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2016
01.25

恋の予感は突然に 30

つくしはパソコンの電源を落としてから寝支度を始めた。
こんなの絶対におかしい。
つくしはどう考えても納得がいかなかった。
いったいあんたは何がしたいの?
おまえは俺と言う男を全く理解してないと言われた。
そして理解するつもりはあるかとまで言われた。
理解なんて出来るわけがないし理解するつもりもない・・・
だけどそれは口には出さなかった。
これ以上ややこしい話になんてしなくない。

あれほどあたし達の関係がバレないようにお願いしたのに、どうしてあたし達がデートしなきゃならないのよ!
独善的な人間め!
デートだなんてただでさえ複雑な状況をますます複雑にするだけだと思った。
俺たちの関係をバラされたくなかったらデートしろなんて意味がわからない。
確かにあの男から好きだって告白をされ、偽りだと思っていた結婚がにわかに真実味を帯びたものになってきた。
あの朝の男の姿が目にちらついて仕方がない。

あの日、あの男は自分の車であたしを研究所まで送ると言って聞かなかった。
いくら断っても断固として引き下がろうとしない男に今日だけはと自分を納得させて送ってもらった。
これからは車で送迎してやるからと言ってきた男に対してつくしは職場につくなり言ってやった。
「こんなド派手な車で何考えてるのよ!」

じゃあ車を地味なのに変えるから・・なんてことを言い出したから、あたしみたいにただの研究者に車での送迎だなんておかしいと断った。
でも、あたしの身体の心配をしてくれているのだけはわかっていた。妊娠は決して病気ではないのだからその気持ちだけ受け取るからと。もしかしたらこれからお願いすることがあるかもしれないけど、その時はお願いとだけ言った。


***


つくしは届けられた大きな箱を食い入るように見つめた。
箱に敷かれた薄紙に包まれて出て来たのはマタニティドレス・・・?
これはどういう意味なのだろうか?
もしかして、明日のデートで着ろってこと?
まだ膨らんでいませんけど?
それにもし、こんなもの着たら妊婦ですって宣言してるようなものじゃない!
あの男と並んでるあたしがこんなもの着てたら何を意味してるか分かるでしょ?
原因と要因と結果じゃない!
あの男・・・・
こうなったら本人に聞くしかないと思った。
ああ・・そうよ・・そうだった。残念だけどあの男どこかの国に出張してるんだった・・・


***


もしかして、悲劇は緩やかに起きている?

「ねえ、そんなにじろじろ見ないでくれる?食べにくいでしょ?」
「いいじゃねぇかよ。好きな女が食べるところを見ていてなにが悪い?」
「なんか・・監視されてるみたいで・・嫌なの・・」
「そ、それともこれ食べたいの?」
そう言ってつくしが指差したのはソフトクリームだった。

司はどうしてこんな場所でデートなんだと考えたがひと目が少なくて緑の多いところでならと言うことで選ばれたのがこの場所だった。
森林浴がしたい・・・なんだよそりゃ?
それにこのクソ寒みぃのにソフトクリームだぁ?
妊娠すると妙なモン喰いたがるらしいがそれか?
つくしは暖かく着込んですがすがしい空気を深く吸っていた。

確かにひと目は少ない。
そりゃそうだ。本日貸し切りにしたから。
ひと目が少ないってことは逆に考えればやりたい放題ってことか?
けどゴルフ場でゴルフもしねぇってなんなんだ?
いったい俺たちは何をするためにここにいるんだ?


司はつくしが指差していたソフトクリームにいきなり喰らい付いた。
「ち、ちょっと!」
「なんだよ・・食べたいって聞いたのおまえだろ?」
「だ、だからって、いきなり・・」
「甘めぇ・・」
「そりゃ甘いわよ・・あんた甘いもの嫌いだったの?」
つくしは次のひと口をとソフトクリームを口に運ぼうとしたが男が口にした部分を気にしていた。
そして男の視線が自分に注がれているのを痛いほど感じていた。

「こ、これ、あんたにあげるから責任もって食べてよね?」
つくしは手にしていたものを司に押し付けようとしたが、ソフトクリームはボタリと落ちてイタリア製の靴を汚した。

「ご、ごめんなさい・・またあたし・・」
本当にあたしったらどうしていつもいつも・・・

つくしはその場にしゃがみ込むと手にしていたバックの中からハンカチを出して司の靴についた汚れを拭おうとした。
「・・・いいから・・おい・・そんなことしなくてもいいから・・」
「で、でも高い靴なんでしょ・・ご、ごめん・・」

司は突然何を思ったのか、つくしと同じようにしゃがみ込こむとうっすらと笑みを浮かべながらつくしへと顔を近づけてきた。
こうすれば身長差のある二人でも同じ高さで向き合うことが出来た。
そして同じ目線の高さで向き合った。
「え?なに?どうしたの?」
あまりの近さに相手の額に浮き上がった血管まで見えた。
「ご、ごめん。やっぱり怒ってる?」
「怒ってなんてねぇよ・・」
じゃあ、その浮き上がった血管はなに?

