目を見ればわかる。
目に表れていた。
そして怒りに混じって俺を見るその表情の中に見え隠れするどこか満足げな口元。
きつく結ばれてはいるが、不満を表すと言うよりも嘲りを含んでいるようだった。
司と視線を合わせたとき、怒りと憎しみが感じられた。
睨み返してきたその目は無慈悲な黒い目。
知られているんだね。
牧野が俺の邸にいたことを。
そして、その怒りの意味を考えればやはり牧野は司のところにいるということだね。
「道明寺さん、こちら花沢物産の花沢さんですよね?」
司の傍にいた女が声をあげた。
「お二人は英徳の同窓生でお親しいと聞いていますが?」
「黙ってろ」
司にそう言われた女は口をつぐんだ。
「類、なんでその女のことを俺に聞くんだ?」
「牧野の弟から俺に連絡があったんだ・・・」
「姉が行方不明になりましたってね」
「なんでおまえに連絡が来るんだ?」
司、わかってて聞いてくるんだね。
「さあ、どうしてだろうね。俺も高校生の頃会ったきりなんだけど」
「弟、進君って言うんだけど、急に牧野と連絡が取れなくなったって。勤務先にも問い合わせてみたけど、急に出社してこなくなったとしか返事がなかったそうなんだ」
「ひとり暮らしの部屋もそのままで、忽然といなくなった」
類はそこまで言ってみれば司の表情にも感情が現れはしないかと覗ってみた。
司は表情を変えなかった。
「類、その話が俺となんの関係があるんだ?」
「いや・・司には関係のない話だよね?」
「・・俺にとってもだけど」
「ただ・・進君には行方不明者届だけは出すように言っておいたけど」
司、この意味は分かるよね?
今のこの男にとっての警察権力は自分の息のかかった官僚を通じて何とでも出来るだろうけど、俺は伝えておく。
牧野のことを気にかけている人間がいるってことだけは。
それに司も気づいているはずだよね?俺が牧野のことを・・・心配してるってことを。
司は煙草を取り出すと火をつけた。
類の言葉にそれがどうしたと言わんばかりの態度で煙を吐き出していた。
「類、お前にとってあの女はなんだ?」
「牧野つくしのこと?」
「牧野は・・・精神や感情の強さに長けている女だったよね。あれだけ司の両親からつき合うのを反対されておいてもおまえと別れなかったんだから」
「類、それは違う。あの女は俺を捨てた女だ」
「牧野はその理由を司に告げたの?」
「わけのわかんねぇことを言って出て行った女が理由なんか言うわけがねぇ」
「そう・・・。俺にとっての牧野は・・気のおけない友達・・だったかな」
それは10年たっても決して変わらなかった。
司は今夜のパーティーに女を連れていたがその女は既に用済みだった。
牧野が手に入った今、見てくれだけが同じ女なんて必要がなかった。
用が済んだ女はハイエナの餌にでもなればいい。
どこかのハイエナの一群の中に投げ込んでしまえば骨だけになってしまうような女なんて必要ない。
司には長いこと手に入らなかったものがようやく自分のものになったと言う満足感があった。
10年の歳月が過ぎ、人生のなかで一番輝いると言われる季節をどうでもいい思いでやり過ごしていたが司が相手にしてきた女たちはどこかあの女に似ていた。
この女も牧野のイメージなのだということを自覚していた。
司が別れようとしているこの女はあくまでもイメージであって本物ではなかった。
いつもいつも馬鹿みたいに同じ女のイメージを追っていたのかと思えば自分がどれだけ牧野つくしに執着しているのかと言うことが今更ながら実感できた。
「あほくせえ」
司ははじめから吸うつもりなど無かった煙草を投げ捨てると待たせておいた車に乗り込んだ。
牧野とのセックスは他の何かによっての代用がきかない。
だが獣のように奪うしか出来なかった。
優しくなんて出来るわけがない。行方をくらましたとき、自分の唯一の安らぎを奪っていったのはこの女だ。だからこの手に取り戻した今、安らぎを感じていいはずなのにこの虚無感は何故だ?
