「まったくあの女・・人の話なんて聞く気がねぇのかよ・・」
司は執務室で煙草をふかしていた。
なんでこんな厄介なことになってんだか・・
真相を知れば納得するかと思えばあの女まるで俺が今でも何か企んでいるみたいなこと言いやがった。
「クソッ!」
司はただでさえくるくるした頭を掻きむしっていた。
あの女、頭でっかち過ぎて物事を何でもややこしく考え過ぎんだよ。
薄っすらと涙なんて浮かべて俺のこと睨みつけてきた。
俺の言い方が悪かったのか?
けどあれはひとりで勝手に盛り上がってるとしか考えられねぇ・・
おまけに今の自分がどんな立場にいるのかわかってねぇとしか言えないよな。
終いには俺たちの関係が今後どうなるかだなんていい始めた!
どうなるもこうなるも俺たちは夫婦だぞ?
子供が生まれて来る夫婦だろ?
それも・・愛し合ってる仲じゃねぇのかよ・・
確かにあの頃の俺は二人の関係がこんなふうに変化するだなんて考えもしなかった。
けど、今は違うだろ?なんであの女は俺の言うことを信じようとしないんだ?
始めの頃はあいつのことなんて信用出来なかった。
名前だって歳だって嘘ついていやがったし、どう考えても信用なんて出来るわけがないだろう?
あいつの言いたいことはわかるがあれはもう過去の出来事で今は違うだろ?
今までの俺たちの関係はなんだったんだよ。
俺の気持ちはどうなるんだよ!なんか徹底的に侮辱されたような気持だ。
司はうなるような声をあげると立ち上がり、ドアの方へと向かっていた。
***
つい喧嘩腰になってあの男と言い合ってしまった。
あんな別れ方をして以来つくしは司に会っていなかった。
だが顔を合わせないわけにはいかなかった。
今後の事を考えれば互いを無視するなんてことは不可能だから。
はたして次に顔を合わせるときは冷静でいられるだろうか。
初めての子供の誕生を待ちわびる幸せな妻だった気持ちは胸を引き裂くような痛みにとって代わっていた。
本来のあたしはこんな女々しい女じゃないはずよ。
女に女々しいだなんて言葉を使うのは間違っているけど他の言葉が思い浮かばなかった。
本来のあたしは冷静で物事に対して論理的な考え方が出来る人間だ。
でもその思考過程を吹き飛ばすことが出来る人間は・・あたしの「夫」だけだろう。
目の前をあの男の姿がちらついて仕方がない。
あのときあの男の瞳のなかに見えたような気がしていた。
それは・・傷ついた。
と言う感情が・・
なによ!
あたしだって傷ついたんだから・・
あたしのことを信用してないだなんて・・
互いに相手を信用していない状態で暮らしていけるの?
あくまでも便宜上とみなしていた頃ならお互いに割り切って生活も出来ていた。
相手が何をしていようと気にも留めようとしなかったはずだ。
便宜上ならこんなに気持ちが傷つくなんてことはなかったはずだ。
つくしの頭のなかを漢字二文字がよぎった。
今度結婚するならあたしなんかみたいな研究者じゃなくて滋さんのように良家のお嬢様と結婚すればいい。
そんなお嬢様にあたしにしたみたいな調査なんてしないでしょ?
それにあの男の立場ならもっともっと妻に対して沢山の要求をしてもいいはずだ。
だが考えてみればそんなこともなかった・・
やっぱりあたしは求められていないのだろうか・・
ぼんやりとしていたつくしはインターフォンの音に我に返った。
「牧野さん。お届けものです」
鳴らされたのは部屋の外にあるインターフォンだった。
マンションの管理人と挨拶を交わし、受け取ったのは真っ赤なチューリップの花束だった。
花はまだ蕾の状態で茎の部分はシャンとしていた。
それはつくしの人生で初めてもらった花束だった。
つくしはぼんやりと花を見つめていたが、その贈り主には見当がついていた。
だから少しだけ考えた。
どういうつもりで贈ってきたのだろうか・・
まさかオランダから届いたわけじゃないわよね?
それとも富山?
