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2016
01.22

恋の予感は突然に 29

つくしは寝返りを打とうとしていた。
が、身体が動かない。か、金縛りにあった?
違う・・・
つくしの腰にまわされた腕が彼女の身体を引き寄せていた。

なっ!!
なにっ!!

つくしは自分の背後に張り付いている何か・・ま、間違いない人間だ。
そして・・・目を開いて見ればここは自分の部屋だ。
あれ?あたし昨日は確かリビングのソファであいつを待ってたはずだけど?
それはさておき、ここに入れる人間は限られている。
お邸のお手伝いさんとか・・いや。お手伝いさんがあたしの背中にいるわけがない。
どう考えてみても自分の背中に張り付ているのはあの男だ。
つくしはそのままの姿勢で暫く動きを止めていた。



古今東西、若くて健康な男はみんなアソコをおっ立てて目覚める。
司は自分の腕の中で動いている女を反射的に抱きしめていた。


「ちょ、ちょっと・・な・・何やってんの!」
つくしは抱きしめてきた腕をバシバシと叩いていた。
「いてぇ・・・なにやってるって・・・」
「ちょっと・・は、離して!」
つくしは絡みついてくる腕から逃れようと必死になって身体をよじった。
そしてやっとの思いでその腕から逃れると、ベッドから飛び降りた。

「あ、あんた何してるのよ!」
「あ?なに?」
「な、何じゃないっ!」
つくしは口ごもりながら男の方を見ればのん気そうに頭を掻いているではないか!


司は伸びをしながらあくびをした。
・・・ったく。
人がいい気持ちで寝てるってのによぉ。
「あ・・あんた・・ひとのベッドで何してるのよ!」
「おまえ、よく人のこと非難できるな?」
「おまえだって俺のベッドのなかに裸で突進してきたんじゃねぇの?」
「そ、それは・・」
痛いところを突かれた。つくしはそれを言われると立つ瀬が無かった。
だが、ひとのべッドの中に裸でもぐり込むなんて厚かましいにもほどがある。
「と、とにかくなんであんたがは、裸であたしのベッドに・・いるのよ!」


そこには堅く引き締まった体躯を見せびらかすようにしている男がいた。
「俺たち確か・・夫婦だよな?」
「そ、それは・・」
「な、なによ・・急にそんなこと言い出すなんて・・」
夫婦なのは否定できないけどそれは名ばかりの話で、お互いにそのことは納得したじゃない!
この前だってい、いきなりキスされて、恋したなんて言われて・・
い、いったいどうしちゃったのよ?
あたしたち、いい感じで過ごしてきたじゃない。
だ、男女の仲なんて感じじゃなかったのにどうしたのよ?
それなのにどうして急にあたしに興味なんて持ったのよ?
あんた出会った時からあたしになんて興味は無かったでしょ?


「ねぇ、単刀直入に聞くけど、どうして急にあたしに興味・・を持ったのよ?」
つくしは恐る恐る言葉を口にした。
「・・合格したから」
司はにやりとした。
「はぁ?どういう意味なのよ?な、何に合格したって?」
「まぁ、おまえの場合かろうじて合格って感じか・・?」
つくしはどういう意味なのかわからなかったけど、むきになって言った。

「何がかろうじて合格よ!言っとくけどね、あたしはいつも勉強、勉強で・・決して自慢するわけじゃないけど、合格ラインなんてとっくに飛び越えてましたっ!」
なによ!合格なんて言って!何がかろうじてなのか言ってみなさいよ!
どうせ顔とかむ、胸とかそんなこと言いたいんでしょ!

「高校だって、大学だって・・・あたしには勉強しかないって・・・」
「あほ。そんなにムキになるな」
「合格したのはおまえの人間性だよ」
つくしは色々と茶化されると思っていただけに、まともな答えを返されて何か言われたら抗議してやろうとしていた口を開くことが出来ずに黙ってしまった。

なんだよ、こいつせっかく俺がおまえの人間性を認めてやったって言うのに何が不満なんだよ。
「そ、そう・・・ありがとう」
そ、そっか。そうよね・・・人間性よね・・・
い、いいじゃない?人間性が認められるなんて人として最高のことだ。
「・・・それに・・」
「それに?」
ベッドのふちに腰かけた男に強い視線で見つめられてつくしはどぎまぎとした。
「ああ。それにおまえはかわいい」
つくしは自分の耳を疑った。いま、この男はなんて言った?