牧野の中で何度も果てては全てを注ぎ込み華奢な身体を存分にいたぶった。
この女がいれば他には何もいらない。
この瞬間を手放せるものか。
牧野つくしを手放すなんてことは考えられない。
道明寺家の、俺の血をひく子供など作ってやるものかとの考えは牧野に再会した時から無くなっていた。この女を繋ぎ止める、そしてその子どもを道明寺家の後継として据えることでこの家に復讐してやる。
裕福で何不自由なく育ちはしたが自分の惨めさをわかってくれた唯一の女に捨てられてしまったことが自分の何かを変えたのか?プライドが傷ついただけなのか?
自分のこの欲望が自らを破滅の道に導くとしても止めるわけにはいかなかった。
司は自分が自分でいる為には、この心に平穏を与えてくれるのは牧野以外いない。
狂気に満ちたと言われようが、2人の運命は出会った瞬間から決まっていたのだから。
司はある考えを実行すべきかどうかを考えていた。
類は俺が牧野を手元に置いていることを知っている。
ならば行くべき場所に行って、やるべきことをすればいい。
わざわざニューヨークから母親も来た。
どうして俺の回りの人間はいつも・・俺からあいつを・・牧野を取り上げようとする?
誰も彼もせっかく俺のもとに戻ってきた牧野を取り上げようとする?
だが、二度とあの女を手放すつもりはない。
司が世田谷の邸に帰宅したとき、見慣れない黒い車が止まっているのを見た。
運転席には誰もいないがあの女が乗ってきた車だとピンときた。
司は近くにあったゴルフバッグへと手を伸ばすとそのなかから一本だけを取り出した。
スポーツは何でも得意だった。
特に子供のころからゴルフは得意だった。傷ついた自分の気持ちを癒すためにゴルフに打ち込んだこともあった。そしてゴルフは企業人としてのつき合いの中で欠かせないものだ。
どこかのクソじじいから贈られたゴルフクラブ。
明日はその贈り主と18ホールを回らなければならない。
完璧に手入れされたグリーンの上でプレーするのは最高だ。
白い砂のバンカーが点々と散らばり、大きな池が陽射しを浴びて輝いている光景は美しかった。だがそれらはあくまでも罠であって風景を楽しむためのものではない。
あそこのコースはプレーヤーに完璧さを要求する。ミスショットなど許されない。
だが自分はその要求に答えられる人間だ。
ゴルフは集中力が高まり気分が高揚する。セックスとは異なる高揚感があった。
そして公平さを与えてくれる。それは昔から特別な目で見られていた自分にとって貴重な時間だ。自分が持つ本当の力が試されるのは好きだ。
ここ数年ラウンドする回数は減ってはきていたが腕は衰えていない。
政治家はグリーンが好きだ。あそこなら盗聴器はないからだ。
司はドライバーのグリップを握ると右足に体重を移動させ、まるで目の前にボールがあるように軽く振ってみせた。
スウィングしたときの音は申し分がなかった。
悪くない。よく手に馴染む。
彼はゆっくりと車の前まで歩いていくと両手でドライバーを振り上げた。
そして黒い車体へと振り下ろしていた。
防犯対策が施されたフロントガラスは蜘蛛の巣状にヒビが入っただけだ。
だが何度も振り下ろしているうち飛び散ったガラスの破片が頬にあたり傷をつけた。
ほんの小さな切り傷。
そんな小さな傷は決して彼の美貌を損なうものではなかったが、血の流れだけは止めることが出来なかった。頬を流れる血はシャツの襟元まで伝い流れやがて赤く染まった。
それでも車を破壊することを止めなかった。
ドライバーが形を変え使い物にならなくなるとアイアンに手を伸ばした。
ボンネットは金属が壊れる音を立て形を変え、全ての窓ガラスは粉々に砕け散っていた。
司が手にしたアイアンは叩き壊すものが無くなるまで振り下ろされ続けていた。
金属とガラスが壊れる音は暗い闇が広がる邸に響いてはいたが誰もそれを止める人間はいなかった。
司の目は何も映し出されていないように虹彩が無く、焦点が合わなくなり物の形が分からなくなってしまっていた。
***
車の持ち主は・・今となっては車と言えるかどうか不明だが、司は自分の母親である女と向き合っていた。
