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2016
02.21

Collector 11

Category: Collector(完)
土砂降りの雨のなか、車は高速道路を猛烈なスピードで走り抜けていた。
こんな雨のなかでも司は上機嫌だった。
雨は二人の始まりだったから・・・


司はハンドルを握るとアクセルを踏み込んでいた。
山荘へと続く道には雨に濡れた落ち葉があり、車が滑る恐れもあったがスピードを落とすことはない。
カーブがきつく道路は険しい山道だったがアクセルとブレーキを上手く使い分けていた。
まあ仕方がない。雨はいつまでも降り続くわけじゃない。
運転には自信がある。

司はこんな無鉄砲な運転をしてもつくしがまったく気にしていないことに満足していた。
彼は横目でつくしを見た。
彼女は助手席で身動きすることなく穏やかに息をしていた。

窓越しに動くワイパーはフロントガラスを打ちつける雨をかきわけている。
一瞬だけ目を向けたバックミラーの中にあの男の姿が見えたような気がした。

類    

不愉快な男だ。

仇敵のように睨み合ったとき、あいつは俺が牧野を手元に置いていることに気づいた。
類は心に思うことを簡単に口にする男ではなかった。
昔から自らのことを表現したり話したりすることはしなかった。
だが牧野に出会ってからあいつは変わっていった。
他人に対し排他的だった男は牧野と出会ってからこの女に魅了されていった。
だがそれは司も同じだ。
牧野つくしがいなくなったと言ったところで類に出来ることがあるのか?
だがあの男、俺にかましを入れてきやがった。

二人とも大きな会社の跡取り息子で社会に出れば司と類の争いはやがては企業経営にかかわる者としての争いとなっていた。いくつかの事業を共同で手掛けていたとしても男同士どこかでライバルとして意識していたのは間違いない。
これまでのところ両社の売上高としては道明寺の方が上だ。
当然と言えば当然だがどちらも巨大なビジネス帝国で分かちがたく結びついている部門もあった。

同じ女を好きになり、ひとりはその女と別れて10年、かたやもうひとりはその女と暮らして10年。自分が分かち合えたはずの10年はあの男が牧野と過ごした10年。
自分の傍らで大人しくしている女の人生から類という男を排除するということは、司にとっては大きな意味を持っている。
何事も遅すぎることはない。
むしろ遅いくらいだ。

司は車を止めるとつくしを両腕に抱き、山荘の中へと足を向けていた。
身じろぎもせず大人しく司の腕の中にいるつくしは夢でも見ているかのように見えた。


そこは大きな山荘。
外部とは遮断されたような環境で司にとっては申し分のない場所。
到着してからつくしを運び入れた部屋には大きな暖炉がありオレンジ色の炎がゆらゆらと揺らめくのが見て取れた。
ここは外部とは隔離されてはいたが、それでも山荘として管理人がいた。
司は前もって用意させておいた食事をつくしと一緒に口にしたかった。

世田谷の地下へと閉じ込めていた時にはそれも出来ずにいたが、これから二人っきりの時間をどう過ごすかは決まっていた。

何度つくしを抱こうが愛の行為とは言えず一方的に自分の欲望を満たすだけの行為。
司はつくしの漆黒の髪を指で梳いてみた。
今は閉じられている大きな瞳でまた自分を見て欲しい。
つくしを服従させることが彼の望みならば、その望みはもうとっくに叶っていた。

静寂のなか、穏やかな呼吸を繰り返しているつくしに対し司は欲望を押さえることが出来なくなっていた。
愛おしいと言う思いの半面の憎しみ。
愛憎相半ばすると言う思いが司の心の中にある。
憎しみのうえに成り立つ満足感というものを手にした今、果たして自分がそれを楽しんでいるのかと言う思いもある。

彼は服を脱ぎ捨てるとつくしの上へと身体を投げ出した。
両腕に抱き、自分の思い通り、どんなことでも牧野にさせることが出来る。
飢えが司を襲っていた。

つくしは身体を横たえたまま、ごく自然な動作で首を横に動かすだけだった。







司はついに彼だけの女を手に入れることが出来た。
決して不当に手に入れたわけではない。
10年間も追い回した獲物と言うわけでもなかった。
たまたまこの女が自分の狩場に飛び込んで来ただけだ。
あの会社が道明寺に対して抱えていた債務を帳消しにしてやった代償として手に入れた女。


つくしが目を覚ましたとき、部屋の中は暖かく誰かの腕の中にいた。
自分がいま誰といるかなど考えなくてもわかっていた。
今更自分の身体に何が起ころうとどうすることも出来ないとわかっていた。
好きとか嫌いとかと言う以前の問題で女として容赦なく現実が突きつけられていた。
はじめてを失ってからこの男の目的をはっきりと意識させられ、行為だけは繰り返されていた。
今のつくしに言えるのは、男の目的は成し遂げられることは無かったと言うことだった。
ストレスで周期が狂うことがあるのはもちろん知っていた。
だがもしかしらたと言う思いも拭えなかった。しかし下腹部に鈍い痛みを感じたとき、それは無いと言うことがわかっていた。


誰もいないこの場所は司にとって好都合だ。
断崖に建つこの山荘は狩猟のために建てられた別荘だ。
「ここは悪くないだろ?」
司はつくしが目を覚ましたことに気付くと言った。
世田谷の地下室で動くことなくただじっとしていたのは、さぞ辛いことだっただろう。
窓がなく外の気配が何も感じられなかった地下と異なり山の上とはいえ外が見えた。

だが外が見えても断崖の上に建つ山荘に出入りできる箇所は限られていた。
司の言葉が聞えたのか聞こえないのか、それとも聞こえないふりをしているのかつくしは何も答えなかった。

