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2016
03.02

第一級恋愛罪 3

つくしは「よしっ!」と気合を入れると大勢の人間の渦の中へと飛び込んだ。
小さな声ですみませんと言いながらも力づくで人の波をかき分けて、押しのけて渦を抜け出すと集団の一番前へと出ることが出来た。
記者としての誇りを胸に何が何でも道明寺司からひと言もらいたかった。
いや。ひと言じゃだめだ。「あ?」とか「は?」じゃだめだ。

つくしは頑固だとよく言われる。一念岩をも通すではないがこうと決めたらやり通すことが自分の生きる道だと思っていた。
しかし記者として単独での仕事が今話題の人物、道明寺司だなんてついていると言っていいのか悪いのか疑問だった。
聞くところによれば大のマスコミ嫌いだとか。
ならなぜこんな派手な演出をと思うが戦略なら仕方ないのだろう。
あたしはコメントがもらえればそれはそれで大金星だ。


道明寺氏は高校卒業後アメリカへと渡るとそのまま向うで過ごして来た男だ。
当然ながら語学は堪能で頭もいいのだろう。大学は確か・・そうだ、ハーバード大だ。
ニューヨークのコロンビア大学じゃなくてボストン近郊の・・
確か最終学歴はハーバード・ビジネススクールだ!
ハーバードビジネスレビューに寄稿していたこともあった。どれだけ頭がいいのよこの男は!
イケメンで頭が良くて、でも性格は?
パーソナリティーについてはあまり聞いたことがなかった。
ある意味私生活は謎の人物として通っていた。
謎のイケメン社長か・・・いかにも女性週刊誌が喜びそうな人物像だ。
でもうちの新聞にはそんなことは関係ない。イケメンだろうが不細工だろうが顔は関係なんてない。必要なのは経営者としての能力だけだ。




***





航空機が滑走路へと着陸し、機内アナウンスが東京の天候と気温を告げていた。
司は客室乗務員たちの過剰な見送りを受け、重い足どりでボーディングブリッジからターミナルへと入るとこれから待ち受けるであろう事態を想像すると頭が痛くなった。



司は周囲をぐるりと見まわしていた。
マスコミが大挙して押し寄せるとは聞いていたがこれ程だとは思わなかった。
社のマーケティング戦略とかで新社長就任を大々的に宣伝したいとの連絡を受けたのは帰国前日だった。
『新社長の帰国を大々的に報道してもらうため、マスコミ関係各位に情報を流しました』

自社のジェットを使わずに、あえて民間機での帰国を演出してきたのもマーケティングの連中だった。民間機なんぞ乗ったことが無かった。
誰が考えた設計だか知らないがいちいち席が区切られていることが気に食わない。
自由に歩き回ることさえも出来なかった。おまけに呼びもしない客室乗務員が何度も自分の傍へとやってくるのが煩わしかった。
こんな窮屈な思いをさせられてまで民間機で帰ってこいとは!
ファーストクラスとはいえ所詮民間機だ。不便なことこのうえなかった。

だがマーケティングの連中の言い分はこうだ。
ファーストクラスの乗客は当然ながら優先搭乗、優先降機。
司は搭乗した民間機から一番はじめに姿を現す乗客で大勢の人波を後ろに従えて出て来る姿は企業トップとして絵になるからと言われた。
彼の乗った民間機が太平洋上空高度1万メールで日本の領空に入ったとき、司はこれから待ち受けることを考えるとうんざりしていた。

民間機も民間機だがにっこりほほ笑んでマスコミの奴らの前に姿を現せかよ!
なんだよそりゃ?
ニューヨークを立つ前、当然のようにスチール写真の撮影もあった。宣伝素材として新社長の顔を使いたい・・

あほらしい。
モデルじゃあるまいし。


ともあれ司がロビーに姿を現した途端、カメラのフラッシュの洪水と矢継ぎ早に声がかかった。
「道明寺さん!お帰りなさい!この度の帰国は次期社長就任のためとか?」
「道明寺さん!今後道明寺ホールディングスの事業戦略は前社長の方針とは変わるということでよろしいのでしょうか?」
「道明寺さん!こっちにお願いします!」
「道明寺さん!」

初めて乗った民間機のせいで疲れていた。
まるで悪夢のフライトだ。
こんな状況で笑えるかよ!




***





来た!


道明寺ホールディングスのイケメン次期社長だ!