何本あるのか知らないが、真ん中にカードが挟まれていた。
署名はなかったが力強く書かれた筆跡には見覚えがある。
『 悪かった 』
ずばり単刀直入な言葉だった。
弁解じみた言葉が書かれているわけではなく、たったひと言だけだった。
そしてその言葉の下に手書きで書かれているのはとあるウェブサイトのアドレス。
わざわざ手書きで書かれているということは意味があるのだろう。
つくしはパソコンを立ち上げるとさっそくそのアドレスを検索してみた。
ウェブサイトに表示されたのは花言葉。
チューリップの花言葉は思いやり。
赤いチューリップの花言葉は理想の恋人。
他にも書かれていた・・永遠の愛、真実の愛、愛の告白。
そして・・
『 私を信じて 』
1月31日の誕生花は赤いチューリップ・・・ん?
なにこれ、あたしの誕生日じゃないわよ?
1月31日って・・それは自分の誕生日でしょ?
もしかして・・
この赤いチューリップは自分自身だと言いたいの?
自分の全てをあたしにあげるってことが言いたいの?
そして花言葉は私を信じて・・・
俺のことを信じてくれ・・
ねえ、この花を贈ってきた意味ってそういうことなの?
つくしは届けられた花束を胸に抱いた。
ああ・・どうしたらいいの?
あの男がわざわざ自分でこの花を買い求めたのだとしたら・・・
つくしはそんな場面を思い浮かべていた。
あたしのために・・
どこかの花屋で・・いやどこかじゃないはず。
きっと一流のフローリストなんだろう。
と言うことはあながちオランダ直輸入と考えるのもおかしくはないのかもしれない。
そしてカードに書かれた言葉は短かったけどこの花の意味することはわかった。
こんなきれいな花を処分することなんて出来ない。
だってこの花には深い深い意味が込められているんだもの。
つくしはチューリップを水に浸けるためにキッチンへと向かった。
その顔には少しだけ笑みが浮かんでいた。

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なんでこんな厄介なことになってんだか・・
真相を知れば納得するかと思えばあの女まるで俺が今でも何か企んでいるみたいなこと言いやがった。
「クソッ!」
司はただでさえくるくるした頭を掻きむしっていた。
あの女、頭でっかち過ぎて物事を何でもややこしく考え過ぎんだよ。
薄っすらと涙なんて浮かべて俺のこと睨みつけてきた。
俺の言い方が悪かったのか?
けどあれはひとりで勝手に盛り上がってるとしか考えられねぇ・・
おまけに今の自分がどんな立場にいるのかわかってねぇとしか言えないよな。
終いには俺たちの関係が今後どうなるかだなんていい始めた!
どうなるもこうなるも俺たちは夫婦だぞ?
子供が生まれて来る夫婦だろ?
それも・・愛し合ってる仲じゃねぇのかよ・・
確かにあの頃の俺は二人の関係がこんなふうに変化するだなんて考えもしなかった。
けど、今は違うだろ?なんであの女は俺の言うことを信じようとしないんだ?
始めの頃はあいつのことなんて信用出来なかった。
名前だって歳だって嘘ついていやがったし、どう考えても信用なんて出来るわけがないだろう?
あいつの言いたいことはわかるがあれはもう過去の出来事で今は違うだろ?
今までの俺たちの関係はなんだったんだよ。
俺の気持ちはどうなるんだよ!なんか徹底的に侮辱されたような気持だ。
司はうなるような声をあげると立ち上がり、ドアの方へと向かっていた。
***
つい喧嘩腰になってあの男と言い合ってしまった。
あんな別れ方をして以来つくしは司に会っていなかった。
だが顔を合わせないわけにはいかなかった。
今後の事を考えれば互いを無視するなんてことは不可能だから。
はたして次に顔を合わせるときは冷静でいられるだろうか。
初めての子供の誕生を待ちわびる幸せな妻だった気持ちは胸を引き裂くような痛みにとって代わっていた。
本来のあたしはこんな女々しい女じゃないはずよ。
女に女々しいだなんて言葉を使うのは間違っているけど他の言葉が思い浮かばなかった。
本来のあたしは冷静で物事に対して論理的な考え方が出来る人間だ。
でもその思考過程を吹き飛ばすことが出来る人間は・・あたしの「夫」だけだろう。
目の前をあの男の姿がちらついて仕方がない。
あのときあの男の瞳のなかに見えたような気がしていた。
それは・・傷ついた。
と言う感情が・・
なによ!
あたしだって傷ついたんだから・・
あたしのことを信用してないだなんて・・
互いに相手を信用していない状態で暮らしていけるの?