「司、あなた結婚しなさい。あなたには結婚して道明寺の家を、子孫を残す義務があるのよ」
「わざわざニューヨークから何を今さら言いに来たかと思えばそんなことですか?」
この家は莫大な財産を相続する人間が必要となる。
そんなことはわかり切ったことだった。
「家名とか跡継ぎとか、ついでに言えば財産とかそんなものどうだっていいでしょう」
「あなたどういうつもり?あの娘を地下室に閉じ込めているそうじゃない?」
「お父様だってご存知・・」
「ああ、あのオヤジさんはお元気ですか?」
「あんた何が言いたいんだか知らないが、俺のやる事に文句なんか言わせるかよ」
司は冷やかな笑みを浮かべて楓を見た。
かつて自分の母親の関心事はただひとつだった。
牧野つくしと自分を別れさせること。
どんな手を使ってもそれを成し遂げようとしていた。
金と権力に慣れ親しんだ者の手段としてはまずは金だった。その使い道は容易かった。
金はばら撒けばばら撒くだけ早く芽を出す。
いち早く結果を求めるなら金だろう。
己の欲望を満たすためにはどんな手段も躊躇しなかった。
なんであれ邪魔なものは排除していく、そんな母親の姿をいやと言うほど見て育った司には当然だが自分もそうする権利があると思っている。
女の権力にも翳りが見えてくるのは仕方がない。
今では司の方が確固たる事業基盤を築いていた。
権力の移行は静かにそして速やかに行われているように見えたかもしれなかったが移行されるどころか司が奪い取ったに等しかった。たとえ親子とは言えやわな育てられ方をされたわけじゃない。幼い頃からの教育の賜物がここにいるわけだ。
そして希望通り財閥を動かしていく男になっていた。
権力を手にした司に対し楓が今更なにを言おうが関係は無かった。
自分のやりたいようにするだけだった。
この女に対して生まれてこのかた憎しみ以外感じたことが無かった。
自分と同じ血が流れているだけあってこの女は冷酷だ。
いいことを教えてやろう。
忌み嫌っていた牧野がここにいる理由だ。どこの馬の骨だ、虫だと嫌悪していた牧野がここにいる理由だ。
あんたが望むものはそのうちに手に入りますよ、お母さん。
この世に俺の子供を生み出してくれるのは牧野以外にはいない。
司はにやりと笑うと言った。
「跡取りが欲しいんだろ?牧野が生んでくれるさ」
「司、あなた・・」
「聞こえただろうが」
司は自分の母親を見た。
「聞こえてるはずだよな。そうだろ?」

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そして怒りに混じって俺を見るその表情の中に見え隠れするどこか満足げな口元。
きつく結ばれてはいるが、不満を表すと言うよりも嘲りを含んでいるようだった。
司と視線を合わせたとき、怒りと憎しみが感じられた。
睨み返してきたその目は無慈悲な黒い目。
知られているんだね。
牧野が俺の邸にいたことを。
そして、その怒りの意味を考えればやはり牧野は司のところにいるということだね。
「道明寺さん、こちら花沢物産の花沢さんですよね?」
司の傍にいた女が声をあげた。
「お二人は英徳の同窓生でお親しいと聞いていますが?」
「黙ってろ」
司にそう言われた女は口をつぐんだ。
「類、なんでその女のことを俺に聞くんだ?」
「牧野の弟から俺に連絡があったんだ・・・」
「姉が行方不明になりましたってね」
「なんでおまえに連絡が来るんだ?」
司、わかってて聞いてくるんだね。
「さあ、どうしてだろうね。俺も高校生の頃会ったきりなんだけど」
「弟、進君って言うんだけど、急に牧野と連絡が取れなくなったって。勤務先にも問い合わせてみたけど、急に出社してこなくなったとしか返事がなかったそうなんだ」
「ひとり暮らしの部屋もそのままで、忽然といなくなった」
類はそこまで言ってみれば司の表情にも感情が現れはしないかと覗ってみた。
司は表情を変えなかった。
「類、その話が俺となんの関係があるんだ?」
「いや・・司には関係のない話だよね?」
「・・俺にとってもだけど」
「ただ・・進君には行方不明者届だけは出すように言っておいたけど」
司、この意味は分かるよね?
