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2016
02.16

恋の予感は突然に 46

整然とした部屋だった。
書棚には自分の専門分野である免疫に関する書籍がきっちりと並べられていた。
だがつくしの個性を表すような私物は見当たらなかった。



「あたしの顔に何かついてる?」
「 あ? 」
「あたしの顔よ!そんなにじろじろ見てるから何かついてるかって聞いたの!」

こいつがこんなに怒ってる姿を見るのも久しぶりな気がする。
まるで体中の細胞が怒りをたぎらせているかのように怒ってる。
学者センセーの日常生活は危険を伴うわけじゃないがこんなにぷりぷりしてたら身体にさわるんじゃねぇか?

司は先程まで二人の男性に見せていたのとは違う表情でつくしを見ていた。
クールに表情を消してはいたがそれは見せかけであって心の内は情けないほど動揺していた。

「なあ、あいつら俺たちが結婚してること・・」
「話すわけないじゃない!」つくしはきっぱりと言い切った。

「それで何の用?」
「あたしが興味を持つような話ってなに?」
つくしは自分の研究室の中が急に狭く感じられた。
ある程度の広さはあるものの、どう考えてもこの部屋に不似合な人間といるということが
つくしに息苦しさを感じさせていた。
二人とも立ったままで部屋の扉を背にして立っているのは後から入ってきた司だった。
彼は胸の前で腕を組むと扉へと背中をあずけた。
それはまるでこの部屋からつくしを逃がさないようにするためのように思えた。


「あたしが興味を持つような話が仮にあったとしても、どうせあんたがわざわざ用意してくれたお話なんでしょ?」
つくしは司が何を話すためにここまで足を運んで来たのかなど分かり切ってはいたが
敢えてそのことには触れずに言った。
「おまえ、俺のデスクのうえにあった書類知ってるよな?アレ読んだんだよな?
おまえのメッセージが書かれてたから読んだってことだよな?」

『 人をバカにするのもいい加減にして! 』
と封筒に書かれていた。

「ええ」
「読んだわよ?それが悪い?」
「あれは違うんだ・・」
「何が違うの?」
「誤解だから・・」
「何が誤解なの?」
「結婚している相手のことをあんなふうに調べさせて!」
つくしの噛みつくような口調。そして本当は信じたくはなかったが司が考えているのではないかと言う思いを口にしていた。
「やっぱりあたしから赤ちゃんを取り上げようって考えてるのよね?」
「だから違うんだ!」
「おい、少しくらい人の話を聞け!」
怒鳴りつけるように言われたが、次に放たれた言葉は癇癪を押さえつけようとするかのように冷静だった。
「座れ。身体が辛いんじゃないか?」
つくしはその言葉に素直に腰を下ろした。


つくしは男の整った顔立ちを見た。
さっきは気がつかなかったが、少し顔色が悪いように思えた。
多分、おそらくだが昨日の夜は遅かったはずだ。
つくしのマンションをあとにしてすぐに休んだなら別だがそれでも出張明けは仕事が溜まっているはずで今朝も早々に出社しているはずだ。
その顔には少し疲れが見えたように思えた。

ふと気づけばつくしは男の顔をじっと見つめていた。
どうかしてるのよね・・
こんな男なのに目が離せないなんて・・

司はつくしが黙ったことで自分が伝えたいことを話しはじめた。
「確かに俺はおまえのことは全て調べ上げろと命令した。とにかく全てだ・・」
「食べ物の好みからお気に入りのタオルまで・・」
司はここで説明をしくじればつくしが益々頑なな態度になってしまうだろうと考えた。
つくしは頭がいいだけにのみこみが早い。
だから間違った言い方だけはしないようにと慎重に言葉を選んでいた。

