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2016
02.01

恋の予感は突然に 35

二人が歩く歩道に沿って後ろから車がつけてくる。
迎えに来た車は二人を乗せることなく車道をのろのろとついて来ていた。
他の通行車両にとっては迷惑な話だ。何しろ7メートル近い大型車が二車線のうちの一車線を法定速度以下のスピードで走行しているのだから。


あの男!

ぜ、絶対に許さない!
つくしは裏切られたと思った。
結局男なんてみんな若い女が好きなのよ!
脚なんてあんなに長いだなんて!不公平よ!
やっと二人で笑いあえる関係になったと思ったのに・・
そして愛し合える関係になったと思ったのに・・
あたしはもっと怒ってもいいのよね?
なのに怒りよりも哀しみの方が大きかった。

世間には公表していない二人の結婚。
二人の関係が興味本位に取り沙汰されるのは嫌だったから公表はされていない。
名の知れる人物と結婚したことで自分の回りが騒がしくなるのは嫌だったから公表されなくて結構!
つくしはそんなことは一向に構わなかった。
別に結婚したから、子供が出来たからと言って今の仕事を辞めるつもりなんてなかったから牧野つくしの名前で充分。
あたしのキャリアはこの名前で築き上げてきたんだもの。
道明寺なんて名前・・・・つくしは散歩中の犬と目があった。
あんな名前なんて犬にくれてやるわ!

つくしは眉間に皺をよせて歩道を歩いていた。


二人の女に抱きつかれた司は思いっきり顔をしかめていた。
そしてつくしの歩く速さに合わせて歩道を歩いていた。
妻には正直であるべきだと思った。
今さらだけど昔の女の話なんて聞きたくないとは思うが、やはり話しておくべきだと考えていた。そして今までつき合った女にはっきりと言わなければならない。
もう決して過去には戻れないと。戻る気もないが。


抱きつかれて・・不意を突かれて二人目の女にはキスまでされて・・
そんな状況を目の前で見せられたこいつには説明してやる義務がある。
理性を持って、そして穏やかに話せばなんとかなる。
どうしてもこいつと話をする時は感情的になりがちだったが、近ごろはだいぶ落ち着いてきたと思っているだけに今のこの状況は非情にまずい。
心臓がバクバクしてきた。
真剣に話をすればわかってもらえるはずだ。

「なあ・・違うんだ!」
「おい、待てよ!」
「ちょっと話を・・」
「まきのっ・・じゃねぇ・・・」こいつは道明寺だろ?
「なあ・・・」
「おい・・・」
「・・・コラ!嘘つきのチビ!」

その呼びかけに反応を示したつくしは立ち止って司を睨みつけた。
「なんでしょうか?どーみょーじさん!!」
こえぇ。また元に戻っちまったぞ。
「あの女は・・」
「あのお・ん・な・達でしょ!」
「ねぇ、言いたいことがあるなら早く言って。いま言って!」
「わかった・・」
「最初の女は・・おまえと・・おまえとこうなる前につき合ってた女だ・・」
「で、二人目の女は・・その前の女で・・」
司はそこまで言って情けなくなってきた。
なんで俺がこんな所でこいつに言い訳けしなきゃなんねぇんだ?

「どうぞ?それから?」
「あ、ああ。あの最初の女が言ってた子供の話だけど・・あれは違うんだ」
「あの女、俺が子供が要らないなんて言ってたけど・・」
司はなんと言って説明したらいいんだと考えあぐねていた。

「ねぇ・・・」
「な、なんだ?」正直に話すからなんでも聞いてくれ!
「舌・・」
「 舌? 」
「さっき・・舌・・入れたの?」
「ば、バカ野郎・・・そ、そんなもん入れるわけねぇだろうが!」
こいつなんだってそんなこと聞くんだよ!
「へぇ・・そう・・」
つくしは聞きたい答えはもう聞けたとばかりに歩き出した。
「お、おい、待てよ!」
「は、離してよ!」

「どうかしましたか?」
司が歩き出したつくしの腕を掴んだと同時に男の声が割りこんできた。

「どうもしねぇよ!」
声を掛けてきた相手が誰だか知らないが一秒もたたない間に返事をしていた。
司が視線を振り向けた先には制服姿の警官がいた。
そしてあきらかに不審者を見る様子でこちらを警戒していた。

「お巡りさん!こ、この人あたしに付き纏う・・す、ストーカーなんです!」
「お、おい!なんてこと言いやがる。誰がストーカーだ!」
「こいつは俺の・・・」
「俺のつ、妻だ!」
警官がつくしへと目を向けた。「本当にご主人なんですか?」
「ち、ちがいます!」
司はこの口は大嘘つきだとばかりにふさごうとしていた。
「てめぇ・・なんてこと言いやが・・」
「いっ!いてぇ・・人間の唾液は細菌がうようよいるんだろうが!おまえに噛まれて破傷風になったらどうすんだよ!」
つくしは司の手に噛みついていた。
「あ、あんたなんか・・」
「なんだよ!あんたなんか?」
「し、色情狂!変質者!ろ、ろくでなし!」
つくしはそう叫ぶと手にしていた買い物袋を司に投げつけてきた。

「ま、まて。落ち着け」
まさか警官の前でこんなふうに喧嘩をすることになるなんて司は頭が痛かった。
投げつけられた紙袋の中からは先ほどつくしが買った黒い生地が覗いていた。

「お、おい落ち着けってば・・」
つくしが今までの人生で出会った一番ハンサムな男はつくしに投げつけられた紙袋を拾うと彼女の肩にやさしく腕を回して来た。
「お巡りさん、申し訳ないが妻は妊娠中で少し情緒不安定なんです」
司は礼儀正しく説明をすることにした。
ここでつくしがこれ以上関係を否定すれば二人とも何らかの形で事情を聞かれるはずだとわかっていた。現に警官は必要なら応援を呼ぶことも辞さないだろう。
つくしは自分が起こした騒動に気づいたのか急に恥ずかしくなって大人しくなった。
これ以上この場所で騒いで注目を浴びるのは決していいとは言えなかった。

「奥さん、こちらの男性が言っていることは本当ですか?」
警官は礼儀正しくつくしに聞いてきた。
「はい・・・本当です・・」
「そうですか。わかりました」
「それから・・あの車はあなたの車ですか?」
警官は車道に止まっている大きな車を指して言った。
「ああ、うちの車だ・・」
「そうですか。通報がありましてね。大型の車がのろのろと車道を走っていて渋滞を引き起こしていると」
警官は口元に笑みを浮かべてつくしに声をかけた。
「奥さん、喧嘩もほどほどにしないとお腹の赤ちゃんがびっくりしますよ」
「あ、ありがとうございます。あ、あのご迷惑をおかけして申し訳ございません」
つくしはそれ以上の言葉が見つからず頭を下げるしかなかった。
そして二人は人だかりが出来る前にと待っていた車に早々に乗り込んだ。







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