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2016
03.05

Collector 13

Category: Collector(完)
ニューヨークでは昔の愛人が接触するようなことはなかった。
あの女以外は欲しいとは思わない。
頭の片隅にあるのは、ひたすら自分を拒む態度を見せる牧野の姿。
怯えた態度を見せることなく昔と変わらない態度で自分に歯向かうあの女のことが頭の中から離れない。そして、そんな態度が無性に腹立たしい。
少しでも怖れをなすような態度でも見せるなら自分もあんなことはしなかったかもしれない。

牧野つくしの失踪人届け出を燃やした。
どういうつもりであの山荘に牧野を閉じ込めることにしたのか。
まだ幼い頃、父親と訪れ狩について学んだ場所だった。
狩をすれば当然だが動物の死体を目の当たりにする。狩られた動物は自分の命がなんの為にそうなったかなんて考えないだろう。
ただその獲物が欲しかったからとしか言えない。自分の欲望がそこにあるからとしか言えない。
俺はあいつが欲しい。
誰にも渡したくはないからあそこに閉じ込めた。
あの場所なら外部から誰かが近づけばすぐにわかる。
それにあの場所は胸糞悪い類も知らないはずだ。

司は車の後部座席から降りるとビルの中へ入った。
エレベーターで最上階へ向かい「おはようございます」と挨拶を受けるとの奥の扉へと進んでいった。



「来たか」部屋の奥から声がした。
その声の持ち主は自分とよく似た風貌をしていた。
司は立ったままで、相手はデスクの向う側で椅子に腰かけたままだった。
陽の光りが眩しいのかブラインドは閉められた状態でどこか見下した様子で愉快そうな表情を浮かべていた。
司の視線が鋭くなった。
多分あと何十年かすればそうなるであろうと思われる自分を見るようだ。


「おまえは相変らず世間知らずだな」
この年になってまだそんなことを言われるとは司も舐められたものだと思った。
何をもって世間知らずだと言われているのか。
「わたしが何も知らないと思っているわけではないだろう?」
少し前からウォールストリートで噂になっていることがあった。
道明寺ホールディングスが本社をニューヨークから東京に移すと言うのだ。
重役会ではそんな話は出たことがなかったが噂だとしても見過ごすわけにはいかなかった。
その噂を次の重役会で否定することが必要だった。
ニューヨークは世界経済の中心地であり、道明寺がここまで成長したのもアメリカで占める事業の割合が多かったからだ。

しばらく、黙ったままでいたが話を続けた。
「本社をニューヨークから東京に移すなど何を考えているんだ?」
「何がご不満なんですか?売上げ高は過去最高。利益も去年より多いですが?」
「ここから本社を東京に移すなど・・あの娘か?」
「わたしが知らないとは思っていないだろ?あの娘を傍に置くために警察にまで・・」
「金と力があればなんでも出来る」
「そうでしょう?親父さん」
司は父親の顔をじっと見た。
「今更あんたに何か言われる筋合いはないと思うが、あんたババアをわざわざ偵察によこしたよな?」
「あんたとババアの考えてることは昔から変わんねぇな。相変らず俺から取り上げようと考えてるんだろ?」
「与えることはしなくても、奪うことは道明寺家の血筋なのかもな」
「だから俺も欲しい物はこの手で奪うことを覚えたわけだが。おかげでうちも以前より利益は増えてんだから文句はないはずだ」

司にとっては道明寺がどうなろうが全く興味はなかった。だが自分の父親はすべてにおいて完璧を求めるタイプの人間だ。
だから自分がこの男よりも力を持つためには、どれだけ金を集めることが出来るかと言うことがいかに重要かと言うことはわかっていた。
自分に対して文句などつけさせるものかと言う思いから、自分の立ち位置が決まった。

人間が本当にそのつもりになったとき、どれだけのことが出来るかと言うことはこの10年間で学んだ。もともとあの女に会うまでの17年間は道明寺家の跡継ぎとして飼われてきたようなものだった。自分の命にけりをつけたいと思ったこともあった。
それだけは他人のものを奪う行為では無かった。
だが17年間飼われてきた飼い犬が初めて飼い主の手を噛んだとき、その見返りが思いもよらぬ形で返ってきたことだけは忘れようにも忘れられなかった。