今のこの男にとっての警察権力は自分の息のかかった官僚を通じて何とでも出来るだろうけど、俺は伝えておく。
牧野のことを気にかけている人間がいるってことだけは。
それに司も気づいているはずだよね?俺が牧野のことを・・・心配してるってことを。
司は煙草を取り出すと火をつけた。
類の言葉にそれがどうしたと言わんばかりの態度で煙を吐き出していた。
「類、お前にとってあの女はなんだ?」
「牧野つくしのこと?」
「牧野は・・・精神や感情の強さに長けている女だったよね。あれだけ司の両親からつき合うのを反対されておいてもおまえと別れなかったんだから」
「類、それは違う。あの女は俺を捨てた女だ」
「牧野はその理由を司に告げたの?」
「わけのわかんねぇことを言って出て行った女が理由なんか言うわけがねぇ」
「そう・・・。俺にとっての牧野は・・気のおけない友達・・だったかな」
それは10年たっても決して変わらなかった。
司は今夜のパーティーに女を連れていたがその女は既に用済みだった。
牧野が手に入った今、見てくれだけが同じ女なんて必要がなかった。
用が済んだ女はハイエナの餌にでもなればいい。
どこかのハイエナの一群の中に投げ込んでしまえば骨だけになってしまうような女なんて必要ない。
司には長いこと手に入らなかったものがようやく自分のものになったと言う満足感があった。
10年の歳月が過ぎ、人生のなかで一番輝いると言われる季節をどうでもいい思いでやり過ごしていたが司が相手にしてきた女たちはどこかあの女に似ていた。
この女も牧野のイメージなのだということを自覚していた。
司が別れようとしているこの女はあくまでもイメージであって本物ではなかった。
いつもいつも馬鹿みたいに同じ女のイメージを追っていたのかと思えば自分がどれだけ牧野つくしに執着しているのかと言うことが今更ながら実感できた。
「あほくせえ」
司ははじめから吸うつもりなど無かった煙草を投げ捨てると待たせておいた車に乗り込んだ。
牧野とのセックスは他の何かによっての代用がきかない。
だが獣のように奪うしか出来なかった。
優しくなんて出来るわけがない。行方をくらましたとき、自分の唯一の安らぎを奪っていったのはこの女だ。だからこの手に取り戻した今、安らぎを感じていいはずなのにこの虚無感は何故だ?
牧野の中で何度も果てては全てを注ぎ込み華奢な身体を存分にいたぶった。
この女がいれば他には何もいらない。
この瞬間を手放せるものか。
牧野つくしを手放すなんてことは考えられない。
道明寺家の、俺の血をひく子供など作ってやるものかとの考えは牧野に再会した時から無くなっていた。この女を繋ぎ止める、そしてその子どもを道明寺家の後継として据えることでこの家に復讐してやる。
裕福で何不自由なく育ちはしたが自分の惨めさをわかってくれた唯一の女に捨てられてしまったことが自分の何かを変えたのか?プライドが傷ついただけなのか?
