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2016
02.08

恋の予感は突然に 40

執務室の大きな窓から差し込む陽射しは訪問者の影を後ろへと映していた。
「以前頼まれていた調査ですがやっと終わりました」
「ああ。ご苦労だったな」
訪問者の表情には安堵の色が浮かんでいた。
何か不手際があってはと思い緊張していたがそれもなさそうだった。


司は訪問者からの封筒を受け取ると中身を確認するために封を切った。
沢山抱えている弁護士のひとりに牧野つくしについて何か弱みでもないかと調べさせていたのは二人が子供の親権をどうするのかで争っていた頃の話だ。
今となってはもうその必要性はなかった。

そう言えばもう調査する必要はないと伝えてはいなかったな。

「色々と調べましたがいたって地味な生活を送っていたようです」
「もっと何かあればよかったんですが・・・」
「何かあったのか?」
「いえ・・」 
今さら何があろうともう関係はなかった。
あのときは自分の身に降りかかった法律上の問題に腹を立てていた頃だった。
そしてこんな状況に追い込んだ女に対しての復讐でもしてやろうかと考えていた。
女の弱みを利用して子供の親権を奪い取ってやろうかとも考えていた。
そうすれば姉の椿がおかれた子供を持つことが難しいという状況と自分の跡取りの問題が一度に解決するという考えがあった。



牧野つくしについての報告書はほんの数枚で終わっていた。
生活は地味で人柄は真面目。
そんなことはもうとっくに知っていた。
今では二人の結婚も必然の運命だとわかっていた。
チビで地味で頭脳明晰、俺からもたらされる恩恵を受け取ろうとしない女。
あくまでも立場は対等でと考えるところが自立心旺盛な自分の妻だ。
最初の頃はこんな状況に自分を追い込んだ女を相手に苛立たしさを感じていたがそれもいつの間にか自分のパートナーとしてかけがえのない女になっていた。
けど、求めるのはいつも自分で牧野は求められる側だった。
愛すれば愛するほどそのアンバランスさが気に食わない。
もっとあいつからが自分を求めてくれないかと・・・



「ただ・・」
思いをめぐらせていた司はその言葉に弁護士を見た。
「仕事の方で・・」
「なんだよ?仕事の方って?」
「いえ、べつにこちらの女性がどうとか言う問題ではなくて・・」
「なんだよ?」
「調査員の話によれば牧野さんは真面目過ぎると言いますか頭が良すぎて・・・」
「彼女に研究所を辞めて欲しいと思っている人間も何人か・・・研究者の中にはそう思っている人間もいるようです」
「ああいった世界にも年功序列があるといいますか・・出る杭は打たれると言うことでしょうか」
「やはり年配の研究者の中には自分の功績より彼女の実績の方が重んじられるのを目障りと感じられる方も・・ですからそちらから手をまわして彼女を研究所から追い出すと言う手も・・そうすれば彼女は職を失い収入源が無くなります。そこで裁判をおこして・・」

司は以前この男に話していたことを思い出した。

女の弱みを握って交渉材料とし子供の親権を奪い取る・・
確かにあの頃はそんなことを考えていた時もあった。
だが・・

「いや。そんなことはもうしなくていい。この問題はもういいんだ・・」
「そうでしたか・・もう決着がついたんですね?」
「ああ・・もういいんだ」

いくらこの男が弁護士とはいえ自分の私生活の全てを知らせる必要もないだろう。
司は自分達の関係があの頃とは変わっているということをこの男に伝える必要があるかと考えてもみた。
まだ公にはされていない自分達の結婚・・・
それは二人ともはじめから永続性を求めての結婚ではなかったからだ。