決して足早に通り過ぎるというわけではなさそうだ。
あえてマスコミに顔を売ろうとしているようだった。
迎えの人間だろうか。鷹揚に片手を挙げて挨拶を交わしている姿が見て取れた。
つくしは後ろから押し寄せる人の波に負けまいと、なぎ倒されないようにとヒールのある靴で踏ん張った。

嘘みたい。

かっこいい。

目が離せない。

確かにハンサムだ。

二度とお目にかかれないとしたらなんとしても瞼に焼き付けておきたい顔だ。
こんなかっこいい男が次期社長だなんてあの会社が羨ましすぎる。
どうしてこんなかっこいい男が次期社長なのかと聞きたい。

ゆっくりと、だが確実にこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
いつもなら標的とした人間に駆け寄るだろうマスコミ関係者たちはその場で立ち尽くしていた。
ロビーで彼の到着を待っていた群衆はまるでそこに目に見えない規制線があるかのように、その場から前へとは動こうとはしなかった。自主規制?いや違う。
立ち入り禁止区域につきとか進入禁止とかまさにそんな感じだった。
そこで待てと言われた犬のように足が動かなかった。

オーラだ。オーラが違う。
今までつくしが見て来た政治家とはまた違うオーラがある。
近寄りがたいというのはこう言うことなのだろうか。
この男性に対しては怖気づいてしまうと言う言葉が似合う。
そして圧倒的な支配力が感じられた。まさにカリスマと言う言葉がぴったりだ。



優に180センチ以上あると思われる体躯は高級そうなスーツに包まれていた。
広い肩幅にきっちりと沿うように作られたスーツは当然ながら彼の為だけのものであることは一目瞭然だった。
歩幅は大きくて脚の長さが強調されていた。
黒い瞳と豊かな黒い髪は癖があるようだがすっきりと整えられている。
世界中の誰が見ても完璧だと思うような顔立ちは神様の気まぐれで作られたとかいうものでは無かった。
こんなに素敵な男性は見たことがなかった。
つくしの視線は思わず全身を眺めてからまた顔に戻っていた。

ちょうどそのとき、後ろから押されてつくしはよろめいた。
「ちょっと、押さないで!」
毎度のことだが取材は陣取り合戦だ。コメントをもらおうと思うなら集団の最前列に立たなければ無理だ。
カメラだっていい場所じゃなきゃいい写真は撮れない。
つくしの横にはカメラマンの男性がカメラを構えて待っている。
「おい牧野、踏ん張れよ!」
「ええ、わかってます。大丈夫です」
右手にはICレコーダー、左手には名刺入れ。準備万端いつでも来いだ。
つくしは近づいてくる取材対象に照準を定めた。









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コメント
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dot 2016.03.02 13:10 | 編集
た*き様
えっ?(笑)
このタイトルからそんなことを想像されましたか?
うーん、少し違うかもしれません(^^)
が、今回もラブコメ風味ですから色んな方面でご安心下さいませ。
ガングロ女子高生!出て来ましたね。司が探し回った末の結果がソレでした。
さすが坊ちゃん、権力者のお家に生まれると得点満載ですね(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.02 23:06 | 編集
v**go様
文字を読んだだけでクラクラ有難うございます。
多分つくしちゃんも同じような感じで見ていたのではと思います。顔見て身体見て、また顔見てと言う感じではないでしょうか。こんなにカッコいい人がいたら見惚れてしまいますよね。
こんな感じに素敵な次期社長司クンを書きたいと思っていますが、コメディ風味ですのでどこかでガクンと来たらすみません(笑)
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.03.02 23:18 | 編集
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dot 2016.03.04 09:53 | 編集
マ**チ様
こんにちは(^^)
司に見惚れるつくし、今までにあまりないパターンということで、是非また二人の恋愛模様を見届けて下さると有難いです。
マ**チ様にはどのお話しも好きと言って頂いて嬉しいです。エロい御曹司は司がいやらし事しか考えていないので、やはりイメージがね・・(笑)受け付ける方のみと言うことで読んで頂いていると思っています。
もうひとつのお話しは明日公開です。
あちらはサクサクと行かず申し訳ないのですが、いつもお読み頂き有難うございます。
プロットは有るのですが、どうしてもゆっくりとなりますが宜しくお願いします。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.03.04 22:25 | 編集
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