自分のこの欲望が自らを破滅の道に導くとしても止めるわけにはいかなかった。
司は自分が自分でいる為には、この心に平穏を与えてくれるのは牧野以外いない。
狂気に満ちたと言われようが、2人の運命は出会った瞬間から決まっていたのだから。
司はある考えを実行すべきかどうかを考えていた。
類は俺が牧野を手元に置いていることを知っている。
ならば行くべき場所に行って、やるべきことをすればいい。
わざわざニューヨークから母親も来た。
どうして俺の回りの人間はいつも・・俺からあいつを・・牧野を取り上げようとする?
誰も彼もせっかく俺のもとに戻ってきた牧野を取り上げようとする?
だが、二度とあの女を手放すつもりはない。
司が世田谷の邸に帰宅したとき、見慣れない黒い車が止まっているのを見た。
運転席には誰もいないがあの女が乗ってきた車だとピンときた。
司は近くにあったゴルフバッグへと手を伸ばすとそのなかから一本だけを取り出した。
スポーツは何でも得意だった。
特に子供のころからゴルフは得意だった。傷ついた自分の気持ちを癒すためにゴルフに打ち込んだこともあった。そしてゴルフは企業人としてのつき合いの中で欠かせないものだ。
どこかのクソじじいから贈られたゴルフクラブ。
明日はその贈り主と18ホールを回らなければならない。
完璧に手入れされたグリーンの上でプレーするのは最高だ。
白い砂のバンカーが点々と散らばり、大きな池が陽射しを浴びて輝いている光景は美しかった。だがそれらはあくまでも罠であって風景を楽しむためのものではない。
あそこのコースはプレーヤーに完璧さを要求する。ミスショットなど許されない。
だが自分はその要求に答えられる人間だ。
ゴルフは集中力が高まり気分が高揚する。セックスとは異なる高揚感があった。
そして公平さを与えてくれる。それは昔から特別な目で見られていた自分にとって貴重な時間だ。自分が持つ本当の力が試されるのは好きだ。
ここ数年ラウンドする回数は減ってはきていたが腕は衰えていない。
政治家はグリーンが好きだ。あそこなら盗聴器はないからだ。
司はドライバーのグリップを握ると右足に体重を移動させ、まるで目の前にボールがあるように軽く振ってみせた。
スウィングしたときの音は申し分がなかった。
悪くない。よく手に馴染む。
彼はゆっくりと車の前まで歩いていくと両手でドライバーを振り上げた。
そして黒い車体へと振り下ろしていた。
防犯対策が施されたフロントガラスは蜘蛛の巣状にヒビが入っただけだ。
だが何度も振り下ろしているうち飛び散ったガラスの破片が頬にあたり傷をつけた。
ほんの小さな切り傷。
そんな小さな傷は決して彼の美貌を損なうものではなかったが、血の流れだけは止めることが出来なかった。頬を流れる血はシャツの襟元まで伝い流れやがて赤く染まった。
それでも車を破壊することを止めなかった。
ドライバーが形を変え使い物にならなくなるとアイアンに手を伸ばした。
ボンネットは金属が壊れる音を立て形を変え、全ての窓ガラスは粉々に砕け散っていた。
司が手にしたアイアンは叩き壊すものが無くなるまで振り下ろされ続けていた。
金属とガラスが壊れる音は暗い闇が広がる邸に響いてはいたが誰もそれを止める人間はいなかった。
司の目は何も映し出されていないように虹彩が無く、焦点が合わなくなり物の形が分からなくなってしまっていた。
***
車の持ち主は・・今となっては車と言えるかどうか不明だが、司は自分の母親である女と向き合っていた。
「司、あなた結婚しなさい。あなたには結婚して道明寺の家を、子孫を残す義務があるのよ」
「わざわざニューヨークから何を今さら言いに来たかと思えばそんなことですか?」
この家は莫大な財産を相続する人間が必要となる。
