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2016
02.19

恋の予感は突然に 49

つくしは届けられた食料品を片づけた。
このマンションへ戻ってきてから数日たったある日
「おい、俺はこの週末は奥さん孝行するからそのつもりでいてくれよ」
と言われつくしは夫が何をしてくれるのか楽しみにしていた。

つくしの夫は普通の人間とは違う。
企業経営者で一流と言われる人間だった。
だけど自宅ではごく普通の人間だと思う。
朝早く起き、自分であの芳しいコーヒーを淹れている。
今ではそれが当たり前になっていた。
そして可能な限り朝食を一緒に食べ、それぞれの仕事へと出かけていく。
それはごく日常のひとコマであり、とても自然に感じられていた。

だが、仕事から帰れば厳しい顔つきのときもある。
何しろ背負っているものが違う。
背中に背負っている荷物の中身は計り知れない重さがある。
それは目には見えないが普通の人間が背負っているものとは中身も大きさも違う。
多くの人間の生活が自分の夫の背中にかかっている。
その重圧たるものつくしになど到底わかるものではなかった。

「おかえり。お疲れ様」
「おう、ただいま」
「今日はどうだった?」

といつものように挨拶を交わしていた。
この男の表情はあまり変わらない。
それでも初めの頃に比べると随分と変わった。
そしてその日のご機嫌は交わす言葉のトーンでわかる。
何か聞いたとしてもしばらく何も言わないこともある。
声が刺々しい・・そんなときは余計なことを考えずあまり深く追求しない。
でも一連の出来事のあと二人の絆が深まったように思える。

一日の出来事を話ながら笑い合える。
勿論笑えないこともある。
それでも互いに仕事をしている身でこうして一緒に過ごすことは何ものにも代えがたい時間だった。
お互い持ち場は違えどパートナーとして対等な立場でいたい。
それは決して勝ち負けではなく、人生の生きる意義を考えればわかることだった。
つくしは誰かに寄り掛かって人生を生きたいと考えたことはなかった。
それは昔からだった。人一倍努力家で、人一倍意地っ張り。男に守ってもらう人生なんて・・
・・・だけど、今は少しだけこの男に甘えて生きる生き方もいいかもしれないと思いはじめていた。






それはまるで絵に描いたホームドラマのようだった。
週末の奥さんへの孝行。

最高級の顧客向けであるエリアは一見したところ普通に見えた。
だが、一歩足を踏み入れてみればすべてが贅沢に設えられていた。

「なあ、赤ん坊って生まれて来るとき歯は生えているのか?」
司は真面目な顔をしてつくしに聞いてきた。
「生えてないわよ?」
「そうか・・」
「動物ってみんなそうなのか?」


まさかとは思ったがこの男がベビー用品売り場で買い物をするなんで考えられなかった。
いくらこの場所がセレブリティ御用達の場所で一般人には敷居が高い店とはいえ、周りにいるのはどう考えても妊婦かその関係者だった。
そんな中に自分の夫がいることは非常に目を引いていた。
いつか二人で出かけたショッピングモールの時とは異なり変装などしていない。
やましい事などひとつもないとばかりに堂々とした態度でつくしに付いて来た。
この男は本当に欲しいものは他人に丸投げすることはせず、自分の眼で見て選ぶということがわかった。
当然だがあの花束もやはり自らが出向いて買い求めたものだった。

幼い頃から、そして常日頃から一流の物に囲まれて育った人間には持って生まれたセンスとは別に物を見分ける力がある。
そういったことは短期間で身につくものではなかった。
そして審美眼と呼ばれるものも持ち合わせているはずだ。
だからこの男がわざわざ自分の眼で確かめて買い物をしたいと思うのだから余程ベビー用品に興味があるに違いない。
そんな夫は大きなぬいぐるみを前に何か悩んでいるようだった。


チラチラとこちらをうかがうような視線を投げかけられるが夫は気にする様子もなかった。
あの道明寺司がベビー用品売り場で女性と買い物をしている。
それも連れの女性のお腹のあたりは丸みを帯びたような曲線を描いているように見て取れた。
あの女性は誰?
どういう関係?

