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2016
02.03

恋の予感は突然に 37

「ねえ、仕事は忙しい?」
「ああ、そうだな」
「どんな感じなの?」
「何が?」
「だからどんなことをしてるの?」
「俺の仕事はあれやこれや色々だな」
食事中に口論を繰り返すのも嫌だった。
だから会話は当たり障りのないものが選ばれていた。

「・・そうだな・・重い仕事から手を付てけるな」
「重い仕事?」
「ああ。一番重要で一番時間のかかる仕事。経営者は会社の全体像を掴むことが重要だ」
「だからまず優先順位をつけてから取り掛かる。順位が高いものってのは重い仕事が多い。
そして長期戦だな。おまえの仕事も長期戦だろ?」

「え?う、うん。あたしの研究はすぐに結果が出るようなものではないし、こうすればこうなるって答えがない世界だから・・だからと言って結果を求めないわけじゃないのよ?」
「俺の場合は出ない答えなんてものはない。出なくても出さなくてはならない。全ては結果だな」

司は詳しくは言えないがと前置きをしながらも今手掛けている事業を説明していた。
そして重要で長期戦になるような仕事は精神的な負担も大きいこと。
他にも以前は経営会議を4日くらいかけて行っていたが、今では会議に参加する者は必ず予習をしてくることによって1日で終わることが出来るようになったこと。
そして他にも色々と話をしてくれた。

「仕事は翌日には持ち越さないことも重要なことだ」
「翌日に持ち越すってことは仕事の軽量に係わらずに締め切りの関係でそっちを先に済ませなきゃならなくなる。そうなると仕事はどんどん溜まるってくる」

「あたしの仕事には締め切りはないから・・そこがやっぱり違うね・・」
「だろ?だから学者センセーはアカデミックな世界でしか生きられねぇんだよ。会社勤めの人間は時間に追われ、仕事に追われってなもんだからな」

「だから・・帰りが遅くなるのね・・」
「これでも効率的に仕事はこなしているつもりだけどな」
二人は互いの話に耳を傾けながら食事を続けていた。
そしてそろそろ食べ終わろうかとしているとこで司は切り出した。

「悪かったな・・嫌な思いをさせてよ・・」
つくしは黙って頷いた。
「女とは・・おまえに言わせりゃ女たちか・・きちんとけじめをつけて別れている」
「そう・・」
つくしはさっきまでの思いが嘘のように気持ちが落ち着いているのを感じていた。
だがそんな気持ちとは裏腹にまだ半分残っているサラダを何の気なしにフォークの先でつついていた。

会話が途切れがちになってきたとき、改めて司の方を見たつくしは彼が何も言わずにただ自分を見ていることに戸惑った。

「そ、そろそろ片づけようかな・・・明日からまた仕事なんだし早く寝なきゃね」
つくしは皿を手に立ち上がった。
司も同時に立ち上がるとつくしが手にした皿を取り上げていた。
「俺も手伝うから・・そうすりゃ早く終わるだろ?」
「うん・・ありがとう・・」

二人は並んでキッチンシンクの前に立つとどちらともなく一連の作業を開始していた。
つくしが皿を洗い、司がその皿を受け取ると水気を拭きとっていた。
司はまさか自分がこんなことまでするようになるとは考えてもみたことがなかったが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「なあ・・」
「なに?」
「子供・・どっちに似てるんだろうな・・」
「・・どっちに似ても・・かわいいと思うけど・・」
「俺はそう思わない」
「ちょっと、それどう言う意味よ!またあたしに喧嘩売ってるの?」
「あほ。顔がかわいいとかかわいくないとかじゃなくて、性格だよ、性格!」

「なんかおまえに似たらとんでもなく鈍い人間になりそうだ・・」
司は面白がるように隣に立つつくしを一瞥した。
「だ、誰が鈍いのよ!あ、あんたなんかに似たらとんでもなく女ったらしの人間になる・・」
「おい、男の子なのか?」

その短い言葉にはどんな思いが込められているのだろうかとつくしは思った。
もし男の子だったら自分が子供の頃に与えてもらえなかった同性の大人からの愛情を与えてやりたいと言う思いなのだろうか。
男の子にはやはり同性の親が必要なのだろうか。
つくしは自分ひとりで子供を育てるつもりだっただけに、司が父親からの愛情というものを受けずに育って色々と問題もあったという話を聞き、もし自分ひとりでお腹の子を育てたとしたら、この子は人生のなかで何か不自然なことを感じてしまうのだろうかと考えていた。

「まだ・・解らないけどそんな気がする・・」
「男のチビッコか・・」
「なによ、その言い方は!」
「チビの子供だからチビッコ・・」
司は微笑みを浮かべていた。
そして一瞬だったがつくしが垣間見た男の笑顔は昼間すれ違った子犬のようだった。

「そ、、そんな冗談面白くなんてないんだからね!」
つくしは赤くなった顔を隠すようにうつむくと皿を洗う手を動かし続けていた。

そのとき司が見せた微笑みは大人の男性が見せる表情とは異なりまるで少年のような笑顔だった。








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