「・・・ちょっと聞くけど・・・ど、どうしちゃったの?」
「どうもこうもねぇ。俺はおまえがかわいいと思えるし、好きになった」
「だから・・・」
「だ、だから?」
なぜだかつくしは蛇に睨まれたカエルのように男の視線から目をそらすことが出来なかった。


司はベッドから立ち上がると素早くつくしの傍に来たかと思えばがっちりと抱きしめてきた。
「ぎゃっ!ちょっと!な、なにするのよ!はな、離しなさいよ!」
「や、やめなさいよ!」
裸の身体が密着している感触に驚いたつくしは思わず後ろにのけぞった。
「おまえに対する俺の気持ちをわかってもらうためにはどうしたらいい?」
司はつくしを抱きしめたまま優しく囁いた。自分の気持ちと向き合う覚悟を決めた男にためらいはなかった。こいつに欲望を感じているのにこれ以上なにもないような顔は出来ないと思った。


予想外の状況につくしは答えようがなかった。
「ど、どうするもこうするも・・・と、とりあえず・・は、離して!」
つくしは司の腕からなんとか抜け出して後ろに下がった。
取りあえずは冷静に・・・それからあんたはちゃんと服を着て・・
あたしは・・あたしは・・?

「わ、悪いんだけど急にそんなことい、言われても困るというか・・」
「と、取りあえず何か着てくれない?」
「なんだよ、俺の裸なんて今更だろ?」
「そう言う問題じゃなくて・・お、落ち着かないでしょ?そ、そんな・・派手なパンツ一枚でいられたら・・・」
「いいじゃねぇか、このパンツおまえも気に入ってたんじゃねぇの?」
司の目はおもしろがるように輝いていた。

き、気に入るかっ!何考えてるのよこの男は!
「いいからっ!早く何か着てよ!」
「しょうがねぇ・・・」
何かって言われたってと司は背中を向けると脱ぎ捨ててあったシャツとスラックスに手を伸ばした。


司はゆるりと歩いて近くの椅子に腰かけるとつくしに聞いた。
「おまえなんで昨日はあんなところで寝てたんだよ?」
取りあえず話の流れが他へと方向転換したことでつくしはホッとしていた。
そしてなるべくこの男から遠く離れた場所を選ぶと壁を背にして立っていた。


「寝ようと思って寝たわけじゃないのよ・・あんたに話したいことがあって待ってたら寝ちゃったみたいで・・」
「・・なんだ?」
「あ、あのね・・うちの両親の話なんだけど・・昨日マンションに帰ってみたら両親から手紙が来てたの・・」
こいつのマンション・・・ああ、ローンってので買ったあれか。
こいつのことを調べた時に書いてあったな・・


「言っとくけど、あたしの家族は仲がいいの。でも・・・この結婚・・突然こんなことになったってことは・・まだ話してないの」
「二人ともあたしが結婚して・・おまけに子供まで出来たなんて知ったら大騒ぎするから」
「それに、あたりまえだけど、絶対に相手のことを知りたがる・・」
「あ、あんたが・・相手だなんてばれたら困るのよ・・・」

「それで?おまえの親はどこにいるんだよ?」
そういやぁこいつの両親って何か教えてるって書いてあったのは記憶にあるが・・
「そ、それが今は海外なの・・両親は・・・・昆虫学者なの・・」
「昆虫学者?」
まじか!こいつの両親も学者センセーかよ!
司は足を組むと片手を顎に添え考える仕草を見せた。
それでこいつが浮世離れしてる理由がわかったような気がする。

「そうなの。昨日手紙が届いてね、多分今頃はアフリカのどこかの国でバッタを追いかけてる真っ最中だと思うの」
「なんでどこかの国なんだよ?手紙届いたんだろ?どこの国からなんだよ?」
「あ、あのね、両親が研究しているアフリカのサバクトビバッタって言うのはね・・風に乗って移動するのよ。一日に軽く200キロくらい移動するの。だからそのバッタの移動と共に国を移動するわけで・・・知ってるわよね?バッタの食害について・・」
「何年かに一度バッタが大量発生して農作物を食べつくしてしまう話・・。アフリカはそのせいで食糧難に陥ることもあって国際的な問題なのよ?」

おい、今度はアフリカの食糧事情とやらの国際問題について語り出すつもりか?
司はどうやらまた話が長くなりそうだと踏んだ。

「あたしの両親はその研究で殆どがアフリカ大陸なの・・・だから連絡もなかなか取れないのが普通なのよ・・」
「だからあたしと弟は幼い頃から日本で寄宿舎制度のある学校に預けられて教育を受けたの」