つくしは荒い息遣いと鋭い視線の両方が感じられて怖かった。
「嘘・・お、怒ってるんでしょ?」
「お、お願い。近いから!そんなに近くに寄らないで!」つくしは必死になって言った。
「なんで近くに寄ったらダメなんだよ・・・」
黒い瞳は鋭くてつくしの心の奥まで刺すようだった。
「な、なんだか・・・なの・・」
「なんだよ?」
「だ、だから・・・蛇に睨まれたカエルみたいな気分になるの!」
「なんだよ!俺が蛇ってのは!」司が噛みつく。
司の瞳は鋭いままで、その表情はこわばっていた。
そして声は低く・・・まさに蛇が地を這うようで怖かった。

俺がこんなに熱い視線を注いでいるのに蛇ってなんだよ!

つくしは怯みそうになる気持ちを抑えて言った。
「へ、蛇って言うのは旧約聖書の中で女を誘惑して・・禁断の果実を食べるようにそそのかして・・・」 女を堕落させるの・・
「あんたの眼は・・その蛇みたいで・・・」
その瞳が時々あたしを誘惑してるの・・・

「・・近寄らなかったらキスできねぇじゃねぇかよ・・」
司はつくしの頬を指で撫でた。そしてかすかな微笑みが彼の鋭かった目元を和らげた。
「き、キスなんてしないで!だ、だって・・そ、それにそんなに近寄られたら・・」
だってあんたはあたしにとっての禁断の果実・・
そんなことされたら・・
あんたのこと・・
そんなことを考えていたつくしは我に返った。夢想してる場合じゃない。


つくしは自分を見つめるその眼差しにとらわれていた。
お、落ち着くのよ、つくし。必死で自分に言い聞かせた。
だが男はすぐそこにいてその黒い瞳がつくしの視線をとらえて離さなかった。
強烈な男性エネルギーが感じられてやはり蛇に睨まれたカエルのように動けなかった。
「あの・・」つくしはごくりと固唾を呑んだ。
いつの間にか頬を撫でていた指が手のひらに代わりつくしの頬へと添えられていた。
司はつくしの顔をあおむかせると、口元に唇を近づけた。
そして満足げな吐息を漏らしながら唇を重ねていた。






つくしはそれを許した状態で目を見開いたままでいたが、唇の誘惑に勝てずに目を閉じた。
そうしているうちに頭が朦朧とするような感覚に襲われたつくしは知らず知らずのうちに男へと身体を預けていた。


司はつくしの唇から力が抜けたのを感じ、舌を押し入れようとした途端いきなりつくしに突き飛ばされ後ろへとひっくり返った。
司は一瞬何がおきたのかわからなかったが彼を突き飛ばしたつくしは脱兎のごとく駆け出していた。
「イテェ・・あの女・・ったく何考えていやがるんだ・・」
「こら!お、おまえそんなに走るな!」
司は立ち上がると逃げるつくしを追いかけた。
妊婦なんだろ?そんなに走っていいのかよ!
くそぉ・・あの嘘つき女・・
「逃げ出したりしたらただじゃおかねぇからな!」
背後から聞こえる声は怒号を含んでいてとても愛を告白した相手に言うような言葉ではなかった!
司はほんの数十歩走っただけでつくしを捕まえた。
両腕を掴まれたつくしは男の目に揺れる何かを見ていた。
「なんであんた、あんた、あんなところで、いきなりキスなんてするのよ!」
「悪りぃかよ!したかったからしたんだよ!」
「俺はおまえのことが好きなんだよ!」
「おまえは俺のことどう思ってんだよ!」
司はつくしの腕をきつく掴んだままで言い放った。
こいつ頭がいい女にしては鈍いんだよ!
何度言えばわかるんだ?
司は至近距離でつくしの表情を見ていた。


つくしの頬は燃えるように熱くなった。
何度も好きだと言われおまえの気持ちはどうなんだと問われたつくしは、ただまっすぐ前に立つ男を見つめていた。この人はあたしに何を求めているのだろう。子供が出来たから?子供が欲しいからこんなこと言ってるの?別にあたしじゃなくても他の女の人でも子供は作れるのよ?
そして・・つくしはそんな思いを否定してくれることを願っている自分に気が付いた。
ねえ、あたしに何を求めているの?

「おまえ、子供が出来たからおまえのことが好きだなんて言ってるって考えてるだろ?」
男が浮かべた温かい微笑みとその声はつくしに何かを予感させた。
いくらつくしに経験が少なくてもこの男が何を言いたいのか理解出来た。
今までなんとか無関心を装っていたけどそれももう無理だと思った。
あたしのX染色体がこの男のY染色体を求めているのかもしれない。
つくしは何か言おうとしたが言葉を失っていた。
なぜなら男の視線がつくしの唇に釘づけになっていたからだ。

 
勇敢で嘘つきなこのチビに心を奪われたと気づいたとき、司の気持ちは熱くなった。
そして何かが変化したと思ったとき、男の目に揺れていた何かは情熱の炎となって彼女に襲いかかっていた。
抱きしめられて唇を重ねられたとき、つくしは何がなんだかわからなくなった。
そして自分でもよくわからないうちに唇を動かし、開いていた。
自分の未熟なキスが経験豊かな男にどれだけの影響をもたらすかということは今のつくしにはわかるはずもなく、自分の身体を強く抱きしめてくる男にしがみついているしかなかった。







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