だが飼い犬が飼い主を噛むなんて、どこの世界でもあるものだ。
例えそれが親子だったとしてもだ。世間では親子だから許されると言うことも道明寺家ではそれはないはずだ。
目の前に座る男がたとえ血の繋がった親でも親も子もない関係で育ったのだから、話をしている相手は名誉職に退いた男でしかないと思っていた。


司は部屋の隅までぶらぶらと歩いて行くとコンソールテーブルの上に飾られている花瓶を手にしていた。
「いい花瓶だ」その言葉には少なからぬ称賛が込められていた。
それは中国清王朝時代に作られた花瓶で無傷なら2000万はくだらないと言われるもの。
清の時代といえば中国が今の政治体制になるまえ、最後の王朝が栄華を誇っていた頃だ。
司は片手で淵を持って、冷やかし程度に眺めるふりをしていた。

「ババアにも言ったけどよ、俺は牧野に俺のガキを産んでもらうつもりだ。その子供が道明寺を継げばいいだろ?立派な跡取り息子として牧野が育ててくれるさ。俺なんかと違って」
「じゃ、俺は色々と忙しいんでこれで」
司は手にした花瓶をコンソールテーブルへと戻そうとしたが急に何かを思い出したかのように戻すのを止めた。やがて野球のボールを自らの手で上へ投げては受け取るように花瓶を軽く投げ始めた。
「この花瓶、こんな部屋に飾って誰の目にも触れないようじゃ宝の持ち腐れだ」
「宝物はもっと大切に扱わねぇとな」
司はカッとなったかのように花瓶を壁に投げつけた。








息子はあの娘に対することなら理性や常識さえも無くしているらしい。

司の父親は息子の運命について考えた。
血の繋がりは宿命的な義務を生む。
司の代で道明寺を終わらせるわけにはいかない。
引き継がれていくのは遺産と宿命。

息子はあの娘と別れてから以前にも増して冷酷な男になっていった。
残忍さは私譲りか?
あの娘がいなくなってから息子は自分の宿命を受け入れたはずだった。

わたしが何も知らないと思っているほど息子は愚かではないはずだ。
あの娘を見つけた司が世田谷の邸宅の旧居住地に閉じ込めていたことは知っていた。
そして今どこにいるかも知っている。

以前の息子は自分の地位を受け入れてはいたが、跡継ぎを儲けるつもりはなかった。
どこかの令嬢をあてがってみても身体だけの関係。
それでも子供が出来さえすればと思ったが、息子はそのあたりは慎重だった。
一度どこかの女に子が出来たことがあった。だが生まれることはなかった。
自分の代で道明寺なんか滅びればいいとでも思っているかのようだ。
姉の息子にでも継がせればいいとでも考えているのか。
だが、道明寺家のすべてはわたしを通じ司の血脈に受け継がれなければならない。

あの娘には警告をした。
弱冠17歳の息子が恋に落ちた相手は家も財産も何も持たない庶民の娘。
司の父親は考えた。あのときの交通事故であの娘も一緒に死んでくれたらよかったのに、と。
あの娘が傷を負ったとき、花沢の息子が出て来た。
道明寺と違い花沢の家は考え方がリベラルだ。花沢夫妻はまだ海外住まいか?
いっそのことあの娘を嫁に迎えてくれたほうがどれだけよかったか。
だが、あの息子も司とは別の意味での問題児だったな。
どこの旧家でも言えることだが、血が濃すぎるのは先々で問題が起こるものだ。
だが血脈を途絶えさせるわけにはいかない。


「連絡を取りたい人間がいるんだが」
司の父親は息子がたったいま出て行ったドアから入ってきた男に声をかけた。
髪をきちんと整えた眼鏡姿の男はまるで葬儀屋のように黒い服を着ていた。








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コメント
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dot 2016.03.05 17:30 | 編集
as***na様
いつもお読み頂き有難うございます。
どきどきですか?
花瓶は割るにはちょうど良い感じで目についた様でした。
まあ車も一台叩き潰そうとしましたし、花瓶くらい大したことはないでしょう(笑)
たとえ2000万だとしてもそんなお金はこの家族にとってはした金ですしね。
冷静さと残酷さは紙一重といいますか、今の彼はそんな感じです。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.06 21:29 | 編集
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