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2016
02.10

恋の予感は突然に 42

司の部屋でつくしは大きな封筒を見つけた。
何かのはずみにデスクの上から滑り落ちたのか椅子の足元に落ちていた。
それはよくある茶封筒であて名書きは何も書いていなかった。
だが封筒に印刷されていたのはある弁護士事務所の名前だった。

他人ではないが個人としての権利を尊重するならば中を見ることは躊躇われた。
それは彼のものだから。夫婦であっても互いのプライバシーは尊重しなければならない。
だが仕事に必要なものであるなら困っているのではないかと言う思いが頭を過った。
そんな思いと共に何故かその弁護士事務所の名前に興味をひかれていた。
その名前には覚えがあった。
裁判所からの通達が届いて会社に乗り込んだとき、この弁護士事務所の名前を告げられたような気がする。


一瞬ためらったのち、興味をひかれたつくしは中の紙を取り出していた。



目を落とした紙に書かれていたのは自分についてだった。
自分についての報告書。それは個人調査票と思われる書類だった。
右上に記されているその日付はつい最近のもので、それが意味することはいくら鈍感と言われるつくしでも理解が出来た。

二人が子供の親権について争おうとしていた頃に作成されたものならまだわかる。
これから裁判を起こして戦おうとしている相手のことを調査するのは当然だろう。
だが、この調査票の日付は・・・

つくしは自分の気持ちの持って行き場を考えていた。
あたしと愛し合っていながらその一方であたしのことを調べているなんてどういうつもり?

この事実をどうとらえたらいいのだろうか。
その調査票に書かれている内容は自分の生い立ちや仕事についてだ。

当然だが紙に書かれた文字に気持ちは込められてはいない。
客観的に語られている自分につての文章。
もしかしてあの男はあたしから子供を取り上げようとしているの?
その為にあたしのことを色々と調べているの?
もちろんこれは想像の域を出ない。



でも嫌な気分だった。

他人に調査をされるのならまだしも今では本当の意味で夫となった人間にこんな調査をされていたなんて。
これではまるで浮気した妻を調べる夫ではないか。

そこに書かれた文字は形を成さずそのままつくしの頭の中を素通りしていくようだった。
自分の知らないところでこんなことをしていたなんて・・
聞きたいことがあればあたしに直接聞けばいいじゃない。
人の口に上るのはまだ良いとしても、こうして自分のことを書き残されているのは正直いい気分はしない。
この弁護士と子供の親権について何か話し合っているのだろうか。
つくしの頭の中にはもやもやとした得体のしれない何かが湧き出して来た。



信じていたのに・・



やはりつくしの頭の中に浮かぶのはあの男が子供を取り上げようとしているのではないかと言う思いだった。

あたしに見せてくれた優しい表情は・・あれは嘘偽りのない感情の表れだと信じていた。
どうして、となぜしか思い浮かばなかったがやがて頭の中のもやもやが晴れたように感じられた。

ダメよ・・子供を産んであんたに渡すなんてことは絶対に出来ない・・


そう考えればつくしの行動は早かった。
自分のことが書かれた調査票を封筒の中に戻すと指ではじいて打ち鳴らしてみた。
そして本来ならそこにあったと思われる場所である司のデスクの上へと置いた。


時計はすでに午後10時を回ってはいたがつくしは身の回りのものをまとめるとマンションを後にした。





***




タクシーのトランクから降ろしてもらったスーツケースを転がしながら久しぶりの我が家のドアを押し開けていた。
自分のマンションがあって良かった。
もしなければ泊まる場所を探すはめになるところだった。
眠れなくても横たわっていた。そして司のことを考えていた。
嫌な汗が流れて急に胃が急降下した。
つくしは慌てて起き上るとトイレへと走っていた。
精神的なものなのか・・お腹の子供が引き起こしたものなのか・・
どちらにしても身体は正直だ。


もしも家に帰ろうと迎えに来たら・・・
あの書類が意味するものは何なのかを聞く事もなく出て来たがいずれにしても出張から戻れば話をしなければならない。

企業経営者なんて画策ばかりめぐらしている人間だ。
そしてつくしとは全く別世界の人間。
つくしは改めてそのことを肝に銘じることにした。





***






「クソッ」
「いったいなんなんだよ」
司のスーツの胸元で携帯電話が振動していた。
それは警護の人間からのメールだった。

妻が出て行った!
要はそれらしい内容のメールだった。
このタイミングで連絡が入ると言うことは入れ違いか?

司はその理由がわからなかった。
出張先から帰宅してみればいつもは灯りがともされているマンションの部屋は静かな闇が広がっていた。
帰る予定を前倒しし、ジェットに乗り込んだのはこの静かな部屋へと帰る為ではなかった。
待つ人がいるからこその我が家であって灯りのともらない暗い部屋へと帰るなら何も無理をして今夜戻ってこなくてもよかった。
「まったく今度はなんなんだよ・・」
チビとチビッコはこんな時間に何をしてるんだ?

司はマンションの警備会社に連絡をとると妻の行方を確認した。

そして自分の妻となったことが無自覚の女に今更なにを言っても仕方がないと司は黙って警護の人間を付けていた。
多分本人は全く気付いてはいないだろうが。
まあそれがプロの仕事と言うことだ。
警護の人間からの連絡によれば、つくしは結婚前に購入していた自分名義のマンションにいることが確認された。
「ちょっと目を離すとすぐこれだ・・」


何があったのか知らねぇけど・・
今から行くか。




さすがに大勢の人間を後ろに従えてつくしのマンションを訪ねるわけにもいかず
司はひとりでこの場所を訪れていた。
車の運転手がハザードランプを点けて車を停車させると大きくため息をついて車を降りた。
真夜中の訪問者が歓迎されるとは思っていないが、なんとしても会わなくてはと司はエントランスのインターフォンを押した。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.02.10 06:15 | 編集
さ*り様
はじめまして。ご訪問有難うございます(^^)
そうですよね、やっぱり硬い文章ですよね(笑)
もっと丸みをと思うのですが・・・(笑)
こんな文章でもラブラブ感が伝わっていますか?
良かったです。そう言って頂けて嬉しいです。
こんなサイトではございますが楽しみにして頂き有難うございます。
明日は司くんがつくしを攻略しに行きますが、上手く行くのでしょうか。
また覗いて見て下さいませ。
コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.02.10 21:52 | 編集
た*き様
司への応援有難うございます。
話せばわかる!
と言うことで話し合いに向かいましたがどうなるのでしょうか・・
画策ばかりめぐらす人間の話を聞いてくれるのかどうかが問題でしょうね・・
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.10 22:00 | 編集
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