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2016
01.28

恋の予感は突然に 33

よく晴れた休日の午後、つくしは買い物に出かけた。
もちろん一人で・・・のはずだった。

話し合いの結果、やはりこの結婚はまだ世間に公表されるべきではないという結論に至った。だからひと目に触れるような場所での二人の行動は控えなければならない・・・





昨日の夜、司と愛し合って疲れ果てたつくしは午前中をのんびりと過ごしていた。
つくしは司のある一面を見た気がした。
あの男、意外と家庭的なところがあったのだ。
つくしが目覚めたとき、隣に寝ていたはずの男はすでにいなかった。
休日なのに仕事にでも出かけたのかなと思いながらキッチンに足を踏み入れると男が自ら朝食の用意をしていたのだ。
あまりに家庭的な光景につくしは目を疑いたくなった。
今まではどんなに朝食を勧めてみてもどうせ外でブレックファーストミーティングがあるから必要ないと言っていた男がつくしのためにトーストを焼いているではないか!
薄切りのトーストをこんがりキツネ色になるまで焼いてバターを塗って食べる。
そんなつくしの好みに合わせて用意している。

男はいつもどおり隙のない恰好でキッチンに立ってはいたが、その姿はどこか滑稽でいて微笑ましかった。
家にいる時くらいもっと気楽な格好したらいいのに・・
そしてそんな見た目はいつもどおりかっこいい。
そのかっこよさに気づいたのはわりと最近なんだけど・・
なんだかんだと言っても紳士然としてるのはやはり育ちのせいなのかと考えていた。
 
「よう、起きたか?」
「う、うん・・おはよう・・」
「身体は大丈夫か?」
「多分、大丈夫・・」
司はつくしのためにノンカフェィンのコーヒーを用意してくれていた。
つい先日も研究所用にと大量のノンカフェィンコーヒーを用意してくれていた。
そんなに大量には必要ないと思うけど気持ちの表れだと思って受け取った。
だけどそんなに大量には飲めないから研究所の皆さんにもおすそ分けした。

そして話ついでに実はついこの前まで自分の研究室の中ではフラスコでお湯を沸かして飲んでいたなんて話をしたらそんな不衛生なことは二度とするなと怒られた。
でもだいたいの細菌は摂氏100度で死滅するけど?
なんて言ったら耐熱性細菌だってあるだろうが!
と怒鳴られた。
つくしはそのとき司をまじまじと見つめて、どうしてこの男がそんなことを知っているのかといぶかっていたら
「俺だっておまえがどんな仕事をしていて、何に興味があるかくらいは把握してる」
と言われて驚いた。

こんなことも新しい発見だった。
好きな相手のことはなんでも知りたがるような人だったんだ・・


そしてもうひとつ・・。
つくしは大きくため息をついていた。
これも意外な一面だった。

この男は・・・ストーカーだった。

あたしは買い物を楽しみたかった。
それもひとりで・・
「買い物を手伝ってやる」
「俺がアドバイスしてやる」
「なんで俺を追っ払う?」
「親切心から言ってるのに何が不満なんだ!」

あたしはひとりでゆっくりと見て回りたいの。

多分この男は幼いころから超一流のデザイナーの洋服ばかり着こなしてきて
ファッションに対しては鋭敏な目をはぐくんで来たのだろう。
だからあたしが普段着てる洋服なんてごみみたいなものなんだろうけど。
自分の収入の範囲内で、子供と二人暮らしていけるくらいは蓄えなくてはと貯金に励んできたんだから洋服なんてこだわりはなかった。


「ついてこないでよ!」
のひと言でつくしは司を追い払おうとしていた。

「お願いだからひとりで買い物に行かせてよ!今までだってそうだったんだから!」
急に自分の女だと、自分の妻だと意識しはじめた男はつくしのひと言にも動じなかった。
「し、下着を買いたいの」
「だから一人で・・」
「俺が一緒に選んでやる」

結局はひとりになんてさせて貰えなかった。
せっかくの休みなんだからゆっくりしたら?と言っても手伝ってやるの一点張りだった。
どうしてもついて来るなら誰にもバレないようにと変装をしてもらうことにした。
だがあたしの後ろをついて来る背の高い男はどう見ても不審者だった。
だってそれは変装ではなかった。
帽子を目深に被ってマスクをつけた男はどう見ても不審者だ。


ショッピングモールに並ぶ量販店なんてこの男には全く似合わない。
それでもついて行くと言うのだからついて来ればと言えばこの男は意外なことに買い物を楽しんでいるようだった。

だが、つくしが衣類の山を前に買おうか買うまいかと悩み、何かを手にとるたびに買えばいいと言って来るところはファッションセンス以前の問題だ。
とにかく、つくしの手に取るものは何でも買ってやると言う態度だった。
「で?下着はどこで買う?」
「ほ、本当について来る気なの?」
「男の人が女性の下着のお店になんて・・・」
とつくしがまだ話をしている最中に「おい、ここか?」と言って司はつくしの手を掴むとスタスタと下着の販売店に入って行った。

「おまえ、俺の下着眺めてにやにやしてたことがあったよな?」
「ち、違うわよ!あれは・・・その・・派手なパンツだなぁなんて・・」
帽子を目深に被ってマスクをつけた大きな男と小柄な女が下着を見ている姿は周りの人間から見ればさぞや不思議な光景に見えただろう。
つくしはチラチラと視線を向けられているような気がしていた。
逆にこの男が帽子もマスクも外したらそれはそれで注目の的になることは間違いないだろうけど。
こんな店にいて恥ずかしくないのかこの男は?

「おい、これがいい」
と司が指さした先にはレースで出来た黒い下着があった。
この男の下着と同じでどう見ても実用的ではなかった。
「いやよ!そんな下着なんて」
つくしはそろそろマタニティ用の下着も買い揃えなきゃと思いながら店内を見渡していた。
「じゃあこれはどうだ?」
「だからなんで・・・」
とつくしが振り向いて見れば男は総レースの黒いナイティを着たマネキンの前にいた。
ただでさえ女性ばかりの店に帽子を目深に被りマスクをつけた男は完璧な変態だ。
店員に不審者がいると通報される前に出たほうが懸命だと思えてきた。

「ねえ、どう、道明寺・・出よう・・」
「あ?なんでだよっ!」
「またゆっくり・・」
あたしひとりで来るから・・

「なあ、これがいい。俺はこれを着たおまえが見たい」
「やっぱりおまえは黒が似合う・・」
「な、なんで黒なのよ!」
「なんでって俺たちの初めてのとき、おまえ黒の下着だったし、それによぉ白い肌の女は黒の下着がよく似合うんだ」
つくしはその言葉に真っ赤になりながらも男の腕を掴むと店を出た。
これ以上ここにいたら本当に通報されそうだったし、落ちついて買い物なんて出来ないと思っていた。

ショッピングモールを出たところへ車が迎えに来ると言うので二人で待っていた。
司はここならもうこんな変装はしなくてもいいだろうと目深に被っていた帽子とマスクを外していた。
まさかそのタイミングで向う側から走ってきた車の中に見知った顔の人間がいるとは思ってもいなかった。









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コメント
た*き様
さて、誰でしょうか。
明日お読み頂いてからと言うことでお願いします。
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.01.28 22:32 | 編集
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