そんなことはわかり切ったことだった。
「家名とか跡継ぎとか、ついでに言えば財産とかそんなものどうだっていいでしょう」
「あなたどういうつもり?あの娘を地下室に閉じ込めているそうじゃない?」
「お父様だってご存知・・」
「ああ、あのオヤジさんはお元気ですか?」
「あんた何が言いたいんだか知らないが、俺のやる事に文句なんか言わせるかよ」
司は冷やかな笑みを浮かべて楓を見た。
かつて自分の母親の関心事はただひとつだった。
牧野つくしと自分を別れさせること。
どんな手を使ってもそれを成し遂げようとしていた。
金と権力に慣れ親しんだ者の手段としてはまずは金だった。その使い道は容易かった。
金はばら撒けばばら撒くだけ早く芽を出す。
いち早く結果を求めるなら金だろう。
己の欲望を満たすためにはどんな手段も躊躇しなかった。
なんであれ邪魔なものは排除していく、そんな母親の姿をいやと言うほど見て育った司には当然だが自分もそうする権利があると思っている。
女の権力にも翳りが見えてくるのは仕方がない。
今では司の方が確固たる事業基盤を築いていた。
権力の移行は静かにそして速やかに行われているように見えたかもしれなかったが移行されるどころか司が奪い取ったに等しかった。たとえ親子とは言えやわな育てられ方をされたわけじゃない。幼い頃からの教育の賜物がここにいるわけだ。
そして希望通り財閥を動かしていく男になっていた。
権力を手にした司に対し楓が今更なにを言おうが関係は無かった。
自分のやりたいようにするだけだった。
この女に対して生まれてこのかた憎しみ以外感じたことが無かった。
自分と同じ血が流れているだけあってこの女は冷酷だ。
いいことを教えてやろう。
忌み嫌っていた牧野がここにいる理由だ。どこの馬の骨だ、虫だと嫌悪していた牧野がここにいる理由だ。
あんたが望むものはそのうちに手に入りますよ、お母さん。
この世に俺の子供を生み出してくれるのは牧野以外にはいない。
司はにやりと笑うと言った。
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ト*イ様
怖かったですか?本当に狂気の司になってしまいました。
司がゴルフクラブで車を破壊しましたが楓さん帰りはどうされたのか・・
きっと別のお車が用意されたことでしょうね(笑)
仮に楓さんが破壊された車を見ても驚きはしなかったと思います。
司の仕業なのね・・っという感じで終わるでしょう。
クラブを贈ったオッサンとのゴルフのスコアはどうだったのか気になります。
つくしは今頃あの部屋で何を考えているのでしょうね。
本当にカオスですね。つくし耐えてね。としかまだ言えません。
そんな状況を喜んで頂いて光栄です(笑)
イケメンの黒い男が出て来て監禁?(笑)
検索してきました。あらまあ!
その男性もこちらの司くんの行動を見習ったらいいのでしょうか?
念のために犯罪ですから(笑)
コメント有難うございました(^^)
怖かったですか?本当に狂気の司になってしまいました。
司がゴルフクラブで車を破壊しましたが楓さん帰りはどうされたのか・・
きっと別のお車が用意されたことでしょうね(笑)
仮に楓さんが破壊された車を見ても驚きはしなかったと思います。
司の仕業なのね・・っという感じで終わるでしょう。
クラブを贈ったオッサンとのゴルフのスコアはどうだったのか気になります。
つくしは今頃あの部屋で何を考えているのでしょうね。
本当にカオスですね。つくし耐えてね。としかまだ言えません。
そんな状況を喜んで頂いて光栄です(笑)
イケメンの黒い男が出て来て監禁?(笑)
検索してきました。あらまあ!
その男性もこちらの司くんの行動を見習ったらいいのでしょうか?