「おまえ、自分の親に結婚したこと言わないってのは・・」
「こんなこと言ったら変だと思われるかもしれないけど、と、とにかく騒がれたくないの・・・それに相手があんただなんて知られたら大騒ぎになりそうだし・・・」
「と、とにかくね・・うちの両親ってちょっと変わってて・・学者バカっていうのかな・・」

おまえも学者バカじゃねぇの?
なんて言ったらまたこいつに怒られるか?
取りあえず話を聞いとくか。

「と、とにかく結婚したなんてことは知られたくないのよ。そんなことが知られて帰国されたら、それにあたしに・・子供が出来たなんてことが知られたら・・」
「・・あんたが意外と頭がいいって・・・・わかってるから・・その、またあたしみたいに・・頭がいい子だったら・・・勉強ばかりさせられそうになると困るから内緒にしたいの。結婚したことがバレなきゃ両親も帰国してくることはないと思うから!今のところ帰国予定もないみたいだし・・奥地に行ったらなかなか連絡手段もないから心配はしてないんだけどね」
「でも絶対にバレないようにしないといけないの!」
「だ、だから今まで以上に・・バレないように・・お願い!」


なんかいいこと聞いた。
これって俺にとってはいいことじゃねぇ?
俺はこいつとの結婚が世間に知られてもいいと思えるようになった。
けどこいつはあくまでも、この婚姻関係をいつか解消しようなんて考えていやがるから内緒にしたがってるし、親にバレるのも嫌ときた。
まぁこいつがこんなんだから両親も変わってるってのはなんとなくわかる。
要は俺の協力がどうしても必要だってことだろ?



それって俺がこいつの弱みってことか?
チャームポイント・・・じゃねぇ・・ウィークポイントだ!
俺に黙ってて欲しいなら、やっぱりそれなりにおまえの協力が必要だろ?
司は思わず緩みそうになった口元を押さえていた。









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コメント
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dot 2016.01.22 09:11 | 編集
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dot 2016.01.22 17:35 | 編集
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dot 2016.01.22 19:37 | 編集
た*き様
両親昆虫学者で砂漠地帯をバッタを追いかけています。
イメージが浮かびました?(笑)ですがこのバッタ、大群で飛びますので
虫取り網で追いかける訳にはいかないようです。
拙宅のつかつくは特に縛りはありませんので(笑)
ゆる~く読んで下さいね。
道明寺HDの名は砂漠地帯でも聞こえているでしょうから
つくしちゃんバレないように念を押してます。
た*き様、これはコメディ風味ですので細かいことは流して流して(笑)
オンブバッタ、名前だけ聞くと可愛らしいですが園芸には大敵ですね。
我が家も鉢植えの花がバッタに食べられて悲惨なことになったことがあります。
ひたすらスプレー状の殺虫剤をかけていましたが、食べられ続けました(笑)
せっかくの花も害虫の餌になると哀しいですよね。
いつもコメント有難うございます(^^)


アカシアdot 2016.01.22 22:37 | 編集
H*様
こんにちは。
楽しんで頂けていますか!良かったです!
目覚めた司君、緩みそうになった口元を押さえ・・
何を考えていたのでしょうか(笑)
この続きは25日月曜日の予定です。
23日はシリアスなお話です(´Д⊂ヽ
24日は自己中の司君が出て来ますのでこちらのお話はいかがでしょうか?
こちらで笑って頂けるといいのですが(笑)
キャラが変わり過ぎですよね(笑)
拍手コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.01.22 22:50 | 編集
こ*様
温度差のある二人(笑)
司はこの先どう暴走するのでしょうね(笑)
暴走司、「金持ちの御曹司」でも暴走させていますので
もしよろしかったら24日の司もお読み頂けると嬉しいです。
チャームポイントは一番魅力的なところですよね?(´艸`*)
司、また言い間違えてっ!頭いいはずなのにどうして間違えるのでしょう・・(笑)
そこが彼の愛嬌があるところかもしれませんね。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.01.22 23:03 | 編集
サ*ラ様
こんばんは。
はい、やっとスイッチが入りました(笑)
司に余裕が見られる・・・(´艸`*)どうなんでしょう・・・(笑)
えっ?もっと抵抗して?司、悶々としているのに(笑)怒られますよ!
サ*ラ様、なんとですね明日は狂気気味な司のお話でして
明後日は暴走自己中坊ちゃん&ツンデレつくしのお話なんです。
キャラが変わり過ぎてびっくりですよね(笑)
狂気の司はS系で暴走自己中の司はM系みたいで・・(笑)
どうしてこんな組み合わせのお話になってしまったのでしょう(笑)
またご感想をお寄せ頂けると嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.01.22 23:18 | 編集
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