あくまでも便宜上とみなしていた頃ならお互いに割り切って生活も出来ていた。
相手が何をしていようと気にも留めようとしなかったはずだ。
便宜上ならこんなに気持ちが傷つくなんてことはなかったはずだ。
つくしの頭のなかを漢字二文字がよぎった。
今度結婚するならあたしなんかみたいな研究者じゃなくて滋さんのように良家のお嬢様と結婚すればいい。
そんなお嬢様にあたしにしたみたいな調査なんてしないでしょ?
それにあの男の立場ならもっともっと妻に対して沢山の要求をしてもいいはずだ。
だが考えてみればそんなこともなかった・・
やっぱりあたしは求められていないのだろうか・・
ぼんやりとしていたつくしはインターフォンの音に我に返った。
「牧野さん。お届けものです」
鳴らされたのは部屋の外にあるインターフォンだった。
マンションの管理人と挨拶を交わし、受け取ったのは真っ赤なチューリップの花束だった。
花はまだ蕾の状態で茎の部分はシャンとしていた。
それはつくしの人生で初めてもらった花束だった。
つくしはぼんやりと花を見つめていたが、その贈り主には見当がついていた。
だから少しだけ考えた。
どういうつもりで贈ってきたのだろうか・・
まさかオランダから届いたわけじゃないわよね?
それとも富山?
何本あるのか知らないが、真ん中にカードが挟まれていた。
署名はなかったが力強く書かれた筆跡には見覚えがある。
『 悪かった 』
ずばり単刀直入な言葉だった。
弁解じみた言葉が書かれているわけではなく、たったひと言だけだった。
そしてその言葉の下に手書きで書かれているのはとあるウェブサイトのアドレス。
わざわざ手書きで書かれているということは意味があるのだろう。
つくしはパソコンを立ち上げるとさっそくそのアドレスを検索してみた。
ウェブサイトに表示されたのは花言葉。
チューリップの花言葉は思いやり。
赤いチューリップの花言葉は理想の恋人。
他にも書かれていた・・永遠の愛、真実の愛、愛の告白。
そして・・
『 私を信じて 』
1月31日の誕生花は赤いチューリップ・・・ん?
なにこれ、あたしの誕生日じゃないわよ?
1月31日って・・それは自分の誕生日でしょ?
もしかして・・
この赤いチューリップは自分自身だと言いたいの?
自分の全てをあたしにあげるってことが言いたいの?
そして花言葉は私を信じて・・・
俺のことを信じてくれ・・
ねえ、この花を贈ってきた意味ってそういうことなの?
つくしは届けられた花束を胸に抱いた。
ああ・・どうしたらいいの?
あの男がわざわざ自分でこの花を買い求めたのだとしたら・・・
つくしはそんな場面を思い浮かべていた。
あたしのために・・
どこかの花屋で・・いやどこかじゃないはず。
きっと一流のフローリストなんだろう。
と言うことはあながちオランダ直輸入と考えるのもおかしくはないのかもしれない。
そしてカードに書かれた言葉は短かったけどこの花の意味することはわかった。
こんなきれいな花を処分することなんて出来ない。
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Comment:3
コメント
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このコメントは管理者の承認待ちです

た*き様
いつもお読み頂き有難うございます。
そうですね、こちらのお話が最長になりましたね。
本当はもっと短い予定だったんですが・・
私もそちらのサイト様のファンです(^^)
た*き様もぜひぜひお書きになられてはいかがでしょうか?
お書きになられる際は是非ご連絡下さい。
遊びに行かせて頂きます(^^)私にも楽しみを下さい。
大丈夫です!書けます!・・少しだけ勇気が必要ですが・・(´艸`*)
いつもコメント有難うございます(^^)
いつもお読み頂き有難うございます。
そうですね、こちらのお話が最長になりましたね。
本当はもっと短い予定だったんですが・・
私もそちらのサイト様のファンです(^^)
た*き様もぜひぜひお書きになられてはいかがでしょうか?
お書きになられる際は是非ご連絡下さい。
遊びに行かせて頂きます(^^)私にも楽しみを下さい。
大丈夫です!書けます!・・少しだけ勇気が必要ですが・・(´艸`*)
いつもコメント有難うございます(^^)
アカシア
2016.02.17 22:16 | 編集