「タオルまでって・・なにそれ・・」
「いや・・本当だ・・」
「でもあの報告書にはあたしのタオルの事とかそんなことは書かれてなかったわよ?」
「そりゃ、書かれてなんてないさ。それはあくまでも俺自身がおまえを知りたいと思ってから調べさせたから・・あれにはそんなことは書かれてない」
「あの報告書は処分するつもりでいた。けどなんかの拍子に家まで持ってかえっちまったんだな・・」
「おまえが目にしたのはずっと以前、まだ俺たちが訴訟を起こすなんてもめてた頃、弁護士に頼んだものが今頃になって提出されてきたんだ」
つくしは黙って話を聞いていた。
「正直に言うがあの報告書は何かおまえの弱みでも見つけ出して、それを盾に・・」
「子供の親権を取り上げようとしたのね?ねぇ?そうなんでしょ?」
「ああ。最初はそのつもりだった」
今更嘘をついてどうすると司は正直に認めていた。


つくしは一度は言葉を呑み込んだ。
「あの報告書を見てわかった。あたしはあんたに信頼されてない・・あんたの人生のなかでの自分の立ち位置がわかった・・」
「子供だけが欲しいってことよね?そうなんでしょ?あたしのこと、色々調べて・・・弱みを握って・・子供を取り上げようと・・」
つくしは司に聞かされた言葉を反復するように呟いた。

「今は違う・・違うんだ。聞いてくれ・・あれはもう調査は必要ないと伝えていなかったから提出されてきたものなんだ!」
「俺が弁護士に言わなかったんだよ!俺たちが愛し合うようになっただのプライベートなことをわざわざ話す必要なんてないって思ってたんだ!」
「だいたい俺たち二人の間にあったわだかまりなんて、もうとっくに無くなってるじゃねぇかよ!」
どう言えば信じるんだこの女は!


「あたしはあんたと出会ってすぐにベッドに入った」
「だからってふしだらとか尻軽な女ってわけじゃなかった・・あたしは自分だけの子供が欲しかった・・」
「だけどあんたを知るにつれこの子と一緒に生きて行こうって思える人だと思ったのに」
「こんなことしてたなんて・・」
つくしは何か言いたそうな表情を見せると失望したように息を吐き出していた。

「そうよね、あんたは結婚なんてしたくないって言ってたし、子供の欲しくなかった人だものね・・」
「でも欲しくなった・・・子供が・・」
つくしは涙が溢れ出すのを感じていた。
だがこれは妊娠中によくある感情の起伏が激しくなると言うひとつの症状だと思うことにした。
それは心を揺さぶられるような歌を聴くとか、美しいものを見て感動するとかと同じひとつの症状だと思おうとした。
決して自分が騙されたとか、人として信じてもらえなかったことが悲しいとかと言う思いとは違うんだと思うことにした。
恋に落ちるということは救いようのない病にかかるのと同じことだと言われるがつくしは自分の恋の病の結末は良くない方向に進んでいくのかもしれないと感じていた。
だが、ここで負けるわけにはいかない。あたしは雑草根性の女よ。除草剤を撒かれても根っこを引き抜かれようとしても絶対に枯れないんだから。

「子供を取り上げるなんてこと、絶対にさせないから!」
「それに申し訳ないけどあんたの御両親に会うつもりなんてないから」
つくしには二人の関係がまた振り出しに戻ってしまったかのように思われていた。








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コメント
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dot 2016.02.16 16:12 | 編集
瑛*様
こんにちは。
そうなんです。司あんなもの自宅になんて持ち帰るなんて・・
はい。抜けてます。すっかり心を許していたつくしからすれば、自分のことをこっそり調査していたなんてことがショックだったのでしょう。二人の関係が険悪な頃ならまだしも、最近までそんなことをされていたなんて・・・
仮に調査していたとしてもそのことは司が自分だけの秘密として墓場まで持っていくことがベストだったと思います。
わだかまりが無くなった時点で調査中止をきちんと伝えていなかった司が悪いんです。
本当ですよね。離婚されるぞ!どうする司!つくしちゃんの気持ちを掴むために頑張って欲しいです!
コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.02.16 22:36 | 編集
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