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2016
03.07

第一級恋愛罪 6

つくしは電話を切ると深くうなだれていた。
取材に行ったお前が取材対象になってどうするんだ!
今どこにいるんだ!すぐ戻れ! 
と怒鳴られた。

つくしはあまりの決まり悪さに身の置き所がなかった。
車内は広いとはいえ隣には道明寺司という状況につくしはまさに穴があったら入りたいと言う状態だった。多分顔は茹で上がったタコのように真っ赤になっているだろう。
恥ずかしいことに下着まで見られた。
赤の他人に下着までじろじろと見られていたとは。
隣に座る男の長い脚は膝のうえで優雅に組まれ、組まれた足先の靴はまるで自分の顔まで映るくらいピカピカだった。そしていかにも金持ちの男性が好みそうで高級そうな腕時計が白いワイシャツの袖口から覗いていた。

いかにも財界の若きプリンスという雰囲気が感じられつくしの身体は隣で固まっていた。
つくしがまき散らした名刺はすべて拾われ、マスコミ各社の手にすることとなった。
あの道明寺司と新聞記者が恋仲か?
大マスコミ嫌いの道明寺司が新聞記者と?
この二人にいったいどんな接点があったと言うのか?
リポーターたちに矢継ぎ早に質問を浴びせかけられながらも平然と車まで歩く男の後ろを警護の人間に拉致されるように連れて行かれ車に押し込められたつくしは次号の週刊誌の見出しが頭の中に思い浮かんだ。

『 道明寺社長の恋人はN新聞社の経済部記者 』


どうせ書くなら記事の中に清楚な雰囲気の小柄な女性・・なんてこと書いてくれないかな・・

そして写真は・・・
せめてプライバシーに配慮して目の部分だけでも隠して欲しいものだ。
うちの新聞社は週刊誌の問い合わせに何か答えるのだろうか。
まさか自分が報道ネタ、いやゴシップネタになろうとはつくしは思いがけない事態に頭が混乱したままだった。
そしてリポーターの言葉が意識の中で甦った。

『 恋人との再会ですか? 』

まさかご冗談を。あたしみたいに平凡な女が恋人なわけがないでしょう?






この女の年はいくつだ?
さっきから隣でひとりごとを呟くように何かを罵っていた。
とても20歳以上には思えなかった。
が、聞かずにいられないことは聞くべきだ。

「おまえ、年いくつだ?」
「26・・ですけど」
つくしは司の黒い瞳が驚きに見開かれるのを見た。
いつもそうだ。
自分が年令を言うと一応に相手は驚いた表情になる。
鏡に映る自分の姿はいやと言うほどわかっていた。

決して美人とは言えず、だからと言って可愛らしいという感じでもなかった。
どこにでもいる普通の顔立ちで印象に残るような顔ではなかった。
背は160センチそこそこ、髪は黒くストレートで肩先で揃えられていた。

ひとつだけチャームポイントだと言えるのは、自分でも言うのはなんだけど黒く大きな瞳だ。そして昔からよく言われるのは気持ちがすぐに表れてしまうと言うことだ。
気持ちが表れると言うよりも、ひとりでに口をついて出ていると言うほうが正しいのかもしれない。
気持ちが変わるたびに表情がくるくると変わるから他人はつくしの顔を見れば、今の彼女の状況は一目瞭然だった。
そんなつくしの状況は一目瞭然。
今の彼女の表情は重苦しく沈んでいた。

「あの、こんな騒ぎになってしまい本当に申し訳ございませんでした」
つくしはひたすらあやまる以外何も出来なかった。
先程受けた電話は社からの電話だった。つくしの所属する経済部のキャップは烈火の如く怒っていた。そのうちデスクからも電話がかかってくるような気がする。

キャップとは取材チームの中でのまとめ役で現場責任者のような役割をはたしている。
そして記者の書いた記事をまとめてデスクに上げる役割を担当している。当然だが新人の面倒も見る。今日つくしを空港まで車に乗せて送り届けたのもキャップだった。
やっぱり新人を道明寺司の取材になんて出すんじゃなかった・・なんて思われていることに間違いはなかった。
そしてキャップの上にいるのはデスクで実質的に原稿を出す最終責任者だ。
つくしが所属する経済部には経済面という自分の部署の名前がついた紙面がある。
つまりはそこには記事が必要ということだ。経済部のデスクは経済面についてはほぼ自分の思う通りに編集が出来るからあたしの記事なんて必要ないと言われればそれまでなのかもしれない。
それでも何か記事を書かなくては!
朝起きて、配達された新聞に記事がなくて紙面が真っ白という悪夢を見る・・なんてことを記者仲間の間で聞くがあたしがその原因になったらどうしよう!

この騒動がデスクで止まればいいんだけど、その上の部長とか編集局長とかその上の社長まで行ったらどうしよう!
やっぱりあたしは販売店で配達なのだろうか・・


社長は財界でも名の知れた人物で当然ならが道明寺ホールディングスとも関わりがあるだろう。
この話が伝わるのもそう遅くはない話なのかもしれない。

そして、新聞社の利益のひとつは広告収入によるものも大きい。
道明寺くらいの企業になれば決まった広告代理店を通して広告を載せてくる。
広告担当の営業は新聞社と代理店契約を結んだ広告業者に対して営業をかけるわけで直接道明寺に営業をかけるわけではないが、それでもエンドユーザーである道明寺がノーと言う答えを出せばうちの新聞社には広告を出してくれなくなる。

まさか!あ、あたしの失態でとんでもない事態になるんじゃないでしょうね!

最近は景気の良かった頃と違い莫大な広告宣伝費をかけてまで新聞広告を出すのはちょっとと言う企業も多い。
そのなかでいくつものグループ会社を抱え、沢山の広告を掲載してくれる道明寺ホールディングスにうちの新聞社は恩恵を受けていた。
つまり、こちらの、つくしの隣に座る男の一存で広告が引き上げられる恐れもあると言うことだ。

つくしは自分の顔からさぁーっと血が引くのを感じていた。



「おまえ、牧野つくしって言うのか?」
「は、はい!そうです。牧野つくし26歳、N新聞社編集局 経済部記者です」

つくしは改めて名刺を差し出そうとして上着のポケットを探ったが自分の名刺入れは空港ロビーに放り出したままであることを思い出していた。
仕方なくメガネをかけた男から手渡された自分の名刺を男に差し出した。
もちろん、両手できちんと、頭を垂れて差し出した。
つくしはもうやけくそだった。せめて自分の口調から謝罪が感じられますようにと平身低頭、頭を低くした。
髪は乱れ、靴は片方だけ、いま自分が持っているものと言えば携帯電話と差し出した名刺一枚のみで自分の身の証を立てるものは何も無かった。
色んなものを詰め込んだ鞄は車の中に置いてきていた。



「牧野つくし・・・26歳・・・」
「おまえそのなりで本当に26歳か?」つくしの頭の上で笑い声がした。








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