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2015
08.19

いつか見た風景19

類はNYで司と話しをしたことをつくしに伝えた。
その時の様子がいつもの道明寺と少し違って感じられたそうだ。

「え? 特に何も変わったようなことは・・・無いと思うけど・・・」
「そっか。それならいいんだ」

道明寺の様子はどうだと聞かれれば、特に変わったことはないと答えたものの、類のように勘がいい男にそう言われれば気になる。つくしは類にその意味を聞くことにした。
 
「ねえ、花沢類・・・」
「司がね、どうして牧野のことを忘れてしまったんだって聞くから、司がバカだからって
言ってやったからね」

問いかけるつくしの言葉をたたみかけるように発せられた類の言葉。
花沢類が感じたという何かが聞きたかったが答えてはくれなかった。
花沢類という男は、相手の思惑を窺うようなことはしない。見た目は柔らかく感じられる人間だが、妥協できない点ははっきりと意思表示をする。いつも優柔不断だったあたしの背中を押してくれたのは、花沢類だ。男性として意識することなく接することが出来る類。
つかみどころがないと言われていても、そんな類がつくしにとっては居心地のいい男性であることは昔から変わらない。

ほら、牧野これ好きでしょ?とデザートのクリームブリュレをつくしに差し出す類。
どこか醒めた部分もある男性だが、つくしに対しての友情だけは、昔と変わらないようだ。

昼食に2時間も時間を取らせてしまい、恐らくこの後のスゲジュールが変わってしまったと、申し訳なく思っていたが、類は全く気に留めていないようだ。

「じゃあね、牧野。元気でやんなよ?今度会う時は何か変わっているかもね」

車の窓越しに手を振る類に送られたのは、道明寺HD日本支社。
受け付けを通し、案内をされたのは日本支社の最上階フロア。
道明寺の日本での執務室はニューヨークスタイルそのままと言ってもいい。
きっとどこの国の道明寺の会社へ行っても、ニューヨークと同じ内装にするのが自分の流儀なのだろう。あいつ、赤い色が好きだったよね。
そんなワインレッドの革張りのソファで待っていると道明寺が戻ってきた。

長身をチャコールグレーのスーツに包み、深みのあるボルドーのネクタイと白いシャツが彼のギリシャ彫刻のような身体を覆っている。
ハンサムな顔、思わず触れたくなるウェーブの効いた漆黒の髪、そして官能的な唇。

あの唇が私の身体を・・・

甘い記憶が甦った。
あ、あたし、今何考えてた?
つくしは慌ててその記憶を振り払った。

「おい、類の会社・・」
「あ、うん、うん、終わった」
「そうか、こっちはもう少し時間が掛かりそうだ」

退職の手続きで類の会社に行くことは伝えてあった。
道明寺は椅子を引き、尊大な態度で腰を下すと何処かへ電話を掛け始めた。
そして銀色の万年筆を取り出し、苛立たしげにデスクを叩きながら相手が出るのを待っている。

つくしはソファに腰かけ、そんな司の姿に見惚れていた。
その手で触れて欲しいと思う自分がいる。
男性的だけど優雅で、力強く、そして美しく長い指。きれいに整えられたその指先。
あたしはその手で何が出来るか知っている。
知ってしまった。

あの手がのあたしの身体を翻弄し、あの指があたしの・・・
もう!やだ。こんなことを考えるなんて、あたしが今考えてることを知ったら道明寺はどう思うだろう。ほんとうならあたしなんかと結婚するんじゃなくて、滋さんと結婚していた男だ。それにもし滋さんと結婚しなかったとしても、今の道明寺があたしみたいな女を選ぶはずがない。でも、現実にはあたしは道明寺の妻だ。

「ああ、その件だが、あの会社は利益を出している。ただ、合理化と経費節減の余地はまだあるはずだ。__ああ、そうしてくれないか?一部の売掛債権が問題だが・・・そうだ__。来月までには新しい予算案を組んで欲しい。__ああ、そうだな、その件については法務部の人間と話をして欲しい」

つくしが司の仕事をしている姿を目にするのは初めてだった。
道明寺、あんたホントに凄い人になったんだね。これぞカリスマ男だね。
昔のあんたは非常識界のカリスマ男だった。それにどうしようもないバカな男だと思っていたけど、謝らないといけないね。
つくしは、運ばれて来たコーヒーに口をつけると、前を向いた。






つかさは名目上の妻としてつくしを傍に置いておいても構わないと思っていた。だが、2人の関係はあの夜から少しずつ変わっていた。


類の会社を退職してきた牧野。
逐一報告が入るコイツの行動。
類とメシを食ってきたらしな。
おまけに類のところの車で帰ってきた。
ウチの車はどうしたんだ?
そんな事に嫉妬をする俺。
おまえ、俺と結婚したんだろ?
他の男と食事なんかするんじゃねぇよ!
それが例え類だとしても司は許せない思いがある。

だが、わかってる。そんな事はたいしたことじゃない。
類に対して嫉妬しているのは、俺が類と牧野との関係がよく解らないからだ。
類は友人以外の何ものでもないと言うが、男としての本能で解る。
あいつ、類は牧野の事が好きだ。


司はデスクのこちら側で、受話器の向こうの相手の話に耳を傾けながら、つくしへと目を向けた。

壁にかかる絵を眺める妻となった女を観察した。
身に付けているものは、上品で高級なもの。
美しく艶のある黒髪が肩口を覆っている。
昔がどうだとしても、今のこの女は司の妻だ。

司は電話を終え、絵を眺めているつくしの傍まで歩いて行った。
そして女が何か言うのを待っている。

「いい・・・いい絵だね?」
「そうか?  どこがいいと思う?」
司はたいした意味もなく言った。
「え? 色がきれいだね!こんな素敵な絵を眺めながら仕事が出来るなんて素敵ね?」
「俺には単なる投資物件だけどな」

司は醒めた調子で答えると、自分でもどうして絵の感想を求めたのかと自嘲した。
今はそんなことを聞きたいのではない。もっと他に聞きたいことがあった。
司はつくしが欲しかった。それは間違いない。欲望がどんなものか知っている。だが今までひとりの女をこんなにも深く欲しいと思ったことはなかったはずだ。私生活と仕事は別だと考えていたが、今では公私混同だと言われても構わないと思い始めていた。

司はつくしの背後に立つと言った。

「類とはどんな関係だ?」





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コメント
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dot 2015.08.19 19:26 | 編集
の*様
ご訪問有難うございます。
司くん、本当に嫉妬心の塊ですね。
つくしちゃんの事に関しては嫉妬深さと執着が芽生えましたからね。
そして、つくしちゃんにとって司くんはどうしても忘れられない人なんです。
そうです、たった一人の愛する男なんです。
ですので自分の人生を後悔しない為にそれなりの覚悟を決めてます。
なんてったって「あたしがあんたを幸せにしてあげる」ですから(笑)
泣かせて・・・他の意味で啼かせているようですよ?(≧▽≦)


アカシアdot 2015.08.19 21:55 | 編集
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