念のために犯罪ですから(笑)
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.02.06 23:02 | 編集

サ*ラ様
こんにちは。
司が車を破壊の場面にゾクゾク有難うございます。
まだまだ二人の関係に変化が見られません。
そうですねぇ。
こんな状況で生まれ育つ子供はかなり歪んで成長すると思います。
暗いお話ですが希望だけはと思います。
「恋の予感~」の方の司両親も出て来ますがあちらはコメディですので酷くありません(笑)
「金持ち~」明日はそちらのお話です。
こんなお話の司を受け入れて頂き有難うございます。
彼の思考はつくしちゃんを前にするとどんどんエロくなって行きそうです。
はい、Hなノリのコメディでエロい御曹司です。
仕事しろ!と誰か言って下さい。でも私の頭の中では仕事してくれません。
なぜでしょう・・(笑)つくしちゃんの事ばかり考えているみたいです(笑)
なるほど、その映画でしたか。チャンスがあれば確認したいと思います(笑)
そちらの息子さんは大丈夫だったのでしょうか?(笑)
明日の御曹司も楽しんで頂けると嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
こんにちは。
司が車を破壊の場面にゾクゾク有難うございます。
まだまだ二人の関係に変化が見られません。
そうですねぇ。
こんな状況で生まれ育つ子供はかなり歪んで成長すると思います。
暗いお話ですが希望だけはと思います。
「恋の予感~」の方の司両親も出て来ますがあちらはコメディですので酷くありません(笑)
「金持ち~」明日はそちらのお話です。
こんなお話の司を受け入れて頂き有難うございます。
彼の思考はつくしちゃんを前にするとどんどんエロくなって行きそうです。
はい、Hなノリのコメディでエロい御曹司です。
仕事しろ!と誰か言って下さい。でも私の頭の中では仕事してくれません。
なぜでしょう・・(笑)つくしちゃんの事ばかり考えているみたいです(笑)
なるほど、その映画でしたか。チャンスがあれば確認したいと思います(笑)
そちらの息子さんは大丈夫だったのでしょうか?(笑)
明日の御曹司も楽しんで頂けると嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.02.06 23:32 | 編集

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た*き様
そうなんです。
昔見た古い映画のひとつですが当時は強烈な印象がありました。
こちらのお話は二人の関係が変化するにはまだまだ先となりそうです。
司は狂気の淵に立っていますのでなかなか・・
ですが希望だけは捨てないお話にしたいと思っています。
コメント有難うございました(^^)
そうなんです。
昔見た古い映画のひとつですが当時は強烈な印象がありました。
こちらのお話は二人の関係が変化するにはまだまだ先となりそうです。
司は狂気の淵に立っていますのでなかなか・・
ですが希望だけは捨てないお話にしたいと思っています。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.02.08 00:26 | 編集

コ**ル様
司の闇・・心が病んでますのでちょっと怖いですよね。
つくしちゃん、今は耐えて耐えて自分を見失わないようにしていると思います。
精神力は強い彼女ですから、心のバランスを取りながらだと思います。
それでもあまり長い間そんな状況が続くとつくしちゃんも心配ですよね。
早くなんとかしてあげたいです(´Д⊂ヽ
いつか二人の心が救われる日が来ると思いますが少々お時間を下さいませ。
こちらのお話を楽しみにして頂き嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
司の闇・・心が病んでますのでちょっと怖いですよね。
つくしちゃん、今は耐えて耐えて自分を見失わないようにしていると思います。
精神力は強い彼女ですから、心のバランスを取りながらだと思います。
それでもあまり長い間そんな状況が続くとつくしちゃんも心配ですよね。
早くなんとかしてあげたいです(´Д⊂ヽ
いつか二人の心が救われる日が来ると思いますが少々お時間を下さいませ。
こちらのお話を楽しみにして頂き嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
アカシア
2016.02.08 00:32 | 編集