つくしに対し子供の親権を得るためにと有利な交渉材料を得ようと画策をする。
もちろん今はそんなことは考えたりはしない。
だが、少し前ならそんなことも考えただろう。

そんな罪の意識がそうさせたのか司はつくしが帰宅すると思われる時間には早々にマンションに帰りついていた。


たまには自分があいつを出迎えてやるのも悪くない。
そんなことを考えていたら、夕食の準備というやつが必要だと気が付いた。

数秒間考えたのち、自分でも出来るものと言えば・・

思い出したのはカウンターの上で抱き合ってキスをしたことだった。
あの時の記憶が次々と脳裏に甦ってきた。
背後から身体を絡め取りこのカウンターの上で行った行為を思い出していた。

くそっ・・
司は首を振ってその思いを打ち消した。
そんなことよりも問題は夕食に何を作るかだ。




つくしが玄関を開けた途端、トマトとにんにくの香りが部屋の中に広がっていることに気が付いた。
近くで料理されているその香りに誘われるようにキッチンに入るとたちまちつくしの胃は食べ物を求めて訴えていた。

「おう!ちょうどいいところに帰ってきたな」
「ただいま。何してるの?」
「あ?メシ作ってる」
「え?ど、どうしたの?」

つくしは手にしていた鞄を床に降ろすとカウンターをまわって司へと近づいた。
コンロに置かれた鍋の中ではトマトソースがぐつぐつと煮立っていた。
そしてその横の大きな鍋には沸騰した湯があった。
まさか仕事から帰ったら夫が料理をしているなんて光景を目の当たりにするとは思わなかった。そしてこの男が料理が出来るだなんてつくしは考えてもみなかった。
この男、今更だけどやはりただものではない。
でも料理が出来る夫だなんて最高だ。
しかし・・・なぜ?

いったい何ごとなのかと訝しげに見るつくしに司は気持ちを読み取ったかのように言った。
「仕事が早く終わって家に帰ったからメシ作ってる。なんか変か?」
司は言いながらもソースが入った鍋をぐるぐるとかき回していた。
「たまには俺がメシ作るってのもいいだろ?なんか可笑しいか?」
あまりにも機嫌がよさそうな口調で言われて可笑しいだなんて言えるわけがなかった。
それにつくしの胃は目の前の食べ物が欲しくてたまらないと悲鳴を上げ始めていた。

「すごく美味しそう・・」
「だろう?」
このトマトソースにパスタを絡めたらいくらでも食べれそうだった。
そして目をやった先のダイニングテーブルに用意されたサラダや肉料理・・
そこまで見てつくしはこの状況を理解した。
この際どんな手を使ってあの料理やこのソースが用意されたかなんてことは気にならなかった。たとえ本人が料理をしたわけでは無いとしてもだ。
お邸の誰かに用意してもらったにしてもその気持ちが嬉しかった。


男の心を掴むにはまず胃袋からって言うことわざがアメリカにはあるが俺たちの場合はそれが逆だよな。まぁ最近じゃ女の心を掴むにはまず胃袋からとも言うらしいが・・

幸せな家庭生活ってのは食事の殆どを自宅でとることから始まるものだ。
それに気づいたのはこいつと結婚してからだけどな。
司はタオルで手を拭きながらそんなことを考えほほ笑んでいた。







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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.02.08 09:44 | 編集
た*き様
いつも鋭い予想を有難うございます。
司の御両親のこともありますのでどうなるのでしょうか・・
コメディタッチで進めているつもりなのであまりヤバイことは起きないとは思っています。
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.08 22:50 | 編集
委*長→ゆ**ち様
ご丁寧なご挨拶を頂き感激しております!
こちらこそいつも楽しく拝読させて頂いており、お世話になっております(^^)
ドキドキするお話が沢山あり、さすが委*長様のお宅は凄いと思っております。
何を仰いますか(笑)
超ハイソサエティの住む高層マンションにお住まいの御様子かと(笑)
そこは勿論坊ちゃんの御膝元ですよね?
はは・・そうなんです。突拍子もない始まりでして・・
お恥ずかしい限りでございます。もう原作無視も甚だしいですよね(笑)
拙いサイトでございますので覗いて下さるだけで光栄です!
当方未熟者ですが先輩サイト様のお傍で色々と勉強させて頂いております。
こちらこそ今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.02.08 23:31 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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