つくしは夢でも見たような顔でぼんやりとしていた。
まだ現実が受け止められなかった。
この状況はこれから自分にどんな環境を与えてくれるのか。
そんなことをぼんやりと考えていたとき、突然自分の顔のそばに男の顔があった。
つくしは思わずその顔に視線を合わせていた。

獣のような男の顔は美しかった。
例えその顔に小さな傷あとがあったとしてもだ。

司は低い声でつくしに囁いた。
「牧野、おまえは一生俺と暮らす。俺のそばを離れることは決して許さない」
つくしは何も答えなかった。
「おまえは俺のものだからな」これは警告だ。
つくしは彼を見ていたが、何も言わずに顔をそむけた。
「こっちを見ろ。俺から目をそらすんじゃねぇよ!」
顎をつかまれ、無理やり男の方を向かされ二人は互いの目を見つめ合った。

「なあ、牧野おまえもそうだろ?」
「俺と一緒にいたいだろ?」
それは彼のなかでは不動なことだろう。
「おまえは変わってないな」
司は言い始めた。
つくしは自分の顎をつかんでいた司の手を振り払った。
「どうしてそんなふうに思うわけ?」
「10年も経って何を言ってるの?10年も経てば人は変わる」
司は振り払われた手でつくしの手首を掴んだ。
つくしはその手を振りほどこうとしたが司は手首を握る手に力をこめた。
「いや。変わってない。おまえは昔から泣き叫んで助けを求めるとかそんな女じゃなかっただろ?」
なぜか二人は黙ったままで見つめ合っていた。
こんなことになれば誰しも泣き叫んで助けを求めるはずだ。
だが昔から何に対しても決して怖がることが無い女だった。
学園中から蔑まれ、ののしられても決して弱音を吐くような女ではなかった。
何度も何度も狩損ねた彼の獲物だった。
そしてやっと手に入れたと思ったときには自分の心は惨めに打ち砕かれていた。

今度こそこの女は俺の元から逃げ出すことは出来ない。
彼の獲物は黒い髪をし大きな瞳をした女。
まるでカモシカのようにしなやかな肢体を持つ女。
俺のそばから逃げるならいっそここにある猟銃で撃ち殺してやってもいい。
他の誰かのものになるなら屍になってでも自分の元にいればいい。

つくしは暫く口を閉じたまま何も言わなかった。
そして口を開いたとき、司ははっきりと自分を拒否する言葉を聞いた。
司は恐ろしいほど冷たい形相で立ち上がると何も言わずに一枚の紙をつくしに突きつけた。
「いいもの見せてやるよ」
それは牧野つくしの行方不明届。届け出人は弟、進。
彼はそれを彼女の目の前で引き裂くと燃え盛る炎の中へ投げ入れた。








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コメント
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dot 2016.02.21 16:30 | 編集
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dot 2016.02.21 19:58 | 編集
た*き様
地下室から地上へと移されましたが山奥のようです。
それでも地下室へ閉じ込められているよりはいいですよね?
太陽の光に当たることで自律神経のバランスも取れますので
つくしちゃんの精神状態も少しは回復するのではないかと・・。
つくしちゃんのご心配を頂き有難うございます。
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.21 22:43 | 編集
ぴ*様
嬉しいお言葉を有難うございます!
そう言って頂けて本当に嬉しいです。
こちらのお話は好みもありますが、シリアスでも楽しんで頂けて嬉しいです。
硬質な文章ですが気に入って頂けて良かったです。
はい。ぴ*様のお気持ち、確かに受け取りました。
いつもお読み頂きありがとうございます!
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.21 22:51 | 編集
ka**i様
こんにちは。お久ぶりです。
いえいえお気になさらずに(笑)いつもお読み頂き有難うございます。
ご心配を頂いている二人ですが、司の愛は歪んでいます。
10年間の思いがこんな形になって現れてきました。
嫉妬心も相当です。もともとつくしに対しては粘着気質のように思われますので類の名前を
聞くのも嫌です。←多分
病んでいますので先が怖いです。心が回復しなければどうしようもありません。
まだ暫くはこんな感じだと思います。無理をしてまで読まないで下さいね(^^)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.21 23:06 | 編集
サ*ラ様
こんばんは!
>バックミラーの中← これは司の幻想です。気にしているのでそう見えたのでしょう。
国家権力さえも手玉に取る司は行方不明者の届け出書類を燃やしてしまい
届け出自体無かったと言うことにしてしまいました。やりますね司(笑)←!
この状況から抜け出すためには誰の力が必要になるのでしょう。
地下室から地上の世界へと戻って来ました。これは類に周りをうろつかれるのが嫌だったのでしょうね。
監禁場所を変えました。
> 司両親←はい、この両親まだまだ出番はあります。お父様怖いです。
サ*ラ様の読みは鋭かったりするので笑って誤魔化します(笑)
> 金持ちの御曹司の司坊ちゃん←180度違う司ですよね。
スイスの銀行に100億円!私も良いな~と。
コスプレプレイ見たいですか?本当に?(笑)
だ、大丈夫ですかねぇ、そんな二人を書いたら非難殺到しそうで・・
そうなんです。金持ちの御曹司は何だかんだとノリノリのつくしちゃんでして困った(´Д⊂ヽ
どうしましょうか、今後・・金持ちの御曹司シリーズこわごわアップしてますが、当サイトの読者様は
心が広く、笑って許して頂けているようで感謝しております。
皆様に愛される御曹司でいて欲しいので暴走しないように気を付けます。
いつも沢山のご感想を有難うございます(^^)
アカシアdot 2016.02.21 23:35 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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