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2016
02.09

恋の予感は突然に 41

つくしは目の前の男性があまり好きではない。
何故か気の滅入るような話ばかりしてくる。
多分・・あたしのことがあまり好きではないのかもしれない。

「牧野さん、この交通費はなんですか?」
「なんですかと言われましても・・」

旅費交通費・・
もちろん決められた範囲内で使っているつもりだった。
電車で移動できるところは電車で移動しているし学会に参加するために宿泊するホテルだって学会が指定してきた旅行業者が手配斡旋してくれるホテルを利用している。

結婚した相手がホテルも経営してるからと言って特別扱いなんてしてもらってはいない。
だってそのホテルは高級ホテルでただの研究者が学会に参加するからと言って泊まれるようなホテルではなかった。
そして当然ながら経費で落とせるような料金設定ではなかった。

もちろん泊まろうと思えば今では宿泊費なんて支払わなくても宿泊できるけど、宿泊を伴う出張にホテルの領収書が提出出来ないだなんてことになれば何を言われるかわかったものではない。
どこかの医薬品や医療関係の会社があらかじめ手配していたホテルに泊まったなどと思われるのが関の山だ。
将来見込みがある研究には金を出そうという企業は沢山ある。
でもあたしはそんな利益供与みたいなことはされたくない。
研究はどこの誰にも口出しなんてされたくはなかった。
とはいえ研究費用は沢山あるほど有難かった。

目の前の男性は水も漏らさぬような人間だ。
どんないいがかりをつけてくるのかわかったものじゃない。


「あの・・どこが問題なんですか?」
「どうしてこんな距離でタクシーなんですか?」
「どうしてって・・タクシー以外交通手段がないからです」
「駅からコンベンションの会場までですよね?歩けるでしょ?あなたはまだ若いのだから」

つくしはそう言われて口が裂けても言いたくはなかったが思わず言いだしそうになっていた。
妊娠中でその距離を歩くのはその日は無理だったと。
この男性にはついこの前、いい歳して結婚どころか付き合ってくれる男性もいない寂しい女がいるだなんて皮肉としか取れないような言い方をされていた。

こんなことなら領収書を出すんじゃなかった。
でも出さなければまた他の理由をつけてねちねちと言ってくるような男性だった。
それにこの男性は今までもまるであたしが交通費を私的に使ったような言い方をしてきたことがあった。
言いがかりもいい加減にして欲しい。
つくしは提出していた領収書を奪い返していた。

相手のつっけんどんな態度に胃がむかついてきた。
底なしの胃の持ち主といわれていた若い頃が懐かしい・・


今までならこんな言いがかりも大したことではないと感じていた。
だがこんな些細なことでもストレスに感じてしまうのはやはり妊娠しているからなのだろうか?
それにもうそろそろ妊娠を隠しておくには限界が近いのかもしれない。

でも妊娠してるなんて話をしたら仕事に差し障りがあるかもしれない。
保守的な男性陣から俗に言う肩たたきに遭うかもしれなかった。
肩たたきは今ではパワハラとも取られる時代だがそんな世間の事情に詳しいとも思えなかった。
あ、あたしもそうだった・・・。
アカデミックな世界の人間は世事に疎いってあいつからいつも言われていたんだっけ。
それに無防備すぎるなんてことも言われていたっけ。
でもそれは性格なんだから仕方がないでしょ?
あいつだってあたしのこと鈍感だって認めてるくらいなんだから。



ああ疲れた・・
本当に今日は疲れた。
思わぬところで要らぬエネルギーを使ったせいだろうか・・





***






つくしは自分の部屋のバスルームで歯を磨いていた。
そうしながらも愛してやまない我が子がいるお腹に手を添えると丸く撫でた。
未分化の細胞が今はこんなにも大きくなるなんて生命とは不思議だ。
あなたのお父さんは今夜は出張で帰りません。
今日あったことを話したらあいつ怒るよね・・

つくしは今日の出来事について思いをめぐらせていた。

守るべき者がいるということは、生活のあらゆる面で気を使わなければならなかった。
特に最近はそう考えることが多くなってきた。
タクシーで移動したのだってそうだ。昔のあたしならあんな距離、ものともせずに歩いた。
この年になってからの出産は分別というものを自分に与えてくれているはずだ。
でも頭で考えていることと、現実が必ずしも同じだとは限らない。
仕事をしながら出産を考えると言うことが簡単だなんて考えてはいない。
しっかりしなさい、つくし。
これまでだって色んなことがあったでしょ?
あたしは雑草根性で乗り越えてやる。


つくしは司がいる時はいつも一緒に休むようになっていた。
だがひとり寝のときは与えられていた自分の部屋で休んでいた。
しかし今夜は何故かそうしたいとは思わなかった。


部屋の中は少し慌てて出て行った形跡が残っていた。
こんなことも一緒に生活をしていれば当然のこと。
生活なんて見てくれとは違うんだということだ。

仕方がないと思いながらもつくしは機嫌よく片づけにとりかかっていた。








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コメント
た*き様
あの方ですね。
確かにイメージしますよね。
あの騒動は本当に何だったんでしょうねぇ。
希望の光が見えた方々には残念な出来事でしたね。
つくしちゃんにその希望を託してみたら何とかしてくれるかもしれませんね(笑)
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.02.09 22:36 | 編集
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