢で行こうと思っています。
それはそれで、なんだか暴走しそうで怖いですね。
ひとりでニヤつくつくしを「ドンくさい女」と思っているグルグル頭でした(^^)
そのドンくさい女に振り回されて「御曹司」みたいなM気質にならないように気を付けます!(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.11 00:16 | 編集
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