いわゆる上流と呼ばれるご婦人方は不躾なことは嫌う。
知り合いならまだしも、一方的に知っているだけの相手。
それも道明寺家の御曹司ともなれば直接声を掛けることなんて不躾にもほどがある。
興味はあっても誰も声を掛けることなんて出来るはずがなかった。

「なあ、これ誰が履くんだ?」
司がその手に持っていたのは自分の親指ほどの大きさしかない靴だった。
「誰って赤ちゃんに決まってるじゃない」
「こんなん履いて歩くのか?」
いや・・実際は歩かないと思うけどね・・
「なあ、聞いてもいいか?」
「なに?あたしもまだよくわからないから沢山聞かないでね?」
「チビッコは自分で歩くことも出来ねぇのに靴がいるのか?」
もっともな質問だった。
「そ、それもそうよね・・」
ふたりして何を買ったらいいのかさっぱりわからなかった。




そんなとき司の両親が帰国してきたとお邸から連絡があった。
ついにと言うか、いよいよと言うのかつくしは夫の両親と顔を合わせることになった。


司とつくし。

二人の人生は根本から違っていた。
放任主義とはいえつくしの家族は仲が良かった。
かたや内部崩壊していたという司の家庭環境。
仕事ばかりしている両親の気をひく為ならと何でもしていたと言う子供時代。
「ま、俺はもうあの頃の俺じゃねぇからな」

崩壊家庭の子供の成長過程はどんなものだったのか・・・
つくしは司の過去を殆ど知らない。
知っていたらとてもではないが子供の父親になんて望まなかったはずだ。
非人道的な行いをしていた人間が今ではこんなに変わるものかと言ういい見本ではあるが。



車が世田谷の邸の門を通り抜けたとき司は言った。
「いいか?うちの親は姉ちゃんのことでまいってるんだ。だから心配させるようなことは言うなよ?」
つくしはわかったとばかり頷いた。
「それからもうひとつ・・言っておくことがある」
「何を?」
「うちの親、見た目を信じるなよ?」司は真面目な顔をして言った。







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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.02.19 08:21 | 編集
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dot 2016.02.19 18:10 | 編集
た*き様
そうですよね、個人差がありますよね。
やはり遺伝子の問題でしょうか?
と、言うことは将来自分の髪の毛がどうなるかと言うことは粗方予想ができますね。
年齢を重ねると髪も痩せてくるようですので多いに越したことはないとは聞きます。ですが多いに甘んじず日ごろのお手入れも大切だと思っています。
たまにはヘッドスパもいいかもしれませんね。
すみません、世間話になってしまいました(笑)
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.19 22:46 | 編集
as***na様
今回はほのぼのとお届けしました(笑)
次回はご両親とのご対面です。
さて、司の両親はどんな二人なのでしょうか。
あの司の両親!と色々イメージを抱かれているとは思いますが
こちらはコメディ風味のお話ですのでそのことを頭の片隅に置いて下さいませ(^^)
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.19 22:57 | 編集
vi**o様
はじめまして。ご訪問有難うございます(^^)
こちらはコメディ風味のお話ですので(笑)
大丈夫だと思います。多分大丈夫と言うことでお願いします!
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.02.19 23:05 | 編集
サ*ラ様
こんばんは。
今回はほのぼのと行かせて頂きました(^^)
そうですよね、司の両親には良いイメージが全くありませんよね。
はい。基本コメディですので色々とご心配を頂いているのですが
大丈夫です!←きっぱり!(笑)・・と言いながらも多分。
そ、そんな怖いこともありません!
この場を借りてこそこそとすみませんが明日はこちらのお話はお休みさせて下さい。
御曹司で行かせて頂きます。
ちょっと頭が疲れていまして、持ちネタですみません状態です。
いつも御曹司にご感想を頂けるサ*ラ様にだけのお知らせとなりました(^^♪
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.19 23:19 | 編集
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