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2016
02.23

恋の予感は突然に 51

「それでだ、司。いいかげん自分の人生ストーリーを偽るのは止めたらどうだ?」




長い沈黙のなか、司が舌を打つ音が聞えた。


「酷い話よねまったく。どうせ両親に構ってもらえず荒れた子供時代だったとかそんな話でしょうね」
「確かに留守にすることは多かったと思うわ。だからと言って決して子供たちを顧みないような母親ではなかったのよ」
女性はいきなりくだけたように話を始めた。

「わたしが悪いのよ・・どこでどう育て方を間違えたのか・・・・・司の自主性を重んじるばかりに好き放題をさせてしまったのが悪いのよ・・」
「この子はね・・つくしさんに同情して欲しくてそんな話をしたのよ」
「そうでしょ?司?」
と司を見やった。
「あなた・・椿にもそんな話をするように頼んだそうね?」
女性は深々と息をついた。「いい加減にしなさいよ、司」
司は顔をそむけ、低く毒づいていた。
「いくら好きな女性の気を惹きたいからと言ってあたくしたちを悪者にするのは止めて欲しかったわね」


司がつくしに夢中なのは一目瞭然で、だがつくしはそうでもない様子でそれが逆におかしかった。
いつも女性に夢中になられるのは司のほうで、つくしの世話を甲斐甲斐しくやくような息子を見ていると、すました顔をしているのが難しくなってきた。
ここに座れとか、寒くはないかとかつくしに相手にされたいと一生懸命な姿が我が子ながら滑稽だった。

「つくしさん、わたしたちはあなたの味方よ。気に入りました。あなたたちも年齢的に言って子供が先に出来たとか、順序がどうだとかそんなことは言いませんよ。ねえ、あなた?」
「ああ。わたしは一向にかまわない。それに司に絞殺されるまえに話をしないといけないようだ」

何年か前、司の父親は息子を呼び出すと自分の人生について話をした。
息子も財閥の仕事をこなすようになり、そして男としても自分のことを理解してもらえるのではないだろうかという年齢に達した頃のことだった。
司にとって幼い頃から空白となっていた父親の記憶。
まるでその部分の埋め合わせをするようにと息子と話をすることにした。
道明寺財閥という大きな船には大勢の人間が乗っていて、その船は母船であり沢山の船を率いていかねばならないということ。
大海原を航行する大船団を統率する人間として船が全て同じ方向を目指す為には人生の殆どを船のかじ取りに追われてきたこと。
自分でもいい加減嫌気がさすことがあっても、自分のおかれた立場から簡単には逃げ出すことは出来ないということ。
ちょうど司が物心つきはじめた頃から会社は沢山の試練を抱えていて家族のことを蔑ろにしてしまったのだということだった。
船が沈むことは許されないという立場が家族に寂しい思いをさせてしまったのだと。
確かに昔は内部崩壊をし、家族としては機能不全の状態だったが今ではそれも過去の話で
あるということだった。

つくしは隣に座る司が自分を騙していたなんて信じられなかった。
てっきり両親との仲が悪いなんてことを考えていたあたしはなんだったの?
やっぱり企業経営者は画策を練るのが得意ということかと妙に納得していた。
世間は・・いや夫の口から出ることは全てが本当のことではないということ、それを信じた自分は司の手のひらのうえで踊らされていたのだろうか?

司の父親はつくしが大きな目を見開いてあんた何を考えてるの、とばかりの表情を浮かべ息子を見ている姿に思わず笑いだしそうになっていた。

この一見してアンバランスに見える二人の組み合わせは完璧だと思った。
なにしろこのお嬢さんは司を恐れていないのが見ていてわかった。
そして自分たちを目の前にしても堂々としていて物怖じしない。
司にしても遠回しになにか言われるよりも正面切って言われる方が性に合っている。
彼女のユニークさと率直さが司にはぴったりだ。これ以上の組み合わせはないはずだ。
研究職という職業がそうさせるのかもしれないが、世間の色に染まり切っていないような感性が彼女のユニークさの元なのかもしれない。
そんなことを考え、そして生まれてくる孫に思いをはせていた。


司は隣にすわるつくしの手を握って
「ま、そういうことだ」
と悪びれた様子も見せずに言った。


つくしはじろじろとお腹のあたりを見られているのを感じていた。
「つくしさん、今はお腹の赤ちゃんに対して一番大切なことを優先しなきゃならないと思うが?」
司の父親はさとすような声で言った。

「あなた、研究施設にお勤めされているそうね?」母親が言った。
「は、はい。そうです」
「わたしに任せなさい」
と父親にいきなり言われたつくしは何を任せるのかさっぱりわからなかった。

「もし嘘をついた司のことが嫌になったのなら息子と別れて道明寺家の養女になればいい。 つくしさんの為に最新鋭の設備の整った研究施設を造ろうじゃないか」
「それからつくしさんのご両親にはカサブランカでお会いして来たから何も心配はいらないよ。お忙しい方々のようでこれからカイロまで移動だとおっしゃっていたのでお送りしたんだが、つくしさんの事をよろしくとお願いされたからね」

「素敵ね!娘が増えるし孫も出来たなんて!」
「それもこんなに素敵な娘が出来るなんて!孫はどちらなのかしら?男の子?女の子?
どちらにしてもつくしさんに似て頭のいい子になるに違いないわ!」
「つくしさんみたいなお嬢さんを選ぶなんて、司もあながちバカじゃなかったと言うことね?」
「わたくしたち、わくわくしているのよ?ねえあなた?」
ようやく息をついた母親と父親。
つくしはあっけに取られて司の両親を見つめていた。


つくしは口から出かかった言葉をのみこんだ。
お宅の息子さんが昔はどうだったか知りませんが決してバカではありません。
バカはバカのふりなんて出来ませんから。
バカじゃないからバカな真似が出来るんです。
「そうだな!司よくやった!道明寺家にノーベル賞を受賞するかもしれないレベルの人間がいるなんて末代までの誉れだな」
「そうですよ。司、あなたもつくしさんがノーベル賞を受賞したら大変な名誉なことよ!」
司は母親に向かってにやりとした。
「つくしさん、司をいい気にさせないでね」と暗に受賞することを望まれた。





なんとまあ・・・

つくしは頭がずきずきしてきた。






「だから言ったろ?うちの親の見た目を信じるなって」
とかすかに皮肉を帯びたような声色に、つくしは司の言った言葉の意味を理解した。









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コメント
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dot 2016.02.23 08:01 | 編集
as***na様
三代にわたって美形になる・・ことを希望しますがどうでしょうか(笑)
いいですよね。そんな親子。
是非お目にかかりたいものです。
ちなみにこちらのお話の司のお父様は人格者でしたが、もうひとつのお話の方は
恐ろしいお父様です。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.24 23:56 | 編集
た*き様
そろそろ・・そうですね(笑)
お話も終盤です。
もう少しだけお付き合いを頂けると有難いです。
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.02.25 00:01 | 編集
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