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2016
03.08

第一級恋愛罪 7

つくしはてっきり怒られると思っていただけに相手の思わぬ笑い声に両手で名刺を差し出したままの状態で顔をあげ、司を見た。
だが司の口元には嘲りの笑みが浮かんでいるのが見て取れた。

司は何か考え込むようにじっとつくしを見た。
どうせまた売名行為じみた女の行動だろう。この女の目的は何だ?
司は牧野と名乗った女について詳しく調べる必要があるか考えた。

「社長、どうなされますか?牧野様の件は?」
「今更だろ?こんなに記事が出回ってるのにどうしようもねぇだろ」
「ではこのまま放置するということで構いませんね?」
「ああ。そうしてくれ。こんなくだらない話なんてよくて1週間持つか持たないか程度だろ?」

メガネの男はわかりましたと頷き後部座席との仕切りを元の状態へと戻す動作をしていた。
そうして静かに仕切られた後ろの広い空間には再び司とつくしだけになっていた。

「で、おまえの目的は何だ?」
司はどかっと身体を後ろに預けると長い脚を見せびらかすように組み直していた。
そして片肘を窓側のアームレストについた姿勢でつくしを見た。
「え?はい?私の目的ですか?」

冷たい視線でジロリと睨まれつくしはごくりと唾を飲んだ。

『 連中はマスコミの報道には慣れている。だが相手は道明寺の次期社長だ。言葉には気をつけろ 』

つくしはキャップの言葉を思い出していた。

「あの、ですから私の目的は道明寺さんからコメントを頂くことです」
「こ、この度は新社長へのご就任おめでとうございます」
つくしは慎重に言葉を選んだ。
社長の単独インタビューなんて夢のまた夢だと思っていた。
自助努力でなんとかなるものではないから、どうにかしてきっかけを作りたいと思っていたのだが・・・もしかして今のこの状況は単独インタビューに近いのかもしれない。
車の後部座席に二人っきりだ。
経団連会館の中にある各メディアの集まる記者クラブの担当者が羨ましがることは間違いないはずだ。
道明寺社長の帰国会見は自社であるはずだが、それよりも一足早くインタビューが出来るとは!
もしかして凄いチャンスを掴んだのかもしれない。






こんな女、半年前なら躊躇うことなく車から放り出していただろう。
成り行きでこうなってしまったがいい迷惑だった。
帰国早々マスコミに愛想を振り撒けなんて言われ、その気もないのにマスコミの前に姿を現せばこの有様だ。
どうせならもっと可愛らしいリポーターの方がまだましかと思ったくらいのドンくさい女が自分の隣にいる。
この女、早速チャンスとばかりにインタビューでも申し込みたいと考えているようだが、何も言えずに唇を噛んでいやがる。
おまえ記者なんだろ?なに固まってんだ?こいつ仕事する気あんのかよ?
俺から言わせりゃ俺みたいな大物と車の中で二人っきりならやる事なんていくらでもあると思うが、こいつはマスコミには向いてないな。
食いつきが悪い。

それに女としてもどうなんだ?
色仕掛けとかもまず無理だな。
プロポーションも今一つ、服装のセンスも無難なところで可もなく不可もなく、そのスーツはどこかの吊るしだろう。
だが司は思った。
仕事に対する姿勢だけは褒めてやる。
ドンくさいがドンくさいなりに一生懸命やろうと言う意気込みだけは感じられた。
けどな、仕事は意気込みだけじゃ出来ない。
だが、物事をきちんとやり遂げようという責任感は感じられる。司は思った。
この女にやらせてみようか。この女なら役目を果たしてくれるかもしれないがどうだ?

司は片肘をついたままの姿勢でつくしを見ていたが車が信号で止まったときに切り出した。
「なあ、おまえ仕事しないか?」
「し、仕事ですか?」

願ったり叶ったりだわ。それは単独インタビューってこと?
でもICレコーダーは空港のロビーだし書く物もない・・携帯の機能で録音出来る?


司はつくしに視線を合わせた。

「おまえ俺の恋人にならないか?」


司は自分が訝しかった。
思わずそんな言葉が勝手に口をついていた。
どうせならプロポーション抜群で服装のセンスも際立っている女にすればいいのに、なんだってよりにもよってこんなドンくさそうな女に声をかけてしまったのか。
予定外だがまあいいか。



つくしは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
何を言っているんだろうかこの人は。
つくしは自分の手から携帯電話が滑り落ちそうになっていたのを慌てて持ち直していた。
「すみません、どういう意味でしょう?」
普通の男なら何を寝ぼけたことを言っているのかと笑い飛ばすなり出来るが、相手が相手だけに真意を探る必要があった。
もしかしたらあたしの聞き間違いかもしれない。

『 俺の・恋人に・ならない・か? 』

いや。どうやっても聞き間違えようがない単語だった。
誰かと間違えてない?
それとも誰かに告白するための練習をしてるの?

「で、どうする牧野つくし」

どうする牧野つくし・・

まきのつくし・・・

まきの・・

あたし? あたしよね?

「おい牧野、返事は?」

「は、はい!」

「よし。じゃあそう言うことでよろしく牧野」








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