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2016
01.16

恋の予感は突然に 25

そこには圧倒的に男を感じさせるものが置いてあった。
つくしは悩んだ。
やはりこれは親切心からあの男の部屋へ持って行くべきか・・?
あの男の洗濯物はすべて邸で管理されていて使用人さんが届けに来てくれる。
全てがきれいにパッキングされた状態でリビングのテーブルのうえに並べられている。
お邸の使用人さん曰く、司坊ちゃんは潔癖なところがあるのでお洗濯は長年ランドリー担当のベテラン使用人に任せてあるそうだ。
ランドリー担当使用人って?どっかの高級ホテル?
あ、そうか。あの男のところはホテルなんとかってのも経営してるんだっけ?
なんて名前のホテルだったっけ?
確か学会に参加したとき本会議と分科会の会場になってたような?
ランチで食べたカレーが美味しかったのは記憶してるけど・・なんて名前だっけ?
そうそう、あのときは分科会でT大学の教授がミトコンドリアの培養に成功したとかって話しで・・ミトコンドリアの培養なんて凄い快挙だと驚いた。
えっと、そんなことはどうでもいい・・
問題は・・この洗濯物をこのままテーブルのうえに並べておいてよいものかよ!


あたしだって男物の下着くらい見たことがある。
パパのだって弟のだって・・・
でも他人の下着を覗き見るなんて・・・
これって下着泥棒と同じ気持ちってこと?




好奇心の方が勝った。
つくしはテーブルの前に腰かけると目の前に並んだビニールの袋を手にとってみた。

あ、赤?
む、紫?
派手な下着・・・こんなカラフルな下着を見たのは初めてだ。
どれもいささか派手で実用的ではないように思えた。
でも下着の実用性ってなんだろう?
これは・・どうやって身につけたらいいのだろう。
黒・・・うん、これはいいんじゃない?
なにこれ!
ヒョウ柄って・・!
やだ、あの男こんな下着つけてるの?
つくしは思わず顔をしかめ「趣味が悪すぎる」とひとりごちていた。
でもた、他人の趣味に口を出すべきじゃないわよね?


「おまえは何をしてるんだ?」
つくしはいきなり声を掛けられて驚いた。
え?
つ、司坊ちゃん?もうお帰りなんですか?
つくしは司の下着を手に身動き出来ずに顔だけをあげていた。

「え・・・っと・・さっきね、お邸の人がこれ・・届けに来てくれたの」
「 で? 」
「えっ?えっと・・」
「だから、おまえは俺の下着眺めてなにしてんだ?」
「な、なに言ってんのよ!眺めてなんてないわよ!あたしはただ・・」
「ただなんなんだよ?」
「ただ・・・ただですね・・」
つくしは司から視線をそらすことも出来ず見つめたままだった。


司の顔はあくまでも平然としていた。
「この変態女・・・」
「他人の下着なんか見て喜んでんじゃねぇよ・・」
「な、なに言ってるのよ。あたしは別に喜んでなんてないわよ!」
つくしは恥ずかしさに一気に顔が赤くなった。
「じゃぁ何してんだよ?」司は値踏みするような目でつくしを見た。
「学者センセーに論理的な説明を求める」
いいわけを考えてみろよ?おまえ俺の下着に興味あったんだろ?
ウレシソーな顔してじゃねぇかよ?正直にいやぁ許してやる。
「考える時間は30秒だ!」
司の顔に浮かんだのはいじめっ子の表情そのものだった。
この女がどんな理屈を捏ねるのか聞いてみたいと思った。




「そ、そんな・・!」
ろ、論理的な説明って・・
つくしは居住まいを正すと研究者としての威厳を保つように話し始めた。
「えぇー・・・し・・下着の色には・・人間の欲求が隠されていて・・その・・健康になる要素も含まれていて色は大脳に伝達されて自律神経にも影響を与えます・・と、特に赤い下着は勝負下着とか言われていて大きな勝負に挑むとき・・に・・」
つくしはわざとまじめくさって話しを続けていた。
「勝負下着って?」司が聞いた。
「しょ、勝負下着ってのは・・・えー男女の交際での大きな勝負に挑むときの下着で、
その勝負に勝か負けるかで大変な充実感が得られるかどうかが・・も、もちろんビジネスで大きな契約を結ぶときとかにも・・・」
なんだよそりゃ?
なんかめちゃくちゃな話しになってるぞ・・
やっぱ・・この女・・おかし過ぎる・・
つくしの真剣な口調に司は笑い出しそうになっていた。
そして思わず軽口をたたいていた。
「おまえの勝負下着ってのは・・・あれか?あんとき履いてた黒の・・」
「ち、違うわよ!・・あ、あれは滋さんが選んでくれたものであたしはあんなスケスケで表面積が極めて少ないものなんて、身体が冷えるからだめよ!」
「そ、それで思い出したけど、最近の若い子はどうしてあんなに露出ばかりするのかしらね?」
つくしは自分の考えを遠慮なく口にしはじめると嬉々として話しを続けた。
「あんなにお腹とか脚とか露出してたら身体が冷えちゃって良くないのに・・冷えは女性にとって敵なんだから!」
「へぇ。それで?」
司はこの女が話す様子をもっと見たいと思って話を促していた。
何がどうすればこんなふうに話の本題がずれていくのかが可笑しくてなんでも言ってみろよとばかりに見守った。
「知ってる?」
「なにをだ?」
つくしは急いで先をつづけた。
「冷えは女性特有なものだと思われてるけどね、最近じゃ男性も多いんだってこと?」
「だ、だからあ、あのどうみょうじさんも・・あんまり表面積が少ない下着は止めたほうが・・いいと思う・・」

その話のばかばかしさに司は笑い出し、つくしもつられたように笑顔を返していた。
「でね・・なんでも細胞を活性化させる下着とかもあるらしくて、それを着たら体温が上がってね免疫力が上がるとか・・あたしの研究ではそんなことは・・」
「で?免疫力を上げるにはどうしたら良いって?」
と聞きながら司はまだ笑っていた。
「笑うとね・・免疫力が上がるって・・NK細胞が増えてね、免疫細胞の活動が活発になるの・・だから・・もっと笑ったほうがいい・・」
「あ、どうみょうじさんも風邪とかひいてるような立場じゃないんでしょ?」
「そ、そういうことでお互いに健康には気を付けてなきゃね」



ふたりの楽し気な視線が絡みあったとき、つくしはふと気が付いた。
あたしのこんな話を笑いながら聞いてくれる人なんて・・・
たいていの人はあたしの話なんて面白くなんてないって興味を失ったような顔をする。
ところがこの男は違った。
あたしの話を笑いながら聞いてくれた。
あたしは・・初めて見たこの人の笑顔に息が止まりそうになっていた。
そして本当はこんなふうに笑うことが出来る人なんだと知った。








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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.01.16 07:11 | 編集
の*様
こんな感じで接近させてみました(笑)
笑いながら、変なヤツだと思いながらもつくしの話を聞く司。
そんな司にドキドキを感じてきました。
お互いに相手に対する意識が変わってきたようです。
男女問わず、自分の話しに耳を傾けてくれる人には好印象を抱きますよね?(^^)
これ人間関係を構築する基本ではないかと思います。
まずは相手の話を遮ることなく聞くことです。もちろんスマイル付きで(笑)
そして司のように相手に話の続きを促して興味があると言うことを伝える。
そんな笑顔の司に心が揺さぶられてきました。
恋の予感がしてきたみたいです!
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.01.16 22:20 | 編集
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